圧巻の光景は建物の内部に入ってからも変わらなかった。
広大なホール内は室内を二分するようステージが横断しており、席に椅子は見当たらず胸元辺りまでのテーブルがあちこちに多く点在している。
天井のネオンライトは忙しく明滅を繰り返しながら光量に緩急をつけて客達を照らし、壁面や天井から下がるポスターには様々な衣装を着飾った様々なポケモンが、それぞれに官能的なポーズをとっていた。
「ここはポケモン専用のストリップさ。人間の踊り子なんて一人もいやしない。でも退屈はしないぜ? 人間以上に個性豊かだからなァ」
いつの間にやらビールを運んできたエルはそれを手渡すと、まだ戸惑いから抜けきれないリットのジョッキに自分のそれを打ち付けては大きく煽った。
見れば周囲も多種多様な客達で溢れている。
人種の違いは元より、意外であるのは女性客もまた多いことだった。
「ここはちょっとした観光スポットでもあるからな。……もっとも知る人ぞ知るって場所ではあるが」
「若い女性客も多いんだね」
「そいつらはむしろ見学に来てる別の店の御同業さ。なにせこの店のショーやパフォーマンスは単にポケモンが芸をするって以上のクオリティだからな。それを学びに来る女の客も多いのさ」
まるで我が事のよう得意げにそれを語るエルの傍らで、リットは生返事を返しつつもどこか冷めた思いでいた。
いかにどんな趣向を凝らせようとも所詮はポケモンである。
ストリップの本質が『女性の裸を鑑賞する』ものである以上、平素日頃から全裸に近い状態であるポケモンのそれに何を期待すればいいものか?
所詮はアイデア勝負の観光ショーだと高をくくっては、今宵最初の踊り子(ポケモン)によるオドリドリ達の団体ショーを目の当たりにしたリットはしかし──数十秒後にはその穿った考えは一変させられていた。
それぞれに前止めのキャミソールを身に着けてステージへと躍り出たオドリドリ達は、正面から見たならばまるで一体しかそこに存在していないかのような、人間には再現不可能なレベルでのシンクロをそこに発生させては、見事な『千手観音』のパフォーマンスを完成させていた。
加えて4体ともそれぞれに羽根や毛並みは違うはずなのに、いつの間にか先頭の一匹が別のオドリドリに変わるマジックは、至近距離から観察しても見抜けない精妙さであった。
さらにはその妙技に中において効果的にキャミソールの裾をひらめかせると、リットの視線は自然と彼女達の股間へと誘導させられる。
そうして観客の目をそこへ集中させては、その瞬間を狙って僅かに膣の間口へと手羽先を添えてはそこを開口させて陰唇の影をうかがわせた。
激しいダンスの合間と、さらにはストロボのよう明滅する照明の効果からそんな一瞬の御開帳はなおさらにリットの印象に残るのだ。
──あと少し……もう少しで完璧に見える……!
いつしかオドリドリのそこを見定めようと前のめりになるリットへ冷水でもかけるかのよう、突如としてショーが終わった。
次いで湧き上がる拍手と歓声にリットも我に返っては、跳ね上がる様に頭を上げた。
いつの間にか夢中になっていた……。
しかもそれは単にダンスのレベルに留まらず、そこには確かにメスを見つめるオスの興奮もまた存在していたのだ。
そんなリットの心中を察したかのよう無言のままニヤニヤとこちらを見つめるエルの視線に気づき、
「はぁ……すごいね此処は。価値観がひっくり返ったよ」
「へへー♪ だ~から言ったろ?」
もはや飾りも衒いも無くそう認めては、その感謝も込めリットは改めてエルと乾杯を交わした。
その直後──客席からひときわ高い歓声が上がった。
それに驚いて咥えたジョッキのビールを吹き出しては両肩を跳ね上がらせるリットではあったが、かたやエルは対照的に期待に眼を輝かせては歓声の方へと視線を巡らす。
「な、何なんだ……?」
「この劇場の『プリンセス』達がお見えになったのさ。見てみろよ」
次いでウィンクと共に立てた親指で差されたその先には──末広がりに陣を組んだポケモン達が客席の中を練り歩いてくる姿が見えた。
そこに居た者達はサーナイトやウェーニバル、そしてマスカーニャといった店内のポスターにて威風を誇っていたポケモン達である。
ある者は和装、ある者はウェスタン風に、そしてある者はバニーガールにシルクハットという、それぞれに個性を発揮するいで立ちで練り歩いてくるその登場は、それらを照らし出すスポットライトなど無くとも、十分に彼女達の輝きを観客達へ分からしめるに十分な魅力をそこへ満たしていた。
そしてそんな中においても一際強く、さながら後光でも背負うかのよう一段と美しく輝いていたのは──その先頭に立って歩く純白のエンニュートに他ならなかった。
他のポケモン達がそれぞれの衣装に身を包むなか、彼女エンニュートだけは素の姿のままで歩いてくるのだが、そのポケモンとは思えぬ完成された立ち居と、腰に片手を突いて僅かに胸を張った歩調には、もはや生物の境界を越えた美しさが存在していた。
「さっきのオドリドリ達なんざ、前座も前座さ。彼女達のショーこそが本番だ」
下品に指笛で場を賑わかせるエルにもしかし、リットは件のエンニュートを見つめたまま身動きが取れなくなっていた。
それはもはや『見惚れている』というよりはもう、捕食者に小動物が見据えられているにも等しい。
そんななか、視線だけを巡らせながら今日の観客達の品定めをしていたエンニュートの視線がはたと一点に見据えられた。
同時に歩みもまた止めてしまっては立ちつくす先頭(エンニュート)に、後続のポケモンもまた戸惑っては互いに視線を交わし合う。──どうやらこの行進は本来、止まることなく最後まで歩き続けるものらしい。
そしてそんなエンニュートがその慣例を中断してまで見つめるその先には──誰でもないリットが居た。
そうして互いに見つめ合う周囲はポケモンも人間も問わずに騒ぎたてたが、この時のリットとエンニュートの二人にはそんな外界の喧騒などは一切が消えていた。
エンニュートの体色の如き白き意識の世界で見つめあう二人──運命の出会いは、予期せぬ時・予期せぬ場所、そして予期せぬ存在の中で今、果たされてしまったのだった。