第1話・思ってたのと違う!
「さあ……見せてやれ、デンリュウ! お前の、今日までの頑張りを!」
地方公式戦での最中において──トレーナー・ネクスは右手首に装着したメガリングを高々と掲げた。
それに反応し眼前のバトルフィールドで戦っていたデンリュウもまた、ネックレス型に装着していたメガストーンを手にし、それを掲げる。
共鳴する二つのアイテムがエネルギー光を発するやその渦にデンリュウは包まれ、眩いその中において肉体の輪郭を変えた。
いま彼らが行おうとしているものはメガシンカ──ポケモンを従来の最終形態から更に一歩先へと進める為の究極進化である。
今日(こんにち)初めてネクスとデンリュウはそれを試みたわけではあるが、ここに至る二人の研鑽の日々はそれは筆舌に尽くしがたいものであった。
それでもしかし二人はその過酷な試練を支え合っては乗り越えそして今──その成果を発揮させたのだ。
「お前の頑張りは誰よりも俺が知ってる……誰にも遠慮なんかするな! 望む力を手に入れろデンリュウ! なりたい自分を解放しろ!」
掛けられるそんな戦友の声を背になおさらデンリュウの発光が強まった。
そして最後は爆発するかのよう彼を中心に光輪が周囲へと走り、纏っていた輝きのベールを脱いだその先には──紛う方なきメガデンリュウがフィールド上に降臨を果たしていた。
……がしかし、
「………んんぅ?」
その神々しくも新生したパートナーの姿にもしかし、ネクスは思わず眉を顰める。
焔の揺らめきを宿したような毛並みを風になびかせる尻尾と、同じくに純白の鬣──斯様にして以前のデンリュウとは根本的な姿形を変えた姿ではあるのだが……その体には、明らかに納得のいかない変化もまた現れていた。
かのデンリュウの胸元には、挑発的なまでに大きい乳房がたわわに実っていたのだ。
加えて細かく観察するに腰のくびれにもメリハリがついたことで尻の肥大化も強調され、明らかに今のデンリュウは『女(メス)の体』をそこへ反映させているのだった。
ゆえにネクスは混乱の極みに達する。なぜならば本来のデンリュウは……
──♂(オス)……のはずなんですけどッ?
彼女の……否、彼の性別が正真正銘のオスであることをネクスは知っているからこそ、その困惑は尚更に大きい。
そんな困惑から一時の放心状態に陥るネクスへと、一方で温度差も甚だしくフィールド上のデンリュウは熱く吠えたけては指示を仰いでくる。
その声に我へと返り、
「お、おう……じゃあデンリュウ、『りゅうのはどう』だ」
ネクスの指揮の下、メガデンリュウはその姿に見合った規格外の強さを見せつけるも……もはやネクスはデンリュウ女体化の衝撃から立ち直れず、その後も試合に集中することは出来なかった。
そして試合後──。
控室へと戻るなり、依然メガシンカのままのデンリュウは正面からネクスを抱きしめた。
結果は二人の大勝利に終わった訳ではあるのだが、どうにもネクスは腑に落ちない。
それこそはやはり、溺れんばかりの大きさと柔らかさの乳房でネクスを包み込んでくるデンリュウにあった。
身体的な変化は全体のサイズ感にも現れていた。
メガシンカ前は身長140cmのネクスとほぼ同程度であったはずのデンリュウも、今では頭二つ三つも大きくなってしまっている。
……おかげで今のような抱擁をされると、ネクスはデンリュウの放漫な乳房と太ももの恵体にすっかり飲み込まれてしまう形となった。
──あ……なんかいい匂いもする……♡
加えてメス特有の甘すっぱくも柔らかげなミルクの香りと体温に包まれては、恍惚と忘我してしまうネクスではあったが、
「違うッ、そうじゃない!」
我に返るや、その心地好い体を振り切ってネクスはデンリュウと向き直る。
「お前、何で女の子になっちゃってるんだよ!?」
そしてようやくにその疑問をぶつけてくるネクスを前に、デンリュウも小首をかしげてはさも不思議そうな表情でパートナーを見返す。
やがてその視線は自分の体へと降り、胸元に実る見慣れないその物体二つを両手で掬い上げるや……固まる。
次の瞬間には──ようやくに自身のメス化に気付いては、声を上げて慌てふためいた。
「分かった、落ち着け。その様子だと、お前にもこうなった理由は分からないんだな……」
涙目で胸元にすがり付いてくるデンリュウの頭を撫でてやりながらネクスも考える。
実際の話、考えたところで埒もあかないと判断したネクスは、しばし経過を観察することとした。
そもそもこのメガシンカ自体が一時的なものなのである。
時間経過と共に進化が治まった時、その状況で今後の方針を決めようと考えた。
そしてそれからきっかり一時間後──やにわにデンリュウの体が発光を始め、今度はグラスの中にある炭酸の泡が発散されるようにデンリュウの体が窄まり出し……数分後に発光が止むや、そこにはネクスのよく知るデンリュウが佇んでいた。
それを前に、ネクスも天地無用にデンリュウをひっくり返しては、腋の下からしっぽの付け根の裏側に至るまでその隅々をチェックする。
やがてはデンリュウが元通りの完全な『オス』に戻っていることを確認し、ようやくに二人は安堵の溜め息をつくのだった。
「いったい何だったんだろうなアレ?」
語り掛けるとも独り言ともつかない様子で呟くとようやくにネクスとデンリュウは、今日の勝利の喜びを分かち合うのだった。
そんないつも通りの日常を取り戻したかのような二人ではあったが──
──あいつはあいつで可愛かったな……
ネクスの脳裏にはいつまでもあの、TS(トランス・セクシャル)化したデンリュウの姿と柔らかさがよぎっては……その心を落ち着かせなくさせるのだった。