これにて別れるつもりが、デカヌチャンに伴われ彼女の集落まで赴くことになった。……というか力づくで引きずられては、非力な俺に選択権なんて無い訳だが。
半日以上を歩いて辿り着いた先は、遺跡の跡地を思わせる石積みの建物群だった。
廃墟然としたそこに辿り着くと、デカヌチャンは高く一声を発する。
途端、建物の窓や崩壊した石柱の影、さらには彼方に見える石段の向こうからと、数多くのカヌチャンやナカヌチャン、さらには他のデカヌチャン達が頭を覗かせては俺達を注視する。
そして視線の先に件の彼女を確認するや、皆一斉に飛び出してきては俺達を迎えた。
仲間達にこれだけの歓迎を受けている様子からも、このデカヌチャンは群れの中でもそれなりに地位の高い個体なのではないだろうか?
斯様にしてデカヌチャンの帰りを迎え入れた一同ではあるが、皆の視線は自然と彼女のハンマーへと集まった。
俺の修理を経たハンマーは、この群れの皆が持っている物とは明らかにデザインが違って見えた。
こちらとしては元の形状なんて知らなかったから、以降は壊れにくいことを意識しての修理をした訳だが、その結果彼女一人だけが特別な得物を持つこととなってしまった。
いかに多少の意思疎通が出来るとはいえ、このデカヌチャン達は歴とした野生のポケモンである。
そこへあからさまな人間の介入があったことで、彼女を群れから孤立させてしまうやもしれないと危惧した俺ではあったが……それもすぐに杞憂であると気付く。
彼女のハンマーを見る仲間達の目は一様に輝いていた。
皆が羨望と憧れをそこに注ぐ中で、件のデカヌチャンはさも自慢げに胸を張っている。
そんなデカヌチャン達の様子を見守っていると、誰かが俺のザックの底に触れた。
何かと思い振り返れば、カヌチャンが棍棒然としたハンマーの先でザックをつついていた。
「な、なんだ?」
何事かと思い、改めて視線を定めると──カヌチャンは驚いた様子でその場から逃げ出しては、傍らにいたナカヌチャンの陰に隠れる。
気付けば、俺自身もまたデカヌチャンとは別グループの中で注目の的とされていた。
そんな俺に気付いたのか、デカヌチャンは聞き慣れない声を発しては群れの仲間に俺を紹介する。
おそらくは崖で助けられたことやハンマーの修理をしてもらった経緯を説明して聞かせているのだろう。
デカヌチャンの声が止むと、俺達を取り囲んでいた仲間達からは一斉に歓声が沸き上がる。
そうして背後に控えていたカヌチャンが俺の尻を両手で押すとともに、
「お、おいおい……俺をどうしようってんだ?」
俺はカヌチャンの一団と共に、別の場所へと誘導されて行った。
どこに連れていかれるものか分からずに不安なる俺をよそに、あのデカヌチャンは別の仲間と共に正反対の方角へと歩いて行ってしまった。
そうして廃墟の一室を宛がわれ、俺は所在もなげにその中央に座らされる。
依然としてザックを背負ったまま正座にて待機する俺の頭からは、一向に不安が消えてくれない。
本当に俺は無事で済むのだろうか?
そもそもが『助けた』なんて思っているのは俺の都合の良い解釈であり、むしろあのデカヌチャンは自分の得物を勝手に改造されたことを根に持っては、その復讐のために俺をここへ監禁しているのではないか?
……あるいはもっと野性的な理由として、
「まさか俺を食おうってんじゃないだろうな……?」
ただ座り続けるばかりの俺の妄想はどんどん逞しくなっては、あの可愛い見た目の連中をどんな悪魔にも負けない凶悪な生物へと昇華させてしまっていた。
と、そんな折──ふと何者かの気配に気付いて俺は顔を上げる。
視線を巡らせれば、入り口の陰に半身を隠しながらこちらの様子を窺っているカヌチャンの姿が見えた。
おそらくはつい先ほど、俺に興味をもってちょっかいを出してきた子だ。
幼児然としたその見た目とどこか照れたような仕草が妙に可愛くて、俺はつい先ほどまでの妄想など忘れては思わず微笑んでしまう。
「なんだ、俺に興味あるのか? おいでおいで、話しよう」
仔犬を呼ぶように声掛けしながら、甲を上にして手の平をひらつかせる俺の仕草にいくらか緊張をほぐされたのか、カヌチャンはおずおずと近づいてくる。
改めてカヌチャンの全貌を確認し、俺はその手に握られた玩具のようなハンマーに注意を惹かれる。
握りの部分が細まった寸胴のそれは赤ん坊の持つガラガラを連想させる。
「可愛いハンマーだな。ちょっと貸してごらん」
俺は降ろしたザックの中から工具箱を取り出すとカヌチャンからハンマーを受け取る。
そうして手の中で二度三度と回して構造を確かめると、俺は使用や耐久度に支障のない部分へ手持ちのネジを数本打ち込んだ。
円を描くように打ち込まれたそれはさながら花のような意匠に仕上がった。
はたして友好の印として喜んでもらえるかとそれを返すと……カヌチャンはネジの付いた自分のハンマーを両手にしたまましばしそれに見入る。
そのあまりの無反応さに「しくじったか」と思ったその矢先──カヌチャンは手にしていたハンマーを抱きしめた。そうしてまるで我が子にするかのよう頬ずりをしたかと思うと、それを手にしながら飛ぶようにその場で踊り出すのであった。
……どうやらお気に召して貰えたようだ。
これで少しでも仲良くなれればと思っていると、
「……ん? うおッ、なんだ!?」
いつの間にか膝元にカヌチャンがいた。
しかしながらそれは、つい先ほどのカヌチャンではない。別個体だ。
そしてそんなカヌチャンは一人に限らず、気付けば左右から肘にすがりつく個体がもう2人──と、計3人のカヌチャン達に俺は囲まれていた。
そして彼女達は俺を前に自分のハンマーを差し出すと、先のカヌチャン同様のデコレーションを要求してくるのであった。
しばしの間そんなリクエストに追われ、それでも最後の一人のハンマーにネジを施すと、
「ヨシ、出来たぞ」
俺はそれを手渡しては大きく息をついた。
受け取っては先のカヌチャン達と同様に目を輝かせてはそれを振り回して踊る彼女を見守りながら、俺は現状を再確認する。
胡坐をかいて座る膝の上に一人、もう一人は右腕に抱き着いては身を寄せ、さらに一人は肩車よろしくに俺の首を跨いでは両肩に乗っていた。
そして踊っていた最後の一人もまた駆け寄ってくると俺の胸に飛び込んでくる。
いずれもこれ以上にないくらい懐いてくれてる様子から、プレゼントデコレーション作戦は成功を収めたようだ。
「あとは食料にされないように仲良くしていかないとなー……」
自嘲気味に独り言ちては今後に考えを巡らせたその時であった。
股間をまさぐられる感覚に俺は我に返る。
最初は膝に座っているカヌチャンが動き回っているのかとも思ったが、どうにも様子が違う……。
その動きは、明らかに手の平でペニスを探り当てるように動いていた。
慌てて視線を股座に降ろせば──そこには4人のカヌチャンが、スラックスの前ポケットから俺のペニスを取り出している光景だった。
──な、何してるんだこいつら? 意味が分かってやってるのかッ!?
何が起きているものか一向に理解できないまま見守っていると、やがて取り囲んでいた一人がペロリと舌を出しては唇を舐め湿らす。
そうしてまだ満足に歯も生え揃わない口元を大きく開いたかと思うと──次の瞬間には、俺のペニスをその無垢な口の中へと迎え入れてしまうのであった。