『お、おはようございますピークッ。昨日は……よく眠れましたか?』
「あ、あぁ、おはよう! う、うん……その……うん」
翌朝──いざ顔を合わせたピークとジュナイパーは、互いしどろもどろになりながらぎこちない挨拶を交わした。
作り笑いの硬い表情のまましばし世間話を続けようと試みるが、遂にはその気まずさも頂点に至り二人は俯き合ったまま何も発せられなくなってしまう。
とはいえしかし、そこに嫌悪は無いのだ。
あんなことがあったせいか……否、そのおかげともいうべきかピークもジュナイパーにしても、翌日に互いの顔を確認した時には真っ先に喜びの感情が胸に湧き上がっていた。
しかしながらあくまでもそれは自分だけの印象であり、お互いに相手は昨晩のことに対し『怒り』──あるいは『嫌悪』の念を抱いているのかとも思うと自然、二人の態度は互いの表情を窺い合うようなものとなってしまっていた。
しばしして、
『あの……朝ごはん、いかがですか?』
ジュナイパーからの申し出に、この閉塞空間から脱せられるならばとピークもまた必要以上に強く頷いてみせる。
しかし反面、空腹であったことも確かであった。
朝食の内容はスパイシーな木の実のスープと、シイの実を製粉したものを練って焼いたパンに木苺というメニューだったが、ピークはそれを瞬く間に平らげてしまった。
実際にそれらは非常に美味でもあり、より一層にこれを提供してくれたジュナイパーに対するピークの密かな想いは強くなるばかりだった。
──このままじゃいけないよなあ……
食後のヒースティーを啜りながら漠然とピークは考える。
相手はポケモンであるのだ。今の関係性は言わば非常事態下での一時的なものであり、いつまでも彼女に甘え続けることはいけないことのようにピークは考えていた。
──それにジュナイパーって美人だし、このまま一緒に居てたら本当に間違いが起こる……
後ろ髪を引かれる気分ではあったが三々五々に食事も終え、改めて昨晩からの礼を告げると、
「それじゃ……そろそろ行くよ」
ピークは遠回しな別れを告げた。
それを受け、即座にその意味するところを察するやジュナイパーの顔からも血の気が引く。
『そ、そんな!? あ……えっと、そのぉ、怪我の具合はまだ良くないんじゃないですか?』
よくよく考えれば自分にしてもピークを引き留められる理由が無いことを察してしまったジュナイパーはそれでもと、昨日来からのピークの怪我の様子を伺う。
互い直接は口にしないために気付けずにいるが、もはやこの段階においてのピークとジュナイパーは相思相愛にも等しい感情を互いに抱いていた。
それぞれが一目惚れに近い状態にあり、それが昨晩の体験と合致するに至ってはもう、このまま生涯を添い遂げたいとまでお互いを想い合ってすらいたのだ。
とはいえしかしそれに気付きようもないピークは、ジュナイパーへ暇を告げようとする。
「怪我ならたぶん大丈夫さ。ほら……──」
そしてそれを証明するべく、腰掛けていた椅子から飛び降りるように勢いを受けて地に足をついた瞬間──
「うわあぁぁッッ!?」
『きゃあッ!』
まるで膝から下が無くなったかのような感覚の喪失と共にピークは派手にもんどりうつ。
依然としてうつ伏せになったまま痛みにうなりを上げるピークへ寄り添うと、
『ほら、ごらんなさい。足だってまだこんなに腫れていますよッ?』
「うう~ん……だいぶ痛みも引いてたから大丈夫だと思ったんだけど」
半ばジュナイパーは叱るかのようその軽挙を窘めた。
しかしながら……
『こんな様子じゃ私も安心して送り出せません。少なくとも怪我が治るまではこの家にいること。……いいですね?』
斯様な結果はむしろ、ピークを此処へ引き留めておく為のいい口実となった。
一方のピークはと言えば、それを受けて気まずげに眉をひそめては一言、
「………これ以上ここに居たら、また迷惑かけちゃうかも」
呟く様にそう告げた。
ここでピークの言う『迷惑』とは言わずもがな昨晩のベッドの中で起きたあのハプニングのことだ。
そんなピークの言葉の真意を、やはり察しの良いジュナイパーはすぐに感づいてしまう。
同時、期せずして目が合ってしまうと──二人の顔はその羽毛の毛並みの下からも分かるほどに紅潮した。
その中において……
『……迷惑なんかじゃ、ありませんよ?』
視線を僅かに逸らせては、同じくに呟くようジュナイパーはそう告げる。
それを受け、更に体温を上げては硬直するピークを再びにジュナイパーはチラリと見上げる。
そうして再び二人の視線が絡むや──今度は満面の笑顔をジュナイパーはそこに咲かせて見せるのだった。
夕食も終え、その日も恙無く一日が終わると──
『それじゃあ……もう寝ましょうか』
「う、うんッ──そ、そうだねッ」
テーブル上で両掌の頬杖にアゴを預けていたジュナイパーはそう告げてピークを見つめた。
どこか期待を込めてはイタズラっぽい微笑みを向けてくるジュナイパーに対し、当のピークはと言えば呂律も上手く定められぬほどに緊張してはガチガチだった。
昨晩同様にジュナイパーの肩を借りてベッドまで辿り着くと、まずはピークがその上へと上がっては壁側に身を寄せる。
次いでジュナイパーもまたベッドインしてはピークと肩を触れ合わせると、
『………おやすみなさい♡』
二人の上にシーツを被せては、そう流し目を送った。
それからしばらくの間、ピークは丸太造りの小屋の天井を見上げながらに悶々と過ごす。
昨日と違うのは、今日はジュナイパーもまた仰向けに仰臥してはピークと枕を並べているということだった。
しばしそうして夜の静寂に身を置いていると、徐々にリラックスしてくるのに合わせてピークの緊張もまた沈静化していった。
それからチラリともう一度隣を確認しては、瞼を閉じたジュナイパーの均整な横顔など眺めていると、今日の就寝におかしな期待と緊張を抱いていた自分がバカらしくなって途端にピークは脱力する。
──昨日のアレが異常だったんだ……僕も大概だなあ……
自嘲してはため息然と鼻を鳴らすとピークも瞼を閉じた。
後はこのまま穏やかに寝入ろうと持った矢先──その事件は起きた。
突如として──股間そこに生じた圧迫感に驚いては、ピークは眠りに落ちかけていた瞼を皿のように見開く。
股間の上にて繰り広げられているその違和感の正体は──紛う方なき、昨日のジュナイパーの掌と同じ感触だった。
慌てて傍らを見遣るも、依然として寝顔を保ったままのジュナイパーのすまし顔には何の変化も現れていない。否……むしろその平然に過ぎる反応こそが、なによりも彼女が意図的にこのイタズラを仕掛けていることの証でもあった。
そのことを悟るや、同時にピークにもおかしな対抗心が生まれる。
──いつまでも……やられっ放しじゃないぞ?
次の瞬間、取り澄ましたジュナイパーの寝顔が驚愕に眉元を強張らせる。
この時、ピークの股間をまさぐるジュナイパーの左腕と交差する様にピークの右手もまた、ジュナイパーの股間においてそこの羽毛をまさぐったのだった。
思わぬピークからの反撃にあからさまに表情を変えながらもしかし、瞼は閉じたままあくまで『眠っている』という体は崩さないジュナイパーを前にピークのイタズラ心にも火がつく。
そして、
──ならば……どっちが先に音を上げるか根競べだ!
ピークは中指の先端を突きあげるとよりピンポイントにジュナイパーの股座をまさぐった。
二人に長い夜が始まろうとしていた……──。