※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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※ 注意!

 この章にはポケモンに対する、流血を伴った暴力や凌辱、レイプ、肉体の欠損、虐殺行為などの、残虐的な描写が含まれます。
 自己責任のもと、お楽しみください。







エピローグ

 

 

 ハリマロンが意識を取り戻し、うっすらと瞼を開くや──様々な声や感情が彼を迎えてはそして押し寄せた。

 

 訳も分からずに抱き着かれ、そして聞き覚えのある声に包まれながらハリマロンは自分が数日ぶりの覚醒を果たしたのだとも気付く。

 場所は病院と思しき一室──そこのベッド上にて、道場の仲間達がハリマロンの回復を心から喜び、そして祝福をしてくれていた。

 

 久方ぶりに見る面々と笑顔を、そして時に軽口など叩き合いながら応えるハリマロンではあったが、その意識は自然と『あるポケモン』をその中に探していた。

 今ハリマロンが最もその声を聴いて、そして顔を見たいと思っているポケモン──ピカチュウの姿をそこに探したのだ。

 

 今回の一件で彼女は自分のことを心配してくれていただろうか?

 それともさんざんに迷惑を掛けてしまったことに対して皮肉のひとつでも言われるかと思うと、それが面倒くさく思うのと同時にしかしひどく楽しみで、ハリマロンは浮き立つ心を押さえながら視線を巡らせる。

 

 が、しかし──何度視線を往復させようとも、集まった面子の中にピカチュウの姿を見つけることは出来なかった。

 その視線はさらに遠くへと飛び、病室の隅まで見渡したが、やはりこの空間の中に彼女を見つけ出すことは叶わない。

 ついにはピカチュウが何処にいるものかを尋ねるハリマロンにもしかし、道場の皆は互いの顔を合わせるばかりで、一向に彼女の行方は知れなかった。

 

 そんな折り、病室のドアが開いてトレーナーであるユンストが入室をしてきた。

 痩せぎすの、普段から雰囲気の暗い表情をいっそうに鬱屈とさせながら入ってきた彼は、ベッド上にて身を起こすハリマロンに気付いても別段に驚きや感動を表に現すことは無かった。

 

 同時にそんなユンストの入室にハリマロンは言いようのない不安と胸騒ぎを覚えた。

 ユンストが入室するや、場にピカチュウの匂いもまた漂ったからである。

 しかしながらユンストの肩や足元といったその周囲には、どこを探してもピカチュウの姿などは見受けられない……在るのは、彼が胸元に抱えた小さな段ボール製の白い箱のみである。

 

 無言のままユンストが部屋の中を進み、やがてベッド上のハリマロンと対峙すると、二人はその視線を結び合ったまま動かなくなった。

 光の消えたユンストの濁った瞳にハリマロンはただならぬ事態が発生したことを言葉無くとも察した。

 

 そしてその視線の位置と表情を一切変えぬまま、ユンストは胸に抱かえていた件の箱をハリマロンへと差し出す。

 それを青褪めた表情のまま震える手で受け取るハリマロンと、そしてそんな二人の心情など知らずに、それを快気祝いのプレゼントだと勘違いしては沸き立つ周囲の仲間達──。

 

 そうして開かれた箱の中身を覗いた一同は、固まった。

 

 しばしして覗き込んでいた一人がベッドから転がり落ちるようにして床に這い蹲ると、そのまま激しく嘔吐する。

 それを皮切りに場には悲鳴と、そして互いに抱き合っては慄く者や更には失心してしまう者など、場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと様変わりした。

 

 その中においてもしかし、一人ハリマロンだけは依然としてその箱の中を眺めたまま微動だにしなかった。

 

 その眉元は困惑から強くしかめられ、同時にその箱の中身が示す事実を必死に受け入れまいと強くそれを拒絶していた。

 そんなハリマロンを目の前にしながらユンストは事の顛末を独り言ちるかのよう語っていく。

 この数日間にあった地下試合でのピカチュウの有り様を……そしてその話の締めくくりに、

 

「……原型もないくらいに潰されて、頭すら残らなかったよ。唯一集められた『ピカチュウ』はそれだけだ」

 

 ユンストはピカチュウの死という揺ぎ無い事実をハリマロンへと告げた。

 

 依然として箱の中に眼を落したままのハリマロンはやがて、震える両手を差し入れてはその中にある一つをすくい出す。

 比較的原型を留めていた肉片(それ)はピカチュウの耳であった。

 すがる様にそれへ鼻先を埋めると、途端にピカチュウの優しい匂いが鼻腔に広がり──この時初めてハリマロンは感情を発露させた。

 

 爆発するかのよう上げられるその声は悲哀とも、はたまた怒りとも受け取れた。

 そのあまりの声に、混乱の極みに達していた仲間達でさえもがその一時自身の困惑を忘れてはハリマロンを見つめたほどである。

 そしてその情動の中でハリマロンの中に新たな何かが進化するのを──否、生まれるのをユンストは確かに感じた。

 

 たぶんこれは、場所を変え時を変え連綿と行われ続けて来たことなのだろう。

 そしてその連鎖の中に新たに身を投じたであろうハリマロンを目の前に──ユンストはその運命を哀れまずにはいられなかった。

 

 

■     ■     ■

 

 

 地下プロレスに最強最悪のチャンピオンが誕生した──

 

 それは一匹のブリガロンであったが、その強さと残忍性は歴代のリングにおけるどのポケモンよりも苛烈でそして圧倒的であった。

 

 そのブリガロンは自分を遥かに上回る巨漢に対しても元より、実力差の歴然とした遥かに矮小な相手に対してさえそのファイトスタイルを変えることは無い。

 彼はことさらに対戦相手をミンチ状に磨り潰すことへ固執し、その戦いが終わったリングはいつの時も対戦相手の鮮血に彩られた。

 

 またブリガロンは一切の感情を表に現すことなく淡々と作業然めいた様子で対戦相手の解体を行った。

 その姿は機械さながらの冷徹さであり、そうした嗜好を多く持ち合わせた観客達でさえもがブリガロンの執拗なファイトには眉をしかめる者も多かった。

 

 そんなブリガロンではあったが、他のポケモン達とは違う点がただ一つあった。

 

 それこそは試合の開始前と決着後に行われるルーチンではあるのだが、ブリガロンはその前後で首から下げたとあるアクセサリに鼻先を埋めては精神統一をする行為が必ず見受けられた。

 

 それは古く干からびたピカチュウの耳介ではあるのだが、そのアイテムの由来を知る者は誰もいない。

 皆口々に、あれは過去に仕留めた相手の肉体を戦利品として身に着けていると囁き合ったが、結局のところそれの確かな出自を知る者は誰もいなかった。

 

 ただそれに鼻を埋めている時のブリガロンは、通常のファイトスタイルからは想像も出来ぬほどに穏やかな顔をした。

 まるでその耳の持ち主へ語りかけているかのような、あるいはそこからもたらされる声に耳を傾けているかのよう──……

 

 

 ブリガロンは孤独なリングの上でそれと語らっているかのようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 マスクド・ピカチュウのデスマッチ・完 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上490メートルを誇る高層タワーホテルの展望室ラウンジ──全凹面パノラマ窓の傍らとなる一席からは、東へと果てなく広がる夜空と海洋が、そしてその足元には宝石のごとくに煌めく離島群の夜景が広がっていた。

 

 その一席に着く二つの人影の一人はテーブルランプの灯火を眺めやり、もう一人はそんな目下の夜景を見下ろしていた。

 

「もう食わんのか? ほとんど手をつけてないじゃないか」

 

 しばししてランプを眺めていた男が声をかける。

 ボリューム感の無くなった銀の頭髪をオールバックに撫で付けた老人だった。

 その声に反応して窓外に投げていた視線を老人へと戻すと、

 

「いえ……肉なんてもう食い飽きましたよ」

 

 体の向きを老人へと向けて居住まいを正し、もう一人の男はその視線をテーブル上のステーキへと落とした。

 脂の差しも申し分ない肉厚のそれは、端から二番目の一切れが食べられただけで、後はカラトリーとナプキンがそこには置かれていた。

 

 歳の頃は見た目では判断しにくい容姿である。

 眼窩の堀が陰影を作るほどに痩せぎすの面からは、若いとも歳を経ているとも判断しがたい印象があった。

 それでもしかしその身なりは豪奢で、この薄暗がりの中でも、仄かな光量を反射しては煌めくグレーのスーツに重厚な時計を身に付けた容姿は、この男がいかにエリートであるのかを物語るようであった。

 

「それにしても最近はなおさらに食が細くなったんじゃないか? 儂よりも食っとらんじゃないか」

 

 言いながら老人がワインを注いでやると、こちらは手に取るなり一息に飲み干した。

 

「もっぱら、最近はこっちの方が進むようでして」

 

 そう返す痩せぎすのグラスへと再び老人はワインを注いでやる。

 

「仕事の方は上手くいってるか?」

 

 尋ねてくる老人の声をよそに再び痩せぎすはグラスを空けた。

 

「順調ですよ。賭けプロレスの方も軌道に乗ってきました。間幕の『ショー』も好評ですし」

「たしかお前も手持ちのチームを参加させてたんじゃなかったか?」

「あぁ……アレですか? はは」

 

 老人の質問が意外だったのか、痩せぎすは表情も変えずに乾いた笑いを漏らした。

 

「オッズに出せるような選手じゃありませんよ。ショーの方に提供するエサの連中です」

 

 痩せぎすはそう言い添えては自身が直接に管轄する団体である『ザ・ハイリスク』について語り始めた。

 

「殺されるだけしか能のないグズ共です。そもそも『ザ・ハイリスク』って名前からして『サクリファイス(生け贄)』の変則アナグラムですからねぇ」

 

 おどけた様子で得意気に話す痩せぎすのしかし、どこか演技めいた気配もまた老人は見逃さなかった。

 それでもしかし、ならばそれにも理由があるのだろうとあえてそれには触れずに話の続きを促す。

 

「でもね……本当に一人、有力そうな奴も出できたんですよ」

 

 本人は気付いていないのか、その段に話が至ると痩せぎすは僅かに身を乗り出した。

 

「同じ道場の奴の死に触発されて最近頭角を現してきたんですが、コイツがメチャクチャで面白い」

「ただ戦うだけじゃないのか?」

「そう言っちゃ身も蓋もありませんがね? コイツは自分の手足がへし折れる勢いで相手を打ち据えるんです」

 

 そうして勝つには勝つものの、試合終わりには倒した相手以上に負傷していることもざらなのだと……いつしかそれを話す痩せぎすの言葉は我がことのような熱を帯始めていた。

 話始めの商売の話題の時より、よっぽども生き生きとしている。

 

 やがては、

 

「じきに最終進化系に到達したら本選にも出してみようと思っています。その際にはバァルさんもぜひご覧に来てくださいよ」

 

 そう話を締め括りながら痩せぎすは老人──ケンジントン・バァルのグラスへとワインを注いだ。

 それを受け、

 

「分かった……楽しみにしているよユンスト」

 

 バァルもまた手にしたグラスを目線に掲げると──目の前のユンスト・コッジスへと、乾杯の会釈で応えてみせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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