※この作品はR-18です。

クローバーは爛れてる   作:コモヤモ

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ヒバリの幸せ家族計画(催眠、百合暴力)

 ボク――マギニアのヒバリはお父さんの顔を知らないし、お母さんの顔を覚えていない。

 

 ここからの話は周囲の大人たちから伝え聞いた話だ。本当かどうかもボクにはわからない。

 十数年前、ボクの両親は飛行都市がどこかの大陸に着陸したときに出会ったらしい。

 お母さんがマギニアの民で、お父さんが着陸した土地の現地民。二人はマギニアが停泊している間に出会って、少しずつ仲良くなって、ついには将来を約束して交際するようになった。

 はたから見ても二人はラブラブだったって、当時のお母さんの知り合いが教えてくれたっけ。

 

 ……でも、マギニアが停泊地から旅立つ日、お父さんは街に現れなかった。

 

 理由はわからない。それ以降、お父さんに会ったっていう人は誰もいないから、それも当然か。

 なんにせよ、お母さんはお父さんを残して大陸を離れることになった。

 マギニアから降りてその地に残る、っていう選択肢もあったのかもしれないけど、お母さんはそうしなかった。寂しそうな、けれどどこか諦めたような顔をしてたっていう話だから、もしかしたらお母さんはお父さんが来てくれないってわかってたのかもしれない。

 

 ボクは、そのときにはもうお母さんのお腹に宿っていた。

 マギニアが再び空に上がって数か月経ってから、お母さんはボクを産んでくれたんだ。

 ヒバリっていう名前もお母さんが付けてくれたんだって。

 

 そのお母さんも、ボクが赤ん坊のころに病気で亡くなったらしい。

 ボクがお父さんの顔を知らなくて、お母さんの顔を覚えていないっていうのは、そういうこと。

 

 

 よくある、とまではいかないけれど、こういうことはマギニアでは特段珍しくもない。

 立ち寄った土地で繰り返される出会いと別れは『移動する都市』の宿命なんだと思う。

 

 もちろんマギニアの指導層もボクみたいな孤児が生まれることを憂慮している。

 けれど、だからといってマギニアの旅路を止めてしまうわけにはいかないらしくて……。

 昔からいろいろと議論はあったらしいんだけど、結局、対処療法として国営の孤児院を設立・運営するっていう形に今は落ち着いてるみたい。

 

 

 ボクが育ったのもその孤児院だ。お母さんには自分の子供を任せられるような親族とか友人がいなかったんだって。……うーん、そこはかとなく闇を感じちゃうね。

 

 

 そういうわけでボクの育ての親は孤児院の先生たちになるんだけど、それと同時に、ボクの根っこには『マギニアの子』っていう意識もあった。

 都市に育ててもらった自覚、っていうのかな。マギニアの王政府がボクみたいな孤児の養育費を負担してくれてることとか、街の行政機関が孤児院の卒業生に働き口を紹介してくれるとか、その辺の事情は先生たちから耳にタコができるくらい繰り返し教わってたからね。

 

 だからなのかな、ボクたち孤児院の生徒はこの偉大なマギニアを誇りに思う気持ちが強い。

 ペルセポネ姫が主導するレムリア探索についてみんなが積極的なのもその表れだろう。

 実は【ヒーロー】の技能(スキル)も、ボクたち孤児院の生徒と卒業生が中心になって編み出した技術系統だったりする。ふふん、みんなやる気満々で技能の開発に挑んだからね。どこに出しても恥ずかしくない新クラスが完成して、協力したボクも鼻が高いよ。

 

 

 そう、だから、ボクは血の繋がった家族に会えないことを寂しがったりはしなかった。

 ……少なくとも、表面上はそう振舞ってきた。

 ボクらに良くしてくれる街の人や、孤児院の先生、それから同じ境遇の友達がいるんだから、寂しく感じる必要なんてないって、そう思ってたから。

 

 

 けれど、最近になって、それが強がりだったんじゃないかって、ちょっと思うことがある。

 きっかけはツグミ姉ちゃんに勧誘されてクローバーに加入したときのこと。

 所属するメンバーを紹介されたボクは、なんとなく、レンジャーのオジサンを「オオトリのとっつぁん」て呼んじゃったんだ。

 

 うん、本当に無意識だったし、深く考えて言ったわけじゃないんだ。そもそも別におかしな呼び方ってわけでもないし、言われたとっつぁんだって気にした風じゃなかった。

 でも、あとになって「とっつぁん」には「お父さん」って意味もあったな、ってふと思いついちゃって……そのときになってから急に恥ずかしくなっちゃったんだよね。

 

 だけど、恥ずかしいって思う割になんだかその呼び方にしっくりきてる自分もいて。

 どうしてだろ、ってしばらく悩んだ末に「ああ、もしかしたら、ボク、お父さんって呼べる相手が欲しかったのかも」とようやく思い至ったんだ。

 

 

 わかってるよ。ギルドの仲間は命を預け合う間柄だけど、家族とは別の関係だって。

 でも、そう割り切っちゃうには、ボクはみんなのことが好きになりすぎたんだと思う。

 

 オトナで頼れるレンジャーのオオトリのとっつぁん。

 法律に詳しくて難しい書類をバンバン処理しちゃうデキるオンナのツグミ姉ちゃん。

 物知りでいつも優しいメディックのヒナ姉ちゃん。

 困ったときに影からささっと助けてくれるフクロウ兄ちゃん。

 歳が近くてなんだか妹みたいなガンナーのカナリア。

 

 命懸けの冒険に何度も一緒に挑んだ大事な仲間たち。

 口に出して言うことはできないけれど、ボクはみんなのことを家族みたいに思ってる。

 もちろん血の繋がりなんてないし、出会ってからまだ一年も経っていないけれど、世界樹の迷宮に挑む日々はびっくりするぐらい濃密で、ボクが仲間たちのことを特別な存在だと考えるようになるには十分すぎるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 でも、そんな密かに想うだけの関係も、今日を境にちょっと変わる。

 だって、ボクはこの迷宮で死(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)っ(・)た(・)お(・)母(・)さ(・)ん(・)に(・)再(・)会(・)し(・)た(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

 

 

 

 

 

 

 桜の花がひらひらと舞っている。

 柔らかい春の日差しは暖かいけれど、吹き抜けていく高空の風はひどく涼やかだ。

 身体がぽかぽかとして気持ちいい。眠気にも似た心地いい安心感が頭を包んでいる。

 

「お母さん、お母さん、ボクだよ、ヒバリだよ。ねえ、わかるよね?」

『オマエハヒバリ?』

「うん、そうだよ。えへへ、背が伸びたでしょ。しばらくぶりに会ったら大人っぽくなってて、びっくりさせちゃったかな」

 

 ボクはお母さんに抱きしめられていた。

 お母さんの両腕にぎゅっとされて、全身がふわふわした幸福感で満たされている。

 最初はちょっと照れくさかったけれど、幸せすぎてそんなのあっという間に気にならなくなったくらいだ。

 

 背中に回されたお母さんの腕から、ちくちくと羽根が刺さるのを感じる。

 痛いというよりぴりぴりっとしてこそばゆい感じ。お母さんの腕は羽毛に覆われているんだから、ナイフみたいな羽根がちょっとくらい刺さっちゃうのは仕方ないことだよね。

 腕の先の頑丈な鉤爪がお腹に食い込んでるのはさすがに痛いけれど、お母さんのガラス玉みたいな目でじぃっと見つめられると、不思議なことになんとなく我慢できちゃう。むしろ、とろとろと流れる血がお母さんを汚しちゃわないか、そっちのほうが心配なくらい。

 

「ねえ、お母さん。ボク、いっぱい頑張ったんだ。迷宮をいくつも攻略してさ、魔物だってたくさんやっつけちゃって。酒場のクエストで人助けもいろいろしたんだよ。へへ、すごいでしょ?」

『ソウナノ。スゴイワネ』

「褒めてくれるの? うわぁ、嬉しいなぁ。えっとね、それじゃあさ、ご褒美をおねだりしてもいいかな」

 

 甘えるように抱き着いたボクに、お母さんがコテンと首を傾げた。

 お母さんは口を開いてはいないけれど、誰にも聞こえない声でボクに囁いてくれている。頭の奥のほうから聞こえてくる不思議な声。優しくて、蕩けるような、桃色の声だ。

 

「あのね、お母さん。頑張ったご褒美にね……、その……おっぱい、吸ってもいい?」

『オッパイ?』

「うん……。は、恥ずかしいんだけど、お母さんのおっぱいを見てたら、そんな気分になっちゃって……。あはは、やっぱり変、だよね?」

『イイワヨ。オイデ、オイデ』

 

 お母さんが笑ってる。

 口を三日月にして、愉しそうに、嗤ってる。

 お母さんの柔らかいお腹に抱き着きながら、ボクはその優しくて酷薄な笑顔を見上げていた。

 

 お母さんはやっぱり素敵なヒ(・)ト(・)だ。

 桜ノ立橋のどんな魔物よりもおっきくて強靭な両腕の翼。

 太くてたくましくいうえに、猛禽の鋭い鉤爪まで備えた両脚。

 麻痺毒を宿したピンクの羽毛はまるで血に染まった桜みたい。

 

 ああ、こんなカッコいいマ(・)モ(・)ノ(・)がお母さんだなんて、ボクはなんて幸せなんだろう。

 

「ご褒美、本当にもらっていいの?」

『イイノヨ。オイデ、オイデ。コッチニオイデ』

「う、うん、じゃあ、吸うね? ……おっぱい……お母さんのおっぱい……ん、ちゅぅ……♡」

 

 優しくて残酷な声に誘われるまま、ボクはお母さんのおっぱいに縋り付いた。

 すべすべの胴体にしがみついて、柔らかい乳房の先端を口に含む。

 綺麗な色の乳首をついばむと舌先にちょっぴり甘い味を感じた。おそるおそるそれに吸い付くと、それだけで天にも昇りそうな幸福感が胸の奥から湧いてきた。

 

「ん、んぅ、ちゅっ……はふ、おっぱい…ちゅぅ…おいし……んふぅ♡」

『キャハ! キャハハ! カワイイ、カワイイ! ヒバリハカワイイ!』

「ちゅっちゅっ……ふへ……すき、すき、お母さん、すきぃ♡」

 

 ボクは夢中になってお母さんのおっぱいにむしゃぶりついた。

 他のことなんてなにも考えられない。

 口の端からだらだらと涎をこぼしながら、すりすりと自分の身体をお母さんに擦り付けて、媚びるように乳首に吸い付いている。

 はしたない顔を隠そうだとか、そんなことは思いつきもしなかった。おっぱいを吸うたびに頭の奥がちりちりと痺れてきて、お母さんになにもかもを委ねてしまいたくなってくる。

 

『アカチャン! アカチャン! オマエハ、アカチャンカ?』

「っ……うん! ボク、お母さんの赤ちゃんになる! 赤ちゃんに、なりた……んちゅぅ…」

『キャハ! ブザマ、ブザマ! ブザマハ、カワイイ!』

 

 ……ああ、そっか。

 おっぱいを吸うとどうしてこんなに気持ち良くて安心できるのか、やっとわかったよ。

 ボクは赤ちゃんなんだ。赤ちゃんに戻ったんだ。

 だからお母さんと一緒にいるだけで、とっても嬉しくて、すごく幸せで、ハチミツみたいに身体中がふにゃふにゃになっちゃうんだ。

 

「ちゅっ……ちゅる……んぅ…ちゅ……♡」

『モット、モット! モットツヨク! モットスエ!』

「……ふえ? ぁ、んん"ん"ん"ぅ!?」

 

 突然、お母さんがボクの頭を強く抱きしめた。

 羽毛に覆われた翼腕が力強くボクの頭を抱え込んで、柔らかなおっぱいに押し付けてくる。

 お母さんのたわわな胸に、ボクの鼻までが沈み込んでしまった。

 目の前が肌色でいっぱいになる。口はおっぱいに吸い付いたままで動かすこともできない。

 後頭部には温かい羽毛の感触。前後左右、どこもかしこもお母さんの匂いに包まれている。

 

「んぐぅ、ん、ん"ぶっ、ん"っ、ぅんん"ん"ん……」

『ヒバリハ、アカチャン! アカチャンハ、スエ! オッパイ、スエ!』

「ぅ……げほっ……んぐ……ちゅ……ちゅぅ♡」

 

 お母さんの肌がぺったりと顔に張り付いている。

 鼻も口もほとんど塞がれて、うまく息ができない。

 

 でも、でも、おっぱいを吸わないと。

 だって、だって、お母さんがそうしろって言ってるんだもん。

 

 頭がくらくらする。

 呼吸が足りなくて、体が熱くて、幸せで、なにがなんだかわからなくて……。

 ボクの腕はお母さんの胴にずっと抱き着いたまま。他の動かし方を忘れちゃったみたい。

 いつの間にか両足もお母さんの腰に巻き付いている。お母さんから離れたくない一心で、気づいたときにはそんな格好になってしまっていた。

 

「ちゅぅ……ぐ、ぅぅ……んちゅ…ん"ぅ……♡」

『クルシイ? キモチイイ? クルシクテ、キモチイイ? キャハハ!』

「ん"んぅ……ちゅ……うぐっ…ぅ……ちゅぅ…ちゅぅ♡」

 

 無意識に腰が動いちゃう。

 両手両足でお母さんに抱き着きながら、押し付けたお股をぐりぐりと上下させちゃう。

 お股を擦るたびにお腹の底が甘く痺れる。くちゅくちゅと割れ目が湿っているのがわかる。

 

 気持ちいい。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい!

 

 おっぱいを吸うのが幸せで、お母さんの腕に包まれてるのが嬉しくて、

 大事な大事なお母さんにはしたなくお股を擦り付けてる悪い子なのに、

 赤ちゃんになるのも、息ができなくて苦しいのも、なにもかもが気持ち良くて……、

 

 ああ、だめだよ、こんなの……、こんなの、頭がおかしくなっちゃう……♡

 

『ヒバリハ、ブザマ! ブザマハ、イイコ! アゲル、アゲル! ゴホウビ、アゲル!』

「ん"っ……げほっ……おかあ…さ…ぅ……?」

 

 お母さんの声が近くなる。おっぱいに包まれて何も見えないけれど、ボクを抱きしめたまま顔を近づけてきたみたい。

 お母さんの腕がちょっとだけ動いて、耳の辺りが空気に触れた。

 すぐそこにお母さんの顔がある。囁くような吐息が耳をくすぐっている。

 

 すぅ、とお母さんが大きく息を吸った。

 その瞬間、なぜか身体がこわばった。

 全身を覆っていた幸福感を消し去るほどの悪寒と恐怖感が襲ってくる。

 ……なんだか、おかしい。

 どうしてだろう。はっきりとは思い出せないけれど、ほんのちょっと前にも、同じような怖さを感じたことがあるような……。

 

 不意に感じた、見知らぬ土地で迷子になったかのような心細さ。

 けれど、その不安と恐怖がなんなのかをボクが理解するよりも早く、

 

 

『キュィァァァァァアアアアアア!!』

「お"ごっ♡」

 

 

 耳元でお母さんの金切声の絶叫(カオススクリーム)が爆発した。

 魔性の嬌声が鼓膜を震わせて、そのまま脳を揺らしてくる。

 重力が無くなったみたいに視界が回転して、歪んで、千切れて、光って、弾け飛んだ。

 落ちる。浮かぶ。溶ける。混ざる。甘い。痺れる。苦しい。楽しい。怖い。気持ちいい。

 

 極彩色の世界で、ボク、ヒバリっていう人間が、砕けて、捏ねられて、作り直されていく。

 

「あ"、あ……ぁ……」

『キャハ! キャハハハ!』

 

 笑い声が聞こえる。

 誰の? そうだ、これはお母さんの声だ。

 お母さんって、ボクのお母さん?

 ……ボクって、誰?

 ボクは、ヒバリ。

 ヒバリは、お母さんの子……。

 

「あ、へぁ……あ、れ……?」

 

 ずるりと身体が地面に落ちた。

 両脚で体重を支えることもできず、迷宮の石畳にへたり込む。

 抱いていたボクを手放したお母さんが、翼腕を広げてボクの上に浮いていた。

 ガラス玉の瞳を細めて愉快そうに嗤っている。

 その冷たい嘲笑を見ていると、なんだかボクも嬉しくなってきて、自然と頬がほころんでいた。

 

『ヒバリ、ヒバリ。オマエハ、ナァニ?』

「……? もちろん、ボクはお母さんの赤ちゃんだよ」

『キャハ! アカチャン? アカチャンナノ? キャハハハ!』

 

 甲高い笑い声が迷宮に響く。舞い散る桜が怯えるように震えて落ちていく。

 ボクはへらへらと腑抜けた顔で笑いながら、愉しそうなお母さんを見上げている。

 お母さんの幸せが、ボクの幸せなんだ。

 あったかい陽だまりの揺り籠で、ボクは蕩けた頭でそんなことを考えていた。

 

 

 

『カワイイカワイイ、アカチャンヒバリ。ジャア、アッチノオンナハ、オマエノナァニ?』

「あっち、って……あれ?」

 

 お母さんが翼腕で迷宮の一角を指す。

 ボクたちから少し離れたところに、女の人が座り込んでいた。

 ボクよりも年上のオトナのお姉さんだ。

 金色の長い髪。薬師の白衣。

 緑の瞳がボクとお母さんを苦々しげに睨んでいる。

 

「ヒナ姉ちゃん?」

 

 その人の名前を思(・)い(・)出(・)し(・)て(・)、ボクは首を傾げた。

 ええと、なんでヒナ姉ちゃんがあそこにいるんだっけ?

 

 地面にへたり込んだヒナ姉ちゃんは、両手を地面につけて懸命に立ち上がろうとしているようだけど、腕に力が入らないのか姿勢を変えることもできずにぷるぷると震えているばかりだ。

 それを見て、彼女がお母さんの鉤爪に傷つけられたことを思い出した。

 ヒナ姉ちゃんは激しい戦闘のさなか背中を斬りつけられて、傷口から麻痺毒を流し込まれたんだ。今も体の自由が利かない様子なのはまだ麻痺毒の効果が残っているからだろう。

 そうだ、確か、回復の要の姉ちゃんが動けなくなったことで、他(・)の(・)み(・)ん(・)な(・)もどんどん追い詰められていって……。

 

 ……あれ、他のみんな、って誰だっけ。

 そもそもなんでヒナ姉ちゃんとお母さんが戦ってたんだろう。

 だって、ヒナ姉ちゃんはボクの仲間だし、もちろんお母さんはお母さんだし……。

 

「うーん……? なにかおかしいような……」

 

 奥歯にものが挟まったみたいに思考に引っ掛かるものがある……気がする。

 でも、はっきりとした形にはならないから、やっぱり大したことじゃないのかも。

 それよりも今はヒナ姉ちゃんだ。ぶんぶんと首を振って余計な疑問を振り払い、ボクは急ぎ足で彼女のところに駆け寄った。

 

「ヒナ姉ちゃん、大丈夫?」

「っ……ヒバ、リ……ちゃん」

 

 屈みこんで姉ちゃんに目線を合わせると、彼女は困惑したように表情を歪めた。

 絞り出した言葉も舌足らずな感じ。呂律が怪しいのは麻痺毒の痺れのせいかな。

 とにかくまずは薬で麻痺を治療して、姉ちゃんを助けてあげないと。

 

「…………えっと……あれ……?」

 

 気が付くと、ボクは姉ちゃんに手を伸ばしかけたところで固まっていた。

 今、ボクはなにをしようとしてたんだろう。ぽっかりと深い穴が開いたみたいに、頭の中の考えがまとまらない。動けないヒナ姉ちゃんを見て、なにかしなくちゃって思ったのは確かだと思うんだけど……。

 ボクはふらふらと手を彷徨わせながら、何度も繰り返し首をかしげてしまった。意味もなくあっちを見たりこっちを見たり。これじゃ挙動不審としか言いようがない。

 

 案の定、ヒナ姉ちゃんはボクの謎の動きを悲しそうに見つめている。

 けれど、そうかと思ったら、彼女はいきなりお母さんのほうに視線を向けて今まで以上に表情を険しくした。

 

「…ハル、ピュイア……!」

 

 ヒナ姉ちゃんの緑の瞳がお母さんを睨む。憎しみさえこもった鋭い視線だった。

 震える喉が絞り出したのはお母さんの名前。その声には嫌悪と敵対心が滲んでいる。

 

 ボクは、それを彼女のすぐ近くから見て、聞いていた。

 ……なんだか、すごく嫌な気分。

 なんでヒナ姉ちゃんはお母さんにそんな態度をとるんだろう。

 ヒナ姉ちゃんはボクの仲間のはずなのに、どうしてボクの大事なヒトに敵意を向けてるの?

 

「……ヒナ姉ちゃん」

「ヒバ、リちゃ……ぁ、なたは、アイツに混乱させられ――あうっ!?」

 

 ボクはほとんど反射的にヒナ姉ちゃんの頬を張っていた。

 懇願するような、説得するような、姉ちゃんの必死の言葉。

 でも、ボクがそこに感じたのは、寒気がするような不快感だけだった。

 

 掌がじんじんと痛む。自分でもびっくりするくらい強い力で姉ちゃんの頬を打ったみたいだ。

 麻痺状態の姉ちゃんは打たれた頬を抑えることもできずに、絶望感の滲んだ表情でボクを見ている。怯えと緊張で強張った顔だ。目じりにはうっすらと涙の気配すらあった。

 

 ボクはそれを間近で見て……ああ、なんでだろう……すごく、ゾクゾクしてしまった。

 

「ヒナ姉ちゃん、なんでお母さんをそんな目で見るの? やめてよね」

「おか……? ちが……アイツは、きゃんっ!」

「なに、『アイツ』って。お母さんに向かってそんな呼び方、いくら姉ちゃんでも許せないよ」

 

 もう一発、頬を張った。

 悲鳴をあげた姉ちゃんがのけぞり、地面に倒れ込む。

 綺麗な顔をくしゃくしゃにして、姉ちゃんがボクを見上げてくる。

 普段からおっとりしていて、いつだって余裕たっぷりで、どんなときでも優しくて丁寧なヒナ姉ちゃんが、追い詰められた表情で縋るような視線をボクに向けてきている。

 

 ああ、ダメだよ、ヒナ姉ちゃん。

 そんな目で見られると、ボク、もっと姉ちゃんをいじめたくなっちゃうよ。

 

「ヒバ、ちゃ……正気に、なって……あぐっ!」

「意味わかんない。ボクはもともと正気なんだけど」

 

 最後まで喋らせずに、お腹を蹴りつけた。おへそのあたりをつま先で抉ってやる。

 苦悶の表情を浮かべて、姉ちゃんは身体をくの字に折った。胎児みたいに背中を丸めて、何度も苦しそうに咳き込んでいる。

 痺れた身体で、呼吸さえ不自由なのだろう。酸欠で真っ赤になった顔で、涙をぽろぽろとこぼしながら、必死になってもがいている。

 なんていじらしいんだろう。ボクは思わず口を三日月みたいにしてしまった。

 

「げほっ、が、ごほ……おね、が……もとにもどっ……あうっ…」

「もう、しつこいなぁ。さすがにボクも怒っちゃうよ?」

 

 姉ちゃんの肩を蹴って、仰向けになるように地面を転がす。

 痺れて弛緩した手足が大の字になった。真っ白だった白衣が土と砂でまだらになっている。呼吸のたびに姉ちゃんの大きな胸が上下している。息は乱れていて、ひどく苦しそうだ。

 

 もしかしたら、苦しいのは、胸に重いものが二つも載っているからかもしれない。

 ふと浮かんだ意地悪な閃きに、ボクは思わず興奮してしまった。

 ボクはにっこりと頬を緩めながら、金属製の装甲靴のかかとを姉ちゃんの鳩尾にゆっくりと落とした。内臓ごと踏みつぶさないように手加減しつつ、押し当てたかかとをぐりぐりさせながら、つま先でおっきなおっぱいを突っついてやる。

 

「あ……かは……う……ヒバ、ちゃ……やめ…げほっ……ぅ」

「苦しい? ねえ、苦しいよね。でも、睨まれたお母さんはもっと苦しかったんだよ?」

「げほっ……が……う…ぐ……」

「悪いことをしたら、ちゃんと反省しないと。安心してよ、ボクも手伝ってあげるからさ」

 

 お腹を圧迫された姉ちゃんはいよいよ呼吸もままならなくなったらしい。

 手足の先端が力なくぴくぴくと痙攣している。緑色の目は虚ろになってきていて、ろくに視点も定まっていない様子だ。口の端っこからだらしなく涎が垂れているけど、姉ちゃんはそれに気づいているのだろうか。

 

 張りのあるおっぱいを蹴り遊びながら、ボクは姉ちゃんが苦しむ様子を眺めている。

 愛でている、と言ってもいいかもしれない。ボクの足元で姉ちゃんが苦しんでいるっていう事実が、すごくドキドキして、震えるほど愉しくて、もっといろんな方法でいじめてあげたくなってしまう。

 ……こんな感覚、初めてだった。

 

「あ、ごめんごめん。このままじゃ反省の言葉も言えないよね。はい、じゃあ、足をどけるから、まずは息を吸って~……」

「っ、う、げほっげほっ…ぁ…ぅ…はぁ、はぁ、はぁ……」

「あはは、そんなに焦っちゃって。仕方ないヒトだなぁ、ヒナ姉ちゃんは」

 

 おどけたように笑いながら、軽く足を持ち上げた。

 その途端に、姉ちゃんが激しく咳き込みながら新鮮な空気を求めて喉を喘がせる。

 その様子は本当に苦しそうで、けれどもすっごく艶っぽくて、最高に綺麗だった。

 

「ほら、息をしたら、次は反省だよ。お母さんに『ごめんなさい』って……ね?」

「……はぁ、はぁ……謝る、ことなんて……けほっ……なにも、ないわ……」

「…………あ、そう」

 

 目は虚ろで、息も絶え絶えで……それでも姉ちゃんは首を縦に振らなかった。

 ちょっとカチンと来たけれど、それと同時に嬉しくなっちゃう。だって、素直にならずに抵抗してくれたほうがもっともっと興奮できるって、なんとなくわかるんだもの。

 

 ボクはおもむろに仰向けで横たわるヒナ姉ちゃんに腰を降ろしだした。

 おっきなおっぱいを乗り越えて、姉ちゃんの綺麗な顔の上に股間を近づけていく。

 ズボンも下着も履きっぱなしだけど、さっきお母さんのおっぱいを吸ったときにボクはお股をびしょびしょに濡らしちゃっている。その湿った感触を意識しながら、ボクは煽るように股ぐらを姉ちゃんの口元に押し付けた。

 

「ふふん、『ごめんなさい』も言えない悪いお口はふさいじゃうもんねー」

「ヒバ、ちゃ…やめ……っ、んむぅ、ぅ、ん"んん!」

「んっ……あは、ヒナ姉ちゃんってばくすぐったいよぅ」

 

 太ももを使ってぎゅっと姉ちゃんの顔を締め付ける。

 ズボンの分厚い布地越しに熱い鼻息を感じた。くぐもって乱れた呼吸音が肌に伝わってくる。

 緑の瞳に大粒の涙が浮かんでいる。困惑と息苦しさとで歪んだ姉ちゃんの綺麗な顔。それをもっとぐちゃぐちゃにしたくなる。

 

「んーっ! んーっ! ん、ん"ん"ぅーっ!」

「えー? なに言ってるの、姉ちゃん。それじゃわからないよー♡」

 

 首を振ってもがこうとする姉ちゃんをせせら笑う。

 押し付けた腰をグラインドさせて、じっくり、じっくりとボクの大事なトコロを刺激する。

 姉ちゃんが完全に酸欠になって倒れちゃわないように、たまにちょっとだけ腰を上げてみたり、そのあとにもっと深く腰を沈めてみたり……。

 苦しさに染まったヒナ姉ちゃんの顔がそのたびに形を変える。姉ちゃんのこんな顔を見るのは初めてだった。もしかしたら、こんな余裕のない顔はカナリアだって見たことがないかもしれない。ボクだけのトクベツって考えると、ちょっぴり優越感。

 

「ん、んじゅ、ぅぅっ! ん"ん、じゅぶ、うぅーっ!」

「えへへ♡ ヒナ姉ちゃん、すごく可愛い♡ ねえ、もっと呻いて♡ もって苦しんでよ♡」

 

 腰を擦り付ける音に水音が混じってきた。ズボン越しの刺激はささやかで、いっそもどかしいくらいだけど、追い詰められた姉ちゃんの顔を眺めているだけどとめどなく気持ちが昂ってくる。

 ボクのお股からはいやらしいおつゆが洪水みたいに溢れてきていた。下着もズボンもびちょびちょで、布地を伝って姉ちゃんの顔にまで届いている。

 姉ちゃんが息をしようとするたびに、ボクの雫が、ボクの匂いが、ボクの熱が、姉ちゃんを犯してるみたいで、お腹の奥がきゅーっと熱くなるんだ。

 

「んん"んーっ! ん、げほっ、うぐ……ん、ん"っ!」

「あはっ♡ いいよ、姉ちゃん♡ もっと、もっと……♡」

『タノシイ? タノシイ? ヒバリハ、タノシイ?』

「あ、お母さん! うん、すっごく愉しいよ♡」

 

 羽ばたきの音が聞こえて、お母さんが空から隣に降りてきた。

 ピンク色の羽でボクのほっぺを撫でて、透き通ったガラスの瞳を嗜虐的に光らせている。

 

『ヒバリ、ヒバリ。コタエテ、コタエテ。コノオンナは、オマエノナァニ?』

「え? ええっと、ヒナ姉ちゃんは、ボクの……仲間だよ?」

『ナカマ。ナカマ。カゾクジャナクテ?』

「家族……。うん、そうだったらいいな、って思ってはいたけど……」

 

『ジ(・)ャ(・)ア(・)、(・)ソ(・)ウ(・)シ(・)チ(・)ャ(・)オ(・)?』

 

 お母さんが嗤った。

 玩具で遊ぶように。獲物を嬲るように。口を歪めて、狂気の色を覗かせて。

 

 ……ああ、それは、なんて素敵なアイディアなんだろう。

 

 着地したお母さんが、横たわる姉ちゃんの耳に顔を近づかせる。

 いやいやと暴れようとする姉ちゃんをボクが体重を掛けて押さえ込む。

 いつの間にかボクもお母さんと同じように嗤っていた。きっと鏡があればそっくりの表情が写るだろう。だって、ボクとお母さんは家族なんだから。

 

 お母さんが大きく息を吸い込む。喉の奥の空気が魔力によって変質していく。

 一瞬、時間が止まったかのような静けさがあった。

 はらりと舞い落ちた桜の花びらが、ボクらの視界を横切って地面に落ちる。

 

 

『キュィァァァァァアアアアアア!!』

「お"っ♡」

「あが!? ああ"ぁっ!?」

 

 

 次の瞬間、絶叫が轟いた。

 脳が揺れる。思考が千切れる。神経が焼き切れて、好き勝手に繋ぎなおされる。

 記憶が砕ける。想いが捻じ曲げられる。積み重ねた経験が消えていく。

 失って、失って、失って……、

 ぽっかり空いた空白をお母さんが侵してくる。

 

「あ"、い"っ…うぁああああっ♡」

「いや、ぁ、やだ、やだ、ぁっ、ぁ、やあ"あ"あ"あ"!!」

 

 イった。イった。何度もイった。

 腰が跳ねる。股間の割れ目から潮が噴き出す。意識を捏造される快感で絶頂する。

 ボクの下で姉ちゃんもびくんびくんと痙攣している。見開いた緑の目はひどく虚ろで、目の前のボクさえ見えていないみたい。掠れた呼吸の音が小さく聞こえている。

 

 姿勢を支えていられずに、ボクは姉ちゃんの上から崩れ落ちた。

 石畳にほっぺをくっつけて、脳でイった余韻に身体を委ねる。ぼんやりとした視界に涙と涎とボクの愛液とでぐずぐずになった姉ちゃんの顔が見えた。はしたなくてだらしなくて、けれども恍惚を湛えたその表情に、ボクも自然と笑顔になってくる。

 

「えへへ、これでお揃いだね、ヒナ姉ちゃん♡」

「ぁ……ぇ……?」

 

 弛緩した身体で這いずって、姉ちゃんを抱き起こした。ボク以上に力の抜けた彼女の身体を支えて、優しく背中をさすってあげる。色んな液体にまみれたほっぺを舐めて汚れを拭き取ってあげると、苦くてしょっぱいエッチな味がした。

 

「ねえ、ヒナ姉ちゃん。ボクは、姉ちゃんにとって、なぁに?」

「……ヒバリ、ちゃんは……私の……大事な、妹……」

「っ♡ ヒナ姉ちゃん……っ♡」

 

 感極まって姉ちゃんに全力で頬ずりした。蕩けきった表情の姉ちゃんはなすがままだ。

 嬉しくて嬉しくて涙が出てきた。姉ちゃんもぽろぽろと涙を流している。胸をちくちくと刺してくる奇妙な引っ掛かりなんて、もうどうでもいい。ボクと姉ちゃんはさめざめと泣きながらぎゅっと身体を寄せ合っていた。

 

 そんなボクたちをお母さんがゴミを見るような優しい目で見つめている。

 使い捨ての道具を扱うように、お母さんの鉤爪が姉ちゃんの頭を掴んで無理やり自分を見上げさせた。家族に対する愛に満ちたその行為によって、姉ちゃんはようやくお母さんの存在に気づけたみたいだ。

 

「ああ……お母さま……♡」

 

 姉ちゃんがうっとりとそう言った。その言葉を聞いてお母さんが残酷な笑みを深くする。ようやく姉ちゃんもわかってくれたんだ、ってボクも嬉しくなっちゃった。

 興味をなくしたかのように鉤爪が頭を離す。支えを失った姉ちゃんの身体をボクが抱き留めた。二人でもつれるように地面に転がって、覇気の抜け落ちた顔で笑い合う。

 

「姉ちゃん、ボクたちは家族だよ」

「ええ、ヒバリちゃん。私たちは家族よ。だから、ずっとずっと、一緒にいましょうね」

「うん! そうだ、それならカナリアも本当の妹にしてあげないと」

「もちろんよ。ふふふ、私も一緒にお母さまにお願いしてあげるわ」

「それからそれから、おおとりのとっつぁんとフクロウの兄ちゃんも家族にしてもらって……」

 

 幸せだ。幸せすぎて、難しいことはなんにも考えられない。

 迷宮の地面で抱き合ったボクとヒナ姉ちゃんは、無意識にお互いの顔を猫みたいにぺろぺろと舐めあいながら、お母さんの用意した幸せの泥沼にずぶずぶと沈んでいった。

 

 そう、ボクの今までの人生はこのためにあったんだ。

 お母さんと家族を守るために。

 武器を向けてくる冒険者を倒して、殺して、根絶やしにするために。

 そのためなら、お母さんの棲み処に土足で踏み入ったマギニアだって滅ぼしてやる。あんな故郷でもなんでもない街、壊しちゃった方がせいせいするってもんだよ。

 

 

『キャハ! キャハハ! キャハハハハハハ!』

 

 

 生(・)ま(・)れ(・)変(・)わ(・)っ(・)た(・)ボクの背中を押すように、お母さんの笑い声が天高く響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……




 可能性の観測を終了し、現実の拠点に帰還しますか?

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