第1話・眠るポケモン
妹がネッコアラを迎え入れると言い出した時からエンジは嫌な予感がしていた。
そして案の定にそれは的中し、世の不条理をエンジは中学生にして学ぶのだった。
「ほら、体拭くぞー。起きろー」
語り掛けたところで相手が応えてくれないことは百も承知だ。ネッコアラはいつだって眠っている。
そもそもが『ゆめうつつポケモン』などと呼ばれるネッコアラは、眠ったままに生まれ、そして眠ったままに死ぬという特殊過ぎる特性を持つポケモンだ。
まだ幼稚園児の妹はそんなネッコアラの特性など気に掛けることもなく、ただ『可愛いから』という理由だけでパートナーにしたいと駄々をこねた。
一方の両親もその特性を知った上で、『これなら幼い娘にも世話が出来るだろう』とネッコアラは迎え入れた訳ではあったのだが……蓋を開ければ、いつしかエンジがその世話をしているという有り様だった。
迎え入れた当初こそは幼いながらも甲斐甲斐しくその世話を焼いていた妹ではあったが、所詮は幼児にそれが続くはずもなく、一月も経たぬうちに飽きて、彼女の興味はよそのポケモンへと移ってしまった。
両親の見誤りはまさにここにある。
『寝てるポケモンだから世話が楽』などと思い込んでいた時点で、エンジにはこの未来が予想できていた。
眠っているがゆえに反応が緩慢で変化のないネッコアラなど、その可愛さに目が慣れてしまえばすぐに飽きることは火を見るよりも明らかなことだった。
そして案の定に妹は飽きて、その意識も今はピカチュウへと向いている。
エンジもネッコアラを迎え入れる前にはその事を両親に進言したものの、『大丈夫だろ?』などという楽観的かつ問題先送りの意見に流されては今に至っている。
あの時もっと今の現状予測を説いていればこんな事にもならなかっただろうにとエンジは悔いるのだ……こんな、一家の中で誰に見向きもされないポケモンを生み出してしまう結果などには。
これは両親にも言われたことだが、ならばエンジがこのネッコアラをパートナーにしてやれば良いという案もあった。……がしかし、それは本人であるところのエンジが頑なに拒否をした。
そもそもがエンジにはポケモンに対する興味というものが一切ない。
今日までパートナーなど隣にいた例(ためし)も無ければ、今においてだって迎え入れようという気持ちも無い。
そんな自分が惰性でポケモンを受け入れてしまうことこそ、罪ではないのかとエンジは思うのだ。
求められてもいない家に遣わされてしまうポケモンのことを考えると、それへの憐憫と罪悪感だけで胸が潰される思いだ。
それこそはこの不幸なネッコアラのような存在を増やしてしまうこととなる。
そう思うからこそ、いま自分がネッコアラの世話をしている現状にエンジは腹立ちを覚えて仕方がない。
一個の生物を玩具よろしくに迎え入れては無責任に他者へと投げ渡してしまう両親と妹への憤り、そしてやりたくもないその世話を焼かされている自分と、さらには当の本人であるネッコアラもまた憐れんでは、エンジは行き場のない感情を今日もその世話をしながらに覚えるのだった。
「体はこんなもんかな? ほら、枕木もよこせ。それも拭くからな」
一頻りその体を拭いてやったエンジは、次いでネッコアラが抱き着いている枕木を取り上げた。
世話を始めた当初、この枕木はどんなことがあっても離さなかったネッコアラではあるが、最近では素直にそれを明け渡すようになった。
いつも眠っているネッコアラであってもこれが大切な物だということを理解するエンジもまた、早くこれを返してやろうとなるべく手早くに掌の中で磨く。
「こんなもんかな? ほら、ネッコアラ……──」
一通り拭き終わり、それをネッコアラへと返そうとしたエンジは──そこにて手を止めた。
エンジのベッドの上で仰向けになって眠るネッコアラが目に入ったからだ。
いつもは身を内側に丸めて眠るだけにその姿を珍しく思うと同時、そんなネッコアラの体つきにも目が行った。
肉付きよくボール然としたイメージのあるネッコアラも、水平に体を伸ばすと様々な肉の隆起がその体には窺えた。
僅かに膨らみを帯びた胸元の隆起から始まり、みぞおちで一旦谷間が生じるや再び下腹が丸みを帯びてせり上がりと……斯様な女体の山脈をネッコアラの体に見出だし、エンジは同時にこの個体がメスであったこともまた思い出す。
それに気付くと同時、吸い寄せられるよう自然とエンジの手は……ネッコアラの前面に置かれた。
掌に彼女の乳房を納めて押し込んでやると、確かに他の場所の脂肪とは違う弾力が返ってきてはエンジを驚かせる。
──うわ……初めてオッパイ触った……
そんなことを考えて──我に返るエンジ。
気の迷いとはいえ自分の愚行を、ましてやポケモンにそれをした自己嫌悪に陥るもしかし……手の平にいまだ残る感触は、そんな理性をぼやかしてしまうほどに蠱惑的でもあった。
「…………」
落ち着きなく左右の掌を互いに親指で揉み合いしながら再びエンジはベッド上のネッコアラを見下ろす。
そうして依然、仰向けのまま眠り続けるネッコアラの傍らに屈み込むと──再びエンジはネッコアラの乳房へと両手を置いた。
後は指先でそれぞれに左右の乳房を押し込んだりして弄びながら、こんなイタズラをしてしまう愚かしい自身への嫌悪と憐れみに苛まれた。
それでもしかし悲しきかは男の性(さが)か……しばしエンジは、ネッコアラの乳房を揉む行為をやめられずに、いつまでも手中で弄び続けるのだった。