気持ちが通じ合った公爵令嬢と田舎貴族は契りを交わすそうです 作:品☆美
Lesson1:先ずはお互いの状況を確認しましょう
唇が触れ合う事が堪らなく心地良い。
吐息 体温 感触
それら全てが心を蕩かせる媚毒のようだ。
これが現実とは思えないほど幸せで、まるで夢のようだから言葉にするのが怖い。
少しでも理性を働かせたらつらい現実に引き戻される。
昨日までずっと泣いて眠れぬ夜を過ごした。
また冷たくて寂しくて涙を流す夜に戻りたくない、戻れない。
漸く出会えた私の片翼、私の番い、私の愛しい人。
口づけて、抱き締めて、優しく撫でて。
百度の言葉より一度のキス。
百度のキスより一度の契り。
どうか私を傷付けて。
忘れえぬ傷で貴方の物にして欲しい。
※
「ウぅん…」
「…プハッ」
もう何分間こうしてリオンとキスしているのか判断できない。
泥酔した者が狂ったように酒を呷る酔漢よりも貪欲に唇を重ねる。
でも仕方ない、唇を重ねる度にリオンへの愛しさが内から湧き出てしまうのだから。
愛の囁きが陳腐に思えるほど私はリオンの愛を欲している。
今の私は人ではなく獣だった。
ネチョ……
口の中に何かが侵入してきた驚きに理性が一瞬だけ戻る。
私の唇はリオンの唇で塞がれてる。
じゃあ、コレは一体なんだ?
口中を蛇のように縦横無尽に這い回る。
ざらついた感触でありながら妙に暖かく滑る感触。
私とリオンの唇が離れ漸く正体が分かる。
リオンの唇から覗いて見えたのは彼自身の舌だった。
再び唇が重なるとリオンは先程以上に舌を絡めてくる。
口中でリオンの舌と私の舌が紐の様に結ばれるような錯覚に陥る。
いつも私に優しいリオンが少し怖くて体が熱いのに震える。
震えに気付いたのだろうか?私を抱き締めるリオンの腕から力が抜ける。
今まで懸命に堪えていた反動で唇が離れた拍子に思い切り息を吸い込みむせてしまう。
「エホッ…、ゴホッ…」
慌てたリオンが私の背を擦るがどうにも締まらない雰囲気だ。
絵物語にある男女の契りとは違い過ぎる。
「ごめん、やり過ぎた。アンジェが可愛いから加減が効かない」
「……ひょっとして『可愛い』と言えば私が何でも許すと思っていないか?」
「そんな事はないぞ」
そう言いつつもリオンの目が若干泳いだ事は見逃さない。
まぁ今日は特別に大抵の事は許そう、せっかく両想いになれたのに喧嘩をして台無しになる事だけは避けたい。
「知っての通り私は王子の婚約者として育てられ、今一つ常識に欠けている事は否めない。リオンと違って接吻はもちろん男女の契りも未経験だ。少しは手加減を心掛けて欲しい」
「え?」
何やら驚きの声を上げられた。
「何だ、まさか私が殿下とそういう経験があると思っていたのか?生憎と王族と婚約する者は婚姻前にそうした行為は慎むように厳しく監視されるんだぞ」
「いや、そっちじゃなくて。何でアンジェは俺を非童貞だと思ってるの?」
「…え?」
「……うん?」
お互いに顔を見つめて首を傾げる。
「いや、兵士時代に先輩が娼館に誘ったと言ってたじゃないか」
「娼館に誘われたとは言ったけど通ったとは言ってないぞ」
「…嘘だろう?」
「本当だって」
「…軍は新兵に娼婦を抱かせて後悔させない風習があると聞き及んでいたんだが」
「一晩で一般兵の月収の二割も払うような金額だぞ。そんな金が有るなら貯蓄してたよ」
「……女性との交際歴は?」
「無い」
「………キスの経験は?」
「家族以外ならアンジェが初めてかな」
「…………女性の裸体を見た事は?」
「ガキの頃に母さんや姉貴やフィンリーと風呂入ったぐらい。っていうか何これ?新手の尋問?」
リオンの目をじっと見つめる。嘘をついてるようには見えない。
「そうですよ~!どうせ俺はケチでモテない怪物子爵様です~!好きになってくれる奇特な女性なんて今まで一人も居ませんでした~!」
あ、拗ねた。リオンは膝を抱えベッドの上に横たわる。
おかしい、バルドファルト家の皆の証言とリオンの認識が著しく異なる。
『俺が好きになった娘は大抵リオンが好きだったな…。その件で何度か喧嘩したよ…』
『あいつが家出して軍に入ったと分かるまで近所の女達にやたら絡まれたのよ』
『兄さんは同年代の女の子にとって憧れの的でした』
『兄貴がモテない?女同士が牽制し合って誰も告白しないだけだって』
リオンの兄弟姉妹によるとリオンはモテていた筈なのに。
どうも高値の華だったリオンは周囲の女性から好意を伝えられなかったらしい。
その上で戦争で負った傷が原因で幾度も縁談を断られて歪なぐらいに自信を失ってる。
尤も、そのお陰で私がリオンと出会う事になったのだから僥倖である。
「ごめんなさいリオン、馬鹿にしたり憐れんだ訳じゃない」
「………」
「むしろリオンの初めての相手が私という事実に嬉しさを感じている」
「………」
「わ、私も初めてだからリオンにリードしてもらいたかっただけなんだ」
「……っぷ」
突如体を震わせるリオン。
もしかして私を揶揄っていたのか?怒りと羞恥で顔が熱くなる。
少し強めに尻を抓る。
「痛いってアンジェ」
「喧しい、私なりに覚悟しているのに揶揄うリオンが悪い。乙女の純情を返せ」
「でも緊張は解けただろ」
そう言われると確かに震えていた体は元通りになっていた。
「ちなみにアンジェの性知識ってどんな感じ?」
「王宮では房事の指南役という役職が存在してな、座学でいろいろ教えられた」
「実技の方は?」
「ある筈ないだろう」
…些か不安になってきた。
処女と童貞の初体験同士の契りとは高難易度にも程がある。
閨房の術を記した教本はレッドグレイブ家の私室の机の奥底にしまい込んだままだ。
艶本の類は興味が無かったのでろくに読んだ事が無い。
そうして自分の身なりを省みた。簡素な寝間着に先程まで泣き腫らした顔。
何処から見ても色気など皆無である。いや、どう考えてもまず過ぎる。
「化粧直ししてくる!」
急いで別宅にある私の部屋に戻ろう。
せめて目元を整え唇に紅を差したい。
バルドファルト領を訪れる際に持ち込んだ荷物に煽情的な下着があった筈だ。
未試着で寸法が合ってるが不安だがこの格好より遥かにマシになる。
慌ててベッドから降り部屋に向かおうとした私の手をリオンが掴んだ。
「そのままで良いって。問題ない」
「問題はある。何事も最初を仕損じると後々まで尾を引いてしまう」
「どうせ脱ぐし汚れるじゃん」
「そういう事ではない。これは覚悟の問題だ」
リオンと契るなら綺麗になった私を抱いて欲しいという矜持。
他の女に脇目も振らず私一筋になって欲しいという女心だ。
そう思っているのにリオンの手は私を離してくれない。
「リオンに抱かれるなら綺麗な私を抱いて欲しい」
「むしろ着飾ってないアンジェを抱きたい」
リオンは掴んでいた私の手を離した。
思わぬ言葉に部屋へ戻る決意を挫かれる。
「公爵令嬢アンジェリカじゃなくてさ、只の女の子なアンジェを抱きたい。それじゃ駄目か?」
「……リオンはズルい」
地位も利害も関係なく私という存在を愛しむ。
そんな事を言われたら拒めないだろう。
溜息を吐き出しリオンの胸板に頭を埋める。
「後で悔やんでもやり直しは効かないぞ」
「むしろアンジェこそ俺に抱かれて後悔しない?」
問いかけるリオンの口をキスで塞ぐ。私の返答はそれで充分。
「痛くしないように頑張るけど失敗したらごめんな」
「私も初めてだからお互い様だ」
今度は私からリオンの唇に舌を挿れた。
『私の書いた二次創作が海外で読まれ知らぬ間にファンアートまで描かれた件』(ラノベ調
という訳で前作『婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです(https://syosetu.org/novel/307038/)』を既読の皆さんはお久しぶりです、未読の皆さんは初めまして。
前作を書き終え数ヶ月経った三月下旬の日曜日。
新作の二次創作を執筆しつつpixivでイラストや小説を漁ってた私は前の二次創作で焦点を当てたアンジェのイラストを検索した際に一枚のイラストを(https://www.pixiv.net/artworks/106447189)を見つけました。
私の想像したシチュとほぼ同じ光景で「世界には私と似たような妄想をする人がいるのか~、どんな人なんだろ~」と詳しく調べた結果、参考にしたのは私の二次創作と判明して驚きで顎が外れ嬉しさで目が飛び出す緊急事態。
嬉しさと同時に「私の拙い文章を読んでお金を払ってまでファンアートを作ってくれた人に何かお返しを」という訳で急遽今作を執筆しました。
もともとエッチシーンの構想は既に存在し、アニメ二期の詳しい新情報が発表されたら投稿する予定でした。
しかし、読者の恩義に報いなければ物書きの端くれとしてマズいと思い他の執筆を一時中断して今作を執筆しました。
イラストを描いてくださったシキ氏、そして依頼主の方に感謝の念を込めてお礼申し上げます。ありがとうございました。