※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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第4話・笑顔の意味

 

 

 目の前のドガースに対するカリクの第一印象は『可愛い子』であった。

 

 朗らかに笑みを浮かべるその表情──人の価値観に照らすのであれば平和や友好の証であるのだろうがしかし、こと獣(ポケモン)に関してそれは当てはまらない。

 人が笑顔と認識する、両の口角を上げて目頭を収縮させる表情とはすなわち、強い『威嚇』の意味合いを持つのだ。

 そして目の前のドガースが見せる微笑みこそ……まさにこのポケモンの威嚇といえた。

 

 そうとは気付かず、友好的な意思の表れとの勘違いも甚だしいカリクはドガースへと己から歩を進めた。

 そうして不用意にもそれへ触れようと手を伸ばした瞬間──破裂するかの勢いでドガースは球状の肉体八方からガスの噴出を行う。

 

 藍に色合いの淀んだその煙はもはや固体然として濃厚に宙に漂っては霧散することも無い。

 常人であったのならば一目でそれが危険なものであることは察するのであろうが、この時のカリクにはそうした危機感の一切が欠如していた。

 元の能天気な性格ゆえか、はたまた今この身を包むヌメルゴン・スーツの影響か……この時のカリクは強くドガースと遊びたいと願い、さらにはそんな自分の願いに先方が応えてくれたのだと勘違いすらした。

 

 だからこそカリクはドガースの周囲を漂う瘴気の中へと無遠慮に歩み入ってしまう。

 そうして接近を続け、漂う毒切りが鼻先をかすめた次の瞬間──カリクは大きくそれを吸い込んでしまうのであった。

 

 ドガースの肉体で生成される毒霧は無数の毒素菌の集合体であり、吸引あるいは経口摂取によって対象に感染症を引き起こさせる毒素である。

 この場合取り込んでしまった対象は、吐き気・嘔吐・下痢などの症状を皮切りに、次いで視力障害・言語障害・嚥下障害などの神経症状に至った後に死に至る、極めて殺傷能力の高い毒素であると言えた。

 

 そのことはこれら毒の生成元であるドガースも、理屈などは知らずとも理解している。

 これが攻撃手段として万能であるとは思わずとも、少なからず防衛手段としては一定以上の効果があるものだと自負して然りのドガースではあったが……目の前の光景にドガースは驚愕に表情を歪めざるを得ない。

 

 見据える視線の先のカリクは、事もあろうその毒のただ中で大きく深呼吸をしていたのだった。

 粘着質な毒切りが細くよじられてはカリクの鼻孔に吸引されていく様子からも、毒は確実に対象の体内に吸収されている筈である。

 それにも拘らずそのカリクはいえば、遭遇した時と変わらぬ様子で平然としていた。それどころか目の前のカリクはどこか楽し気で溌溂としている感すらあったのだ。

 

 実際のところ、カリクはご機嫌であった。

 なぜならばこの時、カリクは鼻腔内に充満するこのドガースの毒霧を甘美なものとして享受していたからだ。

 

──あぁ……なんていい匂いなんだろう……♡

 

 香り始めに多少の癖は感じられるものの、むしろそれがアクセントとなっては香の全体を引き締めている感すらある。

 そんなものだから毒の効果も希薄であり、従来通りの効果がカリクに現れる様子は一向としてない。

 

 焦ったのはドガースだ。

 球体の表皮を波打たせるとさらに大量のガスを発生させるも、それらは余すところなくカリクに吸収されていく。

 むしろより多くにそれを発生させればさせるほど、カリクはそれを求めてドガースへと近づきつつあった。

 そんな接近に合わせて後退っていると遂には壁面の一角に追い込まれてはドガースも退路を失う。

 

 覆い被さるようドガースに影を落とすカリクは、恍惚としたその表情に中に明らかな笑みを表示させた。

 それを目の当たりにした瞬間、ドガースの全身は戦慄に支配されては硬直する。

 

 笑いの表情とは──威嚇のそれであるからだ。

 

 次の瞬間、ドガースは自身の球体を両脇からカリクに抱きかかえられる。

 四肢を持たず、移動も気流任せなドガースにはこうなるともはや抵抗の術はない。

 そこから一体カリクに何をされるものかと見守っていると、視線の先のカリクは安らかに瞼を閉じるや口唇を窄めさせた。

 そして僅かに突き出させたそれを近づけるや、カリクの唇はドガースの口を塞いでしまう。

 言わずもがなのドガースとヌメルゴンによるキスの光景ではあったが、事はそう平和的なものではない。

 この時のドガースは激しくカリクに吸引されていたのだ。

 

 カリクの巨躯から繰り出される吸引とあっては、ドガースの体内に充満する毒ガスはおろか体液に至るまで残ることなく吸引されていった。

 表皮のクレーターから吹き上がっていたガスはやがて途切れ途切れとなり、ドガースの瞳もまた深く皺が寄っては収縮していく。

 球体の形状とあってはさながら風船がしぼんでいくようにドガースは縮小していき、やがては──紙に書かれた絵のよう、平面的とされたドガースがカリクの腕の中でその身をしならせては項垂れていた。

 

 そんなドガースを鼻先まで抱き上げるとカリクはまじまじとそれを見つめる。向けられるその視線は波立つように潤んでは、熱視線となって向けられていた。

 この時カリクの胸中に生じていたものは強いときめきであった。

 

 これほどに豊潤で美味な煙を提供してくれた目の前のドガースに対する愛情が、正に食べてしまいたいほどの衝動となってカリクの胸を焦がしていた。

 それを表すよう、カリクは萎んだドガースの頬へ激しく口唇を吸い付けさせてはキスを施すと……やがてはドガース本体もその口中に吸い込まれてはカリクの体内へと飲み込まれていく。

 

 これこそはカリクなりの究極の愛の代替行動であった。

 その証拠に食事などではないそれは、一切の咀嚼を行うことなく丸呑みでドガースを胎内へと迎え入れていく。

 やがては完全にドガースを飲み込んでしまうと、直後カリクはドガースの毒霧と同様の気体を激しくげっぷと放屁によって体外へ排出させてはさも恥ずかしげに笑う。

 そんなカリクへと──

 

『ドガースとの遊びは楽しかったかいカリク?』

 

 室内に響き渡るスピーカーからの声にカリクは小首を上げてその方向を注視する。

 やがては見上げたそこに監視カメラを発見するや、カリクは今の遊び相手の提供を感謝するよう、両手を振った。

 

『喜んでもらえたようで嬉しいよ。──でも今日はまだまだ君の友達がいるんだよ。みんなと一緒にたくさん遊ぼうね』

 

 次いで掛けられるスピーカーのその声に、カリクの期待は更に高鳴る。

 そうして再び開け放たれた両開きの扉そこからは、その身を波打たせながらハブネークが一匹進み出てきた。

 

 かくしては対面を果たす両者。

 見つめ合うカリクとハブネークの表情には──それぞれに満面の笑みが湛えられていた。

 

 

 

 

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