※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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エピローグ

 

 

 テセィのスマホに残されていた彼女の日記により、俺は全ての真相を知るに至った。

 まずは事の始まりとなった殺人事件──それに関してテセィは潔白であったという告白からそれは始まる。

 

 彼女とつるんでいたあの男は、予てより関わりのあったマフィアの取引に乗じ、そこから様々な金品や現金の横領を働いていた。

 ある時そのマフィアが秘密裏に進めていた交渉を嗅ぎつけた奴は、それに莫大な価値があると思い込み、その取引材料である『あるもの』を盗み出す。

 

 木製に鉄鋲という古風な宝箱然としたそれを男は持ち帰るわけではあるのだが、その中に収められていたのは一匹のコレクレーであり……それこそが後のサーフゴーとなる。

 

 一方の組織とて、たかが一チンピラに出し抜かれるほどマヌケではない。

 すぐに男の犯行を突き止めるや落とし前として男を殺害し、さらにはその罪をテセィへと被せると……次なる制裁の対象を言わずもがな彼女へと定めた。

 

 この時、いかにテセィが恐怖し絶望したのかが日記にはありありと記されていた。

 それでもしかしあえて単独行を選んだのは……単(ひとえ)に俺を守る為であったのだった。

 

 自分と関わることで俺があの男と同じ末路を辿ってしまうことを危惧したテセィは、何も言わずに俺の素を去っていた。

 その際に腐れ縁というか、あの日男が盗み出してきたコレクレーと共に彼女の逃避行は始まる。

 

 しかしながらこのコレクレーの存在がいかに逃亡中のテセィを慰めてくれたのか知れないと日記には記されていた。

 同時にそこには秘密裏に逃亡資金の援助をした俺への感謝も綴られており、それを読みにつけてなおさらに彼女を助けられなかった後悔が俺の胸には募った。

 

 やがては流れに流れつき……彼女はこのマバセ郡へと辿り着く。

 しかしながら、此処にも安息の場所などは無かった。

 件のマフィアはいたる所にその拠点を持っており、警察の捜査網以上の細かさで彼女は逃亡を把握しては、ついにここまで追い込んだのである。

 

 そして彼女も遂には絶望の運命に捕らえられてしまうこととなった。

 

 ある時、食料の買い込みに町へ下りた際にテセィはマフィアの構成員達に発見されてしまう。

 相手は男数人に加え屈強なポケモンもまた従えており、その時にはまだ非力なコレクレーしかパートナーの居なかったテセィはついに進退窮まっては奴らの手に落ちた。

 

 幸か不幸かテセィを捉えた男達はすぐに組織へ差し出すことはせず、まずは己達による私刑を加えることとした。

 山間の打ち捨てられた建物……この場所へテセィを監禁するや、そこにて男達は欲望の限りを彼女へと尽くしたのだった。

 

 地元の構成員たる奴らにテセィに対する個人的な恨みはない。

 その行動は単なる性欲の発露から行われたわけではあるが、皮肉にもそれが彼女を生き永らえさせる結果となった。

 とはいえしかしそれも時間の問題だ……男達がテセィに飽きれば、その時こそ彼女は組織へと引き渡されてその人生を終える。

 少しでも時間を稼ごうと、彼女はあらゆる屈辱的な奉仕を男達へと施しながら命を繋ぐ。

 

 この時の彼女には唯一の頼みの綱があった。

 否、それは『綱』というには心許ない『糸』程度の希望ではあったが──男達に捕まる際に、テセィは自分のキャッシュカードと共にコレクレーを逃がしていた。

 

 非力なポケモンであることは承知の上でもあったから、あわよくば事態が好転すれば程度の期待ではあったが、それでも微かなその希望はこの地獄で生き延びる彼女の心の糧となった。

 

 それでもしかし……事態は最悪の結末を迎えることとなる。

 

 日記はここで終わっていた。

 すなわちそれは彼女がこの場所において殺害させられたことを意味している。

 遺体の胸元には鋭い刺創が見受けられたことから察するに、興奮した男達の一人にテセィが刺し殺されたことは明らかだった。

 

 そしてその後の展開は──サーフゴーの口から語られることとなる。

 たどたどしくテセィのスマホと俺のキャッシュカードを指し示しながら、身振り手振りでその時の状況を説明するサーフゴーの話は以下の通りである。

 

 テセィによって逃がされたコレクレーではあったが、然りとて彼女もまた途方に暮れた。

 幼さに加え、己の出自すらも知らないコレクレーには頼るべき相手も手段も持ち併せてはいなかったからだ。

 しかしそんなコレクレーにも、唯一テセィ以外と関わりのある人物がいた……それこそがテセィがキャッシュカードを通じてやり取りをしていた俺に他ならない。

 

 コレクレーは少額の金銭を拾い集め、時に盗み取ったりしてはそれを遠くいる俺へSOSを込めて入金をした。一時期に振り込まれていた少額のそれがこの行為に当たる訳だったのである。

 それでもしかし、事態が深刻な状態に陥っていることを察したコレクレーは単身で彼女の救出へと向かう。

 

 そしてこの建物においてコレクレーが遭遇したものは──……手遅れにも、テセィが男によって刺殺される瞬間だった。

 

 その際にコレクレーは彼女が肌身離さず身に着けていた銀のコインペンダントを受け取る。

 それはまだ両親が存命だった頃、俺とテセィがたまたま訪れた観光先で作った記念コインのペンダントだった。

 

 俺はテセィの名が冠された金のコインを、そしてテセィは俺の名の刻まれた銀のコインを記念として購入したのだ。

 

 他人にとっては何の価値もないオモチャのコインではあったがしかし、そこに込められていたテセィの想いは、この世のどんな金額にも替えられない価値となってそのコインを存在足らしめていた。……俺が自分のコインへ抱いていた気持ちと同じように。

 

 そしてそんなコインを取り込んだ瞬間──コレクレーに劇的な変化が訪れた。

 コレクレーはそこに込められたテセィの記憶と、そして想いの全てを受け継いではサーフゴーへと進化を果たす。

 

 力を手に入れたサーフゴーはたちどころに場に居た全員を惨殺してはテセィへ手当てを施すも……それが報われることはなく、彼女は既に事切れた後であった。

 

 それでもテセィを朽ち果てさせることを忍びなく思ったサーフゴーは自身の中で精製した液体金属をテセィに打ち込むや、それにて防腐処理を施す。

 もはや全てを失ったサーフゴーに残されていたものは、煮えたぎるようなその復讐心のみ……それに突き動かせらるままに、彼女はテセィを追い詰めた組織への報復を開始した。

 

 このマバセ郡にある組織の拠点や関係者を探しだしては片端から潰して回るサーフゴーの生活が始まる。

 その行き先で得た資金や貴金属の類いを戦利品として持ち帰っては自身の強化は元より宝飾品を以てはテセィの遺骸を飾り付け、それでも余る紙幣は町の人間にばら蒔いて与えた。

 

 同時にこの時、サーフゴーは俺への送金もまた始めていた。

 テセィの中に在る俺への贖罪と、そしてサーフゴーへと受け継がれてなおも消えぬ想いが、それを行うことで繋がれていたのであった。

 

 そして今日、ここまで続いてきた因縁に一通りの決着が成される。

 マバセ郡を仕切っていた組織幹部の抹殺を果たし、そしてその果てに──サーフゴーは求めてはやまなかった俺との邂逅もまた果たしたのであった。

 

 

■     ■     ■

 

 

 いつしか俺はサーフゴーと妹の遺骸を両腕へ抱き寄せながらに彼女の語る顛末を聞いていた。

 

 生前にもテセィは俺のことをサーフゴーへとよく語ってくれていたらしい。

 他愛もない昔話や俺のことを話す時、彼女は実に楽しそうに語っては優しい笑顔を向けてくれたそうな。

 

 いつかは二人で会いに行こう──そう約束を交わした二人の夢は、片方を欠く形で叶えられることとなってしまった。

 

 ふと左腕の中に抱いたテセィを見下ろせば、そこにはサーフゴーの処置により生前と変わらぬ姿の彼女が今にも起き出しそうな寝顔で俺にもたれていた。

 ついでサーフゴーを見やれば、彼女もまたテセィへと投じていた視線を上げては俺と視線を絡ませる。

 

「……これからどうするんだ? 何がしたい?」

 

 場違いなほど穏やかに尋ねる俺に、サーフゴーはその一時視線を伏せた後、身を起こしては俺とテセィを両腕に抱いた。

 そのまま額を俺の胸元へ押し付けてはただ固まるばかりの彼女を、俺もまたその背を抱いて撫ぜてやる。

 

 これからどうするのか──それこそは俺自身への問いでもあった。

 俺もまたそれを考えあぐねては再びテセィを見下ろした時、本当にくだらない思い付きをしてしまう。

 

「いっそのこと……全部、壊しちまうか」

 

 呟きのような俺の声に反応してサーフゴーが顔を上げる。

 

「俺もお前も大切なテセィを失った……こいつがマフィアの勝手な落とし前でやられたってんなら、そのマフィア共にも落とし前を着けさせるべきだ」

 

 最初サーフゴーは俺の言っていることを理解していない様子だった。

 復讐のことを言うのであればそれは今日、マバセの最後の幹部を殺したことにより果たされているからだ。

 

「こんな奴らなんて所詮は末端だ……上にはもっと、こいつらの大元になっている組織や連中がいる」

 

 言いながら俺は自身の血が滾る思いを感じていた。

 

「そいつら全員をぶっ潰した時こそ、テセィの敵討ちが完成する……それを俺達の手でやらないか? サーフゴー」

 

 その言葉と共に互いの視線が結びあった時、俺達の心は燃える信頼で結ばれるのを感じた。

 いつしか固く抱き合いながらに俺とサーフゴーは……否、俺達3人はそれを心に決める。

 

 どこまでやれるのか、どこまで行けるのかは分からない。

 それでもしかしこのサーフゴーと行けるところまで行こうと俺は固く心に誓う。

 あの日、テセィを手放してしまった後悔を繰り返さぬよう──

 

 

「死ぬときは一緒だ……3人で行こう」

 

 

 今度こそはしっかりと、俺はサーフゴーとテセィを抱き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【 愛と復讐のサーフゴー・完 】

 

 

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