第1話・在りし日の君
世に『完璧』など、そうは無い。
そもそもが人間やポケモンに完璧や完全無欠といった存在が居ない以上、この世界においてその言葉はまやかしであるのかもしれない。
それでもしかしジー・クのウェーニバルを目にする者達は皆一様に、彼女を『完璧』だと讃えた。
そのウェーニバルはジー・クリフト少年のパートナーではあり、当初はポケモンバトルにおいてその頭角を現したことから注目された。
ひたすらに強い彼女は同年代はおろか、リーグ戦も含めた公式試合においても負け無しの強さを誇り、その成績ゆえに皆の口の端にその存在が話題とされるようになったのだ。
そうして口コミで彼女の噂は広がり、徐々にメディアからも注目されるようになると、今度はその立ち居振る舞いが取り沙汰されるようになる。
一言で評するのならば、ジー・クのウェーニバルは美しかった。
種生来の華やかさに加え、貴族さながらの気品と落ち着きを見せる彼女のバトルは時にその優雅さから対戦相手でさえをも魅了したほどである。
斯様にして女王然とした気配は性格にもまた反映されており、本来は根が陽気で情熱的な種の性格には似つかわしくも無く、彼女は周囲に愛想を振りまくこともなければ、トレーナーであるジー・クに対してさえも距離を置くような態度を取っていた。
もっともジー・クもまた彼女の性質は知り尽くしていたことから当人同士には何ら問題も無いその関係性も、傍からはどこまでもビジネスライクに見え、その完璧さゆえに彼女のことを『心が無い・高飛車で気取っている』などと口さがなく揶揄する者もいた。
そんなウェーニバルであったからこそ、一連の事件後における彼女の豹変ぶりに周囲は驚愕し、そして好奇の視線を集める事となる。
事の始まりはバトル中の事故であった。
対戦相手の放った『あやしいひかり』の直撃を受けたことにより、ウェーニバルは前後不覚となりそのまま戦闘不能となった。
そもそもが一連の流れはウェーニバル圧倒的優位の中において、対戦相手が苦し紛れで放ったそれが直撃したというものである。
本来ならばダメージを蓄積させるような部類の技でもないことから、その混乱状態も時の経過と共に解かれると思われたが……ウェーニバルはバトル終了後も錯乱状態から抜け出せなかった。
今までの完璧な彼女像が崩れるほどの豹変をそこに果たしてしまったウェーニバル──こともあろうか彼女は幼児退行を引き起こしていた。
しかもそれはクワッス化しているだとか言う単純なものではなく、その精神は人の0~2歳児に等しい状態にまで退行を果たしてしまっていたのである。
バトル後にポケモンセンターにおいて各種の精密検査を受けるも原因は不明……その後も、言うならば『赤ちゃん化』をしてしまったウェーニバルを持て余してはジー・クも途方に暮れた。
それでもしかし彼女を放っておくわけにもいかず、以降の彼は斯様なウェーニバルの『育児』に翻弄されることとなる。
幼児退行を果たしてしまってからの彼女はモンスターボールに入ることを嫌った。
一日中寝て起きては泣くを繰り返すウェーニバルの世話は、通常のポケモン育成以上の苦労をジー・クに覚えさせたが、それでも彼は甲斐甲斐しくそんな彼女の世話を続ける。
しばしそうして共に過ごしているとウェーニバルもまたジー・クに対して心を許すようになり、今ではジー・クが少しでも離れると泣き出すことから二人はつかず離れずに生活を共にするようになっていた。
今もソファに座るジークの膝の上で身を丸めたウェーニバルが粉ミルクによる授乳を受けている。
伸長150cmのジークに対し180cm・60kgのウェーニバルが乗り上げているその姿は、乱心前の彼女の性格と併せて見ても異様な光景そのものであった。
一頻り授乳を受け、さらには背中をはたいてもらってゲップもすると、後はジー・クに身を寄せてはひたすらにウェーニバルは眠った。
もし今の姿を以前の彼女が見たならばどう思うことだろうと、ウェーニバルを知る者は誰もが思った。それ故にジー・クに対し同情も寄せたが、当の本人はあっけらかんとしたもので、『そのうち元に戻るよ』とそれは気楽な様子であった。
実際のところジー・ク本人も周囲が憐れむほどには彼女の幼児退行をストレスに感じてもいなかった。
むしろこんな状況であってもウェーニバルの新しい面の再確認や、はたまた全幅の信頼の下、全身全霊で甘えては身を委ねてくる様子を愛しいとさえ感じていたほどだ。
しかしながらただひとつ……ジー・クを困惑させて止まないことがひとつだけあった。
それこそは彼女のトイレ事情である。
幼児化を果たして以降、その精神年齢に比例してか彼女は自力でトイレに立てなくなっていた。
大小を問わずに放っておけば垂れ流しの状態であり、今のウェーニバルはおしめを当てての生活を余儀なくされていたのだ。
言うまでもなくその交換と清拭もまたジー・クの仕事なのである。
そして今日もまた……食後にぐずり出すウェーニバルに、ジー・クもこの時ばかりはため息をつく。
座っているソファの隣に彼女をスライドさせると、その上で仰向けにさせては足を開かせる。
いかに幼児化としているとはいえ長い手足の彼女とあっては窮屈で、そのうちの片足は行儀悪く掲げさせてはソファの背もたれへと掛ける姿勢を取らせた。
そうしてウェーニバルの股間を目の前に開帳させ紙おむつのマジックテープを解くと、腰元を包み込むようにしていた前面を手前に引いて開放する。
途端にそこからは尿による籠った匂いと体温とが立ち上がるや今日もまた──
熱に蒸らされては肉厚に凝縮させた蠱惑の局部を……ウェーニバルはジー・クの前へと惜しげもなく晒して見せるのだった。