第1話・俺と妹達
俺の勤めるサザンファームは、馬タイプポケモンの繁殖と仔馬育成を担う生産牧場だ。
この牧場は牝馬の種付けから出産までをサポートする傍ら、さらには生まれてきた仔馬達を将来ポケモンバトルや競走馬としてデビューできるように調教やトレーニングを行ったりもする。
そして今現在、俺は三頭の子供達の世話に追われていた。
今も飼葉の準備に追われる俺にちょっかいを出してきたのは……
「こら、ポニータ。朝飯の支度が出来ないだろー?」
作業着の袖など引いてきては上目遣いに悪戯っぽい視線を送ってくるガラル・ポニータに、俺も一時作業の手を止めては鼻を鳴らす。
そうして朝の挨拶ながらに虹色の鬣など撫ぜてやると、ポニータは瞳を細めては声を高くし、より一層に甘えてきては身を寄せるのだった。
彼女は一年前に生まれた牝馬であり、もはや俺のことを兄同然に好意を寄せてくれていた。
そうしてなおも首筋など押し付けながら愛撫をねだる彼女を撫でていると、俺は嫌な気配を背後に感じる。
その矢先──
「うおッ!? ……またお前かッ!」
突如として尻に重たい衝撃がぶつかってくるのを感じては俺も声を上げた。
ポニータの額に手を置いたまま首だけ振り返らせれば──視線の下には一匹のシママが頭突きさながらに頭頂部を押し付けては俺の腰元を圧迫している姿が見えた。
依然として頭を押し付けつつも、鼻息荒く上目で俺を見据えてくる表情からは強い憤りと嫉妬の感情が見て取れる。
そんなシママを背後にしていた俺もその場に屈みこむと、改めて彼女にも向き直ってはその首に右腕を回して荒っぽく撫ぜてやる。
最初こそ憤慨しきりな様子のシママではあったが、こうして視線を合わせながら首周りを撫でていると──
「まったく……お前は忙しい奴だなー」
今度は極端に上機嫌になってはキスさながらに鼻先を俺の顔へと押し付けて甘えてくるのだった。
そうして左右の腕にポニータとシママを抱く俺は、ならば『もう一匹の妹』もまたここに居るであろうことを察する。
依然として両腕の中に妹達を愛撫しながら視線を巡らせれば……俺達から少し離れた場所において、所在なげに立ちつくしてはこちらの様子を窺っているドロバンコもまた俺は発見した。
「ドロバンコ、お前もおいで。朝の挨拶をさせてくれ」
俺からの語り掛けにその一瞬両肩をすくめてはおじぎするよう頭を垂らしたドロバンコではあったが、上目遣いのその視線は一時として外れることなく俺へと注がれていた。
やがてはおずおずと近づいてきては鼻先を近づけて俺の匂いを嗅いでくる彼女を、
「おはようドロバンコ。今日も元気か?」
俺は左右にしていたポニータとシママから両腕を離すと、今度はそれを以て正面のドロバンコの首を体全体で抱きしめた。
俺からの抱擁にドロバンコも一瞬悲鳴のような声を上げたが、すぐにそれも落ち着いて今度は自分から身を乗り出しては抱き返すよう、その長い首筋を俺の肩の上にもたらせてくるのだった。
先の二匹とは違い、引込み思案の彼女はこうして俺から迎え入れてやらねばならない。
そんな俺の抱擁に対し、ポニータとシママは「えこひいきだ」とでも言わんばかりに揃って抗議の声を上げては、ドロバンコの左右に着けてきて分け隔てない愛撫をねだってくる。
そうして首を揃えて甘えてくる姉妹達を俺も苦笑まじりに順から撫ぜてやるのだった。
この三匹はここサザンファームにおいて同日に生まれたポケモン達であった。
ご覧の通り種別こそは違うものの、全員がメスで同年代とあってか三匹は姉妹同然に互いを認識しては常に行動を共にしていた。
その中において長女を自認するポニータはしっかり者の炎タイプポケモンだ。
幼いながらも自分自身の容姿や能力に確固とした自信を持っており、自分の意見や行動は臆することなく通してくるタイプだ。
それゆえに飼育員である俺へのアプローチはいつもストレートで、こちらの都合などおかまいなしにちょっかいを出してきては、自分への奉仕を強要してくる。
そしてもう一匹のシママは次女といった趣の電気タイプポケモンである。
彼女に関しては誰よりも嫉妬深いことがその特徴として上げられた。
ワガママではあっても自己を確立しているポニータとは違い、シママはいついかなる時でも俺の意識が自分へと向いていなければ気が済まないという強気な性格をしていた。
今だって、先んじてポニータを愛撫している様子に気付いては悋気を昂らせてきたことからもそれが分かるだろう。
そして最後となるドロバンコは引込み思案の末っ子である。
地面タイプの彼女はいつだって先の二匹からは一歩後ろに退いて、姉達の行動を見守るタイプだった。
しかしながらだからといって俺に関心が無いわけではなくその実、姉妹内でも一番俺に対して執着を持っているのは彼女かも知れなかった。
それにも関わらず奥手な性格から前に出ることの出来ない彼女は、ともすれば俺の愛情が先の二匹よりも少ないとひどく傷ついては体調を崩してしまうことも珍しくはなかった。
だからこそ彼女の扱いには人一倍の気遣いを見せる必要があるのだ。
そんな三匹の妹達と過ごすファームでの生活はその毎日がトラブルの連続だ。
一見性格がバラバラの三匹ではあっても、その行動は常に一緒であり、そして気持ちもひとつだった。
寝起きも一緒ならば、イタズラをして怒られる時も一緒──そして三匹は互いを掛け替えのない姉妹として大切に想い合っていることもまた一緒だった。
だから俺も、斯様な彼女達に振り回されつつもしかし、今の生活をとてつもなく尊くて大切なものに思っていた。
願わくばいつまでもこの関係が続いてくれればと思う俺ではあったがしかし……その『事件』とそして、俺達の『兄妹』という関係性はいとも容易く崩壊してしまうこととなる。
その最初のきっかけとなったのは長女であるポニータとの『とある事件』であった。
事もあろう俺達はその時……思いも掛けず、男女の一線を越えた間柄となってしまったのだった。