※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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第6話・クチートの嘘

 

 

 あれからどれくらい過ぎた事か……いつの間にやら寝入ってしまっていたエイジスは、枕もとで蠢く何者かの気配で目を覚ました。

 

 右に身を横たえた姿勢のまま、寝ぼけまなこの視線だけを転じると──そこにはヘッドボードに立てかけたタブレットの前に立ち尽くすクチートの後ろ姿が窺えた。

 いったい何をしているものやら、そのまま声を掛けずに見守っていると、今なお撮影が続いているそこに向かい、自身の膣を両手で押し開いてはそこに貯められたエイジスの精液が滴る様をカメラに晒しているようであった。

 

 加えてその中へ立てた人差し指なども差し込むと、音が立つほどに撹拌しては更に奥まった場所のそれも掻き出してきては放屁さながらの下品な水音と共にそれが溢れる様も写していた。

 

 やがてはその撮影も終えると、クチートは二言三言を小声でそこに語り掛け……後はタブレットを両手にし、ようやくに撮影モードを解除する。

 後はベッド上に内腿を付けるようにして座り込んでは、タブレットへのチェックに余念が無いクチート──その段に至りようやくエイジスもまた、

 

「ん……起きたのかい、クチート?」

 

 さも今目覚めたかのよう振舞ってはその背後から声を掛けた。

 声を出す直前にはわざとらしく身じろぎのひとつもしていたことから、クチートもまたエイジスの目覚めに気付いては取り澄ました様子で振り返る。

 そうして互いの視線が合うと、期せずして二人の胸中には暖かいものが込み上がった。これは何の演技も打算も無い本心からの気持ちだ。

 

 タブレットを、液晶画面を伏せるようにしてベッドに置くとクチートもまた四つん這いに這ってきてはエイジスの鼻先へと顔を近づける。

 そうして猫の挨拶のよう口先を数度触れ合わせた後、二人は深くキスをした。

 上唇をついばみ、相手の口中に舌先を侵入させては絡ませ合う濃厚なものであったが、そこについ先ほどまでの燃えるような熱情は無い。

 親しみとリラックスのキスが今のそれであった。

 

 やがては頭の向きもそろえると、依然として唇を交わしたまま体を預けてくるクチートを、エイジスも両腕の中に抱きしめては左右に寝がえりなど打って過ごす。

 

 幸せだった……。

 このまま時が止まり、永遠にこの空間で過ごせたのならばと二人は真に思った事だろう。

 しかしながら、そんな楽園などこの世界になど存在はしない。

 いずれは時が二人を引き離す……だからこそ、エイジスは心に秘めていた『それ』の確認をクチートへとしなければならないのだった。

 一頻り愛撫を交わし、再び互いの視線を交わした時──遂にエイジスは終日胸に抱いていた疑問をクチートへと尋ねる

 

「クチート……本物の『マチルナ』は、何処にいるんだい?」

 

 その質問を理解した瞬間、クチートは赤く煌めく瞳を文字通り目一杯に見開いてはエイジスの顔を凝視する。

 そうしてその表情のまま固まったクチートの顔には何の感情も見ることは叶わない。事実、混乱のあまり思考停止状態に陥ったまま固まってしまっているのだろう。

 そしてその態度こそが、クチートが『マチルナ』を騙ってエイジスに会っていたことの証拠であり……そして同時に、そんな表情でさえエイジスは彼女を美しいと思った。

 

 一方のクチートは僅かに開きかけた口元を僅かに震わせては何か言葉を紡ごうともした様子であったが……やがて固まっていた表情が解け、代わりに深い悲哀をそこに湛えては視線を伏せると、観念した様子でその額をエイジスの胸元に預けてきた。

 

「……最初の疑惑はね、そのタブレットでの会話だったんだ」

 

 斯様なクチートを優しく抱き寄せると、慈しむようその後ろ頭を撫ぜながらエイジスは自分の気付きを語って聞かせる。

 

 曰くエイジスには、タブレットに表示される会話とクチートの行動が噛み合わないと思える瞬間が多々あった。

 最初こそはさして気にもならなかったものの、決定的な疑惑が生じたのは水族館に入ってからである。

 個別の展示コーナーにおいておどけるエイジスの仕草にコメントをしたり、はたまた展示生物の説明を求めたりする時のタブレット上の文面は、明らかにクチートの操作を待たずして入力されていたように見えたのだ。

 

 その異変に気付いたある瞬間、エイジスは次のコメントが入力されるであろうタイミングを見計らいクチートの手を取って次の展示へと走ってみせた。

 クチート自体もその時は大はしゃぎにそれを愉しんでいたからエイジスの行動を疑問にも思わなかったであろうが、その実──次の展示へ着くなり、入力する隙も無かったはずのタブレットへと表示される『前の展示へのコメント』に対し、エイジスはタブレットの先に自分達以外の第三者がいることを確信した。

 

 それでもしかし、エイジスはその疑問を口に出すこともしなければ、その場で問い詰めるような真似もしなかった。

 なぜならこの時のエイジスは既に……──

 

「もう君のことが好きになってた。クチートが目の前にいてくれれば、何でもいいって思えたんだ」

 

 告げられるエイジスの言葉を受け、胸元にすがるクチートの両手が強く握られる。

 

 かくして水族館デートは終わりを告げ、後はそれぞれの思い出を胸に帰路へ着くばかりとなったその時、クチートは──否、タブレットの向こうにいる『マチルナ』はクチートへと次なる指示を与える。

 それこそは、

 

──『お願い、エイジスとエッチして。彼の思い出を共有させて……!』

 

 エイジスの胸から離れたクチートは、再び例のタブレットを持ち出してきてはそこに残された『マチルナ』との密かなやり取りを見せてくれた。

 その瞬間、愉快犯的にからかわれていたものかとも疑っていたエイジスはしかし、この日マチルナとクチートの間に交わされていたやり取りを目の当たりにしては息を飲んだ。

 そこに残されていたものは……

 

──『今日のデート楽しみだね、エイジスの顔ちゃんと映してね』……

──『動いてるエイジス、かっこいいね。こっそり横顔の写真も撮って』……

──『リユルン綺麗だね……お願い、エイジスと手を繋いで』……

──『こんなに楽しいの初めて。もっと色んなことを聞いて。エイジスの声を残して』……

──『彼と離れたくない……まだ今日を終わらせたくない………』……

 

 

──『お願い、エイジスとエッチして。彼の思い出を共有させて……!』……

 

 

 ……そこに残されていたものは、今日のデートを心から楽しんでいる少女(マチルナ)の、切ないまでの恋心であった。

 

 それを確認した時、エイジスの胸には騙されていたことへの憤りではない、胸締め付けんばかりの切なさが込み上がる。

 これこそはエイジスが数年にわたり付き合い続けてきた追憶の女性(ひと)に違いなったからだ。

 

 小さく、しかし深くため息をつくとエイジスはタブレットを伏せる。

 そうしてそんな自分を傍らから涙目で見守っていたクチートに気付き、もう一度抱き寄せてはキスをした。

 

「クチート……二人で、帰ろう」

 

 深く抱きしめたまま、その耳元でエイジスは囁く。

 そうして身を放し、驚きの表情を向けてくるクチートに対し、

 

「僕は、君もマチルナも大好きだ。だから会いたい。3人でいろんな話がしたいよ」

 

 飾りも衒いも無い本心を打ち明けた瞬間、見開くクチートの瞳から真珠のような大粒の涙が溢れ出した。

 やがては感情が表情に追いつき、眉元が寄って口角が下がると──後は子供のようにクチートは声を上げて泣いた。

 

 

 そんな彼女をエイジスもまた黙って抱きしめる。

 ようやくにエイジスは、クチートと一つになれた心地がした。

 

 

 

 

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