※この作品はR-18です。

三擦り半のマス☆カーニャ   作:たつおか

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【11】通い妻コジョンド
第1話・馴れ初め


 

 

 俺には身の回りの世話をしてくれる♀のコジョンドが居る。しかもそいつは野生のポケモンだ。

 彼女がこんなずぼらの男やもめの元へ通い出してからもう3年が過ぎようとしていた。

 

 事の始まりは、彼女がまだコジョフーであった頃にさかのぼる。

 山間の集落で果実園を営む俺はその日、山にて動物用の檻に囚われた彼女を発見した。

 おそらくはイノシシ用の箱罠であったろうが、その中においてコジョフーは身動きが取れなくなっていたのだ。

 

 そう言えば何年か前に、集落の猟師だったじいさんが死んだことを思い出す。おそらくこの罠は、そのじいさんが健在だった頃に仕掛けてそのままとなっていたものだろう。

 本来ならばコジョフーやコジョンドは膂力に優れたポケモンである。大抵の人間の罠や建築物などはその拳足で十分に破壊可能ではあるのだろうが、この箱罠に限っては違った。

 

 なにせ狭い箱の中にぎゅう詰めの状態である。

 自慢の拳法を振舞おうにも、拘束された状態とあっては蹴りも拳も繰り出せないのだ。

 おまけに俺が発見した時点ですでに数日が経っていたようで、その時のコジョフーは微動だにしなかった。

 

 俺も発見時には死んでいると思ったほどで、ならば埋葬に際してはせめてそこから出してやろうと罠を外している最中──コジョフーは息を吹き返した。

 それでもその時には既に衰弱の度合いが激しく、彼女はそこから逃げ出すこと叶わずに、ただ為されるがまま俺が罠を解除するのに身をゆだねていた。

 

 体に力は入らずとも意識はしっかりとしていたようで、文字通り目一杯に瞼を剥いた彼女の表情はこれ以上にない恐怖で引き攣っていたのが印象的だった。

 その後、無事に罠からコジョフーを引き出してやって……俺は思案に暮れた。

 檻から出されても彼女は逃げなかったのだ。

 ただ浅い呼吸を小刻みに繰り返しては、引き出されたままの姿勢で横たわるのみである。

 

 今日まで飲まず食わずに加え、その数日間をこんな狭い檻の中で身動き取れずに過ごしたことで、その時の彼女は瀕死に近い状態にまで衰弱し切っていた。

 面倒なことになったと思った。

 

 そもそもが、相互不干渉が山と人との不文律だ。

 取って食う・取って捌くが目的の狩りならまだしも、同情から野生に干渉しようなどは、猟師ではない俺にしたってそれが好ましくないことだと分かる。

 

 それでも……そんな身勝手な情が優先されてしまうのが人間の悪い所だった。

 妙な仏心を起こした俺は、こともあろうそんな彼女を抱いては家に連れ帰ってしまったのだ。

 

 既に両親は他界していて一人身でもあったから、家にポケモンを持ち込むことの面倒は無かった。

 そもそもが超のつく高齢化が進んでいるこの集落においては既に若者などは俺だけという有り様である。

 帰りの道すがらも誰に会うことなく帰宅を果たし、俺は拙いながらも彼女に治療を施した。

 

 とはいえそれも体を拭いてやった後は目に見える傷口に軟膏を塗って布団に寝かせてやる程度のものではあったが──その翌日には彼女はいなくなっていた。

 枕元に置いておいた水と飯もキレイに平らげてあったことから無事に回復が出来たようだ。

 

 礼のひとつも無い別れとなってしまったことに憤ることもない。むしろ俺は何事も無くに事が済んだことに安堵すらした。

 ……その時までは。

 

 それ以来、俺の身の回りでは不思議なことが起きるようになった。

 事の始まりはそれから一月ほど経ったある日──仕事から戻ると玄関に柿が三つ置かれていたことに始まる。

 上がり框の真ん中に、ヘタを上にして綺麗に三角形に置かれたそれは明らかに第三者が作為的に置いたものであった。

 

 最初は隣近所に住むばあさんがおすそ分けをしてくれたものかと思いその礼を述べるも、当人には身に覚えが無いという。

 さらにその日を境に、定期的に俺の家には食べ物が届けられるようになった。

 それは旬のキノコやアケビであったり、はたまた雉が一羽置かれていたこともあった。

 

 数度目の時に俺の頭に浮かんだものは、子供の頃に読み聞かせてもらったお伽話だ。

 あの話の中では、子ぎつねがイタズラの贖罪として自発的に食べ物を運んでいたが、今回のこれはさしずめ『恩返し』といったところだろう。

 

 もしそうなのだとしたら、今も何処からこれを受け取る俺の姿を観察でもしているのだろうか?

 今日は玄関に栗が一山置かれているのを確認した俺はその瞬間、急激に身を翻しては背後を顧みた。

 その瞬間──後方少し先の茂みの中から頭を出していたコジョフーと目が合った。

 

 俺の動きは予想外だったらしく、向こうもまた両肩を跳ね上がらせては一目散に逃げて行った。

 そんな去りゆく彼女の背中に向かって俺は、

 

「いつもありがとう! この間のキノコ、旨かったよ!」

 

 一言礼を叫んだ。

 その瞬間、そんな俺の声に反応してコジョフーは身動きを止めたが──それでもしかし振り返ることはなく山の中へと走り去ってしまった。

 

 

 そうして俺と彼女の、目に見えない交流が始まったのだった。

 男やもめの人間の元に通う、メスポケモンとの交流の日々が……。

 

 

 

 

 

 

 

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