アドレスの先に待ち受けていた者は、やはり桜しっぽ本人であった。
それでも当初は互いをけん制し合っていたウエス達はしばし、時候の挨拶から始まりそして天気の話題にシフトするといったマヌケで他人行儀なやり取りをする。
しかしながら話題が互いの作品に及ぶや、途端ウエスと桜しっぽの間にあった躊躇いと今日までの時間の壁は消滅した。
お互いがそれぞれにお互いのファンであることはから生じる興奮と気恥ずかしさは、今日までに体験したどんな対話よりも二人には心踊る体験となった。
[ 実わ デビューまえから せんせーのこと 知ってます ]
たどたどしい桜しっぽからの言葉に和むと同時、その事実にウエスは愕然としたりもする。
かくいうウエスはデビュー前より手慰みに書いた作品を小説掲載サイト等で発表していた。
その頃は登録者数も辛うじて100に届けば一日の来場者数も数十という、数多いる過疎ライターの一人でしかなかったウエスは、こんな自分の固定のファンなどはいないものだと確信していた。
しかしながらそんなウエスの数少ない理解者の一人であり、そして今となっては彼自身もまた敬愛する存在の桜しっぽがフォロワーであった事実は、名状しがたい感動を以てウエスの背を粟立たせるのであった。
そしてこの日を境に二人の交流は始まる。
その中で分かったことは、桜しっぽはある事情によって表舞台──正確にはウエス作品のデザイン以外には活動が制限されているというものだった。
当然のことながらその理由もまた尋ねたが、もはや黙秘と言っても過言ではない頑なさで口をつぐんでしまう彼女に、ウエスもそれは取るに足りないことだとすぐに割り切る。
そもそもが桜しっぽの出自になど興味は無い。今現在、彼女が自分だけに作品を提供してくれているという事実の方がウエスには感動的ですらあったからだ。
ただそういった事情もあってか、桜しっぽと斯様なやり取りをしていることは絶対に漏らさぬようにと、彼女自身から口外法度を申し付けられた。
これに関してもウエスにも異存はない。むしろ彼女を自分一人だけが独占しているという状況は、なおさらにウエスの優越感を刺激してやまない。
それからは二人、何処にいて何をしていようとも常に何らかの通信アプリで繋がり合ったままの状態となった。
各自の作業中も互いの進捗状況などを報告し合いながら執筆したし、食事中や入浴中、果てはトイレに籠っている時でさえ桜しっぽはそのことを報告してきては、知ってか知らずかウエスの心情を煽ったりもした。
その関係性はもはや互いの熱心なフォロワーというよりはむしろ、エウスと桜しっぽを『恋人同士』として錯覚させるのに時間を要しなかった。
そして遂に、それが許されぬ行いであるとは判りつつも──
[ しっぽちゃん……僕は 君が好きだ ]
ウエスは遂に彼女へと告白をする。
それは単なる好意を伝えるものではなく、一個の男として愛を伝えるものであった。
この行為の危うさをウエスもまた理解している。
もしかしたら、この一言のせいで今日までの──さらには明日以降からの二人の関係が終わってしまうやも知れない危険性を帯びていた。
それでもウエスの桜しっぽへの想いは本物であったし、そして彼女自身もまた自分に対し憎からず思ってくれているという確信がウエスにはあったのだ。
そしてそんなウエスの賭けは……
[ うん アタシもね うえすさんのこと 好きだよ 赤ちゃん欲しい好きだよ ]
思い通りに成就しては、見事桜しっぽからの返事もまた勝ち取る結果となった。
予想通り彼女もまた、密かにウエスを想っては胸の内を熱くさせていたのだ。
文筆業のウエスとは違い文法もたどたどしければ語彙にも乏しい桜しっぽの返事はしかし、それゆえに感情を包み隠さない文面となっては、どんな耽美小説にも勝る湿度と生々しさをエウスに抱かせた。
そうなると次なる二人の願いはただひとつ──
[ あいたいね ]
当然のごとくそこへと帰結した。
それでも当初は「いつか逢えたらいいね」といった希望的な想いを交わす程度のものであったが……あの愛の告白以降開け広げに、そして時に本能的に自分の想いを伝えあう二人は徐々に自分でも歯止めのつかない状態へと勢いを増しつつあった。
[ うえすさんのことお考えてるとね お腹がキューってなって おまたさわっちゃうんだ ]
[ それってどういうこと? ]
[ あのね オシッコするところさわっちゃの きもちいーんだ ]
言わずもがな、それはウエスを妄想の助けにして自慰を行っている事の告白であり、多感な年齢のウエスなどはもはや、それを聞いていても経っていられなくなっていた。
現に今もベッドに寝そべって眺めるスマホの向こうには、痛いくらいに勃起してはーンズの前部にテントを張り上げている自身の股間が窺えていた。
完全な興奮状態に駆られて冷静さを欠いたウエスは、興奮から来る動悸に眩暈を覚えつつ互いの一線を越える一文をしたためる。
[ 尻尾ちゃんにあいたい。エッチなことしたいよ ]
後に読み返すに頭を抱えるほどにエウスを苦しめるその一文ではあったが、桜しっぽの飾りも衒いも無い一文がエウスの胸を打ったよう、このメッセージもまた彼女の情動を激しく揺さぶる結果となった。
[ アタシもあいたい ほんとおにあっちゃダメ? エッチしたい 赤ちゃんつくりたいよ ]
その一文以降の記憶はウエスの頭から消えた。
しばしのやり取りの後、遂には辛抱たまらなくって自慰を敢行したウエスは事後……改めて今日のやり取りを読み返しては大きくため息をついた。
桜しっぽと交わした最後の一文は、直に二人で会うことを確約し合う内容であった。
具体的には彼女がウエスの家を訪れる運びで話は続き、この日のやり取りは終了した。
そんな会話のログをウエスは何度も読み返した。
そのつど本能に突き動かされた自分の鼻息荒い顔を想像しては強く恥じ入るばかりではあったが、同時に確信していることも一つあった。
それこそは……──
「しっぽちゃんもきっと、今日のこれをオカズにオナニーしてるだろうな……」
半ば確信に近い桜しっぽの痴態を想像しては、再びティッシュに手を伸ばすのであった。
【 つづく 】