組み敷くブニャットの体が心地良い……乳房や下腹部の温かく柔らかげな脂肪と、さらにふくよかで肌触りの良い毛並みに沈みこむリウは、射精後の脱力も加わってしばし身動きが取れなかった。
一方でブニャットもそれを負担に感じている様子もなく、むしろ同じくに絶頂後の肉体に圧し掛かる想い人の存在感に安堵しては、幾度となくリウの背に回した蹠でそこを撫ぜては緩やかな後戯を施した。
このまま眠り落ちてしまいたい衝動を振り切り、ようやくにリウは重い体を起こす。
そうしてブニャットの両脇に手をついて上半身を持ち上げると、ようやく二人の視線は触れ合った。
こうして目を合わせるのもまだ数分ぶりでしかないというのに、なぜか久方ぶりに顔を合わせたような気がして、その妙な気まずさがおかしくなっては期せずして二人も苦笑を重ねる。
しばし見つめ合っていると、どちらからというでもなくに二人の距離は再び近づき合い、やがては互いの口先をついばむ合う程度の軽いキスをする。
僅かに出した舌先で互いを舐めあうなどしていると、ようやくに昂っていた気持ちが沈静化するのを感じた。
「……なんか、ひどいことしてゴメンね」
隣へと寝そべって腕枕の中にブニャットを迎えると、その胸板に縋りついてくる彼女の後ろ頭を撫ぜながらにリウは謝罪した。
それを受け、一瞬驚いたような表情を見せるブニャットであったが、その顔はすぐに明るい笑顔へと変わる。
その仕草こそは『そう言えば酷いことをされたのだ』とこの時初めて気づいたからに他ならない。
彼女にしてみれば一連のリウによる言葉責めなど、互いの愛と興奮とを昂らせるための舞台装置に他ならず、むしろこの行為を通じリウに対するブニャットの想いは前以上に強くそして愛しいものへと変わっていた。
それを伝えるよう背を反らせて身を擦り寄せると、再びブニャットはリウの唇を奪う。
今度はより深く唇を咥え込み、絡めた舌同士で唾液の交換を行う濃厚なものであった。
しばしそんなキスを続けながら安堵するリウであったが、その頭の中には新たな思いが生じ始めていた。
ふとキスが途切れ、互いの鼻先が離れるのを見計らい……
「ブニャット……聞いて」
リウはブニャットの名を呼ぶ。
それを受けキョトンと目を丸くしては小首をかしげる仕草を愛らしく思いながら、リウは続きを伝える。
「本当に、俺の赤ちゃんを産んでほしい」
そうしてリウから告げられた言葉は思いもよらないものであった。
先ほどまでの熱に浮かされたプレイ中とは違い、今のリウは冷静に、そして真剣にその想いを伝えていた。
「ポケモンと人だっていうのは分かってる。……生物的に無理だってことも知ってる。でも、俺は君を孕ませたいんだ」
荒唐無稽な言葉が淀むことなく口の端をついで溢れ出るのが我ながら不思議であった。
それでもしかし、いま心の中に溢れ、そしてそれを言葉にして伝えている気持ちはすべて偽らざるリウの本心だった。
そしてそれを受けるブニャットにもまた変化が生じる。
聞き始めこそはあまりの内容に圧倒されるばかりだった様子の彼女も、そんなリウの想いを受け止め、さらには自分自身もまたそれを欲して止まないことに気付くや──驚きに見開かれていた瞳には柔らかい笑みが宿り、そしてそれは泣き笑いに崩れては大粒の涙をそこに浮かべた。
「ブニャット、オレの子供を産んでくれ」
実質的なプロポーズであった。
そして彼女の返事もまた決まっていた。
次の瞬間には発火する様に身を起こしてリウに覆い被さるや、ブニャットはその唇を荒々しくも奪い取った。
互いの鼻先や唇を問わずただデタラメに……そして胸の内を搔きむしらんばかりの愛情に焦がされては、ただその想いを不器用に伝えようとブニャットは互いの顔面を擦り付け合った。
そんな彼女からのアプローチにリウもまた応える。
舌先を伸ばし、これまた箇所を問わずに彼女を舐め上げては再び二人はその体を重ねていく……。
夜這いの魔法が解ける朝まではまだしばしの猶予がある──。
その限られた時間で目一杯に、リウはありたけの精と想いとを愛しきブニャットへと注ぎ続けるのだった。
盛夏の日差しも落ち着いて、実る稲穂も頭を垂れて山の色合いも変わる頃──田のあぜ道を正装に身を包んだ男女が練り歩いていく。
男は紋付き袴に白足袋という正装で、追従する女達もまた色とりどりの和装に身を包んではその列に参加していた。
列は急ぐでも無く、感慨深げに歩みを踏みしめながら行進をしていた。
その様は厳かではあったが参加する面々の表情に浮かぶものは皆笑顔で、この行進が慶事に由来するものであることが窺える。
参列者たちは顔を合わせるたびに今日のこの日の祝いの言葉を口々に交わし、本日結ばれる者達の話題を口にしてはその歓びと驚きとを笑い混じりにして交わす。
昨今過疎化が進んだこの村において、かくも格式的な婚姻が執り行われるのは数十年ぶりという出来事であった。
いささかイレギュラーな経緯を経た今日の式ではあったが、それでも村人達は快くそれを迎え入れ、執行の為の準備を恙無く進めてくれた。
そして斯様な行列の後方には、白無垢に身を包んだ花嫁が一歩一歩を確かめように続いていた。
緋色の傘を掲げられ、その下で純白の角隠しに被った花嫁からは表情はおろかその鼻先すら伺うことは出来なかったが、それでもはにかんだように俯くその仕草からは、彼女自身もまた今日のこの日の幸福を噛みしてめているであろう様子がありありと窺えた。
やがて列は目的の場所へと到着する。
言わずもがなリウの家だ。
花嫁の到着を前にして新郎たるリウの家に集まった男達が報告がてらに騒ぎ立てては、一同で盛大に笑い声を上げる。
祝いの席ということもあり、皆も朝から酒が入っていることもあってかとにかく場の空気は享楽的だ。
そしてその席の中央で、本日の主役足るリウは──勧められる酒に対しても一向に酔いを憶えず緊張した面持ちで固まっていた。
周囲との男達同様の紋付き袴に袖を通し、さらに髪も後ろへと撫でつけては額を露とする正装に身を固めリウはしかし、どこか現実味の希薄な現状にいつまでたっても慣れることが出来ずにいた。
──これは……本当に俺の結婚式なのか?
むしろ今日の日の準備に追われていた一週間前までの方がよほどもその実感を得られていた。
ブニャットと生涯を共に過ごすことを決めたあの夜這いの夜が明けてから、改めてリウは彼女の親御たる老婆の元へと挨拶に伺った。
その内容は彼女を見受けしたい旨を伝えるものであり、もはやリウは臆することなくブニャットとの婚姻を正式に申し出たのであった。
とはいえ人同士ではないポケモンとのそれである。
リウにしてみればそれに対して相手方の当惑や、あるいは激しい非難や嫌悪すらをも覚悟していた訳ではあったが──件の老婆は、まるで本当の自分の娘を嫁がせるかのような面持ちで、「よろしくお願いします」とリウの手を取った。
そこから数か月は目まぐるしく展開される。
二人のことは村中へと知れ渡ることとなり、そしてその式も村総出で執り行われることとなった。
これにはブニャットの保護者たる老婆が神職に所縁のある立場であったことも大きい。
ともあれ数十年ぶりともなる村を上げての神前式を前にして、小さな集落はいつにない活気に満ち溢れた数か月を得ることとなる。
そして今日──リウはついにその日を迎えた。
今日まで忙しない日々が一瞬にしては瞼の裏を駆け巡る体験を幾度となく気売り返したリウの前に……ついに花嫁がお目見えを果たした。
場所はリウの家の中庭である。
奇しくも夜這いに使われる生け垣の勝手口から花嫁が入る習わしを聞いた時には、いかにあの行為がこの村においては神聖なものであったのかを知って改めて恐縮を覚えるばかりのリウであった。
そして勝手口から続くリウまでの距離を、村人達が人垣となっては道をそこに成し、花嫁の誘導を行う。
本来は四つ脚で行動するはずのブニャットがたどたどしく後ろ足で直立を果たしてはこちらへと歩み寄ってくる。
おそらくはここに至るまでの道中においても彼女はこうして慣れぬ歩みで辿ってきてくれたのだろう。
そんな彼女のいじましさを想像した時、リウは柄にもない感動に見舞われては胸を詰まらせた。
そしてその想いは、もはや意志とは別に行動に現れてしまう。
ついにブニャットが目の前にまで迫り、そして俯いていた顎先を上げ、深くかぶり込んだ角隠しの中からようやくにその表情を覗かせた時──……その瞳一杯に涙を溜めた笑顔を向けてくれた瞬間、リウは無意識に彼女を抱き上げてしまっていた。
打ち合わせに無いリウの行動に周囲からは息を飲むどよめきが上がるも、もはや二人にはそんなことは関係ない。
天高くに抱き上げたブニャットを掲げながら、リウは改めて彼女と視線を交わす。
「ぜったいに幸せにしてみせるから……これからもよろしく」
リウの言葉にブニャットもまた大きく頷くと、次の瞬間には彼女もまた両前足を伸ばしてはリウの上へと深く抱き着く。
そうして深く口づけを交わす二人の姿に、片や式を司る老婆は嘆息と共に天を仰ぎ、片や見守る村人達は大いに盛り上がっては、リウとブニャットへ口々に祝福やあるいは下卑たからかいの文句を謡い上げる。
かくして村の夜這いから始まった二人の物語はここに一応の結末を迎える。
これより先は新たに夫婦となったリウとブニャットの物語──
波乱万丈に彩られたリウ達家族の行く末を暗示するかのよう、村人達からは浴びせかけられた色取り取りの花吹雪が、秋の青天へと吸い込まれていくのだった。
【 オラが村の姫始め・完 】