※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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【38】オラが村の姫始め
第1話・夜這いの因習


 

 

 リウの住む村には古くより夜這いの因習があった。

 

 

 現代の価値観や倫理においてはもはや人権侵害や犯罪とも取られかねない行為ではあるが、情報伝達手段が整備されるつい一昔前までは、それはごく当たり前の習慣として執り行われてきたものであった。

 

 しかしながらこれにも当然のごとくにルールが存在し、相手を受け入れるかの最終的な決定権は女性側にあることが前提とされた。

 

 またそれを行う男子は事前に意中の子女へ伺いを立てるべく、暗に取り決められた贈り物を送るなどの手順が設けられるなどして、それが単なる犯罪行為にならぬよう集団の中では細心の注意の元、それは連綿と受け継がれてきた。

 

 ともあれそうしてそれら煩雑な手続きの後に、初めて男子は意中の人としとねを供とすることが出来る。

 ならば直接に告白なりしてしまえば早いのではないかと皆が感じる所ではあるのだろうがしかし──この村の夜這いは既婚者といった既にパートナーの確立された者においてさえアプローチが有効となされた。

 一般的な恋愛であったなら、許されぬ恋の成就や想いの捌け口が、この夜這いを通じてならば可能とされたのだ。

 

 そして斯様な障害の排除は人ならぬ身の者に対しても是とされた──それこそは人とポケモンという、種の壁を越えた恋愛に対しても、この夜這いは有効であるとされたのだった。

 

 

 そして話は現代へと戻る。

 この村の少年リウには意中の人がいた。

 しかしながらその相手は人ではないポケモンであり、リウの恋心など本来ならば叶えられるはずも無いものであった。

 そんな折りリウはこの村の因習を知る、

 それこそがあの『夜這い』の習慣であった。

 

 きっかけは祖父にこの叶わぬ恋を相談したことに始まる。

 もちろんその対象がポケモンであることは伏せていたが、祖父から告げられる夜這いの因習にリウはたちどころに心を奪われた。 

 むしろその時には、この方法でしか自分達が結ばれる方法などはないこともまたリウは悟る。

 

 そこからリウの努力の日々が始まった。

 

 まず大前提のひとつとして、意中の人がこの、『夜這い』についてを理解しているか否かという問題が立ち上がる。

 あくまでもこれは、受け入れる側が夜這いを認識していないことには、ただの押し掛けレイプでしかない。  

 

 一昔前の因習であることに加え、さらには相手がポケモンであることの不安はつきなかったが、この問題はあっけないほど容易く解決を迎える。

 件のポケモンは村の神事を司る老婆の家に身を寄せており、第一進化前から彼女の手伝いをするうちに村の因習や神事には、人である村人達以上に通じるようになっていた。

 当然のことながら『夜這い』もまた理解している彼女は、過去に他の村人が行った夜這いを手助けするべくに骨を折った経験もあるとのお墨付きであった。

 

 ともあれリウにとってはこの部分こそが最も難所であったろう。

 それをクリアしたリウは次なる手順へと進む。

 それこそは……意中の人にパートナーがいた場合には、その者の了承を得るというもの。

 

 集合体の中で行われる『夜這い』とは、けっして犯罪行為や不貞などではない。

 結果として肉体関係に及んでしまうことに対して矛盾を覚える向きもあろうが、この行為の根底に根差すものは『誠意』に他ならず、その証明として夜這いを行うものはそのことを相手の配偶者へと申し出るのだ。

 

 当然のことながら、ここで断られてしまった場合にはそれにて全ての目論見はご破算となる。

 しかしながら、この因習が強く効果を発していた時期には、そんな他者からの申し出を無下に断ってしまうケースは少なかったのだという。

 一連の行為を単なる性欲の発散と捉えた場合、夜這いなどは以ての外ではあるが、大抵の場合としてそれを行おうとする男達の真の目的は、未練からの決別にあった。

 

 今よりもずっと出会いの少なかった超限定的なコミュニティの中においては、自身の想いを遂げられずに終えてしまうというパターンが多々あった。中には男女共に相思相愛でありながらも、様々な事情から離れ離れに為らざるを得ずに恋を終えるという状況も珍しくはなかった。

 

 そんな未練に一応の決着を付ける為にこそ、この夜這いは無くてはならない村の自浄装置の一面もまた持ち合わせていたのだ。

 それゆえに自身の配偶者に対し夜這いを申し出てくる者に対し、男もまた寛容さを以てそれを受け入れた。

 者によってはそれは、誰でもない自分自身が傷を癒し多幸にも他ならなかったからである。そして同時にそれは伴侶の救済にも繋がる。

 斯様にして夜這いとは、村人同士の信頼の上に成り立つ、ある種の神聖な行いなのでもあった。

 

 

 話は戻り、今回のリウにおいてはしかしそういった心配はなかった。

 意中のポケモンは番(つがい)を得ていない独身の身の上であり、そこはリウを同じであった。

 しかしながらそうした相手に夜這いを掛けるには、相手が第三者による庇護が必要な立場であった場合、その保護者や所有者といった立場の人間と交渉を果たさねばならぬのがこの掟の常であった。

 

 今回の場合は彼女の主人でもある老婆がそれにあたる。

 リウは慣習に則り、酒や山海の珍味などを手に老婆のもとを訪れる。

 先にも述べた通り、村の神事を担う相手であるだけに手順や礼儀作法の順守は常人以上に気を遣わねばならない。

 ましてや相手が女性であり、さらに現代とあっては『夜這い』の響きの持つ不誠実さに眉をしかめられては感情的にNOを突き付けられないのだ。

 

 しかしながらこれもまた難無くリウはクリアした。

 約束の品々を納めるリウに対し、平素日頃ならば口調も砕けて接する老婆は慇懃に頭を垂れては謹んでそれを受けた。

 同時にリウの紳士な想いもまた確かめるに、『よろしくお願いいたします』とすら述べてその手を握ってくれた。

 

 これにて必要な手順の8割方は恙無く執り行えた。

 残すは夜這いを行う当人への確認と同時に、貢物の贈呈だ。

 これを相手が受け取ってこそ、初めて『夜這い』は成立する。

 

 とはいえしかし、この段においてリウの心に隙が生じた。

 事もあろうリウは、このまま問題無くことが成就してしまうのではないかと甘い考えでいたのだ。

 それゆえに、当の彼女の元へと赴くのにリウは少しばかりの時間を空けてしまうこととなる。

 

 余裕をもって挑もうと気持ちの整理を理由に時を浪費し、いつしか最後に彼女の保護者へと挨拶を済ませてから月日が経ち、遂には年を越してしまっていた。

 そうしてその日の朝──三が日を終え、今日こそはこの思いを伝えようと玄関を出たリウは、ふと目の前に大きな影が立ち上がるのを感じて視線を上げた。

 

 見上げるそこにはポケモンが一匹、後ろ足で人間さながらに立ち上がってはリウを見下ろしていた。

 そのポケモンの登場にリウは息を飲む。

 なぜならばそれこそが彼の意中の人であったからだ。

 

 その突然登場にすっかり混乱するあまり、挨拶すらも忘れて狼狽えるリウは次の瞬間──思いもよらぬ衝撃を左頬に受けてはその場に昏倒することとなる。

 膝から頽れるいるの目の前に、朝日を逆光に背負ったそのメスポケモンの姿が露とされる。

 

 

 右前足の蹠を振り切った姿勢のままリウを見下ろすそこには──……

 巨大なブニャットが一匹、憮然とした表情の中にもしかし、あからさまな怒気を漲らせては玄関先に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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