※ 注意!
この章にはゲイ・ホモ・ボーイズラブの表現が多く含まれます。
第1話・ゴミあさり
相棒だったニャローテがマスカーニャになってからというもの、こいつは困った癖をひとつ覚えてしまった。
それこそは『ゴミあさり』であるのだが、僕を悩ませていることの本質はそこじゃない。
……マスカーニャはこともあろうか、僕のオナニー後のティッシュを漁るのだ。
最初、ゴミ箱の傍らに座り込んでいるマスカーニャを見つけても、別段その時は不審に思うこともなかった。
ニャローテ時代からこいつのイタズラ癖は知っていたことだったし、何かに夢中になって大人しくしているということ自体も珍しいことではなかったからだ。
それでもしかし、あまりにも微動だにせずうつむいているその姿にようやく僕も嫌な予感を覚える。
思えばこのイタズラッ子がジッとしている時は決まって何かイタズラをしている最中なのだ。
今度はいったい何をやらかしているものか……大事になる前に、その内容だけは把握しておこうとマスカーニャの手中を覗き込み──僕は戦慄した。
すぐには最初、マスカーニャが何をしているのか分からなかった。
両掌の中に収めたティッシュ屑を鼻先に押し付けては恍惚としているその姿は、一見したならさして重大なイタズラをしているようにも見えなかったからだ。
しかしそのティッシュの正体が何かを考えるうちに……僕はある事実に気付く。
それは昨晩、就寝前にオナニーをした事実であった。
いつも通りにその日課をこなし、さして考えも無くティッシュ屑をゴミ箱に放り込んでそのままになっていた。
そして今、マスカーニャはゴミ箱の前でそこから取り出したであろうティッシュ屑に鼻先を埋めている。そんなコイツが今、匂いを嗅いでいるものの正体とそしてその行動の意味を知り……──
「何やってんだ、お前は!」
ようやくにその戦慄から脱した僕は、叫ぶと同時にマスカーニャの手からティッシュ屑を奪い取った。
それを取り上げられたことで我に返ると同時、当然の権利を奪われたような抗議の低い唸り声を上げるマスカーニャ。
それでもしかし、
「バカなことやってんじゃない! お前は本当にッ‼」
僕の怒号とその激怒の勢いがこいつを圧倒した。
嫌悪と、さらには恥ずかしさも相成って僕の声はいつも以上に感情的になる。
その今までに中てられたこともないような怒気に、最初こそ抗議の意を示したマスカーニャも思わず怖気づいては首をすくめるばかりだった。
しばし支離滅裂にマスカーニャを罵倒し、それでもまだ感情が収まらない僕は有無を言わさずにコイツをモンスターボールに戻してしまった。
突如として訪れる静寂の中、高揚していた頭と感情が収まると、僕は言いようのない罪悪感に囚われてはその場に頽れる。
いざ冷静になってもマスカーニャの行動の意味が理解できなかった。
こんな物の匂いを数分間も夢中に嗅いでいたあいつの考えが理解できない。
ポケモンだって生物ではあるのだから、もしかしたら最終進化後に『性や出産に興味がわいた』ということも考えられなくは無かったけど……あいにくとうちのマスカーニャは オス(♂) であるのだ。
メスならば生殖を意識するからと無理矢理な説明はついても、オスたるうちのマスカーニャが、種族こそ違うものの同性の精液に興味を持つ理由は説明が難しい。
結局その日はまともな思考などは続かず、とりあえず念入りに今取り上げたティッシュ屑や、そして部屋中のゴミを纏めるとふて寝する様に眠りについた。
翌日、一抹の気まずさを覚えながらもマスカーニャをモンスターボールから出す。
そしてコイツを外に出してからしばし……僕達は固まってしまった。
パートナーを組んで以来、最大級といっても過言ではない説教をした翌日とあってはマスカーニャも怯えているのではないかと心配もしたが、以外にも僕と視線を結んだマスカーニャは平然としていた。
もっとも、叱られた後に見せるどこかこちらの出方を伺うような上目遣いではあったから、自分がマズいことをしてしまったという自覚はあるらしい。
その様子に本来であればもっと反省を促したい気分でもあったけど、むしろこのいつもと変わらない態度は僕にしても有り難かった。
「いいか、マスカーニャ? ゴミあさりなんてもうするなよ? こんな行儀悪いマネは許さないからな」
いつものようにイタズラを窘めると、マスカーニャもまたいつものよう僕に抱き付いては反省と誤魔化しを込めた抱擁で体を擦り付けた。
これにてこの問題は解決した──……と、その時は思い込んでいたが、今にして思えばこれこそが始まりだったのかも知れなかった。
この時からそう遠くない未来で僕達は、ポケモンと人間の一線を越えてしまうのだから。