※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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エピローグ

 

 

 人の手によるポケモンの人工生成──組織がそのプロジェクトに着手してから既に20年となる。

 

 現在に至るまで凡そ不可能と思えたこの研究はしかし、一人の科学者の登場により飛躍的な進歩を遂げる。

 この研究の利点は煩わしい進化や教育・成長を経ず、任意の進化とそして技とを持ち合わせたポケモンを生み出せることにあった。

 そのプロジェクトにおいて多少のトラブルは生じたものの研究は順調で、不完全ながらも培養後に完全自立するポケモンの生成にまで組織はこぎ着けた。

 

 このままとんとん拍子に計画は遂行されるかと思いきや──最後の段階において思わぬ展開が待っていた。

 研究のリーダーを務めていた科学者がとある理由から組織を抜けた。

 これにより研究は一時的な停滞を余儀なくされる。

 

 研究データやそれへ至るプロセスは確立されているにも拘らず、件のリーダーが抜けてから以降は、思う成果を残すことが出来なくなった。

 肉体の生成まではこぎ着けるものの、神を介さぬこの営みからはしかし、作り出したポケモンへ『心』を宿すことは叶わなかった。

 以前にあったトラブルのひとつに、生成されたポケモンが培養シリンダーを脱し、その後研究員達を惨殺するトラブルがあったが、それでもかのポケモンには自身を律する精神性は備わっていた訳である。

 

 しかしながら今現在のリーダーを欠いた実験では、肉体までは作り出すことは出来ても、そのポケモンを自律的に動かすことは叶わなかった。

 これこそは天才ゆえの弊害であるのだろうが、リーダーであった科学者はその『心(精神)』を生み出させる為の僅かな機微を、自身の感覚で行っていたようであった。

 それでも彼が中心となり研究が続いていたのならば、いずれそれも誰しもが再現可能な数値化に成功したであろうが……再三、彼はこの研究所を去ってしまっていたのだ。

 

 組織としても彼の行方を八方手尽くしては捜索したが、稀代の天才の潜伏スキルは生半ではなく、所詮は凡人の集まりであるところの組織では到底彼に辿り着くことは不可能であった。

 

 当然ながら、この失敗を補うための代替案も試行錯誤された。

 そしてその末に辿り着いた方法こそは──心においては他者の魂をそこへ込めるというものを考案する。

 

 仕組みとしては従来通りにポケモンの肉体を生成し、さながら子供向けのショーで見られる着ぐるみの如く、人間が入り込めるよう細工をしておく。

 そして後ほど、その肉体と適合できる人間を探し出しては遺伝子や体質の調整をして、そこに組み込むという方式を取った。

 

 この場合、肉体となるポケモンは所謂『ハード』であり、その中へと組みこまれる人やその他の生物は『ソフト』という事になる。

 当初こそは、本来の目論見から外れた代替案であったこれではあったがしかし、後に考えた場合、融合すべきソフトに教育が完了していれば、合体後そのポケモンは即戦力として組織に組み込めることが可能である事が分かった。

 一からの教育を必要としない分、この方式の方が遥かに効率的とも言える。

 

 そして今回、その実験の一号として作られたハードが『ヌメルゴン』であり、そしてそこに組み込まれるべきソフトが『カリク』であった。

 

 実験は上々の結果をもたらせた。

 実に一年に渡る治験でカリクの肉体改造を済ませていた事もあり、この実験は数回の調整を経ることで、ほぼ拒否反応や身体機能への障害も無く同化を成し遂げるに至る。

 

 しかしながら、それでも問題はまだ山積みだ。

 無事に人工製造させたヌメルゴンへ自我を移植させることに成功はしたものの、その精神は強く肉体(ポケモン)側の性格へ引き込まれることとなり、完全に一体化して定着する頃には人間(カリク)の精神は微塵として残らなかった。

 

 しかしながらカリク時代に学習した言語や計算能力、そして知識と身体能力においてはほぼ障害も無く引き継がれていた。

 後は生成するポケモンに胎教ともいうべき教育と、さらにはソフトの人格へ影響を与えないよう更なる実験と調整は必要となるが、それも時間の問題であろう。

 

 今回の実験において生成されたヌメルゴンは、毒ポケモンの因子を取り込むことの出来る能力を備えていた。

 その力を同化後に揮えるか否かが今回の実験の重要項目ではあったが──件のヌメルゴンはほぼ本能により自身の能力を理解しては、次々と宛がわれた毒タイプのポケモン達を吸収していった。

 そうしてその繰り返しの果て、カリクは他に例を見ない強力な毒ポケモンとしての完成を見る。

 

 後はこのポケモンのより実践的な効果を測るばかりだ。

 具体的には彼女が人間に対してどのように接し、さらにはどんな結果をそこへ齎すのかを知ることにあった。

 そして今回──その実験の為、新たな人員がこのプロジェクトへと提供されることとなる。

 

 その人物は敵対組織の少年構成員であり、偶然彼を捕まえた組織の上層部から実験体として下賜された物であった。

 ヌメルゴンの殺傷能力はもはや証明済みである。ならば今度は、そんな彼女がどれだけ対象を生き永らえさせることが出来るのか……それを測る為の実験がいま行われようとしていた。

 

 この実験にはより細かな彼女の肉体操作が必要とされ、もしこの猛毒のポケモンが意図的に対象を生き永らえさせることが出来たのならば、その利用価値はさらに可能性を広げることとなる。

 

 

 かくして研究所は、かの少年とヌメルゴンの接触を試みる──

 これより始まる新たな実験を今、ここにスタートさせたのであった。

 

 

 

■    ■    ■

 

 

 自室にて身を丸めて眠るカリクは幸福であった。

 

 もはや自分がポケモンに成り替わってしまった事への疑問も不満もない。それどころか今となっては『人間(カリク)』であった頃の記憶の方が曖昧となっては、人間であった記憶こそが一夜の夢であったのかと思うばかりだ。

 

 しかしながらそんなカリクにおいても、現状の境遇に対し一抹の寂しさを覚えることがある。

 それこそは──何者かと番(つがい)になり、そして子を儲けたいという本能的な欲求であった。

 

 日々、紹介される多種多様な友達(ポケモン)も『遊び相手』としては申し分も無かったが、こと『生涯の伴侶』ともなるといささか勝手が違う。

 願わくばその相手は、元の自分と同じ『人間(ヒト)』であることが望ましかった。

 そして若く、自分よりも小柄で可愛い人であるのならばいう言うことも無い。

 

 そんな出会いを毎夜、眠りに落ちるその瞬間に夢想しては胸をときめかせるカリクではあったが──その想いは遂に現実のものとして叶えられることとなる。

 

『やあ、カリク。今日は君に紹介したい人物がいるんだ』

 

 その日のスピーカーから伝えられる放送は、いつにない言葉で始まった。

 何事かと思い耳を傾けているとそれは、思いも掛けない提案をカリクへとする。

 

『今日はね、君にボーイフレンドを紹介しようと思う。君が願ってやまなかった……恋人をね』

 

 その言葉を耳にし、そして自分の中で反芻した瞬間──カリクの頭の中は真っ白となった。

 同時に遂に求めて止まなかった存在が現れてくれることに大いに興奮もした。

 

『だけどその子は君よりもずっと弱くて繊細なんだ。だから今までの友達のように、すぐに壊さないよう気をつけて扱うんだよ』

 

 スピーカーの案内と共に壁面の一角にある扉が開け放たれては、その先に通じる通路をカリクの前へと示した。

 この先に夢にまで見た自分の恋人がいると思うと、そこを辿るカリクの足は自然と駆け足となる。

 

 やがては一枚の鋼鉄製の扉の前へ辿り着くと、カリクは興奮に弾んだ胸を沈めるよう深呼吸をする。

 そうして扉のハンドルに手を掛け、カリクは逸る想いを愉しむかのようにあえて自身を焦らしながらゆっくりとそれを押し開く。

 

 完全に扉が開かれると、縦長のこじんまりとした室内には少年が一人、両手足をくくられた状態で鎮座していた。

 

 それを目の当たりにし、そしてそんな彼こそが自分の番なのだと理解した瞬間──この肉体の精神は完全に一匹の雌(ヌメルゴン)として書き換えられた。

 その部屋の中へと歩み入り、その実感を胸に溢れさせると同時、喜びも相成って少年を抱きしめた後はもう──彼を愛する事しか考えられなくなっていた。

 

 

 もはやそこには、二つの生命しか存在してない。

 かくして一匹のヌメルゴンと一人の少年がいるばかりがいるこの瞬間において、

 

『カリク』の存在は、完全にこの世界から消滅してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

【 怪しい仕事・完 】

 

 

 

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