下着が少なくなっている……正確にはパンツが明らかに足りない。
普段から4枚のそれでローテーションしているはずが、今では現在履いているものと合わせても2枚しか残っていなかった。
とりあえずは洗濯して干してあった一枚を手に取ると僕は風呂に入る。
湯船につかりながらそれとなく無くなった下着のことなど考えてみる……もしかしたら干している時に飛んでしまったり、はたまたどこかに紛れてしまっているのだろうか? ──そんなことを取り留めなくも考えていると、ふとガラス戸の向こうに何かの影が差すのを感じて僕はそれを目で追う。
曇りガラス越しにも分かる緑のシルエットは紛う方なきマスカーニャだ。
何をしに来たものかと観察していると、やがてアイツはその場に屈みこむ。
それからそのシルエットのまま微動だにしなくなるマスカーニャ……おそらくは何かを物色しているのではあろうが、その時になって僕の脳裏には一連の下着紛失と、そして今のマスカーニャの行動が一致したような気がした。
「もしかして……」
思わずつぶやくと、視線の先でマスカーニャは立ち上がりそそくさとそこを後にした。
それを確認し、僕も急いで湯船から上がるとバスタオルだけを腰に巻いて浴室を後にする。
リビングに出るとそこには誰の姿も無かった。……しかしながら僕は知っている。マスカーニャがプライベートな空間を過ごす場所を。
廊下に出ると、そのまま突き当りにある収納の押し入れに視線に走らせる。案の定、ドアが半開きになっていた。
なかば一連の事件のオチを想像しながら近づき、そして勢いよくそこのドアを開け放つと──そこにはほぼ同時と言ってもいい反射神経で振り返るマスカーニャが僕を見上げた。
目が合ったがその一瞬、僕は目の前にいるそれが自分のマスカーニャだとは気付けなかった。
顔が変わっている、と思ったからだ。しかしながらその理由もすぐに分かった。
マスカーニャは僕のブリーフのクロッチが鼻先に当たるよう、覆面よろしくにそれを被っていたのであった。
本来は両足を通すはずの開口から覗く両目が驚愕に見開かれているその様──大真面目な表情でパンツを被っているというマヌケさに一瞬僕も吹き出してしまう。
ポケモンを躾ける場面において、トレーナーが笑うことなどあってはならないことだ。事実、目の前のマスカーニャも依然としてパンツの両穴から覗かせる両目にぎこちない笑みを浮かべる。
誤魔化せるとでも思っているであろうが、しかしこれはこれ。
次の瞬間には僕のゲンコツが真上からマスカーニャの脳天を打ち据えた。
猫特有の声音を汚く滲ませながら痛みに耐えるマスカーニャ。
「バカかお前は!」
言いながら僕もマスカーニャの顔から自分のパンツを剥ぎ取る。
コイツの体温と籠る吐息とでパンツが暖かくなっているのが妙に生々しい。
「この間のティッシュといい、お前すこしおかしいぞ!?」
そうして叱りつけながら、ふと屈みこむマスカーニャの足元に目を凝らせば……そこには無くしたと思っていた残りのパンツやら僕の靴下やらが散乱していた。
件の無くし物……否、『窃盗事件』の犯人はこいつだったのだ。
しかしながら同時、そこにまた別の物を見つけて僕は息を飲んだ。
屈む猫よろしくに両ひざを折って座るマスカーニャの股間には──勃起したペニスが屹立していたからであった。
その光景に思わず凍り付く。
怒張した他人のペニスだなんて見る機会などはまず無い。……否、まともな人生ならおそらくは一生涯目にすることもないだろう。
しかしながら僕はそれをいま目の当たりにし、しかもその相手はパートナーポケモンであるのだ。……加えてコイツの体にそんな変化を引き起こさせてしまっているものが、僕の下着とあっては笑い話にもならない。
その状況にどう反応したものかただ立ち尽くすボクの足元を抜け、マスカーニャは一目散にそこからの脱出を図った。
「──あ、コラ! まだ話は終わってないぞ!」
振り返りその跡を目で追うも既にマスカーニャは廊下を走り切り、リビングに逃げ込む瞬間の尻尾の残像を捉えるばかりだった。
しばし僕はその場に立ち尽くす。
先日の僕のオナニーティッシュを嗅いでいた行為といい、今の僕の下着を堪能しては股間を大きくさせていたことといい、もはやアイツの行動はその全てが常軌を逸していた。
「ポケモンってみんなこんなものなんだろうか……こういうのってポケモンセンターで相談して良いのかな……?」
その場に立ち尽くしては腕組みに考え込んでしまう僕は……今後どうやってアイツに接したらいいのかを深く思い悩んでしまうのだった。