頭頂部を晒し、槌さながらに全身を用いたガーディの突進を──その両前足を翳しては、リザードンもまた正面から受け止めた。
同時、そこから伝わる衝撃にリザードンもまた驚愕に眼を剥いては、地に両足の跡を残しては数メートルを押し込まれてようやく止まる。
その様を前に指揮を執るレノもまた眉元へ険を込めては、いま目にしたガーディの膂力に対する驚愕と不安とを悟られないよう努める。
けっして大きくはない、ましてや第一進化のガーディからは到底想像も及ばぬその力量は、もはや計算の埒外にある実力と言っても良かった。
よくよく観察するにこのガーディ、他の一般的なヒスイガーディとは違い本来『赤毛』によって彩られている体毛が、氷塊の如くに深くしかし透明感のある蒼に変色を果たしていた。
これこそはかの四災であるパオジアンの因子と生命力とを肉体に宿している証に他ならない。
見た目こそは第一進化系のヒスイガーディではあっても、この小さな体に秘められた実力たるや、他の最終進化系に勝るとも劣らない実力を秘めているものと思われた。
戦い始めこそは個体差による圧倒的な体力に任せて制圧しようと目論んだレノではあったが、ここにきてその戦術に変更を加える。
レノは、依然としてガーディを懐に抱くリザードンへとそのまま『地球投げ』を命じた。
それを受け、なおさらに深くガーディを抱き直すやリザードンはそのまま天高くへと跳躍をした。
両翼を一打ちして跳躍の頂点へ辿り着くと、そこから海老反りに身を翻しては頭の天地を逆転させる。
その際に自身の体重と重力をも加算して勢いをつけると、二匹の体は宙空において激しい回転を始めた。
後はガーディに逃げられぬよう、その身をホールドしたまま地上へと叩きつけるのがこの技ではあるが──それを前にしても件のガーディやリンが取り乱すことは無かった。
それどころか……
「ガーディ! そのまま『火炎放射』! 全力でだよ!」
リンからの指示にガーディは依然ホールドされたその状態からの火炎放射を敢行する。
しかしながら奇妙であったのは、苦し紛れにも思えるその技が直接にリザードンへと吐きつけられなかった事である。
むしろガーディはリザードンを回避するよう外部へとそれを吐き出し、今の回転状況と相成っては安物の花火よろしくの火輪を上空に咲かせた。
しかしながら斯様なガーディ達の奇行の意味を知る瞬間はすぐに訪れる。
地球投げへと移行していたリザードンの体幹に僅かな乱れが生じるや、今まで新円に描かれていた宙の火輪に乱れが生じた。
この時になりレノもリザードンもリン達の真意を知る──二人はこの火炎放射において、更なる加速をこの地球投げに加えたのであった。
最大限の威力を発揮するべくに繰り出される回転とはすなわち、リザードンの制御できる『限界の回転』という事実の裏返しである。
そこへ更なる加速を加えたことで、もはやリザードンはこの回転の制動を制御できなくなってしまっていた。
そうなってしまうと、もはやどちらが技を仕掛けられているものやら分からない。
目で追う背景がすっかり光線の束と化しては虹のグラデーションを繰り広げるばかりの視界の中、リザードンは完全に重力の天地と自身の状態を見失う。
そして遠くからかすかに聞こえてくるトレーナー・レノの指示とも怒号ともつかぬ声の残響に耳をそばだてては、この状況からの脱出を模索したその瞬間──……全ての視界と意識とが暗転した。
一方でレノは眼前に広がるその光景を驚愕の内に見つめる──。
目の前では『地球投げ』を決められたリザードンが頭から地表へと突き立てられていたからである。
しばし歪な前衛彫刻よろしくに天地を逆にしては地に突き立っていたリザードンの巨体も……やがては身の硬直が解けると大きく揺らぎ、そして頽れては地響きと砂煙を舞い上げながら、脱力した巨体を横たえた。
言わずもがなの敗北に、臍を噛む思いでレノの面は忌々し気に歪んだ。
「さあ、勝負ありだよ! 先生もレノ君も言うことを聞いて!」
その一部始終を見届けては改めてそう訴え出るリンではあったが……楔形に結ばれていたレノの口元が、再び不敵に笑みを為す。
やがて、
『立て……リザードン』
再びのレノからの命令。
とはいえ完全に意識を失ってしまっている彼がそれに応えることは無いだろうと確信していたリンはしかし──目の前の光景に我が目を疑うこととなる。
言葉の通りにリザードンが、立った。
しかしながらその光景は奇怪の一語に尽きた。
立ち上がったリザードンの立ち居たるや、弛緩した首を背後へと垂らし、さらに両腕もまた手の甲を正面に見せては爪先を地に伸ばした姿に、明確な意識などは微塵も感じられない。
さながら人形が繰り糸のみで吊り下げられたそんな光景の中、その不気味な挙動のままリザードンは宙へと舞い上がっていった。
その様ですら、垂れて背に折り畳まれた翼のままとあってはもはや、完全に見えざる手によって宙に吊るされている光景そのものだ。
そんなリザードンへ再びレノから『フレアドライブ』の指示が飛ぶや……宙空のリザードンの肉体は紙くずがされるかのようひしゃげては丸まった。
本来は肉体を火球と化し、自身の体力とも引き換えに体当たりを敢行してはダメージを与える技ではあるが、今や目の前のリザードンは焚火にくべられる着火剤よろしくに丸められてはその肉体に炎が灯り始めていた。
「や、やめてぇ! そんなの技なんかじゃないッ! リザードンが死んじゃうッ!」
周囲に響き渡り骨の鳴る不快な残響にレノを覗く全ての者達が眉をしかめる中、遂にリザードンの『フレアドライブ』は完成してしまう。
そしてそれを頭上においては高々と右腕を掲げ……それをリンにめがけて振りおろした瞬間──フレアドライブの火球はリン達への下降を始めた。
そのあまりの巨大さに傍からは緩慢に見えるそれも実際には恐ろしいスピードで迫っている。
数秒後にはここへ到達するであろうことを理解するガーディではあったが……そんな折り、レノ達の不穏な挙動にもまた気付いた。
件の火球はその対戦相手であるガーディではなく、その背後に控えるトレーナーのリンへと向かってきていたからである。
それを知った瞬間、ガーディから血の気が引く。
自身へと向けられるそれならば、いかに強力な技であろうと身一つで受け止める覚悟はあった。しかしながらそれがトレーナーに向けられるとあっては、問題外も甚だしい展開である。
「うそ……こっちに向かってきてる!」
その異変にリンもまた気付いては両腕を頭にかざして心許ない防御の姿勢を取る。
この距離となってはもはやこの場からの脱出が不可能なことは、炎技の性質を熟知するリンもまた理解していた。
故に本能的な防御の姿勢を取ることしか出来ないリンと、斯様な火球へと単身体当たりを敢行しては少しでも着弾のダメージを分散させようと身を挺するガーディ。
やがてはしかし──フレアドライブはリン達へと直撃を果たした。
火球が地へと落ちるや半球状の光のドームが場には展開され、それを中心に臨界を迎えたエネルギーの光輪が一環、地を薙いで放射された次の瞬間──巨大な黒煙と、そして風のうねりにも似た爆音を鳴動させては、フレアドライブの爆発がこのフィールドを根こそぎ吹き飛ばした。
それを目の当たりにし、レノの笑い声が狂ったように響き渡る。
やがては黒煙が風に払われては、リン達がいたであろう場をレノの視界に晒す。
そこに横たわる無惨なリン達の死骸を確認しようとそこへ目を凝らしたレノはしかし──追わぬ光景に再びその瞼を剥くこととなった。
椀状にえぐり取られた爆心地には横たわるガーディとそしてシオン教師の姿──そんな二人の盾になるかのようその前には、リンが一人立ち尽くしていた。
なぜにあの爆撃を耐え切れたかと激しく狼狽するレノではあったが、その理由をすぐに悟ることとなる。
立ち尽くし、そこから見上げてくるリンのその瞳はもはや人間(ヒト)のものではなかった。
その下瞼を上ずらせ、一見したならば嘲笑のようにも見えるそこには尋常ならざる殺意とそして悪意とが込められていた。
やがては少女の姿を模った禍々しき邪心の塊は、凍てつくような呪詛を吐く。
声とも風の音ともつかぬそれを喉の奥から漏らすリンを……否、四災・パオジアンの降臨をレノは激しい悪寒の内に悟るのだった