緩やかに覚醒を果たすラクルの目に飛び込んできた物は、漆黒に散りばめられた眩い輝き達であった。
目覚めたといえそれでもまだ意識の朦朧とするラクルではあったが、それでも目の前に広がるそれが、満天の星空を仰臥して仰いでいることを本能的に察する。
美しいと思った──おそらくこの感性は、原初の本能に直結するそれだ。
人がまだ人ならざる存在であった太古の昔より、連綿と見上げ続けてきた星々の変わらない姿は、幾星霜の時を経た今であっても変わらぬその姿をラクルの頭上にて煌めかせている。
人が星に想いを馳せる行為は、人間ゆえの知的活動などではない。
この世に生けとし生きる者達は皆、夜空の星を飽くなく見つめ、やがてそれはどんな姿になっても変わらない記憶となって魂に刻まれる……そして様々な旅の最中でそれを思い出した時に皆は夜空を見上げ、悠久不変のその存在に安らぎを覚えるのだろう。
そんな星々を寝そべりながらに見上げるラクルはしかし、そこに別の存在もまた思い描いていた。
今宵のラクルはそこに……
──インテレオン……どうしてるかな……会いたいな……
離れ離れになってしまったインテレオンに想いを馳せては胸の内に切なさを募らせる。
思えば今日は大晦日だ──まだ幼かった頃に、ジメレオンの状態で家へと遣わされた彼女とラクルは一目会うなり意気投合し、それ以降は何処へ行くにも何をするにも二人は一緒だった。
彼女がインテレオンへ進化してからもその友情は変わらず、もはや二人の関係は単なるポケモンパートナーというよりは、一種の夫婦にも近い間柄として今日まで幾度となく大晦日を共に過ごしてきた。
そんなインテレオンが今年は傍らにいない……そのことが、未だ意識の定まらぬ状況と合わさっては無性に悲しくなり思わずその名を呟いてしまったラクルの眼前に──その星空のスクリーンを遮るよう突然にインテレオンが顔を覗かせた。
「ッうわぁ!?」
そのあまりに唐突な状況に、ラクルの意識は一気に覚醒へと導かれる。
なんてことは無い──今までラクルは、このインテレオンの膝枕の上で星空を仰いでいたのだ。
そして改めて彼女の存在を確認するや、
「お前……どこいってたんだよぉ」
依然として寝そべったその状態からラクルは両腕を伸ばしインテレオンの首根を抱き寄せる。
インテレオンもまた嬉し気に瞳を細めると上体を沈ませてはそんなラクルの抱擁に応えるのであった。
しばしそうして邂逅を堪能した後、ようやくにラクルも身を起こす。
辺りを見渡せばそこは広い草原の一角で、周囲には自分達以外は誰の姿も見受けられなかった。
同時に意識が途絶える瞬間のことも思い起こされ、その中で感じた浮遊感こそは彼女が自分をそこから救い出してくれた時の体感だったのだとラクルは知るに至る。
そしてそれを知るということは同時に、
「お、お前は大丈夫なのかッ? 酷いことされてないかッ?」
一変してインテレオンの身を案じるものへと変わった。
自分があれだけの目に遭っているだけに、なまじ雌の身のインテレオンに対してはなおさらに不安が付き纏ったのだ。
そんなラクルからの思いやりにインテレオンもどこか照れたよう小さく微笑む。
そうしてラクルの手を取ると──それを自分の胸元へと誘導し、触れさせた。
掌に広がる彼女の肌の質感と体温にラクルの胸も高鳴る。
なだらかな表皮へ僅かに筋肉や脂肪の隆起を宿しただけのスレンダーな彼女の痩躯ではあるが、それゆえに均整の取れた美しさもまたラクルはそこに感じていた。
元より憎からず思っていた相手であるだけに、その肌に触れるラクルの意識は徐々に興奮を覚えてはぼやけていく。
意識してかそれとも無意識か──いつしかラクルの手は彼女の胸元を万遍なく撫でまわしていた。
乳房と思しき隆起をより実感しよう無遠慮に手の平を押し付けてしまう無礼を分かりつつも、もはやラクルはその行為を止めることが出来ない。
一方でインテレオンもまた抵抗はしなかった。
顔を伏せ、我が身に施されるラクルからの愛撫に耐えている様子ではあったが、そこに湛えられているものは嫌悪などではなく肯定的な快感に身を浴しているからこその余韻に由来する反応であった。
そんないじらし気なインテレオンの表情に、もはやラクルは自分を抑えらえない感情に支配される。
小さく彼女の名を呼んでその意識と視線とを向けさせると、ラクルは自分でも驚くほどに落ち着いた仕草で彼女の唇を奪う。
そして突然のキスに対してインテレオンもまた取り乱すことは無い。
まるでそうなることを知っていたかのよう、二人は互いの上唇をついばみ合う抱擁を繰り返した。
依然としてそんなキスを続けたまま僅かにラクルが身を預けると、インテレオンもまた背を倒しては芝生の上へと身を横たえる。
組み敷いたインテレオンの頭の脇に両手をついて見下ろしてくるラクルの表情は、今宵二人に降りそそぐ星々の光のように柔らかでそして優しげだった。
そんなラクルを受け入れるようインテレオンは両腕を伸ばすと彼の首根を絡めとり、そして抱き寄せる。
いつしか夜空の星々は、流星群へとその眺めを変えていた。
光が尾を引いて幾層にも重なり合っては地上へと降り注ぐ光の群れの元で二人は結ばれる──。
不思議と初めての行為のはずなのに、二人はそこに懐かしさの様な感情を抱いた。
それこそはきっと魂に刻まれた記憶がこの星々によって呼び起こされたものなのだろう。
自分達が自分である前より続けられてきたその行為を悠久の星空の下で思い出しては今、長い旅を終えたような安らぎのもとで二人は互いを抱きしめ合っていた。
そしてそれは、きっとこれからも変わらない──
これからラクルとインテレオンは共に年を越えてそして迎え、いつかその肉体が朽ちてもまた魂は星々のもとで記憶を受け継いではめぐり逢いを繰り返す。
そんな当たり前のことがなんだかとても嬉しくて、見つめ合う二人はつい微笑み合ってしまうのだった。