宙空から俺達へと襲い来るユキメノコ──オオニューラとは対照的な青い瞳は、今までに見たこともないような凄まじい形相に歪められては俺一点を捉えていた。
しかしながら長年兄妹として過ごしてきた俺には、その表情が『怒り』などではない『悲しみ』に由来するものだとすぐ気づき、彼女への警戒を解く。
そしてその悲しみは、自分のあずかり知らぬ場所で密会されていたことを憤ってのものであることを俺は理解した。
それが分かると、俺の取るべき行動は一つしかなかった。
襲い来るユキメノコに対し、依然ベッドに横たわった姿勢のまま両腕を広げた。
「来い、ユキメノコ!」
それを受け、明らかに彼女の表情が変わる。
そして次の瞬間──衝撃に大きくベッドを軋ませて、ユキメノコは俺の腕の中へと飛び込んでいた。
怒ってはいても俺の肌の感触や香りに安らぎを覚えたのだろうか。しばしユキメノコは俺の胸に身を預けたまま鎮静化した。
しかし瞬きの次には本来の目的を思い出したのか、ユキメノコは腕の中から怨めし気に俺を見上げると、恨み節とも取れる呻り声をあげながら何度も俺の胸を両手で叩いた。
「ごめん、ごめんよ……二人きりでいたらそういう雰囲気になったんだ」
それに対し謝る俺も嘘はつかずにそう告げた。
こういう場面においては下手に取り繕ってしまうことこそが悪手である。そして何よりもそれは、今しがたまで想いを重ねていたオオニューラに対しても失礼だ。
そんな俺からの(出来得る限りの)真摯な謝罪を受け、ユキメノコも未だ全ての怒りは解けぬまでも、爪弾きにされた憤りは幾分和らいだようであった。
そして同じく俺の腕の中にいるオオニューラへと流し目に威嚇の視線を投げる。
それを受けるオオニューラも鼻を鳴らしては見下ろす様にそれを見返してと、先にキスを済ませたことの優越感と余裕とを見せつけるようであった。
しばしそうしたにらみ合いの後、ユキメノコはその視線を再び俺へと戻す。
そうして見上げてくる表情は……今度はすがるような涙目のそれだった。
それに中てられて俺も生唾を飲み下す。
オオニューラとは対照的に青い瞳を持ったユキメノコには、これまた彼女独自の美しさがあった。
透き通るような白い肌と振袖然とした両腕に赤帯の小柄な体躯は、野趣あふれるオオニューラには無い繊細で神秘的な魅力がある。
今もこうして抱き寄せて分かったことだが、小柄ゆえにずっと子供だとばかり思っていたユキメノコの体にも乳房のふくよかな触感が存在していて、間違いなく彼女が『女』であることを俺に伝えていた。
「こんな状況で伝えるのは不誠実かもしれないけど……お前だって同じくらい大切に思ってるよ。ちゃんと見てるから……」
自然とそんな台詞が口を突いて出た。
傍から見たら浮気男の体のいい言い訳なのだろうが、このとき場にいたのは俺達兄妹だけであり、そしてその台詞の持つ誠実さは誰よりもユキメノコに伝わっていたと思う。
それを受け、僅かに顔を伏せるとユキメノコは何処か恨めしそうに上目で俺を見遣った。
そして何かを納得させたのか、大きく息を吸ってそれを胸に留めると──ユキメノコはついと顎先を上げて瞳を閉じた。
その仕草が何を待つものであるのか、一心同体の俺には分かり過ぎるくらいに分かってしまう。
俺もまた瞳を閉じると顔を寄せ……ユキメノコの唇と自分のそれを触れ合わせた。
瞬間、互いの唇の温度に驚いて俺達は顔を離してしまう。
ユキメノコの唇は氷を思わせるような冷たさだったからだ。──ということは反面、ユキメノコに取って俺の唇はさぞ熱いものとして感じられただろう。
ファーストキスゆえの未知の感覚に驚く彼女ではあったが……そんなユキメノコは再び目を閉じて顎を上げると再度のキスをおねだりする。
その仕草を愛らしく思いながら再び唇を重ねた俺達は、今度はそれに驚くこともなく濃艶にそれを重ねていった。
小首をかしげながら、幾度となく顔の角度を変えて唇を擦り合わせていると、自然ユキメノコの唇が開いては俺の上唇を咥え込んだ。
それに応えるよう俺もまた彼女の下唇を嚙み返してやると、そこからはただ触れ合わせるばかりだったキスの性質ががらりと変わる。
先に一線を越えたのは俺だった。
僅かに舌先をユキメノコの口中へと忍ばせると、その未知の粘膜の感触に彼女は大きくひとつ背を痙攣させた。
なおもお構い無しに彼女の口の中へ舌を侵入させると、ユキメノコは口唇を窄めてはそんな暴れん坊をもて余して声をくぐもらせる。
侵入した口の中で俺の舌先はユキメノコの舌を探した。
歯の裏を舐め、唇を食み、やがて俺の舌先は彼女の舌の腹をなぞった。
唾液を介した粘膜同士の滑りの中に、舌の表面の凹凸を感じると、途端に俺は我を忘れユキメノコの舌を味わう行為に夢中となる。
そしてそれはユキメノコもまた同じだったようで、自らも舌を伸ばしては俺を迎え入れると、後はナメクジの交尾よろしく幾重にも上下を入れ換えながら互いの唾液を貪り続けた。
そんな中に突如、別の感触が割り込んでくるのを感じて俺は目を剥く。
螺旋に絡み合っていた舌同士を引き剥がすかのよう、別の舌先が絡んできては、ユキメノコのそれから俺の舌を奪ってしまった。
もはやそれが何者による乱入なのかは俺達には分かっていた。
視線を巡らせれば、ユキメノコと頬の形が変わるほどに身を寄せたオオニューラが、俺達のキスの間に自分が舌先を侵入させていた。
突然のそんな割り込みに憤慨するユキメノコはしかし、それを言葉にすることはなく態度でその意思を示した。
今度はユキメノコがオオニューラから奪い返すかの如く舌先を絡める。
そこから先はもう……収集のつかない状況となった。
ただひたすらに妹達の争奪戦に翻弄されながら、流し込まれてくる彼女達の大量の唾液を俺は一身に受け止めるばかりだった……。