弟達が寝静まり、自身もまた毛繕いをして身支度を整えると──イーブイは物音を立てぬよう、静かに家を出た。
そんなイーブイの外出の直後、
「……行ったぞ。みんな、起きろ!」
ブースターの合図で弟達一同は同時に起床する。
「やっぱり今日も出掛けたね……」
「こんな毎日、どこへ何をしにいってるんだろう……もしかして危ないことに巻き込まれてるんじゃ?」
「だったらボク達でおねえちゃんを助けなきゃ!」
互いの顔を見合わせては頷くと、弟達もまたイーブイの後を追って家を出た。
今のやり取りが示す通り、少し前からイーブイはこうして深夜に外出することがあった。
最初に気付いたのはシャワーズで、添い寝してくれているはずの姉が隣にいないことをたびたび発見しては、その行動に疑問を抱いていたのである。
その場合、たいてい小一時間から二時間ほどで帰宅しては来るのだが、問題はそのことを弟達に報告することもなく、むしろバレていないことからそれを『隠し事』にしているイーブイの行動にあった。
姉が自分のことで語れないことがある──このこと自体が弟達には衝撃である。
結局は直接聞きだす機会も逸し、そして今日……兄弟達は、直接自分達でその真相を突き止めようと動いたのであった。
外出にタイムラグがあったことからも、外に出るとすっかりイーブイの姿は見えなくなっていた。
しかしながら向かった方向の大体の見当はついていた。以前に彼女が外出した時に、こっそりサンダースが家の窓からその向かう方向を確認していたのだ。
「くんくん……うん、こっちだよ。おねえちゃんの電気の匂いも残ってる」
そんなサンダースの案内役を先頭に森を抜けると、弟達は一面に開けた草原に出た。
完全に森から出ていくことはせず、身を伏せて草原を見渡すと──その視線の先に姉を見つけた。
イーブイは草原のほぼ中央にある大樹の切り株に腰かけては月を見上げていた。
満月の今宵は降り注ぐ月光が眩くて、あたり一面は昼のように明るい。
そんな中で月を見上げる姉の口元にはうっすらと笑顔さえ浮かんでいて、その表情に兄弟達は困惑せずにいられなかった。
「なんか……ねえちゃん、嬉しそうだね」
「悪い奴に脅されてるんじゃなかったの?」
兄妹それぞれが『姉を脅迫する悪漢』を妄想していただけに、そんなイーブイの表情を見ては誰もが困惑するばかりだった。
そうして見守り続けていると、やがてイーブイの表情に変化があった。
微笑んでいた表情が軽く驚いたようなものへと変わり、次いで兄弟達が潜む森とは反対の方向に視線を向ける。
同時にそこには姉弟達の誰のものでもない第三者の声が聞こえてきた。
高い声音の中にも落ち着いた響きが含まれたそれ……どの動物やポケモンにも見られない特徴的なその声は、『人間の少年』のものだった。
やがて見守り続ける中、兄弟達の視界の中にもその少年が現れる。
そんな少年の登場に切り株の上のイーブイもまた、その方向に体の向きを変えては、心待ちにしていたように小さな声を上げた。
「人間!? おねいちゃん、人間と会ってるの!?」
「人間なら知ってるよ……あいつら、他のポケモンでボクらを攻撃してどこかに連れていくんだ」
依然として視線を姉に固定したまま言うブラッキーの呟きに、兄弟は目を剥いては一様に青褪めた。
「いざとなったら僕達全員でお姉ちゃんを守るよ……みんな、準備して!」
エーフィの言葉に無言で頷くと、皆は臨戦態勢になりつつ目の前の二人を見守る。
しかし──その後に繰り広げられた光景に、一同のそんな気概は挫かれてしまうこととなる。
しばし見つめ合っては何やら言葉を交わしていたイーブイと少年は、やがて惹きつけ合うかのよう互いの顔を寄せては……キスをした。
何度も唇を吸いつけては放すを繰り返すという味わうようなそのキスは、傍から見ても互いの愛情を感じずにはいられない優しいものだった。
少年の手が優しくイーブイの腹を撫であげ、やがてはその指先を膣に到達させる。
相手の反応を見ながら慎重に繰り出される愛撫に、イーブイも切なげな声を上げた。
やがては存分に彼女の体がほぐれたことを確認すると──ついには少年とイーブイは一つになる。
正常位に少年のペニスが挿入されると、イーブイは甲高い声を上げた。
そんな二人が愛し合う一部始終を目の当たりにし……兄弟達一同は、誰もが何も発せられなかった。そこにて確認する姉の表情と声は、そのどれもが初めて目にし耳にするものばかりだったからだ。
甘え、求め、そして悦ぶ──そこに居た者は一個の女性であり、そしてそれこそが正真正銘のイーブイの姿でもあった。
しばしして少年が絶頂を迎えるとイーブイもまた一緒に果てて、二人は並んで切り株の上に横たわる。
それからは二人──色々なことを語らっていたようだった。
たいていは少年からの話をイーブイが聞いては頷くというものであったが、それでもその時を過ごすイーブイの表情はどこまでも幸せそうだ。
やがて、
「………帰ろう」
リーフィアが呟くように言うと、兄弟達は誰一人として異を唱えることなくそれに従った。
森の中を引き返す中においても言葉を発する者はいなかった。家を出た時とはまるで雰囲気の違う今の状況を想像できた者がいただろうか。
その帰路の中で、兄弟達はそれぞれに姉のことを思い出していた。
少年からの愛撫を受けている姉は、ただひたすらに求めては彼に甘えていた。
イーブイから奉仕することもなく、ただ一身に彼の愛を受け取るばかりのそんな姿は、いつも誰かの世話を焼いてくれていた姉には決して見られない姿だった。
結局は一言とすら言葉を交わすこともなく家に戻り、再び寝床で横になると……皆は泥のよう眠りに落ちて行った。
そんな夢現の中で兄弟達は──皆が失恋したことを知った。
夜半過ぎ──イーブイは静かに帰宅した。
物音を立てぬよう家へ入ると、すでにあちこちからは弟達の寝息やイビキの類が聞こえてきていて、その様子に安堵する。
眠る弟達へキスをして回り、やがてはスペースの空いていた場所にイーブイもまた腰を下ろして横たわると、そこから寝静まる皆を一望する。
この瞬間をイーブイは愛しく思うと同時、いつかはそれぞれに別れの瞬間が来ることもまた考えてはため息を漏らす。
それでもしかし、ならば今は精一杯に愛してやろうと心に誓い直すのだった。
誰も彼もまだまだ手のかかる弟達ばかりだ。
それでもしかしこんな弟達と迎える明日のことを考えると、さらにイーブイは楽しくなって勇気を貰えるような気がした。
「おやすみなさい……また、明日ね」
誰に言うでもなくそう呟くとイーブイもまた横になる。
姉弟達の長い一日がようやくに終わったのだった。
【 イーブイと8匹の弟達・完 】