地下へと通ずるその隠し階段は祭壇のすぐ下──いつもルージュラが讃美歌の指揮を執る壇の足元に存在した。
「こんなもの、よく発見したね」
レンガ敷き床と地続きのそこは、その隠し通路を隠すよう出入り口の扉が蓋のようにして開口に被せられている構造ではあるのだが、それゆえに扉の可動部を表す溝は他のレンガのつなぎ目とは明らかに色が深くなっている。
しかしながらそうした疑いの目で観察しなければ所詮はそれもレンガ床の一部であり、それを発見したツィーベックの観察眼にウェルベンは関心というよりは呆れるかのように感嘆の声を上げた。
「ここに立つ時のシスターの仕草がいつも気になってたんだ。足の踏み位置を確認するみたいに必ず下を見るんだけど、それっておかしいだろ?」
依然として足元の隠し扉を上げようと奮闘するツィーベックはそのながらに応える。
「別に足場の悪い場所じゃないし、他の場所のミサや讃美歌の時にはまっすぐに俺達だけを見てくれるシスターが、ここに立つ時だけは必ず前後で足元を確認するんだ……それで調べてみたらこれを発見したんだ」
なおも足元を調べ続けるツィーベックはしかし、その語尾を苛立ちに濁した。
件の隠し扉と思しきものは発見したというのに肝心のそれが開かないのだ。
確かに考えてみれば、隠してある以上それが簡単に開くような構造であってはその役割の意味が無い。
周囲にカムフラージュする傍らでもう一段階、これを開く為の細工が為されているようであった。
そんなツィーベックの奮闘を眺めていたアウルラがふいに屈みこんではツィーベックの隣に肩を並べる。
そして突然の行動に思わず視線を向けた次の瞬間には──アウルラの華奢な指先は足元のレンガのひとつを引き起こし、バネ仕掛けのラッチが外れるであろう甲高い音を一つ奏でるや、足元の蓋扉は数センチほど浮き上がらせた。
「なんで分かったんだ!?」
依然として隣から驚愕の視線を向けながら、今度はツィーベックがその問いを投げかけてくるのをよそに、当のアウルラはさっさと立ち上がっては小さく鼻を鳴らす。
「このレンガだけ色合いが違う。それにツィーベックが言ってた『ここに立つシスターが足元を気にする』っていうのは、間違ってこの開錠の仕組みに触れないようにしてたってことじゃん」
何事でも無いかのようその仕組みを説明していくアウルラ──さらには斯様なシスターの仕草から想像するに、このギミックは押し込むことで作用するものだという結論に辿り着いたアウルラはその仮説を実践し、さらには結果へと導いてみせたのであった。
ツィーベックの並外れた観察眼に、アウルラの規格外の知性──そんな二人を前に、美貌以外はなにも持ち合わせていないことを自覚するウェルベンはただため息をつくばかりだ。
もっともだからといってそのことに自身を卑下するつもりはない。
こんな自分ではあるが、それでも先の二人には無い能力を持つことの自負があるウェルベンは、今度は自分のそれが発揮できる瞬間をこの隠し扉の先に期待するのだった。
かくして足元の浮いた床を引き上げると──持ち上げ始めこそは重量を感じさせたそれも、すぐに開閉の金物が作用して以降は浮き上がるかのよう垂直に立ち上がった。
3人が見下ろす足元には時代錯誤な石造りの階段が現れては、ゲームや創作の場面よろしくに地下へと続く道をそこに表している。
「い……いくか?」
その重厚かつ不穏な気配に生唾を飲み込んでは尋ねるツィーベックに残る二人も緊張した面持ちで頷く。
言い出しっぺのツィーベックを先頭にして、後にはウェルベン・アウルラの並びとなって三人は狭い階段を下りていった。
左右の壁に挟み込まれるかのような狭小さは数段も下りるとすぐに解消され、以降は右回りに螺旋を描きつつ、会談は遥か地下へと伸びていた。
その重苦しい造りから時代物と感じたのもつかの間、壁面の所々にはこの暗所を照らす照明が等間隔で灯されていた。
しかもその照明たるや、この舞台にそぐわぬLED電球の昼光色とあってはもはや、シスターやそして外部の人間達が秘密裏にかつ、定期的にここを利用していることは明らかであった。
左手に壁面をなぞりながら3人は注意深く降りていく。
やがては階段の最下段を目下に捕えたツィーベックは、その終点の壁面に新たなドアが設けられているのを発見する。
この場所が発見されることは無いと踏んでたのだろう、その油断から件のドアは完全には閉じ切られておらず、僅かに開いた隙間から階下の踊り場の薄暗がりを断ち割るかのような鋭い光を漏らしている。
この段に至ってはもう引き返すなどという選択は3人に無い。
階段を降り切り、ドアの前で今一度互いの顔を見合わせるや、それぞれを大きく頷いた。
そうしてまずはドアの隙間から内部の音を探ろうとする。
継続的なリズムで既にくぐもった音がそこからは漏れだしており、まずはその確認をしようとしたのだ。
しかしながら……そんなも漏れ出している音は、3人が3人とも聞き覚えのある響きであった。
厳密に言うなれば、それは『物音』などではない……それこそは人か、あるいはポケモンの『声』に相違なかったのだ。
そして場のメンツは皆がこの声を知っている──それこそは幾度となく聞き慣れた声だ。
ある記憶の中でその声は優しく朝の挨拶を伺い、またある記憶の中でその声は美しい歌声を響かせていた。
「……間違いないよ、シスターだ」
誰にいうでもなく漏らされたアウルラの呟きにウェルベンとツィーベックもまた黙したままに頷く。
そうして3人は意を決するやどドアの隙間へと視線を潜り込ませた。
いま居る階段下の踊り場よりも遥かに明るい光量に満たされたその部屋──此処よりも更に半地下になる部屋の中央を見下ろす三人は、
その中央のベッド上で、3人の男達に犯されるシスター・ルージュラの姿を目撃するに至ったのだった