第1話・誘いのDM
図らずもポケモンと性的関係を持ってしまったトレーナーは世に多くいる。
しかしながら獣姦の延長線上でそうなってしまう性倒錯者が大半の半面、互いから惹かれ合った結果として結ばれる者達が居ることも事実だ。
要は純粋な恋愛感情の果てにそうなれるパターンではあるのだが、それでも世間からの目は総じてこれを、『ズーフィリア』と総称して蔑むというのが一般認識であった。
かく言う俺とイエッサンもまた種の壁を越えて結ばれたカップルだ。
出会った当初はそれこそ手持ちのパートナーポケモンとトレーナーという関係ではあったが、日々の生活やポケモンバトルといった共同作業の中で自然と惹かれ合い、いつしか俺達は対等な存在として種の垣根を乗り越えるに至った。
けっして性欲だけの関係ではないことを自負する俺は、匿名ながらもそんな彼女との関係を赤裸々に自身のSNSで発信しては、他の悩めるトレーナー達の励みになるよう活動もしていた。
そんなある時、一通のDMが届く。
それは同じくにポケモンの恋人を持つ『ロイグ』を名乗る人物で、その内容たるや『カップル同士でスワッピングをしてみませんか?』……と誘う内容であった。
当初『スワッピング』という単語の意味すら知らなかった俺はその言葉を調べて愕然とする。
すなわちそれはカップル同士が互いのパートナーを交換し合って行う性交渉を意味していた。
それを知った時の第一印象には嫌悪しかなかった。
不貞でさえ胸糞が悪いというのに、さらに自分のパートナーを他人抱かせてしまうという神経がもう信じられない。
ゆえに当初はそんな便りなど黙殺を決めていた俺ではあったが……スワッピングの持つ意味合いは、徐々に俺の中で大きいものとなっていった。
DMには加えて、『パートナーの意外な一面を知れることや、他人を体験することでより一層に二人の愛が深まりますよ』などという鹿爪らしい文言も付け加えられていて、当初は陳腐な文句だと思っていたそれも、日を追うごとに俺の興味と好奇心とを刺激するものとなっていった。
そして遂に──俺はその誘いを受ける決心をしてしまう。
当然のことながら彼女イエッサンへもその打診と相談はした。
やはりというか彼女もまた激しい拒否反応を示したが、二人でそのスワッピングの意味を考え、さらには検索に上がってくる掲示板などを覗いてそこでの体験談や時折り挙げられる画像や動画を見ているうちに、『一回だけならば……』と安易にも俺達の意識は傾いていった。
そして今日──約束した待ち合わせ場所へと俺達は足を運んだわけである。
指定された場所は意外やビジネスホテルの一室であった。
なにぶんアングラなイメージもあってか、てっきり会員制の地下施設や個人宅へと誘導されるものと思っていただけに何とも肩透かしを受けた気分だった。
それでも許されざる行為に挑もうとしている後ろめたさは変わらずで、俺達は周囲の目を気にするよう互いに身を寄せては、部屋のドアを小さくノックした。
それに反応し、すぐにドアは開いた。
俺達を出迎えてくれたのは中肉中世の青年であった。
ベージュのチノパンに青のジャケットという清潔感のある整った服装とショートカットの髪型──彼・ロイグは想像していた以上に常識人に見え、むしろ俺の方こそが履き慣れたジーンズにポロシャツなどという、いかにもファッションに無頓着といった出で立ちの自分を恥じたほどである。
そんなロイグの出迎えに俺達が挨拶を交わすよりも先に、足元に小さな衝撃が感じられた。
何かと思い見下ろせば、そこにはニャオニクスが一人──俺の足に抱き着いてはさも嬉しそうにそのふくよかな尻尾を振っていた。
さらにその登場に困惑するイエッサンにも気付くと、ニャオニクスもその身を寄せて挨拶とばかりに抱擁しては頬にキスを交わす。……ロイグもそうなら、このニャオニクスもまた洗練されている印象だった。
『初めまして、今日はありがとうございます。とりあえず中へどうぞ』
笑顔で招き入れられ、俺はぎこちない愛想笑いのまま入室をした。
存外に室内は広く壁側にはツインのベッドが、そして対面となる壁面には壁掛けの大きなテレビと長机が設置されている造りとなっていた。
そしてそれぞれのベッドに俺達は互いのパートナーを膝に抱きながら座り、改めて挨拶と自己紹介を済ませる。
その矢先──
『それじゃあ、まずはお互いの子を交換して一緒にシャワーをさせてあげましょうか』
ロイグは唐突にそう切り出した。一切の前置きも無しにである。
当然ながら心の準備も整わずに戸惑う俺達をよそにしかし、これもまたロイグなりに考えられた段取りであった。
『話し合いから始めると、逆に気持ちが萎縮してしまうんですよ』
彼曰く『早くに始めてしまった方がよい』という。
まずはリラックスこそが在りきであり、言い方を変えるのならば始めてしまった方が肝が座り、むしろ冷静になれるのだと続けた。
納得できるような、それとも上手く言いくるめられているのかは図り兼ねたが、それでも心を決めてここへ来た以上、進展するべきだと俺は思うことにした。
その提案を受け入れて服を脱いだ俺は、ニャオニクスと浴室へ向かうにあたりロイグから一台のハンディカメラを手渡される。
『防水仕様なのでシャワーくらいなら濡れても平気です。これでうちのニャオニクスの様子を撮影してください』
新たな展開に、バスタオルを腰に巻いた姿で狼狽える俺はさぞ滑稽であっただろう。
しかしながらそれにもロイグなりの理由があった。
『記念として記録を残しておきたいのもそうですけど、これにはお互いの監視の意味もあります』
ロイグが手元のカメラを操作し、そして同時に壁掛けテレビの電源も点すと──画面にはカメラのフィルターを通した映像が写し出された。
『初対面の相手を信用しきれていないのは僕としても同じです。だからこその監視でもあるんです』
ならばそれぞれのパートナーは自分の手でとも思う反面、セックスという最大級のコミュニケーションを前に少しでも互いが触れ合える瞬間を設けてくれていることにも気付き、その配慮に内心では感心したりもした。
ともあれ、俺はハンディカメラを片手にニャオニクスと共に浴室へと入る。
シャワーだけのそこは、浴槽が備え付けられていないことからも存外に広く感じられた。
──最初は俺から触れて洗ってやった方がいいんだろうか?
はてさて彼女をどうリードしようかとも考えあぐねては無意味にシャワーノズルなど撮影していた俺の画像は、次の瞬間大きくぶれることとなる。
予想外のその衝撃に、俺は我が身に起きていることが何一つ分からずに狼狽えた。
それは突如としてぺニスを包み込んだ温かく柔らかい感触……それに驚いて自身の股間へとカメラを向ければそこには──
まだ掛け湯すらしていない俺のぺニスを咥えこみ、カメラのファインダー越しに妖艶な笑みを向けているニャオニクスの貌が映っていた。