再び目覚めた時──仰向けの俺は天井に右手を翳しては自分の掌を確認した。
四つ又の手の平にはすらりと伸びた指が五本揃っていて、人の姿に戻っていることに安堵覚える反面──どこかそれを対し、ガッカリもしている自分に気付いては嘆息もひとつ。
横たわる体の上に第三者の重みも感じて目を凝らせば、胸板の上には俺の体に横顔押し付けたまますっかり寝入っているアシマリの姿も確認できた。
アシレーヌでもなければオシャマリでもないその姿に全ては夢であったのかとも訝ったが──寝たままに確認できる周囲の様子は、ベッドを始め部屋のあちこちにアシマリの経血が飛び散った殺人現場さながらの様子であり、彼女と情交を交わしたのは間違いないことを知ってため息もひとつ。……掃除が大変だ。
再び視線を胸の上のアシマリへと戻し、手持無沙汰に彼女の後ろ頭など撫でてやる。
依然として眠り続けるアシマリではあるが、それでも俺からの愛撫が心地いいのかより一層にアシマリは鼻先を押し付けてきては甘えた響きを喉の奥から漏らすのだった。
一連の出来事があながち夢でもないというのなら、あの一時は何だったのだろうか?
改めて俺はそれへと思いを馳せる。
そして同時、荒唐無稽な答えを一つ自身の中に導きだしては息を飲む。
もしかしたら、これは俺と言う種の『進化』なのじゃないか、と。
過去には人もまた、『ニンゲン』というポケモンの一種なのだったという説を聞いたことがある。
ならば俺こそは、対象のDNAを織り込むことで相手と同じ存在に成れる技や特性を持ったポケモン──そんな仮説をまんざらでもなく妄想してもしかし、
「………はは、何をバカな」
しばしそんな考えに囚われていた俺は、自嘲げに一笑しては鼻を鳴らす。
もし仮説の通り俺がそんなポケモンであるのだとしたら、全ての人間は皆がその特性を持ち得ては世も大混乱となっている事だろう。
そのあまりの発想の飛躍にしかし、一気に冷静さを取り戻した俺は──素直にあの一時は、二人の『良い夢』であったと捉えることにした。
おそらくは二人、やり疲れて寝てしまったが故に見た身勝手な夢であったと割り切ると、その馬鹿馬鹿しさがどんどんと俺の中で大きくなっていっては、思わず笑いだしてしまうのだった。
だとしたら、なんとも素敵な夢だったじゃないか……自身を慰めるように呟いて俺は再び胸元のアシマリを撫ぜると、今度はその額へとキスをした。
第一進化前のまだ子供のあどけなさが残るその寝顔からは、将来彼女があの夢の中に出てきたアシレーヌのような美人になることが窺えて俺は嬉しくなる。
これからも変わらずアシマリを愛し続けていこうと思いも新たにすると同時──そしていつの日かまた、あのアシレーヌに会える日を俺は心待ちにするのだった。
その異変が起きたのはあれからさらに一ヶ月後──アシマリの月経に合わせ再び俺達が体を重ねたその時に起きた。
いつものように経血の滲む彼女の膣へと舌を這わせて愛撫したその時──彼女の血を取り込んだ俺は再び発光し……次の瞬間には、再びアシレーヌへと変貌を果たしていた。
『な、なんだこりゃ!?』
顔前に前足となる両鰭を翳してはすっかり変容してしまった掌と自身の肉体を見下ろして唖然とする俺の傍らでアシマリが歓喜の声を上げる。
抱き着いてきては甘えだし、流されるままに愛撫などかわしてはキスを交わらせた瞬間、彼女もまた激しく発光した。
やがてはその光も治まり、斯くしてベッド上には……二匹のアシレーヌが鼻先を突き合わせては互いの見遣るばかりの状況となった。
しばし唖然として俺達は見つめ合う。
そしてどちらからでもなく小さな笑い声が喉の奥からくぐもり出すと、俺達は声を合わせて笑いだしてしまうのだった。
どうやらこの変化はアシマリの経血を体内に取り込むことで起きる変化らしい。
さらにはその血を口移して彼女に返すことにより、アシマリもまた一時的なアシレーヌへの進化を果たすのだ。
そういえば前回の時も、俺達は彼女の経血を含んだ唇で幾度となくキスやペッティングといった愛撫を繰り交わしていたことを思い出す。
こんなデタラメな進化など聞いたことも無い。
しかしながら、俺は自身のこの変化を僥倖と思わずにはいられなかった。
再び同じ種として交わえることの喜びは、彼女を愛すればこそ何事にも替えがたい変化であるからだ。
もしかしたら果ては俺の種で妊娠などしてくれるかもしれない……あるいはもう、俺がこのままずっとアシレーヌであり続けられたのならば、それもまんざらでも無く思えた。
様々な想いは止めどなく心に溢れたが、それも目の前のアシレーヌと口づけを躱すと台風一過の如くに煩悩の全てを押し流しては消え失せた。
ただ今は、二匹の獣(ポケモン)として交わるのみ──俺(アシレーヌ)は再び強く、愛しき目の前の雌(アシレーヌ)を求めるのだった。
【 赤潮のアシレーヌ・完 】