コジョンドが俺の元に通い出してからもう3年が過ぎようとしていた。
最近では俺が引き留めることもあってか、山に戻るよりも一緒に暮らしている時間の方が多くなった。
同時、実務的な面においても稼業である果実園の運営だってもう、彼女の手伝い無くしては成り立たぬほどだ。
斯様にして生活を共にするコジョンドは自然、他の集落の人間からも認知され始めるようになった。……というかずいぶんと前からもう、俺達の関係はバレていたようだったが。
いつだったかコジョンドも含めた皆での一服中にその話題が上がり、
『あんなに二人して大声出してりゃあなあ』
と──そのことで大いに盛り上がる中、俺達は顔から火が出る思いで俯いてしまったものだった。
しかしながらともあれ幸せだ。何も言うことは無い。
……いや、実はどうしても『言いたこと』がただ一つ有るには有るのだが。
夕刻も迫り、俺は作業の終了を告げる。
その声を聞きつけてコジョンドも戻ってくると、肩掛けのタオルで自身の汗をぬぐった後、俺の額の汗にも気付いてはそれで拭ってくれる。
そんなコジョンドからの愛情を受けながら、周囲に俺達以外は誰もいないことを確認すると俺も覚悟を決める。
そして彼女の名を呼び、改めて俺へと向き直らせると──
「結婚、してくれないか?」
自分でもあっけないほどに飾り気なくそう言った。
しかしながらこの瞬間に辿り着くまでの過程や心の葛藤はけっして単純なものではない。
いま告げた一言だって考えに考え、そして覚悟に覚悟を決めて絞り出した一言だったのだ。
そんなプロポーズを受けた当のコジョンドはと言えば、胸の前でタオルを弄んだままの姿勢で固まっていた。
キョトンとこちらを見つめる瞳はあどけなく瞬きを繰り返すばかりで、はたして俺の意図が伝わったものかどうか分からなかった。
しかし、その答えはすぐに分かることとなる。
見つめるコジョンドの口角が僅かに上がっては、笑顔ともただ口を開けているだけとも分からない表情になる。
次いで見る間に鼻頭が赤く染まっては上気していき、切れ長の瞼も見開かれては明らかにそこへ感情らしきものが現れた次の瞬間──
「うおッ──!?」
俺は急激なタックルを腹に受けては背中からもんどりうった。
何事かと思い身を起こすと、目の前には倒れた俺に乗り上がる形で身を寄せるコジョンドが見えた。どうやら激しく抱きつかれたらしい。
彼女は『結婚』──しいては『夫婦』というものの在り方を、俺が思う以上に理解してくれていた。
後になって知ったことではあるが、コジョンドが俺のパートナーとして集落に暮らし始めた頃から、そこのおばちゃん連中に『若奥様』として様々な情報を仕込まれたようであった。
俺も気付かぬうちにコジョンドは自身を妻と決め、そして俺のことは夫と見定めては仮初めの夫婦生活を生活の中で楽しんでいたらしい。
とはいえあくまで自分の胸の内にのみ秘めた想いであったそれが今日──改めて俺のプロポーズによって本物の『夫婦』となれた。……そのことに感極まってのタックルであったのだ。
俺に抱き着いてからは幾度となく切なげに喉を鳴らし頬ずりをしてくる彼女──ポケモン語は理解できぬまでも、その時の俺にはコジョンドが何を継げているのかハッキリと分かるのだった。
『いい奥さんになるからね』──頑張り屋のコジョンドはそんなことを告げてくれていたのだ。
そのけっして人間には無い純情でいじらしい仕草に、俺の中のコジョンドへの想いはより一層に強く募る。
そしてそんな想いは──最悪の形で体に現れてしまった。
依然として頬ずりをしていた彼女の動きがピタリと止まる。
そうして止まった姿勢のまま、瞳だけが問い訊ねるように俺を見上げた。
それを受け、思わず気まずくなっては視線をずらしてしまう俺。
コジョンドが乗り上がるその下で……恥ずかしながら俺は勃起していた。
コジョンドへの純粋な好意、プロポーズの達成感、仕事後の疲労、抱き着かれる彼女の体温とほのかに香る芳しい体臭……それらに刺激された体はすなわち性へと直結してしまったのだった。
そしてそれに対し、俺が場を取り繕うと言葉を発するよりも先に──コジョンドは足元へと体をスライドさせ、慣れた手つきで作業着のジッパーから俺のペニスを取り出してしまうのだった。
そうしてペニスごしに俺へ流し目を送ると、その茎へキスをするような仕草で妖艶に笑う。
そんな視線に中てられて、ただぎこちない笑顔を返した俺と改めて目が合ったその瞬間──窄めていた口先を一変して大きく開くや、歯茎も剥き出しにコジョンドはペニスに牙を立てる。
その刺激と快感に頭を仰け反らせては声を押し殺す俺──きっと今日のプロポーズを思い出すたびに、俺達はこのこともまた思い出しては気まずくなるのだろう……そんなそう遠くない未来をつい想像してしまう。
そしてその時にはきっとまた、辛抱たまらなくなって激しく愛し合ってしまうのだろうこともまた分かって、俺達は笑わずにはいられなかった。
それでもしかし……──
「愛してるぞ……お前」
俺もまたそう声掛けしては彼女に応える。
あの日、一人のコジョフーを助けてから3年──紆余曲折を経て、ようやくに俺達は夫婦(ひとつ)になれたのだった。
【 通い妻コジョンド・完 】