目の前には色とりどり5匹のマホイップが僕を見上げていた。
不思議そうにこちらを見上げてくる表情は、淡い瞳の色合いも相成ってこの遭遇にどんな感情を抱いているのか読みにくい。
ともあれこの子達が今しがた、背後から僕の尻をつついたようである。
そしてさらに別の気配もまた感じては、再び建物へ振り返ると──その眺めに僕は絶句した。
そこにはやはりマホイップ達が居た訳だが、今度はその数の桁が違った。
いつの間にこんなに出てきたものか、目の前には視界一杯を占める無数のマホイップ達が僕を見上げいた。しかもその一匹ずつがみんな違う色合いからか、目の前にはさながらグラデーション模様の絨毯が広げられているような光景だった。
その眺めに改めて僕は恐怖する。
ここは……天然のマホイップの巣だ。
知らなかったとはいえ、僕は不用意にもそこへ足を踏み入れてしまったのだった。
やがて、再び背後から尻をつつかれた。
急かすようなその仕草からどうやら建物へと進めという意味らしい。
下手に逃げ出して猛襲を受けてはひとたまりもない……僕は隙を伺いつつも彼女達の指示に従った。
言われるまま件の城に入ると、そこの眺めに僕は我を忘れては視線を巡らす。
中はそのどれもがクリームで作られた家具や什器に満たされていた。足元ももっとおぼつかないものかと思いきや、飴細工であろうそこはちょっとやそっと飛び跳ねた程度ではびくともしない硬度で練り固められている。
しばしそんな中を進むと途端に視界が開けた。
そして目の前の光景に息を飲む。
そこには一列に並んだマホイップ達が、工程別に様々な作業をしていた。
一か所ではクッキーを割り裂いては磨り潰し、そして一か所ではそれを型に詰めてカップケーキの土台を成型している。さらにその土台が隣の列へと送られると、そこに待機していたマホイップ達が自身の手から出したクリームをそこへと盛り付けていた。
そう……この場所こそが、例のカップケーキの製造工場だった。
それを目の当たりにして僕もまた頷く。あのクリームの味や感触の正体はこういうことだったのだ。
製造方法も分からぬほどに完成されたクリームは、そのもの自体がマホイップの体から出されたものであった。なるほど、分からない訳だ。
そもそもはマホイップが自身のクリームを人に提供すること自体が珍しい。普段ならば懐いた相手にしか振舞わないからである。
と、こんな物を僕に見せてどうするつもりなのだろうか?
そんなことにも気づきながら、素知らぬ顔で一連の製造工程を眺めていると、さらに歩くように促される。
やがて僕はその製造ラインの一角へと誘導され、さらには先程のクッキーの部署に落ち着いた。
そこにて有無を言わさず手渡されるクッキー。彼女らと同じ作業をしろということなのだろうか? それともこれを食べてみろと?
ともあれまずは貰い受けたそれを僕は一口齧った。
一口食べて、同時に鼻を鳴らす。
やはりこのクッキー自体は大したことが無い。初めて彼女達のカップケーキを食べた時にもそれは感じた事である。
「ちょっとこれ借りるよ。それから……キミでいいや。ここにキミのクリームを少しくれるかい?」
傍らにあった乳白色のボウルを引き寄せると、テーブル上に置かれていたクッキー数個を頬り込む。そしてさらにそこへ、僕は傍らにいたマホイップからボウルの中へとクリームを少量入れてくるように頼んでみた。
思いのほか意思疎通は可能なようで、思惑通りにクリームもまたもらい受けると僕はそこでの作業を開始する。
先に述べたボトム生地の欠点と、そしてその改善方法もまた僕は気付いていた。
カップケーキの土台となっていたあのボトム生地には圧倒的に水分が足りないのだ。
だから口にした時に、この土台部分だけが先に崩壊してしまい、クリームとの一体感を失くしてしまう。
クリームを加えたクッキーを粉々に砕き、それを型に詰めて成型すると僕はそれを強く押し固めていく。
あのボトム生地の欠点はここにもある。
非力な彼女達では、強く生地を固めることが出来ない。先の水分不足に加えて、非力な成型法で作られていたがゆえに、あの不完全なボトム生地が出来上がっていたのだ。
「……よし、こんなもんかな?」
言いながら完成した土台を掲げて確認していると、傍らに控えるマホイップ達が上着の裾を引いた。
その土台を自分達にも見せろということらしい。
そうして自作のボトム生地を手渡すと、それを手にした一匹の周りには途端に他のマホイップ達も集まっては注目した。
数人の手に回しながらその硬さを確かめては一同も驚きの声を上げる。その声を聴いては僕もそうだろうと納得する。
先の彼女達の土台ではホイップクリームを盛ることはおろか、次の工程に運ぶ途中であっても崩れてしまっていたことだろう。
一日に数えるほどの量しか生産できない理由はここにあった訳だ。
やがてはそんな土台生地が一巡して戻ってくると、再び彼女達は僕に向き直る。
そしてこれまたクリームを固めて作ったであろうすりこぎ棒を手渡して来るや、一同はそれぞれのラインへと散っていった。
そしてそこにて始まる作業の中で、僕は我を見失う。
いったい僕にどうしろと?
茫然自失と立ち尽くしていると、傍らの一匹が僕の目の前に大量のクッキーを運んできた。
そうして目の前のテーブルに山とされたクッキーを前にしながら……これからの僕は彼女達の一員として、ここでカップケーキ造りを強いられるということを理解したのだった。