気持ちが通じ合った公爵令嬢と田舎貴族は契りを交わすそうです 作:品☆美
結局、また腰が抜けてしまった私はリオンにお姫様だっこされ別宅に運ばれる事になった。
リオンは泊まっていこうと提案したがどうしてもその気になれなかった。
宿泊施設に泊まれば確かに至れり尽くせりで過ごせただろう。
でも、今の私は誰かに傅かれ世話してもらうよりも不自由でも愛する人と共に苦労する方を好ましく思っていた。
お姫様だっこされるのも行きと違い恥ずかしさを感じない。
誰にも見られていない事もあるが、私自身の意識が変わったのが大きな変化だ。
バルトファルト領でリオンと共に生きる。
その覚悟を漸く固められた。
結果的にレッドグレイブ家からの融資だけでなく私を妻として迎え入れるリオンに更なる苦労をかけるだろう。
もしレッドグレイブ家とバルトファルト家が対立する事になればどうなるか?
想像したくもないが最悪の事態を想像するのが統治者の務めだ。
「どうしたアンジェ?」
唐突にリオンから声をかけられる。どうやら些か表情が強張っていたようだ。
「何でもない」
「寒いだろ、もう少しくっつけ」
そう言って私を抱える腕に力を込める。
きっとリオンは私がどんな事を考えてるか分からないだろう。
でも分からなくて良い。
きっと私の内心を知れば彼は一緒に悩もうとする。
そんな彼が愛しいから、だから敢えて私は心を隠す。
もしバレて怒られたら、素直に謝って力を併せて頑張ろう。
未来は見通せないけれど、きっと私達は上手くやれる。
そんな事を考えつつ揺れに身を任せるといつしか私は眠りに落ちた。
※
「アンジェ、着いたぞ」
目元を擦ると既に別宅の玄関に到着していた。
ゆっくりと足を降ろし邸内へ入る。素足に感じる床の冷たさが心地良い。
灯りを点けずとも別宅の構造は把握してる。
此処での暮らしは私にとって馴染み深い物となった。
逆に公爵令嬢、王子の婚約者として王都で生きてきた生活を遠い昔のように感じてしまう。
それが良い事なのか悪い事なのか私自身には判別できない。
婚約破棄された時の絶望、王家への不信は今もなお私の心の片隅で燻っている。
それでも、今の私にとってもっと重要で大切な物が出来た。
怨みや不満を抱え世を呪いながら生きるより、愛する人と共にささやかな幸せを噛みしめて生きる。
その方がよほど建設的で幸せだ。
そんな思考をしているとすぐ部屋の前に来てしまう。
自分の部屋に帰ろうとするリオンの背を見て思わず手を握る。
訝しげに私を見つめるリオン。どうして彼を止めたのか自分でも分からない。
ただ片時でも彼と離れ離れになるのが嫌だった。
「一緒に寝よう」
短い言葉で願いを口にする。
リオンは何も言わない。言う必要が無いから。
そうして私の部屋に彼を招き入れる。
窓から見える月と星々が放つ光だけが室内を灯す。
肌寒さを感じベッドの上に座る。同時にリオンも腰掛ける。
既に幾度も肌を重ね合わせたのにこうして二人きりになると何を口にすれば良いか分からない。
それで良かった。
言葉にしたらこの幸せが霧散してしまいそうで怖かった。
「じゃあ寝るか」
「うん」
そうして私達は同じベッドに横たわる。
まだ新築の真新しさが残る天井の木目を見る。
思えば昨夜からいろいろな事があった。
恋のつらさに泣いて枕を濡らしていた事が嘘のように感じられる。
今の私は満たされていた。
ふと手に何かが触れる感触に気付く。リオンの手だった。
「もっとくっ付け」
有無を言わせない口調だった。ゆっくりと布団の上を這って近づく。
もし、また求められたらどうしよう。
流石に体は疲れているが愛を確かめ合う行為を拒むつもりは毛頭なかった。
「また抱くのか?」
「抱かないよ、でもアンジェを感じていたい」
そう言われて引き寄せられるとリオンの胸板に顔を埋める形になった。
彼の鼓動を感じる。
規則正しいリズムで鳴るその音を聞いていると安心感からかまた睡魔が襲ってくる。
「なぁ、リオン。お願いがあるんだ」
「何?」
「腕枕して欲しい」
体勢を入れ替えリオンが左腕を伸ばす。
その腕に頭を乗せると折り畳まれた左腕が再び私を引き寄せた。
「重くない?」
「大丈夫」
「…見つめられると寝れない」
「俺しか見てないから平気」
「ふふっ」
そう言って私も彼の顔を見つめる。
初めて会った時は憔悴していたリオンが今では優しく微笑んでる。
私の隣に居てくれる。
それだけで嬉しかった。
どれほど時が流れただろう。
規則正しい息遣いを感じ、顔を上げるとリオンは既に眠りに落ちていた。
私を見守るつもりが先に眠ってしまったらしい。
何とも微笑ましくて顔が綻んでしまう。
窓から見える夜空に想いを馳せる。
きっと私の人生はこれからも艱難辛苦に見舞われるだろう。
上手くいかない事も多く訪れ、時に無力感に苛まれる。
それでも人生に絶望はしない。
私の隣に彼がいる。
それだけで私は満ち足りるのだ。
私の伴侶 私の番い 私の片翼
彼が足を挫いたなら私が杖となろう。
彼が盲いたなら私が瞳となろう。
彼が闇で迷うなら道を照らす灯となろう。
そうありたいと願う。
きっと私は間違いを犯す。
でも、その時は彼が私を導いてくれる。
だから私は人生に絶望しない。
世界はいつも残酷で情け容赦なく人々に厳しい。
それでも私は屈しない。
私の隣に彼がいる。
だから安心して眠りに落ちよう。
希望と共に朝を迎え精一杯生きてゆこう。
世界がどれだけ厳しくても私達は共に生きてゆく。
そして私は眠りに落ちる。
世界に屈しない愛を抱いて。
アルトリーベ アンジェリカ(HappyEnd)。
これで今作は一応の終わりとなります。
元々はアニメ二期が始まったらお祝いにエッチ&後日談を書く予定だったのですが、ファンアートが作られた喜びに暴走してしまい他の執筆を中断して今作に取り掛かりました。
拙い二次創作でありながらリクエストしていただき誠に感謝の念に堪えません。
本当にありがとうございます。
ちなみに一応の終わりと言ったのはもう一章執筆中だからです。
今章がアンジェリカ(通常END)なら次章はアンジェリカ(妊娠END)。
好感度・選択肢による差分ENDとお考え下さい。(エロゲ脳
追記:追記:今章のファンアートをギョーザさんに描いてくださいました。ありがとうございます。
https://skeb.jp/@Gyouza_anime/works/16