貪る様に二匹の舌先が傷をえぐると、その突き刺すような痛みに反応して俺は声を上げた。
傷の淵を押し広げながら肉の内部へと侵入し、さらにはそこに置いても縦横無尽に暴れまわる舌先からの痛みに俺は意識を朦朧とさせる。
さらに母親が頷くように小首を旋回させるや──側頭部に備え付けられた刃が閃いては、新たに繰り出された切創によって古い傷の間口はさらに広げられた。
始まりの頃は親指ほどだった傷は今や拳大にまで切り裂かれては肉の断面を二匹の前に展開している。
さらにはその内部へと娘アブソルが鼻先を埋めて舌先を深く掘り入れるに至ってはもはや──俺はそこからの痛みに失心寸前の体で身を仰け反らせては息を殺すばかりであった。
そんな中しかし、ふと斯様な親子の行動に疑問も覚える。
さんざんに俺を嬲り者とする反面、二匹の『食事』は一向に進まない。
ただいたずらにこの右わき腹の傷を弄び続ける母子の行動ではあるが同時に、俺は自身の傷に対する妙な違和感もまたそこに感じ始めていた。
傷から通じる体内の中に、明らかに自分の肉体には存在しない何か異物の違和感を感じたからだ。
アブソルの舌先が体内においてそれを突き穿いたが故にその存在に気付いた俺は、やがてこの親子がその異物を取り出そうと躍起になっていることに気付く。
──もしかして……手当てをしてくれているのか?
もはや妄想にすら近いその考えはしかし、あながち的外れとも言えなかった。
事実見守る親子の仕草たるや、傷口に向き合っては俺の体内に埋没した石礫を取り出そうとする娘に対し、それを見守る母親は冷静にその手際を見守っては何やらアドバイスめいた声掛けをしている。
しばしして娘アブソルはその前歯に石礫の端を摘まみ取るや、ゆっくりとその抜き出しに掛かった。
徐々に体内に埋没していたそれが姿を現し、そして完全に抜き取られて体外へ排出されるや──今まで栓となっていた傷口からは新たに出血が湧き上がる。
しかしながらそれを前にしてもアブソルは慌てることなく再びそこへ鼻先を埋め、舌先を挿入して出血を止めると同時、丁寧に裂けた筋繊維の内部もまた舐め尽くしては傷の消毒と、そして細かな破片の除去も施してくれるのだった。
その傍らでは一連の手術を見守っていた母が、雑草めいた何かを口に含んでは唾液と共に咀嚼している姿が窺えた。
やがてそれを口に含んだまま娘の隣に着けて鼻先を寄せて来たかと思うと、それを見計らって傷口から口唇を離す娘と入れ替わるよう、その間隙を狙っては口中のグリーンペーストを母アブソルは俺の傷口へと吐きつける。
瞬間その軟膏然とした物質が傷に染みて呻り声を上げた俺ではあったが、すぐにそれも傷に馴染むとまるで、人間の営む医療機関で処置を受けたかのよう俺の傷口からあの不快な鈍痛や異物の感覚は取り払われているのだった。
そしてこの段に至り俺は確信する──このアブソル母娘には、俺へと危害を加える気はない事を。それどころか、むしろ救ってくれようと尽力してくれている。
「……あ、ありがとう。助かった、よ……」
辛うじて首を起こし、息も絶え絶えにそう感謝を口にする俺の言葉を受け、瞬間アブソル達はキョトンと俺を見つめた。
しかし次の瞬間にはどこかはにかむように微笑む母親と、さらにはあからさまに喜色満面の様を見せる娘の反応を見るに、俺の感謝は恙無く二人に伝わったようであった。
斯様にして一時、俺達の間には和やかな空気も流れたが……数瞬の後にはしかし、場は再び地獄絵図へ変わることとなる。
再び面をあの無表情然とした野生の顔へと戻した母親は何やら娘に告げては次なる処置へ移ろうとする。
それを受け、俺に身を預けては鼻先を舐めるなどしていた娘アブソルは名残惜し気に俺から離れる。
そして二匹は右足へと移るや、娘は俺の足の上に乗り上げてはまるで固定するかのように身を伏せて足全体を抱き込み、そして母親は……大きく息を吸い込んだ次の瞬間、折れて直角に曲がった俺の右足首へと噛みついた。
それこそ一切の力加減無しに、食い込んだ牙が表皮を突き破っては鮮血の飛沫を上げさせるほどの圧ではあったがしかし──俺の意識はそんな牙による咬傷以上の激痛に見舞われては、高圧電流を浴びた感覚さながらの衝撃に脳を焼かれた。
割り折れ、分断面の切っ先が表皮から露出した『解放性骨折』の治療には、まず分離した骨同士を正常位置に接がねばならない作業が必要となる。
神経の集中した末端とあっては、術中の痛みを緩和するためにも何らかしらの麻酔を施すのであろうが……如何せんポケモンによる原始的な手術とあってはそれも叶わない。
故に彼女達の施すそれは、俺の意識の有無を問わずに力づくでこの骨接ぎを行うよりなかった。
あまりの痛みに絶叫し、半狂乱で身をのたうたせる俺を娘アブソルが騎乗位に取り押さえ、そして母は引き離した骨を鉛直に伸ばそうと躍起になる。
もはや股関節すらもが外れかねない力で引張を続けると、やがて表皮から露出していた骨は徐々に体内へと戻され、ようやくに俺の右足は従来の形へと強制される。
そして脛の内部において、断ち分かれた骨同士の切断面が一致するのを見計らうや、母アブソルは今までの引張を一変させ、一思いに咥え込んでいた俺の足を押し込んだ。
その瞬間、俺はこの日一番の……否、おそらくは前後の生涯においても最大級であろうその痛みに失心を果たしては、排泄可能なあらゆる体液を肉体から放出させた。
斯様にして意識を暗転させたのも束の間──予備電源に切り替わるかのようさながらに俺は覚醒する。
あるいはしばらくの間、意識を失っていたのかもしれない……それでも俺が知覚する時間的感覚は、意識を失った直後からすぐさま今へと繋がっていた。
治療を終えたばかりの右足も然ることながら、肉体全身は焼けるような熱を帯びては俺を苛んでいた。
そのあまりの痛みと灼熱感にうなされては、うわ言に誰へともなく救いを懇願する俺は不意に下半身に生じたその感覚に目を剥いた。
痛みとは明らかに違う何者か第三者に労られているその触感は、こんな地獄の責め苦においてどれだけ俺を慰めてくれるか知れない。
それを受けながら徐々に意識も鮮明に自我を結び始めた俺は直後、改めて自分の体のどこにその愛撫が施されているのかを知ることとなる。
依然として仰向けたまま疲労と痛みに痺れる首を持ち上げて自信の体を望む俺は──……
そこにてあのアブソルの母娘が、頬を寄せ合いながら屹立した俺のペニスへと舌を這わせている光景を発見するのだった。