再びソファに並ばされた三匹は順次、スリーパーによる催眠術によって記憶の抹消とそして心的外傷のケアが行われていった。
その様子を彼の背後から見下ろしながらに見守るツミコは、この状況を作るに至らしめてしまった自身の性(さが)を酷く呪い、そして嫌悪するのだった。
生来、性欲の強かったツミコはその人生において常にセックスパートナーを探すことに明け暮れていた。
夫と知り合うまでも幾人かとの交際相手を経たし、同時に複数人などと羽目を外したことだってある。
それでもしかしツミコは都度その相手を愛していたし、今現在であっても夫への愛は揺るがないものであるとも自負していた。
しかしながら心はそうであっても体ばかりはそうはいかない。
どの時の相手も最初はツミコの積極性を前に興に乗って相手をしてくれた。
しかしながらその求める頻度が尋常ではない状況にやがては辟易とし、最後には恐怖を抱いては皆、ツミコの前を去っていった。
唯一夫だけはそんなツミコに理解を示してはくれたものの、体力的にもその相手を努め切ること叶わず、最近では半ば夫婦間でのこの話題はタブー視さえされていた。
ツミコ自身、出産を経て齢を重ねればこれも落ち着くだろうと楽観視もしていたが……事態は収まるどころか年々に彼女の性欲を強くさせ、遂には人格の一部にさえ歪みを生じさせるまでに至る。
もはや辛抱も限界を迎え、ある時無秩序に性的パートナーを探しに出ようかと決意した時──そんなツミコを救ってくれたのが娘のパートナーであるスリーパーであった。
元より他者の心を覗ける能力を持っていた彼は、一早くツミコの不穏な気配を察しては、この家庭の鎹と為るべくに身を呈しツミコの相手を努めてくれたのだった。
これにより一家の家庭崩壊は未然に防がれ、ツミコ自身も今後は夫とこのスリーパーを交互のパートナーとすることで平穏を得られると安堵した。
……のも束の間、事態はスリーパーの介入によってより深刻な事態へと陥ってしまうこととなる。
事もあろうツミコの興味は人間だけに留まらず、ポケモン達へもその食指を伸ばし始めたのだ。
そうなると生来の好色もあってか一切の抑えが利かなくなってしまった。
幾度かスリーパーの催眠によりこの歪んだ性情を修正できないものかとも試みたが、もはやひとつ『癖』であるこれは忘れさせることは元より、一切抑えることも叶わなかった。
彼女の性欲は後天的に得られたものではなく、持って生まれたツミコ特有の体質にも近い。
精神的な問題などではなく、一生物としての生態に由来するそれを催眠で抑えられようはずもなかった。
この段に至り彼女は再び限界を迎える。
私生活においては長男となる息子も生まれ順風満帆な家庭を気付きつつも、その実ツミコ自身は崩壊の危機にあった。
もはやスリーパーにしても彼女を抑えることは叶わず、外にこの欲望の発散を委ねられる相手を探すしかないと苦渋の決断を覚悟したその時……二人は安易に多種多様の相手を選別しつつ、比較的リスクの少ない調達法を見出すこととなる。
それこそが娘や息子の友人が連れているパートナーポケモンを毒牙に掛けることであった。
下準備としてはまずは彼らを自宅へと招き入れる。──これ自体は子供達の友人をこの家へ招待すれば自動的に叶う運びとなる。
そして隙をついてはスリーパーがそのポケモン達へと暗示を掛けるのだ。
それこそはツミコを性的に玩弄することを願わせたり、あるいは強く彼女へと恋心を抱くよう仕向けさせる。
その際にツミコの命令には従順になることもまた刷り込んでは、一連の下準備も終える。
後は周知の通り、暗示に掛けられたポケモン達はツミコの元へと通っては彼女の望むオスとなりそしてシチュエーションで恋愛演技をする人形と化す。
ある時は純朴なポケモンをツミコが誘惑し、またある時は一方的に彼女へと詰め寄る強気なポケモンとして無理矢理に肉体関係を結ぶ……斯様な茶番がスリーパーの協力の元、繰り返されるようになった。
そうして一定の期間ツミコを悦ばせたポケモン達はその締め括りに、最後は再びスリーパーから処置の催眠を受けるのだ。
ツミコと性的交渉を持った期間の記憶を一切消され、後にこの体験が自身の癖に干渉しないようケアも同時に受ける。
そうして何事も無かったかのようポケモン達は後腐れも無く、それこそ自分達が酷い児童虐待に遭わされていたことも知らずにツミコとの関係を終わらせるのだった。
しかしながらその別れの瞬間、いつもツミコは酷い罪悪感と自己嫌悪に駆られる。
自身の欲望の為に彼らを利用している自覚は同時に、そこへ強い葛藤もまた覚えてはいた。
虫の良い考えではあろうが、生来のツミコは優しく思いやりあのある人間だ。
それゆえに自身の性情に苦しめられている状況を考えた時、彼女もまた一人の被害者であると言えた。
今もまた自分が傷つけてしまった子供達を見下ろしながら、ツミコは胸が潰れる思いでその傍らに跪く。
「こんなこと……謝って済まされるようなことじゃないことは分かってる。でも、ごめんなさい………本当に、ごめんなさい……ッ」
穏やかに眠り続けるラビフットの頭を抱きしめるとそこに押し付けた目頭から伝わった涙が彼の額に落ちては幾筋もの涙の痕を残してその無垢な顔の上を滑り落ちていく。
しばしそうして嗚咽を漏らすツミコを、背後からその肩に手を掛けたスリーパーが優しく労わる。
やがて子供達はそれぞれに目を覚ますと、夢遊病患者さながらに歩き出しては帰路へとついて行った。
今後二度と今日までの出来事を思い出すことも無ければ、そしてツミコを抱くことも無いだろう。
謂わばその永遠の別れを前に、ツミコはいつまでも玄関先に佇んでは去り行く彼らの背を見送るのだった。
微動だにせず夕暮れのその中にいるツミコへと、スリーパーも再び慰めの……あるいは気持ちを切り替えようとあえて明るい調子で声など掛けようとしたその時だった。
「………ねぇ、知ってる?」
依然として前方を見つめた姿勢のまま微動だにせずツミコは語り掛けてくる。
そのあまりの唐突さと、そして一変して声の尾に笑みを帯びさせた口調にスリーパーの不整脈は一気に表面化しては胸の内をざわつかせる。
「マイのお友達のパートナーってね……みんな最終進化系で、みんなすごく大きいの」
いつしか不穏な空気が漂いだしていることにスリーパーは不安を感じずにはいられない。
一連の操作をする自分の催眠とて万全ではない。
中間進化までならば抑えられようが、それが最終進化形に至っては今まで通りに拘束や洗脳することの保証は持てない。
故に、今の会話がどうか他愛のない世間話であってくれることを祈るスリーパーではあったが……──
依然と振り返ることなく尋ねてくるツミコの声は──笑いを堪えるよう甲高く上ずっていた。
それこそは聞き違えようもない、あの悪魔の声そのものである。
「ねぇスリーパー……今度はその子達で遊びましょ? 今度のお休みの日にでも、みんなを招待する様にマイに言っておくから、また協力して頂戴ね♡」
また新たな宴の支度が為されようとしていた……そしてもはや自分もそこから逃れらないことを悟り、スリーパーもまた頷くとも判然とせぬ様子で俯くとその顔を伏せた。
そんなスリーパーを背後にし、今日という日の終わりの斜陽で赤く染まり上がるツミコの貌は──
薄い笑みの口角を吊り上げ、弓なりに歪めた下瞼の視線を虚空へと漂わせてはさも愉快げに嗤うのだった。
【 有閑妻の気怠い午後・完 】