※この作品はR-18です。

クローバーは爛れてる   作:コモヤモ

2 / 14
ヒバリは花獣に囚われる(敗北、リョナ、異種姦)

 飛行都市マギニア。

 それが、ボク――駆け出し冒険者のヒバリの故郷の名前。

 

 都市一つがまるごと宙に浮かび、空の世界を自由に旅して回る。

 そんなことができるのは、世界広しといえどマギニアだけに違いない。

 空の旅には数えきれない危険と苦労があるけれど、ボクたちマギニアの民は誰しもこの偉大な都市を誇りに思っている。

 

 ボクらの故郷、マギニアでは数年前からひとつの大きな計画が進行している。

 都市の指導層の指揮のもと、ここしばらく飛行都市が世界全土の『踏破樹海』を擁する国々を巡っていたのもその計画のためだ。

 

 東の果てのエトリア。

 北の公国ハイ・ラガード。

 南海の海洋都市アーモロード。

 最果ての街タルシス。

 

 世界に七つ存在するという『世界樹』とその地を守る『迷宮』――。

 危険な魔物たちの跋扈するダンジョンは、同時に百戦錬磨の冒険者たちの狩場でもある。

 世界各地のすでに攻略された『世界樹の迷宮』を訪れたマギニアは、その地の冒険者たちを新たな冒険へといざなった。

 

 その終着点が、ここ。

 

 一年を通じて荒れ狂う海と分厚く壁のような雲とに閉ざされた、絶海の孤島。

 名をレムリア。

 巨大な世界樹を中心に環状列島が並ぶ、外界から閉ざされた神秘の領域だ。

 

 この未踏の秘境を踏破し、この地に眠るという伝説の古代文明の秘宝を手に入れること。

 それこそがマギニアの貴い血筋に伝わる悲願なのだという。

 

 ボク自身は、その悲願にまつわる因縁を詳しく知っているわけではない。

 けれど、マギニアの民として……、ううん、ひとりの冒険者として、ずっと前からこの冒険計画に胸を躍らせ続けてきた。

 新たな都市を訪れて、新たな冒険者たちがマギニアに乗り込んでくるたびに、居ても立っても居られない高揚感がボクの中でウズウズしていたんだ。

 

 マギニア出身の冒険者にはボクと同じようにハートを燃やしている同志が何人もいた。

 彼らと一緒になって、新しい冒険の技術を作り出そうとしたのも良い思い出だ。

 みんなで知恵を出し合って、マギニアにやってきた世界中の冒険者の職分(クラス)を参考にしながら作り上げた技能(スキル)は、最後には余所の都市で生まれた歴史あるクラスと比べても決して見劣りしないものになったと思う。

 

 ……とはいえ。

 その技術系統を『ヒーロー』と名付けたのは、ちょっと調子に乗りすぎたのかも。

 

 カッコいいとは思うんだけどね。

 でも、なんていうか、街の酒場でそう名乗るたび、周囲の冒険者から生暖かい視線で見つめられるのは……、やっぱりちょっと恥ずかしいよ。

 英雄願望の行き過ぎた子どもに見えちゃうからか、レムリアに到着する直前まで、なかなかギルドにも加入できなかったくらいだし……。

 

 でも、それも今となっては笑い話!

 嵐の海を抜けた飛行都市がレムリア南端の島に着陸したタイミングで、ボクも無事にギルドに勧誘されたんだからね!

 

「ヒバリさん、あなたの星が輝いて見えるわ」ってギ(・)ル(・)ド(・)マ(・)ス(・)タ(・)ー(・)から声を掛けられたときは……、うん、ちょっとだけ怪しい勧誘かと疑っちゃったのは確かだけど。

 ともあれ他に誘ってくれそうなギルドもなかったし、「こうなったら当たって砕けろ!」の気持ちでボクはギルド【クローバー】に加入したんだ。

 

 で、入ってみてびっくり。

 探索要員として紹介された仲間たちはみんな凄腕で、急造パーティなのに連携もばっちり。

 初日の冒険ではなんと着陸したマギニアの北の森に隠れていた未踏破の遺跡を発見して、都市の探索司令部からその調査ミッションを任されたっていうんだから、もうできすぎなくらいだよ!

 

 これってまるで英雄譚のプロローグみたいじゃない?

 もちろん口に出したりはしないけれど、ボクは心の中でこっそりそう思っちゃっていた。

 それだけじゃない、このままギルドで活躍すれば、本当の英雄(ヒーロー)になれるんじゃないか、って。

 

 ――そのときボクは確かに、そう思っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛行都市マギニアの着陸地点から北に約1時間。

【はじまり島】の平原を越えた先の緑の森に、古代文明の遺跡が隠されている。

 マギニア探索司令部はこれを【東土ノ霊堂】と呼称し、発見者である【クローバー】に調査の任を依頼した。

 探索一日目、【クローバー】は同地にて行方不明となっていた薬師を保護し、その後帰還。

 数日の休養を挟み、ギルドは二度目の探索を敢行する――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、気を付けて! コイツ、普通の魔物じゃないよ!」

 

 剣を握り盾を構えて、ボクは背後の仲間たちに注意を叫ぶ。

 朽ちかけた遺跡の石壁と背の高い広葉樹とが交じり合った緑の迷宮。その最深部でボクたちは大型の魔物と対峙していた。

 

 目の前に立ちはだかるのは、迷宮の外の生き物とは明らかに違う、異様で不気味な生命。

 動物ではない。本質は植物だ。暗緑色の恐ろしく太い蔦が、何重にも絡み合って生物のフォルムを作っている。鋭利で角張ったその脚は、サソリのような甲殻類を連想させる。

 アンバラスに膨れ上がった胴体の正面には、悪魔のように赤い頭部。いや、本当に頭部なのか、それさえわからない歪な器官がくっついている。禍々しく避けた亀裂が威圧的な眼窩のように見えるっていうだけだ。

 胴体の側面と上部から伸びているのは複数の太い触手。鞭のようにしなるそれらは、明らかに魔物の意思に従って自由自在に操作されているのが見て取れる。先端はトラバサミみたいに鋭い牙状の構造になっていて、獲物を食い殺そうとガチガチと音を鳴らしている。

 

 言うまでもなく、見たことのない魔物だった。博識なメディックのヒナ姉ちゃんさえ押し黙っている。

 多分、コイツがこの迷宮の主だ。

 道中で出会った魔物と比べても、明らかに格上のオーラがある。

 

 木々の隙間から差し込んでいた真昼の光も今は弱弱しい。

 辺り一帯にうっすらと散布されている黄色い花粉のせいだ。まず間違いなく目の前の魔物が撒いたものだろう。息苦しいほどではないが、微かな異臭を感じる。縄張りを主張するかのような黄色のヴェールが、迷宮の中でこの付近だけを異質な空間へと変えている。

 

(やばそうなのは……、あの触手だ)

 

 じっとりと背中に汗が浮かぶのを感じながら、敵の姿をよく観察する。

 鞭のようなしなりが目を引くが、実際のところ、あの触手はそこら辺の木の枝よりも太い。風切り音から察するに重量もありそうだ。ほとんど鈍器と言っていいだろう。マトモに叩きつけられたら一発で昏倒してしまいそうな迫力がある。それでいて軌道も読みにくく、数も多い。かなり厄介な武器だ。

 

(だからこそ、ボクが防がないと……)

 

 奥歯を嚙み締め、やや前傾姿勢で足の裏に力を籠める。

 でたらめに振り回される触手の長さを見極め、その間合いの寸前までジリジリと前進する。

 

 ……あと数歩。

 瞬間、後衛のレンジャーが叫んだ。

 

「来るぞ!」

 

 異形の魔物が石畳を砕いて一歩踏み出す。

 植物のくせに根を張っているわけじゃないらしい。

 ボクの立ち位置が魔物の制空圏に飲み込まれた。

 

「上等ッ! 掛かってこい!」

 

 斜め上方から振り下ろされた蔓の鞭を左手の大盾で受ける。

 即座に勢いを斜めに逃して捌いたものの、それでも衝撃で腕が痺れた。

 休む暇もなく別の触手の真正面から突っこんでくる。

 後退は不味いと直感。

 覚悟を決めて一歩を踏み込み、迫りくる触手の先端の牙に長剣を捩じり込んだ。

 

「こんのぉ!」

 

 力任せに刃を振り抜き、致死の脅威をすり抜ける。

 続けざまに更なる触手の連撃が襲ってくる。けれど、今の二合で多少は目が慣れた。

 小さくステップを踏み、有利な位置を探しながら盾と剣とで魔物の攻撃をいなす。

 敵の攻撃は苛烈で、絶え間ない。

 ボク自身がここから反撃に移るのは難しそうだ。

 

(だけど、ボクがこうやって敵の攻撃を引き付けられてるなら……!)

 

 ボクが前に出たことで、魔物はボクの仲間たちを触手の射程に捉えられずにいる。

 その隙をクローバーの仲間たちが見逃すはずもない。

 

 荒れ狂う魔物の鞭を掻い潜って、後方からの援護射撃が飛来する。

 ナイトシーカーの投刃が触手の付け根に突き刺さり、レンジャーの炎矢が魔物の胴を穿つ。

 その直後、ガンナーのカナリアが続けて放った銃弾が、魔物の脚部を撃ち抜いた。

 

「ギ――――ィイ!」

 

 魔物が奇怪な金切り声を上げ、ぐらりと体勢を崩す。

 豪雨のごとく打ち付けられていた触手の動きがほんの一瞬だけど停止した。

 その好機を前に、ボクは迷うことなく地面を蹴った。

 

 意識が一点に研ぎ澄まされる。

 ぐん、と身体が加速する。

 

 時間が引き伸ばされる感覚の中で、触手の群れが弓のように引き絞られるのが見えた。

 大振りの予感。

 水平方向に構えられた触手がしなった瞬間、ボクは足先から地面に滑り込んだ。

 加速そのままにスライディングした頭上を、壁のように連なった触手の打撃がすり抜けていく。

 

 着こんだ鎧と石畳とが擦れて火花が散る。

 その擦過音を置き去りに、ボクは跳ねるように立ち上がり、剣を構え、目の前の魔物に――、

 

「……え?」

 

 赤。

 視界を遮ったその色にボクの足が止まる。

 

 毒々しいほどに鮮やかな、赤い花だ。

 花弁の閉じた巨大な花が、ボクの進路を塞いでいる。

 

 なんで、と疑問を抱くのとほぼ同時に、巨大花から深緑色の脚が覗いていることに気づく。

 ついさっきまで対峙していた魔物の脚だ。

 そこでようやく、ボクは目の前の花が魔物の背中なのだと理解した。

 正面から向き合っていたときは巨体に隠れていて気づけなかったが、先ほどの触手の横薙ぎに合わせて、魔物の本体までもが半回転していたのだ。

 

「ッ、だったら!」

 

 思考は数瞬。躊躇したのは1秒にも満たない。

 触手の攻撃をやり過ごした今こそが絶好のチャンス。相手の向きが変わっただけで、敵の懐に潜り込めた事実には何の変りもない。

 固まりかけた身体を前に動かす。全身全霊の気合を込めて、ボクは長剣の刃を振りかぶる。

 

 けれど、そのたった数瞬の硬直が、ボクの判断を嘲笑った。

 

 花弁を閉じた巨大花が、ボクの目の前で大きく膨らんだ。

 密閉された花びらの内側になにかが充満していると気づく。

 猛烈な悪寒。

 だけど、攻撃の動作に入った身体はもう止まらない。

 

 赤い花が開花する。

 ぼふん、と至近距離から音が聞こえた。

 

 花弁の中に閉じ込められていた大量の花粉が解き放たれる。

 戦場にうっすらと散布されていたものの比ではない。

 視界を黄色一色で染め上げるような、恐ろしく濃密な花粉の爆弾だ。

 

「……っ、……う、ごほ……」

 

 目の前で弾けたそれを、ボクはまともに吸い込んでしまった。

 鼻と喉の奥が灼け付く感覚。草木の青臭さを何百倍にも濃縮したような異臭が脳を揺らす。

 毒。その言葉が頭の中を駆け回る。

 視界は花粉の黄色に閉ざされ、聞こえてくる音さえが遠く感じられる。

 

「う……こ、この……、……うぁっ!?」

 

 まとわりつく花粉を振り払おうとして、足を滑らせた。

 がしゃり、と重鎧が地面にぶつかる。

 気づけば視界が横倒しになっていた。立ち上がろうとして、両足の痺れを認識する。

 剣を握る指の感覚も消えていた。花粉に侵された目からはとめどなく涙が流れている。

 

(まずいまずいまずい……!)

 

 焦りが脳内を埋め尽くす。

 闇雲に立ち上がろうとして、また弛緩した足を滑らせ、無様に地面に転がってしまう。

 足だけで立とうとしたらダメだ。

 今度は腕も使ってバランスを取ろうとして、ボクは右の腕の違和感に気づいた。

 地面に縫い付けられたかのように動かない腕。そこにいつの間にか魔物の触手が巻き付いていたのが、涙ににじんだ視界にぼんやりと見えた。

 

「ッ! はな……、ッ」

 

 放せ、と言い終える前には、ボクの身体は引(・)っ(・)こ(・)抜(・)か(・)れ(・)た(・)。

 右腕に絡んだ触手が勢いよく天に向かって振り上げられる。

 肩が外れそうな痛みと衝撃に呻く余裕もなく、ボクは空中へと連行されていく。

 1m……2m……。視点が遺跡の壁よりも高くなる。

 

 そこでようやく、ボクは戦場の全景を俯瞰することができた。

 前衛を失ったパーティの戦列はとうに崩壊していた。

 ギルドの仲間たちは触手に打ち据えられて全員が地面に倒れ伏している。

 

 絶望が心臓を凍り付かせた。

 同時に、ふわりと身体に浮遊感を覚える。

 上昇が止まったのだ。

 そして、腕に絡んだ触手は、もう地上へと向かい始めている。

 

「やめ――――」

 

 視界が反転した。

 落ちる。落ちる。落ちる。

 自分でもよくわからないなにかを叫んだ。

 その直後、全身に衝撃。

 受け身も取れず、ボクは地面に叩きつけられた。

 肺の中身が丸ごとなくなったような苦しさが胸の内側を突き刺す。

 

「が、あ……ごほ……、ぁ、は……」

 

 咳き込み、わけもわからず地面を這いずる。

 そんなボクを弄ぶように、右腕の触手がまた持ち上がった。

 片腕を支点にして身体が吊り上げられる。

 霞む視界に、魔物の顔が映った。

 亀裂のようなその口元が、厭らしく嗤っている。

 

「や、めろ……」

 

 ほんの僅かに残っていた精一杯の意地で、ボクはソイツを睨みつけた。

 次の瞬間、ボクは地面に叩きつけられていた。

 

 さっきほどの高さはない。

 代わりに、何度も、念入りに、何度も何度も、吊り上げて叩きつけてのループが繰り返される。

 

「――ッ、ぁ……」

 

 もう声も出なかった。

 抵抗の意思は徹底的に折られ、ただ茫然とボクは魔物に遊ばれ続けている。

 

 それでも、ボクはまだ生きていた。

 ……いや、生(・)か(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「シィ――ィィィ」

 

 魔物が空気の漏れるような声を出している。

 いつの間にか地獄のループは終わっていた。そのことにすらしばらく気づけなかった。

 完全に脱力したボクは、右腕の触手に地面を引きずられて、背中の巨大花の前に連れてこられていた。

 

 花粉を放った後再び閉じていた赤い花がじっくりと時間を掛けて開いていく。

 それはまるでボクに見せつけているかのようだった。

 花びらと花びらの間には粘ついた粘液が糸を引き、花弁の奥の暗い空間がぬらぬらと怪しく蠢いている。

 

 それは明らかに、捕食者の口の中の光景だった。

 

 巨大花の奥底から無数の触手が這い出してくる。

 紐のように細く、けれども強靭なそれらが、ボクの身体に絡みついてくる。

 腕に、肩に、腰に、足に……。

 包み込むようにボクを捕らえると、触手たちはゆっくりと花の奥へと戻り始める。

 

「や……だぁ……」

 

 もしも万全の体力があれば、こんな拘束は引きちぎることができたかもしれない。

 けれど、体力を使い果たした身体は、どうしても動いてくれなかった。

 ボクはそのまま、身体を浮かされ、巨大な花の中心に寝かされて――、

 

「~~んんぅー!?」

 

 ぱくん、と。

 あっけなく花弁の檻に閉じ込められた。

 

(う……ぁ……ひどい、におい……)

 

 密閉された花弁の中は、魔物の臭気で満たされていた。

 信じられない悪臭が肺腑の奥を犯し、おぞましいほどに甘い蜜が全身に塗りたくられていく。

 身体にまとわりつく触手も数を増している。鎧の守りなんて何の助けにもならなかった。ありとあらゆる隙間から侵入してきた触手が、ボクの肌を這いまわっている。

 

 べたついた粘液がボクの全身を余すことなく汚していく。

 胸にも、股の間にも、触手の魔の手は伸びていた。

 触手の群れは突起があれば絡みつき、穴があれば入ってくる。

 破瓜の痛みは殺到した触手が膣を圧迫する更なる痛みで塗りつぶされた。容赦や気遣いなんてあるはずがない。ただ魔物がそうしたいからそうしているのだと、ボクは身をもって理解させられるだけだ。

 

(やだ、やだよ……、こんな終わり方……、いやなのにぃ……)

 

 身体の感覚は、もう完全に壊されていた。

 呼吸をするたびに魔物の臭気と毒の花粉が脳を侵食していく。

 今では黄色く色づいた臭い空気を吸うことさえ気持ち良いものだと脳が錯覚しつつある。

 身動きさえ取れず、好き放題に全身を弄ばれているのに、それが幸せなのだと騙されそうになる。

 このままオモチャにされながら、じっくりと魔物の養分になることがボクの生まれてきた意味なのだと、認識が塗り替えられていく。

 

「ん゛!ん、……!あ……ぁ゛、゛ぁ♡……っ!」

 

 でも……、もう、どうしようもないのだとしたら、

 

(受け入れれば、楽になれるのかなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――リ? ちょっと、聞いてるの?」

「…………」

「ねえ、ヒバリってば!」

「……え」

 

 ぱちり、と目が開いた。

 明るい。まず感じたのはそれだった。

 ぼんやりと周りを見回すと、見覚えのあるテーブルと部屋の内装が目に映る。

 ギルドが拠点としている宿屋の共有スペースだ。

 混乱した思考でぱちくりと目をしばたたかせていると、同じテーブルを囲んだ仲間たちが心配そうにボクの顔を覗き込んできた。

 

「どうしたのよ、急にぼうっとしちゃって」

「カナリア? ……無事だったの?」

「……あなたのほうが無事じゃなさそうね」

 

 金髪のガンナーが呆れたようにため息をついた。

 ボクはまじまじと彼女の全身を見てしまう。手足もきちんと揃っていて、見たところケガもなさそうだった。もちろん、幽霊っていう感じでもない。

「ヒバリちゃん、やっぱり疲れてるんじゃないかしら?」とメディックのヒナ姉ちゃんが心配そうに首をかしげる。彼女もやっぱり、五体満足で椅子に座っている。

 

「えと……疲れてる、って?」

「こりゃ重症だな。ま、わからんでもないか。あのバケモノ相手に真っ正面から渡り合ったんだからな。そりゃあ精神的にも疲れちまうだろうって」

 

 レンジャーのとっつぁんがボクを労わるようにそう言った。

 彼のその言葉になにか引っ掛かるものがある。

 

「バケ、モノ……?」

「探索司令部は『大いなる花獣』と命名したそうだ。討(・)伐(・)は(・)成(・)功(・)し(・)た(・)が(・)しばらくは衛兵隊が再出現に備えるらしい」

 

 ナイトシーカーの兄ちゃんがなんでもないように言った。

 ……大いなる花獣って、まさか、あの植物の魔物のこと?

 あれ、でも、討伐は成功した、って……。

 

「ボクたち、勝ったんだっけ……」

 

 それを口に出した瞬間、鮮烈な記憶がフラシュバックした。

 そう……、そうだよ!

 ボクたちクローバーは【東土ノ霊堂】を探索して、その最奥に待ち構えていた迷宮の主をなんとか無事に撃破したんだ!

 それでそれで、迷宮の奥に隠されていた樹海磁軸も発見して、それから【はじまり島】の隣の島にも足を踏み入れて……。

 

「それから、マギニアに帰ってきた……んだよね?」

「はい、よくできました、と。……ねえ、本当に大丈夫? 疲れてるならもう休んだほうがいいんじゃない?」

 

 ボクのぼんやりとした態度に呆れ気味だったカナリアも、今は心配そうな表情を浮かべている。他のメンバーも同じような表情だ。はたから見ていて、ボクの様子はよっぽどおかしいものだったらしい。

 

「あー……うん、そうなのかも」

「なら早いとこ寝ちまいな。細かい報告書やらは俺らとギルマスとで片づけとくからよ」

「うん、ありがとう、とっつぁん。それじゃ、ごめん、先に休むね……」

 

 なんとなく後ろめたさを感じながら、ボクは仲間と別れて自分の部屋に戻っていった。

 宿の階段を昇る足が妙に重い。意識していなかったけれど、確かにかなりの疲労が溜まっている感じがする。自分の部屋に入りベッドに身体を投げ出すと、全身に脱力感と倦怠感とが襲ってくる。

 

「ボクたちは、アイツに勝った……」

 

 天井を見つめながらぼんやりと呟く。

 顔の前に手のひらを持ち上げてみる。戦闘中はずっと剣を握っていたはずの右手の指先には、あの魔物にトドメの一撃を突き立てたときの感触がはっきりと残っていた。

 だから、間違いなく、ボクらの勝利は現実のはず。

 

「じゃあ、さっきのは……?」

 

 妄想? それとも白昼夢?

 こっちが現実なのだから、アレは決して現実ではない。

 そのはずなのに、痛みも、苦しみも、そして快感もはっきりと思い出せる。

 

 ……思い出せてしまう。

 

「…………んっ」

 

 ボクは無意識に、枕に口元を押し付け、鎧を脱いだインナーの下に手のひらを滑らせていた。

 秘裂のあたりに触れると、下着越しでも濡れているのがわかる。

 そのまま指を動かすと、背徳的な快感がぞわぞわとせり上がってくる。

 

「なん……で……っ」

 

 あんな現実、訪れて欲しくない。

 あんな終わり方、まっぴらごめんだ。

 壊されて、いたぶられて、オモチャにされて……。

 そんな未来、絶対に望んでなんかいないのに。

 

「ふ……ぅ、……ぅぅ……♡」

 

 動き出した指は、どうしても止めることができなかった。




ヒバリ
 緑髪・鎧姿のヒーローの少女。
 元気印のボクっ娘で、【シールドアーツ】によるパーティの守りを担当する。
 前衛の要であり、パーティ全体が防御面に不安を抱えているので、彼女が崩れると一気に戦線が崩壊しがち。
 本人は否定するが、結構な英雄願望の持ち主で、ときには無茶をすることも。

 素質:【被虐願望】

大いなる花獣
 本作における最初のボス。
 蔦で手足を縛って怪しい花粉をぶっかけてくる性癖破壊系モンスター。
 実プレイではヒーローが腕封じを受けたところから防御の手が足りなくなり、最終的にパーティがメタメタにされた。(1敗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。