第1話・激励ワカシャモ!
リーン少年の家族構成は祖父が一人と、そしてワカシャモが一匹──両親はリーンが生まれて間もなく事故で他界し、以降は祖父が彼の面倒を見ている。
そんなリーン9歳の夏──彼はとある試練に直面していた。
それは地元で開かれるポケモンリーグであるのだが、リーンはこの時『地域最年少』として今回の大会に挑もうとしていた。
当然のことながら地域初の快挙に地元も盛り上がり、リーンの名声は周辺地域のみならず、各種のメディアにも紹介されては津々浦々へと知れ渡ることとなる。
最初の頃は無邪気に周囲の応援を喜んではリーグ挑戦の意気込みも新たにするリーンではあったが──度重なるメディアの取材や、はたまた地元の有力者に呼び出されては応援などされるうちに、自分がいかに分不相応な挑戦をしようとしているのかに気付いてしまった。
そうなると途端にリーンは年相応の子供へと戻ってしまった。
事もあろう、リーグ挑戦の偉業に怖気てしまったのだ。
以降、リーンのバトルは精彩を欠いた。
本戦はまだ始まっていないとはいえ、前哨戦となる練習試合にもリーンはまったく勝てなくなってしまったのだ。
本来は自由奔放でセオリーに縛られない戦い方が売りのリーンであったはずが、過敏に相手の動向を気を取られては戦局を見誤るというようなミスが連続するようになる。
彼のポケモンバトルの師匠でもある祖父は、
『結果なんて気にせずやりたいようにやればいい。戦国の世の中でもあるまいし、バトルなんて「人生のついで」でいいんじゃよ』
本心からそう声掛けなどもしてくれたが……そうは慰められても納得できないのがリーンであった。
生来が真面目な性格だけに、こういう時のリーンはどこまでも気持ちを重くさせていってしまう。
また、健気にも周囲を心配させまいと当人は普段通りに振舞っているつもりなのだが、それがなおさらに痛々しくては周囲を心配させてしまうという悪循環へも陥っていた。
そんな負の連鎖を断ち切るべくに、祖父はワカシャモへとある指令を下す。
それこそは、
『ワカシャモ、いっちょリーンをリラックスさせてやってくれ』
リーンの激励作戦──と称し、祖父はとある作戦をワカシャモへと授けたのだった。
その日の夕方──夕食後にリーンの部屋をワカシャモが訪れた。
激しくノックしてくるその勢いにリーンも何事かと思いドアを開けると──そこには普段とは違う見慣れぬ姿のワカシャモが居た。
右脇にティッシュ箱を抱え、そして左手にはローションを携えたワカシャモ……しかも股間には紫色をしたレースのパンティをV字に羽毛へ食い込ませては履いていた。
このいでたちで一体ワカシャモが何をしようとしているのかリーンにはさっぱり分からない。……もっとも説明されたところとて理解出来るとも思えなかった。
この時のワカシャモは、リーンを性的に励ますべく──言うなれば『励ましエッチ』を敢行するべくに彼の元を訪れていた。
口頭ながらそのテクニックや知識的なことも祖父から教えてもらった。リーンの為なら一肌でも二肌でも脱ぐつもりのワカシャモは、彼の為に己の身を捧げることも厭わなかった。
「わ、わわ……ちょっと、なんだよお前?」
そんな訳で、訝るリーンへ頭を押し付けては強引に部屋へと入るワカシャモ。
入室を果たすと一目散にワカシャモはリーンのベットに飛び乗るや右ひじをついて寝そべり、そこからエアロビクスよろしくに左足を掲げては股を開き、そしてリーンへと手招きをした。
それを受けて訳も分からないまま同じベッドにリーンが腰かけるのを確認するや、一変してワカシャモはハネ起き、そしてリーンの体へとよじ登ってはその鼻先をクチバシでついばむ。
「いたッ!? いたたッ! 何なんだよいったい?」
そうして存分にリーンの顔面へクチバシによる咬創を刻み込むワカシャモ。
その後も頬や唇を問わずついばんでは引き延ばすを繰り返しながら、改めて顔を見合わせると今度は舌を出してそれをリーンの目の前でチロチロと蠢かせた。
アカンベェの仕草かと思いきや、それをやっているワカシャモ本人はいたって真剣な様子──もしかしてこれを真似て舌を出せということかと理解しリーンも遠慮がちに舌を出すやその瞬間、
「ん゛むッ!? あだだだッ!」
地面から頭を出したミミズを狙うがごとくに、そんなリーンの舌先をワカシャモは咥え込んだ。
くちばしでついばむやそれを引き延ばし、その先端へ素早く擦り付けるように口中にて舌先同士を擦り合わせた。
やがては痛みにリーンが悲鳴を上げ始めると、投げ捨てるように彼を開放するワカシャモ。
口元を手で覆っては痛みの余韻に涙するリーンを尻目にワカシャモは手羽の上に持参してきたローションをひり出しては、それを両羽根の上でこねくり合わせる。
そうして存分に掌の上で塗り伸ばしたそれをワカシャモはリーンの両頬へと塗りたくるのだった。
さらにも自分からも抱き着いて頬を寄せると、互いの顔面をローションまみれにしてくるワカシャモに……
「いいかげんにしろー!」
ついにはリーンがキレた。
それを受けワカシャモも動きを止めると、依然として鼻息も荒く両肩を上下させながらリーンのからの反応を待つ。
「お前……もしかしてエッチなことしようとしてたの?」
そうして呆れ気味にリーンから出される言葉にワカシャモもまた大きく頷いては爪の一本で彼を指差してみせる。
内容的に祖父から情報の提供はされていたようではあるが、いかんせんに幼さに加えてポケモンとあっては、その知識の理解はおろか表面上なやり方すらもワカシャモはなぞれていなかった。
しかしながら、そうまでワカシャモが体を張って励ましてくれようとしていたことにもまたリーンは気付いて笑いだしてしてしまうのだった。
「お前に心配されるなんてなあ」
言いながらワカシャモ隣に座り直すと、リーンはその肩に腕を回しては自分へと抱き寄せた。
「でも……ありがとな。なんか少しリラックスしたよ」
そう言ってようやくいつもの笑顔を見せてくれたリーンに、ワカシャモも心からの安堵と……そして緊張の糸が緩む思いがした。
今日まで慣れぬストレスにさらされていたのはワカシャモもまた同じであったのだ。
抱き寄せてくれるリーンに身を委ねるとワカシャモも更なる抱擁を求めては頬をすり寄せた。
「ハハハ……よしよし」
そしてそれを撫でるリーンからもいつしか、今日までのあの脅迫めいた気負いは消えていた。
同時に、明日は全力を尽くそうという気合と、そして大舞台に立てる期待とが再び胸に甦ってくるのを感じると──
「明日は……一緒に頑張ろうな」
リーンはごく自然にさりげなく、身を寄せるワカシャモの額へとキスをしてみせるのだった。