※ 注意! ※
このエピソードには、流血を伴った暴力や凌辱、グロテスクな表現
等の残虐的な描写が含まれます。
自己責任のもと、お楽しみください。
第1話・強制労働
若い身空で馬鹿げた借金を抱える手合いは何時の時代にも居るものだ。
現在においてはカリク・レウがそうであると言えた。
彼が集金人のマフィアに確保された時、その金額は2千万を軽く超えていた。
当時23歳の彼が、ならばいかに爛れた生活をしていたかとも思われるだろうが、以外にもカリク自身はいたって普通の青年であったのだ。
過度にギャンブルや女にのめり込んだわけでもなければ、ドラッグの類だって使用歴などはほぼ無い。
酒においては下戸ですらあるカリクが、ならば何故にそんな額にまで借金を脹らませてしまったかというと──それこそは自身の生活費を借金にて賄っていたからに他ならない。
ハイスクール卒業後、カリクは就職もままならぬ状態で各地を流転した。
複雑な家庭環境にあったことから実家の援助を得られぬ彼は学校卒業と同時に自立を目指した訳であったが、社会はそんなルーキーに甘くはなかった。
カリクの性分が労働に合わなかったことも相成って、就職先を見つけてもすぐに辞めてと彼は職を転々とする。
その間の生活費をカリクは借金によって充てた訳であるが、これこそが後の転落人生の始まりであった。
同時にこれは経済社会の欠点ともいうべきか、こうしたクレジット会社の審査は若いカリクに寛容であったことも災いした。
各社のカード会社は無職のカリクに対しても無尽蔵に融資を続け、酷い時には申込書の職業欄を空欄にして提出してもその審査が通ってしまう場合すらあった。
一般消費者金融を何社も掛け持ちしては借金を脹らませ、遂にはそれらが焦げ付いて借り入れが出来なくなると、次は住宅ローンに手を出した。
購入する気など微塵もない架空の施工計画をでっち上げ、審査を通した。
その時のカリクには零細の建設会社を営む知り合いがおり、彼の助言の元にその会社へ借り上げたマイホーム購入費用を経由させては受け取るという、半ば詐欺まがいの資金調達をした。
それを二度ほど繰り返したところでマフィアの目に留まるところとなり、かくして集金人を仕向けられては──カリクは確保されてしまう運びとなった。
社会に翻弄されたと言えば聞こえはいいが、突き詰めればそれはカリク自身の自堕落な性分が招いた結果でしかなく、それに付き合わされた関係各者はとんだとばっちりであったろう。
ともあれ確保されたカリクは以降、マフィアの監視下の元で借金の返済を余儀なくされることとなる。
生来の楽天家であるカリクもこの状況には絶望を禁じ得なかった。
今後自分の人生が他者に管理されてしまうことは元より、そもそもが労働嫌いのカリクにとっては作業の大小を問わず働くこと自体が苦痛であり、また実際にその能力も乏しかった。
斯様にして体力も無ければずば抜けて知能に秀でている訳でも無いカリクにマフィアが宛がった仕事は──新薬の治験に他ならない。
しかしながらこれはカリクの性に合った。
それ以前に、基本としてこれは肉体や脳を一切酷使しない。
指定された薬を飲むか打たれるかした後は、ただひたすらに安楽にしていればいいのだ。
待機場所として用意された病室も明るく清潔で、時間潰しの為のゲーム機やタブレットといった機器も揃っていた。
むしろ普段監視下に置かれている劣悪なタコ部屋に比べればこちらの方が万倍にも居心地がよく、しまいには借金生活時代にこの仕事へ就けられなかったことを後悔する体たらくですらあった。
またこの治験の期間中にカリクには友人も出来た。
それはビクティニを名乗るポケモンであり、高い知能を有する彼女は人語こそ話せなかったものの、タブレットを介することでコミュニケーションをとることは十分に可能であった。
理想の職場に清潔な空間と友人──願わくば一生涯をこの仕事で終えたいなどと馬鹿な希望を持つカリクの生活もしかし長くは続かない。
一年に近い治験の後、カリクは次なる仕事を斡旋される。
それこそは着ぐるみを着ての労働であると知らされて、カリクは心底絶望した。
考えるまでもなく肉体労働のそれはカリクの最も嫌いとする部類の仕事だった。
しかし自由気ままに振舞っていた頃ならば全てを投げ捨てて逃げることも出来たが、囲われている今とあってはそうもいかない。
渋々にもそれを受け入れざるを得なかいカリクではあったが……そんな彼の性分や能力は雇用側もまた把握していた。
『いきなり本番とは言わない。まずは訓練をしてもらおう』
そう言い渡されると共に、カリクは再び病院然とした施設へと送られた。
というよりもその向きは『研究所』といった雰囲気に近い。
そこにおいてカリクは初めて、『ヌメルゴン・スーツ』と対面を果たすわけである。
とある一室に通され、そこでカリクが目にしてものは事前に説明されていた通りの巨大な全身着ぐるみであった。
両足を投げ出し、まるで眠るかのよう目蓋を閉じて俯いていたそれの第一印象は、
──ぬいぐるみ!? これが……?
まるで生きているかと見紛わんばかりのその精巧さに驚愕を禁じ得なかったことである。
そもそもヌメルゴンのシルエットからがして、下半身に重心を置くぬいぐるみ然とした体型であるのだから、制作側としても実物に寄せやすいのだろう。
この業界には明るくはないものの、最新の技術は凄いものだと感心しきりのカリクへと、別室で待機している施設の職員から声がかかる。
スピーカーを通じ、件のヌメルゴン・スーツを着るように指示をされるとカリクは座り込んでいるそれの背後へと回った。
そこにて再びスーツの全容を確認したカリクはようやくに安堵のため息をつく。
見ればスーツの後頭部頂点から生じたスリットは、首筋と背中を横断しては尾てい骨の上までを切り裂いて止まっていた。
もしこのリアルなヌメルゴンが生物であったのならこれほどの傷を負いながら、こんなに血色も良く生きながらえている筈もない。
それでもそんなスリットからその中身を覗き込んだカリクは動きを止め、固唾を飲みこむ。
僅かに開かれたそこから覗くその内部は、そこはかとなく色彩が鮮やかであったからだ。
パッションピンクめいた内部の生地は、その色合いと相成っては生物の胎内そのものに見えたのである。
依然として短パンにTシャツ姿のカリクはその場で足踏みなどして入りあぐねるも、最後には別室から移動してきた職員に直に促されては覚悟を決めた。
そうして首筋のスリットの淵を両手でワシ掴み、広げると……カリクは恐る恐る右足をその中へと入れる。
内部の生地へと爪先が触れた瞬間、その感触にカリクの背は粟立った。
素肌から直に感じるスーツの内部は冷たく湿っていては……粘膜さながらの感触をそこに伝えていた。