しばししてコジョフーはコジョンドへと進化した。とはいえ進化後も彼女は足しげく俺の家に通っては食べ物を運んでくれた。
そんなある時、仕事先の職人達から不思議な話が出た。
『最近、集落の中にコジョンドが良く出るよなあ』
『あぁ、うちの母ちゃんなんか味噌汁作ってるところをじっと見られたって言ってたぞ』
それは彼女と思しきコジョンドが俺の家以外にも出没しているという事実だった。
とはいえ俺にしてくれるように食べ物を運んでいる訳ではなく、どの目撃情報でも彼女は各家の炊事を熱心に見守っていたそうな。
皆、『人間の仕草が珍しいんだろう』と笑ったが、なまじ彼女のことを知る俺はそれの意味するところを知りたくて仕方がなかった。
そしてその答えは、思っていたよりもずっと早く知ることとなる。
数日後──帰宅した俺は家の中の雰囲気がいつもと違うことに気付く。
室内の気温が高いというか、そこに漂う匂いが柔らかいことに気付いたのだ。
明らかにいつもとは違うその雰囲気を訝しみながら家の中に入っていく俺は、居間において絶句した。
居間のちゃぶ台の上には──飯と味噌汁と、そして切り分けた漬物とが整然と並べられていたからだ。
茶碗に盛られた飯も椀の汁もまだ湯気が立ち上がっている。つい先ほどまで……俺がこの家に上がり込む瞬間まで、誰かがここにいたのだ。
そしてこんなお節介をしてくれた者の正体も俺は分かっていた。
ちらりと背中越しに流し目を向けては、開け放たれた縁側から中庭の様子をさぐる。
その先の植え込みの一角には──あのコジョンドが興味津々といった表情で、興奮も露わにこちらの様子を見守っていた。
そう……この食事は、間違いなく彼女が支度をしたものだった。
俺もそんな彼女の存在などには気づいていない風を装っては席に着き、いざその賄いの相伴にあやかる。
米はやや硬く、みそ汁はだいぶ辛かった……それでもしかし食えないほどではない。
俺は豪快に飯を頬張り、そして汁をすすると──
「美味い! こりゃたいしたもんだ!」
大げさに声を大きくしてはそう言った。
そして再び庭のコジョンドを見やるや──そこには口角を大きく開き、あからさまなまでにその喜びを表情に湛えたコジョンドが目一杯に瞳を輝かせてはこちらに見入っている様子が窺えた。……というかもはや、喜びのあまりに互いの目が合っていることすら気付いていない。
その日を皮切りに、彼女は俺の飯炊きまでしてくれるようになった。
毎日作ってくれることで彼女の調理スキルも日々上達していき、時には焼いた魚や野鳥といった料理が食卓にも上がるようになった。
最初の頃は不慣れなその料理を苦笑い気に喫食していた俺も、回数が増えてもはや常人並みの調理を彼女が出来るようになってからは、毎回の夕餉を仕事帰りに心待ちにすらするようになった。
そうなってくると俺の彼女への見方も変わってるくる。
ある時ふと仕事中に自宅の前を通り過ぎた際──植え込みから覗き込む家の縁側で、折り目良く座ったコジョンドが俺の洗濯物を畳んでくれている光景に遭遇した。
丁寧に一枚一を畳んでくれているその仕草に、俺は胸掻きむしらんほどの慕情を募らせる。
もはやこの時、俺は彼女へと恋心に近い感情を抱いていた。
ポケモンや人という垣根などはそこに存在せず、俺の目にコジョンドは一人の女性として映っていたのだ。
しかしながら……彼女は単にあの日の恩返しをしているだけであり、なおかつ人間の生活様式をなぞることが楽しいというだけの関係だ。
そのことは当然分かっている。
だから俺も半ば一方的な片思いに身を焦がしつつ、それでもそうした想いが生活に与えてくれる潤いや充実感を存分に愉しむのだった。
しかしながら、そんな俺達の関係をさらに一歩踏み込んだものとする事件が起きた。
ある時、休日中の俺は縁側で長いこと昼寝をした。
俺にしてみればいつも通りの休日の過ごし方のひとつではあったが、そんな俺の眠りは思いもよらない出来事によって妨げられることとなる。
眠る横顔をなにや暖かいものが何度も往復してはなぞる感覚に俺は覚醒へと導かれる。
それでもまだ寝ぼけまなこであった俺はしばし寝転がり続けた状態のままでそれを受けていた。
一体何事かと思い、うっすらと瞼を開けば──目の前にはあのコジョンドが居た。
しかも彼女は幾度となく舌を這わせては、俺の顔を舐めていたのだった。
最初は他愛の無いイタズラや、単にじゃれついているだけかとも思ったが、その奉仕の熱心さは明らかに何らかの感情をそこに込めたものだった。
顎先から頬までを舐め上げては、その終点で唇を吸い付かせる。
その後も鼻や額の区別も無く、幾度となく彼女の口先はついばむようなキスを繰り返しては俺の顔を愛撫した。
そうしてしばしその行為を続けた後、しばしキスの手を止めて俺を見下ろしては──意を決したようその唇は、直に俺の唇へと触れ合わされた。
その行為に彼女自身も興奮を覚えているのか、依然としてキスを維持したままコジョンドは幾度となく顔の角度を変えて唇同士を擦り合わせる行為に躍起になっていく。
それを受ける俺もまた、状況を理解してからは徐々に興奮を覚えていった。
もっと彼女を触れ合いたいと思うや、自然と舌先は伸びて、それを彼女の口中へと侵入させた。
突然のそれに驚いてはコジョンドも目を剥く。
それでもしかし、それに対する警戒以上に舌同士の粘膜がこすれ合う滑りにコジョンドは快感を覚えていた。
そして彼女からもまた舌が下りてくると、俺達の舌は蛇の交尾さながらに絡みあっては互いの唾液の交換を果たしていた。
それからは夢中になって互いの舌を貪り合った。
俺の舌が口中に侵入するや、コジョンドは大きく頬を窄めては俺の舌そのものをしゃぶるよう唇で搾り取ったし、また彼女の舌を迎え入れた時には何度も俺はその肉厚の舌を噛みしめては存分に彼女の味を味わった。
そうして感情が高ぶってくると俺の手は自然とコジョンドの体に触れる。
下に組み敷かれている俺は、右掌を彼女の胸元へと宛がった。
そこから徐々に力を入れて手の平を窄めると、そこになだらかなコジョンドの乳房を感じては、さらに掌を押し付ける力を強くした。
強く押さえつけては捏ねるように展開させる手に彼女もまたそこへ自分の手を重ねては、俺の手を強く甲から握った。
さすがに調子に乗り過ぎた俺を諫める行為かと思いきや、コジョンドは握りしめた俺の手を反対の右乳房へと誘導する。
この行為を否定するどころか、彼女はさらなる愛撫を俺に求めてきていたのだった。
依然として激しくキスを交わしながら俺の手はコジョンドの体を這いまわっていく。
胸を揉みしだき、みぞおちをなぞっては下腹へと至り……そしてついに俺の手は、彼女の股間へと宛がわれた。
それと同時、初めてコジョンドはキスを振り切ると頭を上げた。
涎の筋が残る口唇を窄めながら強く瞳を閉じるその表情は、明らかに強い刺激に耐えるような顔だ。同時に手の平には生暖かい熱が広がった。
その感触を確かめるべく僅かに手の平を前後させると、そこには滑りを帯びた液体の感触──宛がっていた指先を曲げ、より深く股間のスリットへと指を潜らせれば、さらに敏感に体を痙攣させてはコジョンドも声を上げる。
指先から甲へと伝う滑りの正体それは、疑いようも無く彼女の膣からあふれ出る愛液だった。
同時に、顔を下ろしたコジョンドは、眉元に険を込めては今にも泣き出しそうな表情のまま切なげに俺を見つめる。
もはや互いの目が合ってしまっても逃げることはない。
この時俺達は、互いが既に相思相愛であることに気付いてしまったのだ。
そうして引き寄せられるようにもう一度キスを交わそうとする俺達の間に……──
『おぉーい! カイ、居るかぁーッ!?』
玄関先からのその声に俺達は揃って肩を跳ね上がらせた。
声の感じから察するに、どうやら向こう隣のデンじいさんが来訪してきたようであった。
無視することもできない。狭い集落で昔からの顔なじみともあれば、家族同然に家の中へ上がり込んでくるのがこの村だ。
事実、玄関廊下がきしむ床鳴りに俺の上のコジョンドはそこから大きく振り返っては縁側の廊下の突き当りを望む。あと数秒後には、玄関から続くその廊下の曲がり角からデンじいさんが顔を覗かせるはずだ。
組敷かれた下から見上げる彼女の横顔には、眉をひそめては牙を食いしばりと、これ以上になく恨めしそうな表情が窺えた。
やがてはその横顔が急にこちらへ戻ったかと思うと、彼女は最後の一口とばかりに俺の唇を奪い、しばし唇同士を数度吸いつけ合わせた後──廊下を蹴っては脱兎のごとくに中庭から続く雑木林の中へと走り去っていくのだった。
『おぉ、なんだぁ。寝てたか?』
そうして想像通りに廊下から現れては縁側の俺に近づいてくるデンじいさんを傍らにしても、俺はその方向を向くことが出来なかった。
いつまでも俺は彼女の去った庭と山の境界にある植え込みを望みながら……いつになく一人身を切なく感じてしまうのだった。