この研究所には至る場所にカメラが設置されている。
それは個人の私室は元よりトイレに至るまで、まさしく全ての空間がこの研究所内においては監視可能であった。
一概にこれは研究員の人権を軽視しているのではなく、研究成果を外部へと持ち出されないための防衛措置であるのだ。
現にこれらカメラの存在もここに勤める人間には折り込み済みであったし、また記録映像の閲覧が出来るのは上層一部の人間にのみ限られては、平素日頃のプライバシーが侵害されることも無かった。
そして今──ハイマン達は斯様な想定とはまったく異なる事態によって、件のカメラ映像を確認していた。
そこに写されていたのは先の外部トイレにおいてガブリアスに襲われるジョンの映像であった。
当初は消えたガブリアスが何処へ去ったものかを確認する為の確認ではあったが、結果そこにて一同が知り得たものはガブリアスの異常性の再認識であった。
個室の便座内から這い出たガブリアスは、その巨躯からは想像もつかない素早さで地を這いジョンへと突進した。
それに対して叫びを上げようとするジョンの口をキスで塞ぐと同時に押し倒しては、排尿直後のまま外に出されていたペニスへとガブリアスは鎌状の爪を這わせる。
爪の先や背に存在する僅かな湾曲を利用しては、実に起用にジョンのペニスを刺激し瞬く間に勃起へと導いてしまうガブリアス……その上半身では依然として舌先を口中に侵入させては猿ぐつわとし、ジョンに助けを呼ぶ暇も与えなかった。
そうして完全にペニスが屹立するやガブリアスはジョンを跨ぎ、一切の躊躇もなく騎乗位にその挿入を膣へと果たしてしまう。
それからは激しいレイプの始まりであった。
イルカの表皮の如くに光沢を持った臀部を存分にしならせては、そのたわわな肉付きがひしゃげるほどに互いの局部を打ち付けた。
録音はされないタイプのカメラ映像ではあるがしかし、その能動的なガブリアスの動きからはそんな肉同士が打ちつけ合う破裂音や、はたまたジョンの悲痛な呻きとガブリアスの嬌声とが聞こえてくるかのようである。
しばしそうして動き続けていると、ある時ガブリアスの動きがピタリと静止する。それに合わせて組み敷かれているジョンの両足が直伸に矯正されては小刻みに震える様子から、彼が射精に至ったことは明らかであった。
しばし胎内へと送精される射精の感触を堪能している様子のガブリアスであったが、数瞬後には再び──彼女はあの暴力的なピストンを開始してはジョンを扱き始めるのであった。
以降はそれの繰り返しが映像には続いた。
けっして鮮明とは言い難い解像度の映像であっても、覆い被さるガブリアスの体の下から見え隠れするジョンの足や体の痙攣する様を見れば、いかに彼が苦しんだかが手に取るように知れた。
やがては最初の射精の時同様にガブリアスの動きが止まったかと思うと、彼女はしきりに体位を気にしながら、下に敷いたジョンの様子を窺ったりその匂いを嗅いだりの仕草を繰り返す。
そうしてガブリアスがそこから身を退かしようやくにカメラが部屋の全体を見渡すと──そこには微動だにしなくなったジョンだけが写されているばかりだった。
結局彼は抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、ガブリアスによってヤり殺されたのだ。
直接の原因は行為中、口中に挿入され続けていたガブリアスの舌による窒息であろう。
しかしながらあのハードピストン下において、推定体重100kgの体躯を打ち続けられたジョンの死体は、各種内臓器の圧壊もまた引き起こしては、肉体のあらゆる穴から出血を果たして死んでいた。
しばし画面の中のガブリアスはジョンの体や、はたまた床に溜まった彼の精液などを舐めたりもしていたが、やがては登場の時同様に便器の中へと戻っていくとその去り際には器用に尻尾の先で洗浄コックをひねり、その水流に任せては下水の中へと逃げていった。
それら一連の動画をラボ中央・巨大シリンダー前のPCで確認したハイマン一行に、誰一人として言葉を発せられる者はいなかった。
斯様なガブリアスの移動手段やそして運動性にはハイマンも舌を巻くばかりだ。
あの2メートル近い体躯を驚異的な身体操作によって変形させては下水の狭所を通り抜けるにあたり、もはやこの研究所内で彼女を一ヶ所に留めておくことは不可能のように思えた。
あの身のこなしであれば、下水に留まらず排気口や床下・天井を始めとする構造上の隙間等は全て彼女の通り道として成立してしまう。
むしろ平坦な床の上しか移動出来ない自分達こそ、この研究所においてはアウェーに置かれているとさえ思えた。
ならばこの建物において自分達が優位を得る為にはどのように行動すべきか、そしてどの場所に彼女を誘導すべきかに思いを馳せていたハイマンであったが……その思考は突如として響き渡った研究員の叫びによって中断された。
突然のそれに驚いて顔を上げれば、そこには表情を恐怖に引き攣らせては無心に頭髪を掻きむしる研究員の一人が見えた。
「お、終わりだぁ! 逃げられる訳がない‼ 俺達はここで、あのガブリアスにヤリ殺されるんだッッ‼」
今現在この場に残されているのはハイマンと、そして残るは二人の研究員のみ──その一人が半ば発狂したかのよう振舞うと、それが伝染したもう一人もまたヒステリックに声を上げてはその場で右往左往を始めた。
当然ながらそんな二人へ落ち着くように声を掛けるハイマンであったが、むしろ斯様な声掛けは一層に二人の興奮を煽るばかりの結果となった。
今後をどうするのかを絶叫まじりに尋ねられハイマンも口ごもる。それを話し合いたいと返事を返すハイマンにもしかし、一度火のついた二人の狂騒はあらゆる刺激に過敏となってはもはや、手の付けられない状態にまで昂られていた。
やがて火がついたかのよう一人が走り出すと、もう一人も逃げ遅れまいとその後を追って続く。
そんな二人を不毛とは思いつつハイマンもまた追わざるを得ない。どんな状況であっても今は集団を保つことこそがこのサバイバル下での鉄則であったからだ。
しかしながらこの絶望的な状況でありながらも、研究員の混乱が功を奏したこともあった。
それは先頭を走っていた一人がただやみくもな行動を取っていたことに他ならない。
今も走り続ける彼は従来の出入り口とはまったく正反対の方向へと駆け出してはやがて、区画の隅にあったガラス張りの喫煙室を発見しその中へと駆け込んだのだった。
後に続いていた一人も倣うようそこへ入ると内から施錠して籠城を決め込む。
この展開はむしろ、ハイマンには願ったり叶ったりの状況と言えた。
この場所に立て籠ってしまえばもはや彼らは何処へにも行けない。むしろ事の始まりにハイマンが懸念していたのは、研究所外へ出られたり、はたまた外部との連絡を取られてしまうことにあった。
しかしながらこの状況ならば、時の経過と共に彼が落ち着くのを見計らって話し合いをすることが出来る。
後はどのように彼らを説得し、今後の手綱を握るかに思案したその時であった。
彼らが立て籠る天井の換気扇が軋んだ。
その変化を最初、ハイマンは見間違いの類であると思った。否……そう思い込みたかった。
しかしながら次の瞬間、もはや思い違いではない衝撃を以て換気扇が振動するや、そこに対角線同士を結び合うよう鋭利な亀裂が走り──枠組は三角形のパーツに切り分けられては換気扇本体の残骸もろとも喫煙室へと崩れ落ちてきてはけたたましい音を立てた。
突然のそれに驚いては振り返る内部の二人とそして外部のハイマンの目は、混乱の極みのうちにそこから降りてくるものを見上げる。
天井に穿たれた50㎝四方の開口そこから、頭を垂れては上半身を晒したのは──
何者でもない、あのガブリアスであった。