自室への襲撃事件から3年が過ぎた……──
あの日、僕の部屋になだれ込んできた一団は警察関係者達だった。
一連の、僕とサーナイトの動画を違法と判断し、あの日公開配信の裏をとった警察はそれに合わせて僕の部屋へと強制捜査に入ったのだ。
警察にとって誤算だったのは、サーナイトが予想外の激しい抵抗をしたことである。
彼らが部屋に入る直前にその気配を察知したサーナイトは、ドアが僅かに開くなり『念力』を射出──それの直撃を受けた先頭のカイリキーが応戦し、その余波で僕は昏倒するに至った。
聞くだに、僕が傷つけられたことを確認してからのサーナイトはまさしく鬼神の如くに怒り狂っては抵抗をしたそうな……。
難なくカイリキーを捻じ伏せ、ついには後ろに控える警官達へも危害を加えようかとなったその時、彼らの協力者の一人とそのパートナーであるデカヌチャンがサーナイトを取り押さえたのだと聞かされた。
病院で目覚めた僕はそんな一連の報告を受け、一番にサーナイトの安否を尋ねた。
幸いにも彼女も無事であることを聞いて安堵した僕であったけど……その後の通告に、僕は凍り付くこととなる。
金輪際、僕はサーナイトと会えないのだと告げられた。
その言葉が持つ意味合いの深さ、そして残酷さを理解できずに僕は何度も何故を問うた。
それに対して対応してくれたカウンセラーは、その一つ一つに対して丁寧に説明をしてくれた。
そもそもが、未成年であった僕はその身分を偽って生活をしていたという社会的イレギュラーな存在であった。
それに加えて配信稼業で不当な金銭を稼ぎ出し、さらにはポケモンに対して性的虐待を加えた上に、それを公衆の面前に晒しては喧伝したのだ。
それら行為のいずれにも相応の罪状が科され、僕は年齢の幼さからも専用の更生施設への入所を宣告された。
同時に告げられたのが、今後サーナイトはもとよりしばらくの間はポケモンを迎え入れてはならないという制約であった。
これはポケモンに対する虐待行為が認められた場合に適用される措置であり、今回サーナイトと共に猥褻な動画を配信していた僕の行為が、それに抵触してしまったが故のものである。
当然ながら僕もそれの却下を訴える。
幾度となく謝り、すがり、そしてサーナイトを返してほしいと懇願した。
彼女は幼いころから僕に付き添ってくれた家族なのだ。
いかに今回『性的』な交わりがあったとしても、それは一方的な虐待なんかじゃない。
僕が彼女を思う気持ちは本物であり、サーナイトもまた僕を必要としているであろうことを訴えた。
思い返すに、傍から聞いていればこんな申し出などは変態トレーナの都合の良い詭弁でしかない。
しかしその時のカウンセラーは、支離滅裂に懇願する僕に対して侮蔑することもなければ無下に否定することもしなかった。
都合のいい解釈なのかもしれないけれど、おそらくは僕達の関係やその想いを彼女は理解してくれていたのだと思う。
それでもしかし、規律とは個人の感傷に左右されてはならない……だからこそカウンセラーは僕の申し出を全て聞き、それらを受けとめた上で根気強く、そして真摯に僕の罪と罰とについてを説いてくれた。
永らく彼女と語らいながら、やがては僕も自分が全てを失ったことを受け入れた。
その後は簡単な裁判とそして取り調べを経て、僕は更生施設へと送られた。
その中で2年を過ごしたわけではあるが、そこでの記憶などはほとんど無い。毎日のように泣いていたように思う。
やがては自立支援の下、仕事も斡旋してもらうと──僕は再び外界へと送り出された。
住む場所も宛がってもらい、それから僕は職場と家の往復をするだけの一年を過ごした。
何の趣味も持たず、労働後もそして休日もただ家で眠り続けるばかりだった僕はある時──ふと思い立ってはノートパソコンを買った。
チャット用のカメラが付いたそれを手に入れても、しばらくは電源も入れずにただ感情を失くした自分の顔だけが移るばかりの画面を見つめ続ける日が続いた。
それと向き合う僕は、もう会うことの叶わないサーナイトとの日々をそこへ繰り返していた。
ラルトスと鼠のように路地裏を駆け巡り、キルリアと食べ物を探し、ついに我が家を得てからはそこで恙無くサーナイトと暮らした短い日々──そんなあの別れの瞬間までを思い出して、その『次』を考えた時……僕はノートパソコンの電源を入れた。
それからは様々な準備に追われた。
型落ちとなった古いゲームハードを買い、3年前に僕が遊んでいたレゲーもまた揃えた。
そうしてそれらもまたノートパソコンに繋ぐと──僕の準備はすべて完了した。
僕は再び、ゲーム配信を始めた。
一切の告知もない僕の配信は、ゲームのタイトルに興味を持った数人が時折り覗き込むものの、彼らは住人として定着することもなく、すぐ退室をするという典型的な過疎の様相を呈していた。
それでも僕は配信を続けた。
カウンセラーの話によれば、僕のような事例で保護されたポケモンは可能であれば野に返され、そしてそれが難しいようであれば、どこか別の施設にて余生を過ごすのだという。
思うに僕のサーナイトは後者だ。
ならば、ヒトのいる環境において彼女がネットに触れる可能性も高い。
僕は……最後のその可能性に賭けることにした。
そして僕は今日もまた、
「それじゃ……今日はこのゲームを紹介します」
誰も顧みないようなレゲーの実況配信に勤しむ。
これはあの日の続きなのだった。
「昔いっしょに暮らしてたサーナイトとたくさん遊んだゲームです……」
サーナイトと一緒に過ごしたあの日の続き……。
彼女は今もあの日の先に待ち続けてくれている。
いつ僕が帰ってきてもいいようにトーストを焼いて持ってくれている。
そしていつの日か僕がそこへ追いつけたその時には……──
「みんなからのコメントを待っています。僕は……いつまでも待っています」
僕達はきっとまた、会えるような気がした。
【 覗き覗かれのサーナイト・完 】
[ ─ さーや さんが入室しました ─ ]