待望の再開を果たすもしかし……俺達は互いに見つめ合ったまましばし固まった。
未だショックから脱しきれずに怪訝な顔をしてしまう俺とは対照的に、どこか照れたような上目づかいで見上げてくるマスカーニャはなんとも嬉しげな様子だ。
しばしして先に声を掛けてくれたのはそんなマスカーニャからだった。
『久しぶりだね』──の彼女の声に我へと返る。
声の高さもニャローテ時代とは近い、高く澄んだ響きとなっている。
それでもしかしイントネーションや台詞回しの節の切り方には確かにニャローテ時代の癖が聞き取れて、ようやくに彼女を『親友』だと認識出来たのだった。
そうなると途端に心が弾んだ。
そもそもが『マスカーニャ』という種自体が痩躯で女体を想起させるデザインなのだ。たとえ目の前の親友がオスであったとしても、この見た目は変わらなかったことだろう。
そう考えると、そんな見た目ひとつに振り回されてる自分が途端に滑稽に思えてくるのだった。
「あぁ、ひさしぶり! ちょっと見ない間にお前は可愛くなっちゃったな」
ようやくに軽口も交えて挨拶を返す俺であったが、そんな俺からの『可愛い』の返事に反応してか、マスカーニャは小さく俯くとはにかみながら微笑んでみせる。……まずい、本当に可愛い。
そして再び顔を上げて俺を見上げたかと思うと、何を考えているのやらマスカーニャは胸を張るようにして両腕を広げた。
その突然の行動に驚いて俺もたじろぐ。
胸を張ることであの巨乳が形良く乳房の頂点を上向きにさせては魅惑の三角形を作りだす。
思わずその様に見惚れていると、マスカーニャは苦笑い気に鼻を鳴らしては『約束したでしょ?』とからかうように促してくる。
その言葉にようやく俺も彼女が欲している物を察した。
先日までしていたコミュニケーションアプリ上でのやり取りにおいて、『再会したらハグをしよう』と俺達は約束していたのだ。
子供の時分には常に抱き合っては身を寄せ合っていた俺達だ。
もっともあの頃のそうしたスキンシップに深い意味合いなどは無く、ただ子供が行き場の無い行動力を持て余しては周囲の誰かにじゃれつくといった仔犬の様な行動原理であった。
ゆえに高校生となって、しかも如実に『女体』を意識させるマスカーニャに対してそれをしてしまうのはいかがなものかと、俺などは躊躇してしまう。
それでもしかし、彼女との友情は本物だ。
そんな個人的な理由でスキンシップを拒否してしまえば強くマスカーニャを傷つけることとなる。
この行為をいかがわしいものに捉えているのは、あくまでも人間たる俺だけの感性であるのだ。
性(ジェンダー)なんて意識することなく、友情で迎え入れてやればいい。
生唾を一つ飲み下し、顔には精一杯に笑顔を繕うと俺は──マスカーニャと同じくに両腕を広げた。
「いいぜ! 思いっきり来い!」
次の瞬間──マスカーニャは一切の遠慮も無く俺の胸元へと飛び込んできた。
深く体を密着させては、俺の胸元を抱(かか)えるよう抱き締めてはその背に両腕を回す。
さらに俺の胸板へ横顔を押し付けると、しばし目を閉じては恍惚と、3年ぶりになる俺の感触をマスカーニャは堪能するのであった。
傍から見たならば感動的な親友同士の再会劇だ。
しかし反面、その一方で俺はと言えば……──
──う、うわああぁぁ……これはぁ! オッパイ!
平静を装う表面上とは裏腹に、その心中は激しく波立っていた。
俺の前面ではマスカーニャの柔肉が……言うなれば乳房の感触二つが激しい自己主張をしている。
力任せに体を押し付けてくることで、彼女の豊満な乳房が俺の胸の上で潰れ、さながら袋に詰められた液体よろしくにその体温と柔らかさを俺の胸板に広げていた。
加えてニャオハ系特有のものであるのだろうが、被服越しに伝わってくるマスカーニャの体温たるや燃えるかのようである。
そんな熱く柔らかい肉体を俺へと隙間なく密着させながら、さらには押し付ける横顔から子猫が授乳をねだるかのよう胸板へ唇を吸い付けては離すを繰り返すに至っては──それらはもはや、俺にとって性的アプローチ以外の何物でもなかった。
──まずい……このままじゃコイツを汚す……!
もはや俺が勃起をしてしまうのは時間の問題だ……それだけは避けねばならない。
ましてやその相手が親友ともなればなおさらである。
その試練に耐えながら呼吸を細く長く吐き出している俺に対し、胸元のマスカーニャもまた、依然その横顔を俺の胸板へ押し付けたまま見上げてくる。
そうして視線が合うや、『シローもハグして?』とそんなおねだりを要求してくるマスカーニャ。
事態は最悪の状態になりつつある……。
上目遣いに小悪魔的なリクエストをしてくるマスカーニャは、もはや友人やポケモンの域を越え、俺には一女性としてこれ以上になく愛らしく見えているのだった。
──落ちつけ……落ち着くんだ………シチイチが7、シチニ14,ナチサン21……
エロい気持ちを落ち着ける時のルーチンとして用いる、7の段の掛け算など頭の中で復唱しながら俺もまたマスカーニャの背に手を回し彼女の体を抱きしめた。
その瞬間、今まで以上の密着から来る熱や弾力に加え、花や果実を連想させる甘酸っぱい彼女の芳香もまた鼻を突いた。
俺よりも頭一つ低い伸長のマスカーニャを抱きしめると自然、俺の鼻先は彼女のつむじに埋まる形となる。
そこから直に嗅ぎ取れる彼女の芳香は、先に述べた植物味の香りに加え、確実に女性(メス)特有の籠るスメルもまた艶めかしく薫らせては、それに晒される俺の頭を朦朧とさせる。
──コイツ……体も匂いも最高に気持ちいいな……
もはや茫然自失とマスカーニャの肉体を堪能していると、ふいに胸の中の彼女が顔を上げてこちらを見つめた。
緋色の光彩の中に沈む漆黒の瞳孔が丸く肥大化している……その艶やかな眺めはさながらに真紅の海や湖を見下ろしている印象だ。
やがてはそんな瞳がゆっくりと近づき始めた。
徐々に接近してくるその意味を測りかねては、俺も唇を尖らせては子供のように呆けた表情のままそれを見守る。
やがてはそんな唇を、そして顔全体に何かが覆い被さった。
鼻先に濡れた感触が広がり、それがマスカーニャの鼻頭が接触したことであるのに気付いた時には……全ての行動が終了した後のことだった。
その時の俺とマスカーニャは──唇の粘膜同士による、深いキスを交わしてしまっていたのである。