※ 注意!
この章にはロリ・ペド・幼児性愛の表現が多く含まれます。
第1話・死にかけ☆デカヌチャン
遠方へと出張った道すがら……道中の渓谷において俺は行き倒れたデカヌチャンを発見した。
道のど真ん中でうつ伏せに倒れ込んだ彼女は微動だにしない。
周囲には、まだ断面の新しい岩とひしゃげた大金槌が転がっている。ふと見上げるそこは切り立った崖が左右にそびえ立つ断崖で、おそらくはこのどちらからか転げ落ちたのだろう。
だとしたらあの高さだ……おそらくは生きていまい。
手を合わせ、小さく会釈をしては足早に立ち去ろうとしたその時──俺の足音を地面の振動で聞いたのか、僅かにデカヌチャンの体が動いた。
小さなその痙攣を始まりに、小刻みに体を震わせている様子から、まだ息があることが確認できる。……まったく、なんて生命力だ。
そして生きているとなっては話もまた変わってくるのが面倒なところだった。
そのまま見殺しにすることも出来ずに、俺は彼女を抱きかかえる。
同時に頭上からは、小さな石つぶてが砂利に混ざっては崖に砂煙を立てているのが確認できた。
見れば周囲も大小の岩石まみれであることと、そしてデカヌチャンが転落した事実からもこの場所は落石が多発してる場所なのだと察せられた。
だとしたら長居は無用。俺は彼女を胸に抱いたままそこを後にする。
そのまま渓谷を抜け、河川にちかい雑木林の中の開けた一角にテントを張った。
デカヌチャンをその中へ運びこみ、大小さまざまな傷の手当てをしていると、その断続的な痛みが気つけになったのかデカヌチャンが目を覚ました。
覚醒しても、デカヌチャンは力なく俺と周囲を見渡すばかりで抵抗らしい行動はとらなかった。
もっとも自分の意志からそうしている訳ではなく、もはや満足に動けないほどにケガの度合いが深刻であるのかもしれないが。
「気付いたか? たぶん崖から落ちたんだなお前……」
理解出来るかは分からないが、とりあえずは怪我の手当てを続けながら俺も状況を話して聞かせる。
しかしそんな俺の声もデカヌチャンはどこか上の空であった。
落ち着きなくそわそわと周囲を見渡すその表情は不安に曇っている。
当初は見ず知らずの人間と対峙していることの恐怖や傷の痛み故なのだと想像したが、どうやら違うようであった。
しばしそうしてテントの中を見渡した後、今度は声を上げては明らかに俺へと何かを訴え始めた。
しかしながらポケモン語……その動物然としたうなり声では彼女が何を俺に求めているのかさっぱり分からない。
しまいには大げさな手振りを加えるに至り、ようやく俺はこのデカヌチャンが何を訴えようとしているのかを理解した。
彼女は自分のハンマーの所在を尋ねていたのだ。
「あの金槌か? 残念だけどお前が倒れてた場所に置いてあるよ。すでに壊れてるようだったし、そもそも俺には重すぎて持ち出せなかった」
応える俺もまた身振り手振りで棒をへし折るようなジェスチャーを試みたところ、その意は分かり易過ぎるほどデカヌチャンには伝わってしまった。
今までの小動物のように忙しなかった動きは一変して鎮静化し、敷布団の代わりに敷いていた寝袋に背を沈めると……そのまま彼女は動かなくなってしまった。
以降、デカヌチャンの容体は急変していく。
食事はおろか、呼吸は時間を追うごとにか細くなり、しまいには目すら開けていられなくなった。
このままでは今夜が峠だ。……否、朝には間違いなく死んでしまうことだろう。
近場のポケモンセンターへ運び込むにしたって、徒歩では半日以上の道程がまだ残されており、おそらくはそれまで持つまい……。
どうにかあと一日、このデカヌチャンを元気づけられる何か手段は無いものだろうか?
そう考えた時、俺にはもう『あの方法』しか残されてないように思えた。
決意するや俺はザックを背負い直し、腕の中にデカヌチャンを抱いた。
テントを出て足早に向かった場所は──先の、彼女を拾い上げた渓谷だ。
そして例のひしゃげたハンマーの元まで歩むと、傍らにデカヌチャンを置いて再び彼女に声を掛けた。
うっすらと開かれる視界の中に自身のハンマーを発見し、その目が見開かれる。……が、それもすぐに絶望の色に変わった。
先にも説明した通り、件のハンマーはもう柄と金床とが分離してしまっていて、もはや道具の体を為してはいなかった。
しかしながら、ここからこそが俺の本領発揮だ。
背のザックから数種のピンバイスと鍋ビス、さらには板金用の速乾ボンドを取り出す。
そして破損したハンマーの状態を確認するや、俺はそれの修理を始めた。
俺の職業こそは流れの大工である。
金属加工はやや専門外ではある物の、この手のハンマーの基本的な構造は玄翁と同じだ。
それを直す時の要領で俺はデカヌチャンのハンマーの修復を試みた。
見たところ柄に深刻な曲がりや割れは無い。衝撃で柄と金床が分離してしまっただけというのならば直しようもある。
金床の櫃(ひつ)に柄を通し、その柄尻を何度も地面に叩きつけては二つを強く結合させる。さらには櫃から頭の出た柄の木口へ平釘を打ち込んでは、もう柄と頭が分離しないよう念入りに固定した。
剥がれてしまっていた板金とハンマー本体の側面にはそれぞれボンドを塗り伸ばすと、それらが半乾きとなったところで接着し、さらにピンバイスで下穴を穿っては、今後この板金も剝がれないように数か所のビス打ちを施す。
かくして見る間に復活してく自身のハンマーを前に、デカヌチャンの目には生命力の輝きが戻りつつあった。
「いいぞ……その調子だ。このハンマーも直してやるから、お前も元気になるんだぞ」
語り掛けながら最後のビスもまた締め留めると──彼女のハンマーは完全に破損前の状態へと復活をした。
それを前にデカヌチャンもまた手を伸ばす。
そして自身の得物の柄を握りしめた瞬間──小さなその体が包帯の下で肥大した。
傍から見ても分かるほどに肉体を昂らせているその様は、まるで始動し始めた剥き出しのエンジンを前にしているかのような迫力が感じられる。
その時である──俺達のいる場所の頭上高くで、またも岸壁の一部が剥がれ落ちた。
砂礫が頭に降り注ぐ感触に気付いて見上げれば、すでに岩石は絶壁から離れた瞬間であった。
アレが此処に到達し、俺達を下敷きにするまで数秒と掛かるまい……それを目の前に、俺もまた慌てふためくやらで絶望に眼を閉じようとしたその時である。
吼えるような笑い声と共にデカヌチャンが地を蹴った。
迫りくる落石へと、今しがた修理の終わったばかりのハンマーを振り上げては体を大きくひねる。
血潮が体を膨張させると、彼女を包み込んでいた包帯は麻のように引きちぎられては、その下の怪力を漲らせた肉体を露とさせた。
そして横一閃に軽々とハンマーを振り抜くや次の瞬間──彼女の何倍もあったあの落石は、ゴルフボールよろしくに打ち返されては恐ろしい速度を以て頭上彼方の星となる。
斯様にして危機を脱し、地上へと降り立つや──デカヌチャンは頭上から振り下ろしたハンマーを宙空に留め、改めて新生した自身の得物をかざして見せるのだった。
数種の鍋ビスによって武骨に補修されたそれは、同じくにケガから復帰した自身の象徴そのものであったのかもしれない。
しばしそんなハンマーを見つめるや、デカヌチャンは大きく鼻を鳴らしてはそれを肩に担ぎ上げる。
そうして未だ、尻もちをついては腰の抜けた俺へ振り返ると彼女は意気揚々とその元まで歩み進んでくる。
そして礼とばかりに一声発したかと思うと、後には好意たっぷりのキッスを俺の額へと押しつけてくるのだった。