※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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【34】感覚遮断 Ⓥ ビクティニ!
第1話・らんだの野良ポケモン


 

 

 野生のポケモンは野良猫に似ていると言われる。

 

 狩りにより自ずの手で食料の確保をする傍ら、人間社会にも適合しては彼らと絶妙の距離感保つ世渡りの上手さがそう評されるのだ。

 しかも遥かに知能も高く、また人の感情の機微にも寄り添える柔軟な思考を持つポケモンは、猫以上に知的でかつ能動的な人間社会との関わり方を確立してもいた。

 

 ゆえに野生ポケモンの中には、自らの意志により人間社会の仕事に従事してはそこで使用可能な金銭や、はたまた食料の類を獲得する者もいる。

 これこそはポケモン独特の『狩り』の一形態であり、その行動は学識者の好奇心を大いに刺激すると同時に、人の社会もまたそんなポケモンの労働力無しでは回らない構造を構築しているのがこの世界なのであった。

 

 斯様にして人間社会での立場や役割を持つ野良ポケモンではあるが、これまた『労働』に対するスタンスの違いが見られるところもまた興味深い所である。

 一概にそれは、労働を『好む者』と『好まざる者』の違いであった。

 

 前者は言わずもがな雇い主に対し従順で、労を惜しまずに仕事へと従事する。

 しかしながら後者はというと──いかに効率的に、かつ労無くして成果を得られるかを考えて立ち回る。……要は怠け者気質の持ち主だ。

 

 後者には得てして知能の高いポケモンにその傾向が強く、そういった者はとかく犯罪行為に走りやすいと言った一面もまた持ち合わせていた。

 加えてそうではなくとも、労働意欲の低い者はいかにして『楽をして稼げるか』に思考の大半を使っているあたり、その辺は人とも似通っていて面白い。

 

 人間の倫理をそこはかとなく理解し、犯罪に手を染めるでもない善良な怠け者のポケモンが、ならばどのような手段で対価を得るのか……この章ではそんな思考の持ち主である、『とあるビクティニ』が巻き込まれた騒動についてスポットを当ててみたい。

 

 

 彼女ビクティニは自由気ままに人生を謳歌するポケモンだ。

 

 誰にも・どの組織にも所属しない彼女はフーテンの野良ポケモンではあるが、怠惰で好奇心旺盛の性格故に人間社会から享受される文明や文化というものを激しく欲してはまた求めた。

 

 欲するのは自由であるが、そうなると当然に先立つものが必要となり、彼女もまた人間社会での狩り……『労働』に従事せざるを得なくなった。

 

 しかしながらそこは『好まざる者』である。

 ゆえにビクティニはいつも『いかに楽をして稼ぐか』を考えるものの、かといって彼女にはその手段(エンジン)を作り出せるほどの発想力も無ければ、知的作業に従事できる知能もまた持ち合わせてはいなかった。

 結果彼女が辿り着いたそれとは「交通量調査」や自身の「血液の売買」、そしてごく単純な「肉体労働」といった、極力体力を消耗しない方法によって日々の小遣いを稼ぐ程度のものばかりであった。

 

 そんな折り、ビクティニは実に効率的な仕事を見つけるに至る。

 それこそは新薬の「治験」であり、これは行きつけの血液買い取りセンターにおいて誘われたものだった。

 

 この労働こそは彼女の性に合った。

 もっともそうは言っても、指定された薬を飲んだ後は数時間から数日を寝て過ごすという労働とは名ばかりの内容ではあったから、怠け者のビクティニとってはこれこそが自身の天職と思えたのだ。

 

 そんな治験を知って以降、ビクティニは日々研究所や病院といった施設を巡回しては、そういった募集が無いかを探し回るようになる。

 その過程においてインターネットの使用方法も覚えれば、使い捨てのスマホすらも手に入れた。

 斯様にして人間社会に順応しては、彼らを出し抜いたつもりでいたビクティニではあったが……この後に彼女は、手痛いしっぺ返しを受けることとなる。

 

 

『新しい治験に参加してみないか?』

 

 そう誘われたのはいつもの血液を売る献血センターでのことであった。

 そしてその仕事が、相場の10倍ちかい金額であることを聞いた瞬間──彼女はほとんど神経反射と言って良いほどの早さで快諾しては、絶対にそれを他の参加者には教えるなとすがり付いた。

 

 そもそもが斯様に破格の報酬であることの意味を尋ねたり考えるべきではあるのだろうが、この時のビクティニにはもう、もらった報酬でどう遊び倒すかしか頭にはない。

 もっともそんな彼女の性格はスカウトした側からしても都合がよく、かくしてビクティニは一切の説明を受けることもなく、それを依頼してきた男にホイホイとついていってしまうのだった。

 

 かくしてこれから自分が受ける仕事の内容すらも知らずにとある建物の前に案内されるビクティニ。

 港湾エリアと都市地域の境目にあるそこのビルは、この現代においてもモルタル塗りっぱなしの壁面に古びたデザインのサッシ窓が数個はめ込まれただけという時代遅れのデザインと、そしてそれゆえに醸されるアングラな気配を漂わせるビルディングであった。

 

 しかしながらそんなことなど一向に気にならないのがこのビクティニだ。

 そもそもが幾星霜と古びた遺跡の中で暮らしていた彼女にとっては、この程度の年季のビルなど最新鋭のタワーマンションに等しい感覚だ。

 また見た目のうさん臭さとは裏腹に、今回の治験が行われる階層フロアは明るい色調の壁紙に昼白色のLED照明という、清潔で簡素な雰囲気に仕上げられていた。

 

 そのハイソな病院然とした眺めにビクティニの期待もまたいやが上にも高まる。

 もはやそんな彼女を繋ぎ止める為の鎖も暴力も必要は無かった。

 ただ誘われるまま、施設の研究員めいた白衣の男の後をついていくビクティニ。

 

 やがてはとある一室に案内され、そこにて彼女はようやくに今回の治験について疑問を持つに至る。

 

 

 ビクティニを含む一同の目の前には──落とし穴然とした新円の孔が一つ、床に穿たれていたからであった。

 

 

 

 

 

 

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