とうに陽は暮れても、ゲンガーが家から出ていく気配は無かった。
それどころか俺の座るソファの隣に腰かけてはこれまでの数時間を共に過ごしていた。
何か喋ることもなければ互いを顧みることもない──ただ二人、目の前の壁掛けテレビの暗闇に写る自分達を見つめては時を過ごしたのだった。
しかしながら、存外に俺にはこの一時が心地良いものとなった。
彼が居てくれた時にも、こうしてこのソファに二人で腰かけては映画や食事を楽しんだものだ。……時にはこの上で愛し合ったこともある。
そんな場所だけに、ここに一人で座り続けることは寂しさを紛らわせるどころかより一層に喪失の悲しみを助長させてしまうだけの行為だったことに、今になって俺は気付くのだった。
彼との思い出を惜しむべく此処に座り続けることはその実、俺の中に在るありとあらゆるものを消費してしまう行動だった。
時間、体力、そして未来──心の大半を占める優しいはずの彼の思い出こそが、俺から全ての可能性を奪ってしまっていたのだった。
このままではいけないのかもしれない……ふとそのことに気付くと、俺は強く目をつぶっては瞼を引き絞り、それから大きく開いた。
その瞬間、ここ数年間には覚えたこともない覚醒感に頭の靄が晴れるような気がした。
全てとはいかないが、ようやく少しだけ傷心から立ち直れたのは確かだ。
そして今の俺をそんな気持ちにしてくれたのは、誰でもないこの隣に座るゲンガーだった。
動物やポケモンを使ったセラピーがあることは知っていたが、こうまで効果があるものとは思いもよらなかった。……結局のところ、誰も一人では生きられないということか。
ふと隣のゲンガーへと視線を向ける。
しばし思惑も無くただ見つめていると、向こうも俺の気配に気づいたのかこちらを見返してきた。
そのまましばらく見つめ合う──今までのイメージにあった『ゲンガー』は、卵状の体から手足が生えている程度の適当な姿でしかなかったが、いま目の前にいるコイツは腿や両肩の筋肉が盛り上がってと、なかなかにいい体をしている。
個体差はあるのだろうが、たぶんコイツは同種の中でもモテる部類に属するのではないかと思う反面、ポケモンの世界にもゲイが居るのかとも思うと、俺は思わず吹き出してしまうのだった。
突然の俺の笑顔にもしかし、その思惑を知らないゲンガーは小首をかしげるばかりだ。
やがて大きくため息をついて気持ちを落ち着かせると、ソファ上で俺はゲンガーへと向き直った。
それから奴の上に覆い被さってソファ上に抱き上げてしまうと、俺は赤子のオムツでも替えるような仕草でゲンガーの両足を天へと向けさせた。
そうしてコイツの股間に鼻を着地させては数度、深呼吸をする。
僅かに潮の香りを含んだ甘い体臭は、人間のそれと大差は無いように思えた。そしてこの香りを持つということは、間違いなくコイツはオスだ。
俺は何も無いゲンガーの股間へと唇を吸いつけては、幾度となくそこを舐めなぞる行為を開始した。
別段、欲情していたわけではない。
ただ久方ぶりに人間らしい感情を思い出すと、自然と体は隣の誰かを愛撫せずにはいられなかったのだ。……彼がここに居てくれた時と同じように。
しばしそこを舌で舐め穿つなどしていると、その皮膚の下で肉のうねりが生じ、たちどころにペニスの陰影が屹立してきてはそこにて勃起した。
亀頭のカリ首が開いたその形状は人間の物と大差はない。何ともしゃぶりがいのある大きさだった。
そんなペニスを右手で扱きつつ、俺の舌先はさらにその下へとスライドしていく。
強く舌先を押し付けながら会陰のラインを辿ると、それに反応してはコイツのペニスも幾度となく跳ね上がる。
そして俺の舌は、奴のアナルへと到着していた。
肛門その器官があったことに驚くと同時、ならば愛撫も出来るだろうと俺はそこへと舌先を侵入させる。
舌先に感じる僅かな塩気と苦み走った味わいもまた人のものと変わらない。俺は幾度となく角度を変えながらそこを舐め穿ちつつ、ゲンガーのペニスをしごき上げる行為に集中した。
そこからのそんな責めに、幾度となくゲンガーは呻き声を漏らしては天を仰ぎそして息を殺す。
この責めが快感であることは違いないが、同時にウィークポイントでもあることからもそこには激しい苦悶もまた伴っているようだった。
主導権を完全に俺に握られたまま、抵抗も叶わずにその過度な快感に晒されていると──やがてはゲンガーも達した。
一際強く声を上げては身を仰け反らせると、黒い体表のゲンガーとは正反対の、純白の精液が糸のように射精された。
続く第二射を俺は咥え込んで口にて受け止めてやる。
その体温こそは人と違い冷感を帯びたものではあったが、味わいたるや紛う方なき精液のそれだ。久方ぶりに味わうそれを堪能していると──ふと思いもかけない景色が脳内に広がった。
それは無機質な青白い天井を見上げる視界──左右には点滴を垂らしたアルミパイプの支柱と、そして心電図と思しき蛍光表示をきらめかせた機械が設置されたその景色は、どこか病室を思わせるものだった。
そしてその光景のなか、その人物は何かを掴むよう天井へと片腕を伸ばした。
その瞬間、見覚えのあるそれに俺の意識は激しくかき乱される。……そんな心中の動揺に散らされてその映像も消え果てると、目の前には現実の──すっかり射精を終えては、腹の上へ腺液にぬめらせたぺニスを横たえるゲンガーが寝そべるばかりだった。
あの映像は何だったのだろう……。
あそこに見えていた誰かの手それこそは──間違いなく俺を捨てた彼の物であった。
幾度となく握り合い、そして俺を抱きしめてくれたあの手だ。
そのことに気付くと俺の意識は自然とこのゲンガーへと向かった。
コイツからフェラチオを受けた時に垣間見えた映像もまた彼のものなのだろうか? だとしたらコイツはいったい何者で、そして何を伝えに俺の元へと来たのだろう。
目蓋を閉じては余韻に浸るゲンガーの顔を股座から見つめていると、向こうも俺の視線に気付いては片目をうっすらと開ける。
やがては互いの視線が絡み合うとせ──奴は強がりもひとつにアカンベェと舌先を見せては、健気に微笑んでみせるのだった。