ヤミラミ達に伴われ、俺達は洞窟の奥へと連行されていた。
別段暴力的な仕打ちを受けた訳ではなかったが、あの人数で立つことを促されてはもはや、その圧には抗うことなど出来なかった。
しかも驚くべきことにそんなヤミラミ達の数たるや、斯様に俺達を迎えに来た人数だけに留まらない。
洞窟内を進むほどにその道中や天井には新しいヤミラミ達が控えていて、その前を通る度に彼らもまた列に加わりと、いつしか狭い洞窟内はヤミラミ達でひしめき合う状態と化していた。
その最中で気付けばパーモットも消えていた。
彼女あるいは俺だけが個別に連れ去られたというよりは、このひしめくヤミラミの波に飲み込まれて引き離された感がある。
俺としてもそんな彼女とは離れたくなかったが、如何せん前に進み続ける行進の波には抗いがたく、結果俺は誘われるままに歩き続けているといった有り様だった。
しばし洞窟内を進むと途端に視界が開け、見上げられるほどの広場へと出た。
さながらドーム状となった広大なそこは周囲がうすぼんやりと照らされては、辛うじて互いの顔を確認する程度の光量で満たされていた。
しかしそれというのも全ては、さらに此処に居た無数のヤミラミ達から放たれている瞳の光であることが察せられる。
見上げる天井は元より見渡す広場のいたる所にその輝きがあることからも、相当数のヤミラミ達が此処に居ることが確認できた。
その中に放り込まれてはもはや、俺に逃げる隙や暇などあろうはずもない。
異様とも取れるその大量の光景に気圧されながら、なおも俺は促されるままに進んだ。
やがて広場の突き当りまで進むと、ようやくにその行進は止まる。
いつしか先頭に立たされていた俺はそこにて──規格外に巨大なヤミラミと対峙することを余儀なくされた。
通常は50センチほどが平均のヤミラミに対し、目の前のそれは優に2メートル近い上背と身幅を誇ってはそこに鎮座していた。
いわゆるこれはヤミラミのオヤブン化であり、そして文字通りにこれがこの巣のボスであろうことは言われずとも察することが出来た。
その異様に圧倒されるあまり、見下ろしてくるそれと視線を合わせたまま固まる俺へと……かのボスは呻きともつかない声を発してきた。
依然としてこちらを見据えながらに紡がれるそれは、明らかに何らかの言語と思しきものではあったが、あいにくにも俺はその言葉が理解できない。
こんな時にこそパーモットがいてくれればと臍を嚙みながら、頼りなくも俺は一応携帯していた翻訳機の端末に電源を入れる。
そうして再度ボスからの言葉に耳を傾けようとしたその瞬間──
『──ダンナさんッ!』
何処からか響いてきたパーモットの声に俺達は顔を上げた。
そうして声の響いてきた背後を見遣ると、そこに息せき切らせて駆け寄ってくるパーモットの姿を確認し──
「パーモット!」
俺は心そこから安堵しては深いため息をついた。
やがては辿り着く彼女と俺は無意識に抱き合う。
『ゴメン、ゴメンネ……ヤミラミが多クテ、追いツケなかったノ』
「大丈夫だよ、それよりもパーモットは無事か? 変なことされてないか?」
『ウン、ヘイキだヨ。ダンナさんも無事ナンだよね?』
互いの身を心配し合う俺達は、もはや『人とポケモン』などという他人行儀な間柄ではなくなっていた。
それこそ離れ離れになった相棒……というか恋人と再会出来たかのような安堵と喜びが俺の胸には満ちていた。
そしてそれはパーモットも同じであったようで、俺達は周囲で見守るヤミラミ達にもお構いなしに幾度となくキスを交わす。
しばしして我に返った俺は改めてこの状況を手短に説明する。
パーモットもまた件のボスへ向き直ると、その迫力に圧倒されては一瞬身を強張らせた。
それでもしかしすぐに気を奮い起こすと、彼女はさっそくボスとの対話を試みる。
幸いにも先方に危害を加えようという気配は窺えず、その会話内容は知れずとも言葉を交わし合うパーモットからは自然と緊張が解けつつある様子も見受けられた。
やがては一通りの対話を終えるや、パーモットは神妙な顔つきで俺へと振り返る。
「ど、どうだった? 彼らは何て言ってるんだ?」
『あ、アノネ………』
緊張した面持ちで尋ねてくる俺に対し、それを上目に見つめ返してくるパーモットは所在なげに身を捩じらせたり足の踏み位置を変えながらと、もじもじした様子でその返事を応えあぐねていた。
やがては意を決したのか、彼女は恐るべき対話の内容を俺へと明かす。
それこそは……──
『ソノネ……ヤミラミ達、ウチとダンナさんの『コービ(交尾)』が見たいンだって……』
恥ずかしさに眉元を強張らせながらも、その視線がどこか期待を帯びて嬉しげに見えるのは俺の気のせいだろうか?
そんな彼女とは対照的に一方の俺はその瞬間、そのあまり馬鹿馬鹿しさに放心しては表情を失くした。
しばししてその内容を頭が理解すると、
「な、なに言ってるんだ!? こんな時に!?」
当然のごとき反応を返しては声を高くさせる。
以降彼女の話を纏めるに、この土地のヤミラミは娯楽に飢えているという事だった。
そこに期せずして現れた客人の来訪を目の当たりとし、自分達とは違うその生物性に強い興味を抱いたのだという。
『言うコト聞かなナイト、ドウナッチャウか分からナイヨ? ね、ダンナさん』
「し、しかしだなぁ……」
『………ダンナさん、ウチのコト嫌イ?』
涙目で尋ねてくるパーモットにその瞬間、俺は周囲の異常事態も忘れて強く胸が脈打つのを感じた。
極限状態という事も相成ってかこの時俺は……たまらなく彼女を愛しく思ってしまったのだ。
そう心が定まると途端に俺は、肉体に熱が帯びてくるのを感じた。
この時、俺の心は決まったと言ってもいい。
「……パーモットこそ、俺でいいのかい?」
おずおずとその最後確認をする俺に対し、
『イイヨ! ダンナさんじゃないとヤダ! ダンナさんがイイ♡ ダンナさんの赤ちゃん産ミタイッ♡』
次の瞬間、パーモットは飛びついてくるや俺の唇を奪った。
事ここに至ってはもう『なるようになれ』とばかり、俺もまた彼女を強く抱き返すとその抱擁に応える。
斯様な俺達の行動を前に、見守るヤミラミ達の間からもざわめきが起こり、やがてそれらはこの広間を埋め尽くす他の仲間達にも伝わっては波の様に伝播していった。
そんな公衆面前のもと──俺達の交尾ショーは始められたのだった。