クローバーは爛れてる 作:コモヤモ
ガンベルトを新調した。
市場には流通していなくて、入手方法は熟練職人へのオーダーメイドのみ。安くない買い物だったけれど、これで咄嗟の装填のパターンを増やすことができる。
私たちクローバーは第三迷宮を踏破して、今は第四迷宮の攻略に移っていた。
新たな迷宮に生息する魔物たちは、これまで踏破してきた迷宮の魔物よりもさらに攻撃的で危険な性質を持つやつばかりだ。その脅威に対抗するためにも、戦力の増強と戦術の更新はギルドの急務だった。
装備を新調したり、より強力な
クローバーの仲間たちはここにきて急速に実力を高めつつある。
当然、私も彼らに後れを取るわけにはいかない。
第四迷宮に足を踏み入れてからというもの、今まで以上に危険な魔物たちと渡り合いつつ、必死になってこれまで使っていなかった特殊弾頭の扱いに修練を重ねる毎日だった。
(足手まといにだけは、なりたくない……!)
冒険者の世界は厳しい実力社会で、迷宮は残酷な生存競争の場だ。
実力不足の冒険者は自分自身だけでなくパーティの仲間たちまで危険にさらすことになる。
パーティと足並みを揃えられない人間が『休養』や『引退』を強制されるのもザラにある話だ。たとえそれがどんなに仲の良い仲間だったとしても、ギルド全体の存続を考えるならギルドマスターは毅然として酷薄な選択を取らなければならない。それが私たち冒険者の生きる世界なのだ。
(わかってる。わかってるわ。でも、絶対に、もうひとりぼっちにはなるのはイヤ……!)
ガンベルトに収めた銃を撫ぜながら、私は奥歯を噛み締める。
いつも口では強気なことばかり言っているくせに、本当は臆病で寂しがり屋――。
自分がそういう人間だなんてこと、私自身が一番よくわかっていた。
「カナリアちゃん、ちょっといいかしら」
「はい? なんでしょう、ヒナ姉さま」
「私も薬品鞄を新しいのに買い替えたの。今日はこれから、今まで使っていた鞄の薬を移し換えて整理するのだけど、手伝ってもらえる?」
「もちろんです!」
姉さまにそう声を掛けられたのは、迷宮探索の休養日のことだった。
ちょうど『湖の貴婦人亭』で朝食を摂ったところだ。特に出掛ける予定もなかった私は二つ返事で姉さまに頷いた。
二人で連れ立って宿の二階に上がる。廊下の端の角部屋が姉さまの部屋だ。
窓から射しこんだ太陽の光が室内を柔らかく照らしている。壁際のベッドの白いシーツが目に眩しい。木製の作業テーブルには薬品鞄が二つ置かれている。片方は使い込まれた革の鞄で姉さまがいつも持ち歩いていたものだ。もう片方は真新しく、サイズも少し大きい。そちらが買い替えたという鞄なのだろう。
「じゃあカナリアちゃん、こっちの古い鞄を床に置くから、そこから順番に薬瓶を出してテーブルに載せていってちょうだい。私がそれを新しい鞄に移し替えていくから」
「はい、わかりました」
「作業中は床に座らせちゃうことになるけど、ごめんなさいね」
「いえ、気にしないでください。床だってほら、綺麗に掃除されてますし……、って、あれ?」
姉さまから薬品鞄を受け取って床に座り込んだところで、私の視界に見慣れないものが映った。
作業テーブルの下に茶色のトランクが置いてあったのだ。一辺が私の腰の高さくらいありそうな、かなり大きなトランクケースだ。口が閉じた状態なので中身はわからない。今まで目にした記憶はないけれど、これも姉さまのものなのだろうか。
「姉さま、こっちのトランクは?」
「ええ、それも新しく買ったのよ。大きすぎて迷宮には持ち込めないから、拠点でアイテムを保管するためのものね。薬品鞄の整理が終わったら、そっちも使えるようにしておかないとね」
「なるほど……。姉さま、そちらもお手伝いしますよ」
「ありがとう、カナリアちゃん。それじゃ、さっそく鞄の方から始めましょうか」
作業自体は単純だった。
姉さまの薬品鞄は綺麗に整頓されていて、わかりやすいようにと鞄の中の仕切りには薬瓶の種別を示すラベルまで貼ってあった。その表示を読みながら、姉さまの指示に従って薬瓶を取り出しては作業テーブルの上に置いていくだけだ。
傷薬、解毒薬、麻酔、消毒液……。鞄の中にはびっくりするくらい色々な種類の薬が入っていた。
次々とテーブルに載せられるそれらの薬品を、姉さまはテキパキと仕分けしながら新しい鞄に詰め込んでいっている。ときには薬瓶の蓋を開けて内容物の確認をしたりと、姉さまの仕事は丁寧かつ繊細で、その表情は真剣そのものだった。
(姉さま、カッコいいです……)
普段のおっとりとした姉さまも魅力的だけど、仕事中のキリっとした姉さまもすごく素敵だ。
薬瓶をテーブルに置くたびに、私はこっそりその横顔に見入ってしまっていた。
役得役得。こんな間近で姉さまの真剣な表情を見れるのなら、休日だろうとなんだろうと喜び勇んでお手伝いするというものだ。
「……うん。これで薬品は一通り移せたかしら」
「えっと、そうですね。こっちの鞄はもう空っぽです」
ふぅ、と小さく息を吐いた姉さまが私に向かって微笑んだ。
いつのまに古い鞄の薬瓶はすべて新しい鞄へと移し終わっていた。
私が軽くなった鞄をテーブルの上に持ち上げると、姉さまは中に何か残っていないか念入りに確認し、それから満足そうに頷いた。
「ばっちりよ。さすが、カナリアちゃん」
「いえいえ、このくらいなら誰にだって……」
「ふふ、そうだとしても、こんなに早く片付いたのは間違いなくあなたのおかげよ。改めてありがとうね」
「ど、どういたしまして……です」
姉さまの手が伸びてきて、白い指が私の髪を撫でた。
照れくさいやら気恥ずかしいやらで、私は頬に熱を感じながら目を泳がせてしまう。
姉さまはしばらくそんな私の様子を見つめていたが、やがて「さて、それじゃあ」と呟いて作業テーブルの椅子から立ち上がった。
「次はトランクの整理に移りましょうか。ちょっと鞄を向こうに置いてくるわね」
「あ、私が片方持ちますよ」
「平気平気。中身が入ってるのはひとつだけなんだから。うーん、そうね、カナリアちゃんは先にトランクを広げておいて」
「わかりました!」
古い鞄と新しい鞄を両手に持って、姉さまは部屋の隅へと歩いていく。
その後ろ姿を横目で見ながら、私は作業テーブルの下からトランクを引っ張り出した。重さはそれほどではない。大きなトランクだが、中身はほとんど入っていないようだ。
部屋の中央の明るい場所まで持ってきてから、床を傷つけないよう慎重にトランクを横倒しにする。そっと横にしたトランクの留め金部分を確かめる。鍵は掛かっていないようだ。私は床に膝をついたまま姉さんへと振り返った。
「姉さま、開けちゃいますよ」
「うん、お願いね~」
許可が取れたので留め金を外す。パチンと小気味いい音が鳴った。
自由になった開き口を持ち上げる。トランクの中の暗闇に太陽の光が射した。
昼間の明かりにトランクの中身が露わになる。
トランクに収められていたのは、いくつかのアイテム。
それを見て、私はギシリと硬直してしまった。
「あ……え……」
「あらあら。どうしたのかしら、カナリアちゃん?」
いつの間にか姉さまがすぐ後ろに立っていた。
床に膝をついてトランクの中を見つめていた私の肩に、姉さまの手のひらがそっと置かれる。
蛇に睨まれた蛙みたいな気分だった。
固まった私の後ろから、姉さまがトランクを覗き込む。
私の頬のすぐ隣に姉さまの顔があった。
その唇は愉快そうに弧を描いている。
「言ったでしょ、拠点でアイテムを保管するためのトランクだ、って」
「あ、あの、姉さま……。これって、その……」
私の視線はトランクの中身に釘付けになっている。
収められていたのは私もよく知っている道具だった。
不思議な力でぶるぶると震える、深都のオモチャ。以前、姉さまが私を責めるために使った、ローターとかいうアイテムだ。
それが、三個も。
前よりも数が増えている。
トランクの中には他にも妖しいアイテムがいくつも並んでいる。
「カナリアちゃん、なにを緊張しているの? それとも……ひょっとして、期待しちゃってる?」
「き、期待だなんて、そんな……」
「ふふ、素直に赤くなっちゃって。安心して。お手伝いのご褒美はたーっぷりあげるからね」
後ろから肩に手を置かれたまま、姉さまの頬が私の頬にすりすりと擦り付けられた。
熱くなった頬がこそばゆい。ドキドキと心臓が早鐘を打っている。
背中に姉さまの大きな胸が当たった。その柔らかさにますます私は全身を硬直させてしまう。
ぱくぱくと口を開け閉めする私の顔の横から、姉さまの両手がにゅっと伸びてきた。
そのまま私を腕の間に挟みながら、姉さまの手がトランクの中を探る。
箱の中のアイテムを手に取った姉さまは、それを私の目の前まで持ってきて、ガシャガシャと音を鳴らしながらそれを見せつけてきた。黒革のバンドをいかにも頑丈そうな鎖で繋いだアイテムだ。その用途を想像して、私は思わず生唾を飲んでしまった。
「見て、カナリアちゃん。これも新しく買っちゃったの。ね、これ、なんだかわかるかしら?」
「こ、これ……手枷、ですか?」
「うーん、残念。惜しいけど違うわ。正解はね――」
姉さまの腕が頭上に持ち上がる。黒い枷も視界から消えた。
そう思ったのも束の間、ガシャンという音が背後から聞こえた。
同時に、足首になにかが巻き付く感触。
「あ」と振り返ろうとしたのを、姉さまに制される。
私の肩を再び優しく抱きながら、姉さまはにこにこしながら私の足元を指さした。
「正解は、足枷でした」
「っ……姉さま、なんで」
「なんでって、もちろんカナリアちゃんが逃げられないようにするためよ」
「わ、私、姉さまから逃げたりなんか」
「うんうん。わかってるわかってる。……でもね『逃げない』と『逃げられない』だと、ほんのちょっと意味が変わってくるでしょ?」
「~~っ」
耳たぶに息を吹きかけながら、姉さまが私の耳元で囁いた。
その言葉の意味を想像しようとして、ぞくそくと背筋が甘く痺れた。
小さく身悶えすると足の間で鎖の音が鳴った。逃げられない。姉さまの言葉がリフレインする。
「ぼーっとしてていいのかしら? ほらほら、呆けていると……えいっ」
「え? あっ!」
「はい、腕封じ完了、と。うふふ、こっちは本当に腕枷よ」
あっという間の早業だった。
私の意識が逸れたほんの一瞬で、姉さまは新たな道具で私の腕を拘束してしまっていた。
足枷と同じように黒革を鎖で繋いだ腕枷だ。
後ろ手に回した状態で両腕にバンドを嵌められている。
咄嗟に身を捻ってもがくと、ガシャガシャと背中で虚しく鎖の音が鳴った。
「これでカナリアちゃんは抵抗できない。『抵抗しない』じゃなくて『抵抗できない』よ。その意味をよーく考えてちょうだいね」
「そんな、意味って言われても……私は別に……」
「口ではそう言っても、頭の中ではもう色々想像しちゃってるのでしょう? カナリアちゃんは頭が良くって、それに、とぉーってもエッチな娘だものね」
「っ姉さま!」
「ふふ、必死に吠えちゃって。かわいいわ」
とん、と姉さまに軽く体を押された。
両手と両足を封じられた私は、抵抗もできずに宿屋の床に倒れ込む。
痛みはなかった。床にぶつかる前に姉さまが腰を掴んで減速してくれたからだ。
ゆっくりと横たえられた私の上に姉さまがのしかかってくる。
不格好に倒れた私を見つめて、姉さまは陶然とした表情を浮かべていた。
「足封じに腕封じ。ここまで来たら最後まで封じてあげないと失礼よね」
「ま、待って、姉さま」
「ダーメ。待ってあげません」
姉さまの腕がトランクに伸びて、そこから真っ黒なアイマスクを取り出した。
身動きの取れない私の顔に黒い布がゆっくりと覆いかぶさってくる。
ぴったりと目隠しされた瞬間、ひっ、と喉が鳴ってしまった。
真っ暗闇だ。
アイマスクの布は想像以上に厚くて、向こう側はまったく透けて見えていない。腰のあたりには姉さまがのしかかっているはずなのに、そのシルエットさえまったく感じられなかった。
自然と呼吸が荒くなってくる。不安と恐怖がじわじわと押し寄せてきた。せめて触れることで姉さんがいることを確かめたいのに、拘束された手足ではそれすら叶わない。
「これにて三点封じの完成、と。さーて、カナリアちゃん、どんな気分かしら?」
「あ……、姉さま? そこにいるんですね? いなくなったりしてませんよね?」
「もう、質問にはちゃんと答えなきゃダメよ。ほら、どんな気分なのか教えてくれないと」
「きゃっ!?」
突然、ごろりと身体を転がされた。
暗闇の中、いきなり地面の向きが変わったと錯覚したほどだ。
ほんのちょっとの衝撃のはずなのに、くらくらするほど頭の奥が震えている。
「答えて、カナリアちゃん」
「こ、怖いです! なにも見えなくて、動けなくて……すごく、怖いんです!」
「怖いだけかしら?」
「だけ、って……。だって姉さま、他のことを考える余裕なんか、っひゃん!?」
不意打ち気味に私の頬に両側から手のひらが触れてきた。
姉さまの手が私の顔を挟み込んで、落ち着かせるようにぴたりと固定している。
相変わらず目の前は真っ暗でなにも見えない。
けれど、手が触れているだけでも姉さまの存在を感じることができる。
その感触をよすがにして、私はなんとか呼吸を静めようとする。
「ねえ、知ってる? 人間ってね、普段は知覚の八割を視覚に頼ってるの。そんな大事な大事な視覚を封じられちゃうと、自然と他の五感が敏感になってくるんですって」
「他の、五感……?」
「ふふ、せっかくだから試してみましょうか」
「試すって……っ……ん……」
頬に触れていた姉さまの指が、つーっと唇に降りてくる。
そのまま優しく唇を何度も撫でられ、とんとんと真ん中をノックされた。
恐る恐る口を開けると、姉さまのしなやかな指が唇を割って口の中に入ってきた。
人差し指と中指の二本の指が、私の口の中をゆっくりと巡回していく。
「ぁ、あぅ……」
「そう。そうやってお口の中に意識を集中するのよ」
「んむ……ちゅ……ぅぁ……」
歯に触れ、歯茎をなぞり、口蓋を突いたかと思えば、舌を挟み、弄ぶ。
その優しい指使いが、どうしてか気持ちいい。
姉さまの言うように目が見えないからだろうか。口の中で姉さまの指がどんな風に動いているのか、いつも以上に頭の中でイメージしてしまう。
たっぷりと時間を掛けて口の中の感触を堪能してから、姉さまの指が口から引き抜かれた。
顎のあたりに水が触れる感触がした。姉さまの指から唾液が落ちてきたのだと想像する。
続けて、頭の上の方から湿った水の絡むような音が聞こえた。
なにも見えない。けれど、それはきっと、姉さまが指を舐めた音だ。指についた私の唾液を丹念に舐めとっているのだ。
姉さまはいったいどんな表情をしているのだろう。
嬉しそうに? それとも恍惚として? でも、もしかしたら、私を見下しながら?
闇の中で想像ばかりが膨らんで、私に思考は千々に乱れていく。
「どう? お口の中、気持ちが良かった?」
「……はい……。姉さまの指の形がいつもより感じられて……それが、気持ちよかったです」
「それはよかったわ。それじゃあ、次のステップにいこうかしら」
次の?と疑問を声にするより早く、私の耳が低い音を捉えた。
聞き覚えのある振動音だ。ぎくりと私は身体を強張らせた。
すぐ近くでヒナ姉さまの衣擦れの音がした。震えるオモチャの気配が近づいてくる。
上着の襟に姉さまの指が掛かった。ひんやりと冷たい手のひらが内側に入ってくる。
服の内側でオモチャが震えているのがわかる。
首元から薄い胸を滑って、乳首に近づいてくる。
私は無意識に身を捩り、手足の拘束がガシャガシャと鳴らしてしまう。
姉さまはそんな私の身体を優しく抱き留めて……容赦なく右の乳首にローターを押し当てた。
無機質で細かな振動が期待しきった乳首を責め立てる。
電流みたいな甘い感覚が胸から背筋へと伝わっていく。
「っく、ぅ……ね、さま……それ、ダメ……っ」
「あら、なにがダメなの? ちゃんと説明してくれないとわからないわ」
「うぅ……だ、って、敏感なところが震えて、おかしく、ッ、ひん!?」
胸のあたりに不意に冷たい触感を感じて、私は情けない鳴き声を漏らした。
押し付けられたローターの周囲の肌に、なにかがペタリと貼りつく感覚がある。
アイマスクをされた視界は相変わらず真っ暗で、胸になにをされているのかもわからない。
わかるのは姉さまの手のひらがさわさわと私の肌を撫でていることだけだ。
「ねえ、さま……んぅ……今、なにを……」
「安心して、カナリアちゃん。なーんにも怖いことなんてないのよ。お胸のローターを粘着テープでぺたっと貼りつけたっていう、たったそれだけのことだから」
「っ、粘着……?」
そう言われてから姉さまの指がもうローターから離れていることに気づいた。
けれども固定されたオモチャは変わらず私の乳首を責め続けている。
人の手を離れたからか、振動の刺激は平坦で一定のリズムを継続するものになっていた。
いきなり刺激が強くなるようなことはないけれど、決して弱くなることもない。
じわじわと焦らすように、オモチャは淡々と私の快感を煽り続けている。
「ん……っは……ふぅ……」
「気持ち良さそうね、カナリアちゃん。でも、そっちだけに集中していていいのかしら?」
「え? っ、うぁ、ぁ」
姉さまのその言葉をしっかりと理解する前に、左の乳首に別のローターが押し当てられた。
びくんと震えた私の身体を姉さまが押さえ、素早く左胸にも粘着テープを貼りつける。
両胸からじんじんと刺激が伝わってくる。
手足を拘束されているから、上も下も服は着たままだ。着衣の僅かな重ささえもがローターを胸に押し付けているような感じがする。快感に身悶えするたびに、微かな衣擦れがローターを動かして新たな刺激になってしまう。
「く、ぅ……わた、しの、胸……変、な感じに……」
「感じているのね、嬉しいわ。だけどごめんね、まだ終わりじゃないの」
「……!? あっ、ねえさま、そこは……っ!」
私が胸への刺激に翻弄されている隙をついて、姉さまは私の膝をがばっと押し開けた。
拘束した足首を支点にしてOの字に開脚させられている。スカートは履いたままだけど、外気に触れたタイツの真ん中が妙に冷たい。
股のところが濡れているのだ。
カッと顔が熱くなり、思わず腰を引こうとしたけど、膝を掴んだヒナ姉さまが私に抵抗を許してくれない。その状態のまま姉さまが上体を近づけてくる気配があって、すぐ後にふっと股間に息が吹きかけられた。
姉さまの頭が、私の股のすぐ近くにある。その事実がますます私の羞恥を煽ってくる。
「あらあら、真っ黒なシミがよくわかるわ。こんなに濡らしちゃって、やっぱりエッチな子ね」
「やっ、だ、だめです、見ないで、姉さま!」
「ふふ、恥ずかしがっちゃって、かわいいなぁ、もう。……すんすん……はぁ、カナリアちゃんの大事なところ、いやらしい匂いでいっぱいだわ」
「っっっ……や、やだぁ……!」
蒸れた秘所の匂いまで嗅がれてしまい、私の恥ずかしさはもう限界だった。
ぶんぶんと顔を振り、ガチャガチャと鎖を鳴らしながら、私は無意味な抵抗を繰り返す。
姉さまはそんな私の腰を掴み、ぐいと引き寄せ、股下までタイツをずり降ろして「えい」と新たなローターを股間に当ててきた。
「ひぃっん♡」
乳首を責める振動を上回る刺激に私の腰が跳ねる。
見えなくてもわかる。姉さまはきっと、今ものすごく良い笑顔を浮かべているはず。
振動するローターが皮に隠れたクリトリスにぐりぐりと押し当てられる。
ローターの角度が変わるたび痺れるような快感がこみあげてくる。
息を切らせ、不自由な姿勢で、私は何度も身を捩ることを繰り返している。
「うぁっ、ぁ、ぁあ……っ」
「いい反応。こっちまで嬉しくなっちゃうわ。だけど……今日は他にも試したいことがあるのよね」
「ひゃうん!? っ、また……!」
暴れる腰を押さえつけられ、股間のローターにも粘着テープが貼り付けられてしまった。
膝の間に割って入っていた姉さまがすっと後ろに下がる気配があった。
Oの字になっていた膝が自然と閉じてしまい、それが股のローターを露骨に意識させる。
「くんぅ……はふっ……うぅ……」
姉さまは今や私に指一本触れていない。
それなのに私はまな板の上の魚みたいに、姉さまの目の前でオモチャに敏感な場所を責められては身悶えし続けている。
「カナリアちゃん。聞こえてる?」
「っ、ひゃ、は、はい!」
耳の奥をくすぐるような囁きが聞こえた。
いつの間にか姉さまが横向きに倒れた私のすぐそばに座っている。
メディックの白衣の衣擦れの音は、私の背中側から聞こえてきている。
不意に、タイツをずり降ろされたままだったお尻がぺろりと撫でられた。
「ひゃっ」
「カナリアちゃんはこっちも敏感ね。これなら
「っ、冷たっ」
お尻にぬるりとした感触が走った。
視界は真っ暗だから、粘り気のある液体としかわからない。痒みや刺激は感じない。ただひんやりぬるぬるしているそれを、姉さまの手のひらがお尻にまぶして塗り広げている。
「迷宮にウーズっていう魔物がいたのを覚えてるかしら?」
「え、え? お、覚えてます、けど……きゃんっ」
「ネバネバでベトベトの不定形な魔物だったわよね。今塗っているのはね、その魔物の素材から作ったローションなの。あ、もちろん毒とかはないから安心して?」
ぬるぬるしたローションをお尻に塗りつけながら姉さまが私の耳元で囁く。
鼓膜にまで届きそうな姉さまの吐息にぞくぞくと背中が震える。
姉さまの手はその間もいやらしく私のお尻を撫でて、揉みしたいて、やがて割れ目の方へと指を滑らせていく。
その先端がすぼまった菊門に触れた瞬間、私はびくりと身体を縮こまらせてしまった。
「……っ! 姉さま、そこは……!」
「うーん、やっぱりぴっちり閉じてるわね。これは気合を入れてほぐしてあげないと」
「だめです、そこはきたな――うぁっ」
私の抗議など聞こえないとばかりに、姉さまの指がくりくりとお尻の穴の周りを刺激してきた。
固く閉じた穴をいきなりほじくり返すような真似はされなかった。その代わり、たっぷりとローションを使って念入りに穴の周りをマッサージされている。
頭がおかしくなりそうだった。
アイマスクのせいで視界は真っ暗、手と足は拘束されて満足に動かせもしない。
乳首とクリトリスでは今もローターが振動を続けている。機械的で抑揚のない刺激は、私のことをじりじりと焦らしているかのよう。
そんな状況で、私は訳も分からずお尻の穴を弄られているのだ。
姉さまの指がお尻を這うたびに、むず痒いような、くすぐったいような、おかしな感覚が襲ってくる。目の見えない状況で、その感触だけが妙に鮮明に感じられていた。
「うぅ、姉さま、そこ、変な感じです……、あ、あんまりいじらないで……」
「もう少し我慢してね。……うん、そろそろいいかな。じゃあ、挿れてみましょうか」
その、なんでもないような姉さまの言葉に私は凍り付いた。
「っ!? ま、待ってください、いいい、挿れる、って!?」
「ふふ、そんなに怯えなくても大丈夫よ。カナリアちゃんはお尻の初心者だものね。いきなり危ないモノを挿れたりはしないわ。今日のところは綿棒からチャレンジよ」
「そ、それなら……じゃなくて! だめ、だめですよ、姉さま! 綿棒でもなんでも、そっちの穴に変なものを挿れるだなんて……!」
「それではそれでは、綿棒にたっぷりとローションをかけてあげて、と……」
「姉さま、やめ――――お"っ」
ずぷり、と異物感がお尻の穴から這い上がってきた。
腸壁をじわりと掻き分けて、細くて柔らかい棒状の異物が侵入してくる。
変な感じだ。
お尻の出口のあたりは痛みがあるのに、奥まで入った綿棒の先端あたりでは痛みがない。お腹に響く圧迫感と異物感があるだけだ。
「ぐ、ぅ……はっ……はぁ、はぁ……」
「くりくり。ずぽずぽー。ちょんちょん……。どう、カナリアちゃん。どんな感じかしら?」
「んぅ……、お腹、内側から押されてるみたいで、変な感じ、です」
「気持ちよくはない?」
「よくわかりません……ぅう……」
いやらしい擬音を口ずさみながら姉さまが綿棒の先端を少しずつ動かす。
快感ではない、と思う。けれど、今まで意識したことのない感覚がお腹の奥で蠢いている。
言葉にするのは難しい。とにかく、お腹の中が変な感じなのだ。
「ふぅ……ふぅ……」
「うんうん、初めてならそんな感じよね。じゃあ……こんなのはどう?」
瞬間。
くりくりとお尻をかき混ぜていた綿棒が、すっと抜き取られた。
「ッ、ッ~~!?」
明らかに今までとは違う感覚だった。
お腹の中の圧迫感がすっと消え、たっぷりとローションに濡れた綿棒がぬるりと滑り出る心地良い脱力感が走り抜ける。姉さまに突き出す格好だったお尻が思わずびくりと持ち上がってしまった。ひくひくと菊門が震えるのが見なくてもわかる。
「ふ…っ、ぅ……ふぅ……」
「びっくりしちゃったかしら。ねえ、カナリアちゃん、今のは気持ち良かったかしら?」
「き、きもちよくなんて……ぜんぜん……」
「本当に? 嘘をついちゃだめよ?」
「だって……だって、こんなのおかしい、です……」
私は小さく震えながらいやいやと首を振った。
姉さまの指が私のお尻を優しく撫でた。触れるか触れないかの絶妙なタッチ。それがこそばゆくて、お尻を左右に揺すってしまう。
「おかしくなんてないわ。ほら、こっちの穴は出すための穴でしょう? だから、挿れたものを抜くときが一番気持ちいいの。そういう風に人間の体はできているのよ。さっきのを気持ちよく感じるのは至って普通のことなのよ」
「ふ、つうの、こと……?」
「そう。おかしなことなんて、なーんにもないわ」
そう、なのだろうか。
ぼんやりと靄のかかった思考に姉さまの言葉がするりと沁み込んでくる。
けれど、どうしてか素直に頷くことができない。
手足を封じられた状態で姉さまの前にお尻を高く突き出しながら、脱力感に任せてぼんやりと目隠しされた頭を床に寝かせるばかりだ。
「一回だけの体験じゃあ認められない? なら、もうちょっと体感してみましょうか」
「はぇ……? っ、う、ぐ、ぅうう!?」
不意打ちだった。姉さまの操る綿棒がまたお尻に挿入ってくる。
入り口の抵抗と痛みは一瞬。綿棒の頭はぬるりと菊門に飲み込まれてしまった。
「くちゅくちゅぅ、って弄ってから、ずぽぉっ、て抜いてあげるわね」
「うっ、あっ、ああっ!?」
綿棒の先端が優しくお尻の奥を掻きまわしている。
お腹の中が押しこくられて苦しいはずなのに、私の声はなぜか上ずってしまう。
びくびくとお尻を揺らす私の上から、姉さまの愉しそうな声が降ってきた。
「とりあえず……三回くらいは繰り返してみよっか♡」
「さんっ、っ、あっ、ひ、ひぃっ!」
その言葉とともに、きゅぽん、と綿棒が抜かれ、反射的に私のお尻が跳ね上がった。
「姉さま、姉さまっ、わかりました、気持ちいい、気持ちいいですからぁ!」
「本当に~? 私に忖度して嘘を言わなくてもいいのよ~?」
「本当っ、本当です、本当に気持ち、ッ、うぁああっ」
三回どころじゃなかった。
挿れて、いじって、抜いて、また挿れて、いじって、抜いて……。
そんな繰り返しがもう十周以上続いている。
心の底に残っていた余裕はとっくに剥ぎ取られてしまっていた。
重くて苦しくて切ない気持ち良さが腰の下でぐるぐると渦巻いている。
もう声を抑えることもできない。
だらだらと口の端から涎を流しながら、私はびくびくとお尻からの快感に打ち震えている。
「ふふ、本当に気持ち良さそうね。これなら嘘なんかじゃなさそう。疑ってごめんなさいね」
「……は、はぃ……」
姉さまの指が私の髪を梳く。綿棒はもう私の中に入ってこない。
もう片方の手で姉さまが服の上から私の背中を撫でている。
その心地良さに身を委ねて、私はだらりと身体の力を抜いた。
「はぁ……はぁ……あふぅ……」
……今、自分はきっとすごく恥ずかしい恰好をしている。
服は着たままだけど、手足は枷で繋がれていて、高く突き上げたお尻のところだけぺろりとタイツを剥かれているのだ。顔にはアイマスクを被せられ、服の下ではローターが三つも震えている。
――見えない。抵抗できない。逃げられない。
それなのに私は奇妙な安心感を感じていた。
きっとそれは、髪に触れる姉さまの指先がすごく優しいからだ。
「いい子ね、カナリアちゃん。とってもかわいいわ。それじゃ、次はベッドに……あ」
「……? ねえさま?」
その指が不意にぴたりと止まった。それと同時に背中を撫でていた手も止まってしまう。
いや、それだけじゃない。姉さまの全身が固まったかのように動きを止めている。
お尻の快楽の余韻に浸っていた私の思考に困惑が広がっていく。
「……カナリアちゃん」
「え、はい?」
「私、忘れていたことがあるの」
数秒経ってから、姉さまの真剣な声が耳に届いた。
なんだろう、とピンク色に蕩けた思考がふわふわと空転した。
「実はね、今日、これから人と会う約束があったの」
「……え?」
「待ち合わせ場所はこの部屋。もうすぐ、約束した人がここに来るわ」
「え、え……?」
誰かが来る? ……この部屋に?
姉さまの言葉を咀嚼した瞬間、全身が総毛だった。
さっきまでの安心感はもうすでに吹き飛んでいた。
(こんな格好、誰かに見られたら……!)
「ね、姉さま! は、はやく外し、んっ、外してください!」
「カナリアちゃん、落ち着いて。大丈夫、まだ時間に余裕はあるから」
「で、でも……っ」
服の下のローターに刺激されながら、混乱した私は拘束を外してもらおうと身を捩る。
姉さまは少し緊迫した口調で私を宥め、それからカチャカチャと音を鳴らす拘束に指を掛けた。
(そうだ。動いていたら逆に外しにくいんだ)
焦れる心を必死に押さえつけて、私はぴたりと手足の動きを止める。
それを確認してから、姉さまは拘束具をきゅっと締め直し、静かになった私の体を抱き上げた。
「……あれ?」と思ったときには、お姫様抱っこで運ばれた私の体は、もうすでにゆっくりと床に降ろされるところだった。
横たえられたのはクッションのような感触のする場所。姉さまに折りたたまれた足を伸ばそうとすると仕切りのようなものに引っ掛かった。頭や背中にも壁のようなものが触れている。四方をなにかに囲まれているらしい。
「え? え? ね、ねえさま、拘束を外してくれるんじゃ……」
「え、どうして?」
「どうして、って、あの、ここに人が来るんですよね?」
「そうよ。だからカナリアちゃんには
「そ、こ……?」
混乱しっぱなしの頭を動かして自分の左右を見ようとする。もちろんアイマスクをされているのだからその行動にはなんの意味もない。それでも自分の状況を知ろうと無意識に身体が動いていた。
枷の鎖を鳴らしながら身悶えすると、やっぱり四方に壁のようなものを感じる。多分、膝を曲げた私の体がすっぽりと入るサイズの長方形の仕切りだ。
部屋の外までは運ばれていない。ここはまだ姉さまの部屋の中のはず。
だとしたら、これって……。
ふと、姉さまに拘束される前の記憶がフラッシュバックした。
作業テーブルの下に置いてあった大きなトランクケース。
姉さまのオモチャを収納していたあのトランクがちょうどこんなサイズだったはず……。
「ま、さか……私が今いるのって……」
「蓋を閉めても呼吸ができるのは確認してあるから安心してちょうだい。それじゃ、私の用事が済むまで少しの間そこで待っててね」
「そんな、こ、こんなの絶対バレちゃいますっ! だって、オモチャの震える音だって……っ」
「大丈夫大丈夫。確かにそんなに防音性が高いわけでもないけど、ローターの音くらいは遮ってくれるから。カナリアちゃんがしっかり声を我慢すれば外に漏れることなんてないわ」
「でもっ!」
なおも言い募ろうとする私の背中のほうから、きぃと蝶番の動く音が聞こえてきた。
風の流れでトランクの蓋が降りてきたのだと悟る。
思わず立ち上がって逃げようとする私を姉さまが片手で押さえつけた。手足を拘束された私はそれだけで身動きが取れなくなる。
「それじゃ、またあとでね」
パタン、と無情な音が目の前で聞こえた。続いてカチリと留め金の落ちる音。
自分の吐いた息が自分の顔に帰ってくる。目の前をトランクの壁が塞いでいるのだ。
身体を捻ると、床とは反対側の肩が
「っ、姉さま、お願い、出してください!」
「…………」
「やだ、こわいよ! ゆるして、ゆるしてくだ――ひっ!」
いきなりトランクが揺れた。角のあたりを外から蹴られたのだ。
強い衝撃ではなかった。けれど「静かにしなさい」と怒られたみたいだった。
アイマスクの下から涙が溢れてくる。視界が真っ暗なのはさっきまでと同じなのに、どうしてこんなに心細いのだろう。きっと、外の世界から切り取られたみたいで、ひとりぼっちのまま姉さまに忘れられちゃうんじゃないかって不安になるせいだ。
「う……ぐす……んっ…うぅ……」
暗闇の中、自分の涙声と、衣擦れ、それからローターの音だけが聞こえてくる。
じんじんと沁みるような快感が、自分がちゃんと存在していることを保証してくれているようで、ついその辺りを強く意識してしまう。
こんな状況なのに、乳首とクリトリスが敏感になっていくのが自分でも理解できた。
それとも、こんな状況だからこそ、外にいたときよりも五感が敏感になっているのだろうか。
「ふぅ……ふぅ……声、抑えないと……」
それでもじっと動きを止めていると少しは頭が落ち着いてきた。
耳を澄ませば微かにだけど外の音も聞こえてくる。窓を揺らす風の音やガラスの向こうで鳴く鳥の声。姉さまの足音や床の軋みも聞こえている。そのことに気づいて身体を縛る恐怖が少しは和らいだ。
「大丈夫……姉さまはすぐそこにいる。ほんのちょっと、静かにしてればいいだけ……」
乳首とクリトリスの快感は耐えられないものではなかった。
オモチャの振動は確かに気持ちいいけれど単調で変化に乏しい。姉さまの情熱的で執拗な責めと比べたら、むしろ物足りないくらい。
それに幸いというべきか、腕の拘束は私の両手を後ろ手に回して固定している。うっかり腕を動かしてローターに触れてしまう心配もない。太ももを動かさないように注意すればクリトリスのローターだって刺激を増したりはしないはず。
この状況で腕を使っていじれるのは、それこそ……、
(お尻くらい。……って、馬鹿! なに考えてるのよ、私は!)
なんて頭の悪い発想なのだろう。
けれど、一度でも考えてしまうと、自分の手の位置を意識せざるを得ない。
後ろ手に拘束された私の手のひらは、ちょうど自分のお尻の辺りをさまよっている。
姉さまはタイツを戻してくれなかったので、ふとした拍子に指が触れるのは剥かれたままのお尻の生の肌だ。
……だから、姉さまがさっきまで弄っていたお尻の穴にも指は届く。
(~~っ! しっかりしなさいっ! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ! い、いくらオモチャの振動がもどかしいからって、そんな……そんな……の……)
いつの間にか吐き出す息が熱くなっていた。
自分の手のありかを意識しすぎしまい、指先がぷるぷると震えている。
綿棒で弄られていたときの感触を思い出す。
無意識にごくり、と唾を飲み込んだ。
カチャリと腕の鎖の音。
そろそろと背中越しの指がお尻の割れ目に伸びていく。
触れた。
ちょっと上だった。
そのまま指を割れ目に沿って下の方へ……、
「んん"ッ!?」
私が指先でつんと菊門を押してしまったのと、トランクの外でノックの音が響いたのは、ほとんど同時のことだった。
ぎくりと身体を固まらせた私は慌てて口を閉じて外の気配を窺う。
椅子に座っていた姉さまが立ち上がる気配。続いて部屋の入り口に向かう足音。
ドアノブが回り、蝶番を鳴らして扉が開く。
「いらっしゃい。時間通りね。さ、入ってちょうだい」
「ああ……」
姉さまの声に続いて、若い男の声がした。聞き覚えのある感情の薄い声だった。
茹だった頭でもすぐに気付く。ギルドの仲間、ナイトシーカーのフクロウの声だ。
(なんで、彼が……っ、ん……)
姉さまたちの会話を聞き取ろうと自然と意識が聴覚に集中する。
それなのに、なぜかお尻に触れた指はそこから離れてくれない。
ほとんど無意識のまま私は自分のお尻の穴をくにくにと押してしまっている。
(姉さまが、私に内緒で、男の人と会ってる?)
違う。姉さまは私がここにいるって知っている。
でも、なら、あらかじめ会う約束をしていた、っていうのは?
ドキドキと心臓が高鳴る。
聞いてはいけないことを聞いてしまっているような後ろ暗さがざわざわと心をかき乱す。
そのざわつきを誤魔化すかのようにお尻に触れる指が菊門をこね回している。
(んぅ……ねえ、さま……なんで……っぅう)
二人の足音が部屋を横断する。作業テーブルの辺りに気配が移動した。
私の収められたトランクとの距離も近くなる。二人の声もはっきり聞こえるようになる。
作業テーブルの上でゴトゴトと音がした。二人のどちらかがなにかをテーブルの上に並べているようだ。音からしてガラス製の容器……ひょっとして、薬瓶だろうか。
「頼まれていた薬剤だ。強い毒の入ったものもある。扱いには気を付けてくれ」
「ええ、確かに。ありがとう、新しい解毒薬の調薬にサンプルが必要だったから」
「俺もヒナから薬の提供を受けているからな。お互い様だ」
「そう言ってくれると助かるわ」
トランクの外から聞こえてきたのはどこまでも事務的な会話だった。
その事実に私はほっと胸を撫でおろす。
(そ、そうよね! あんなぽっと出の男に姉さまが靡くなんてあるはずないわよね!)
確かにフクロウは割とイケメンだし、性格も無口なだけで誠実な方だし、冒険者としては信頼してる仲間だ。けれど、それとこれとは話が別というもの。どんな男だろうと私に断りなく姉さまとお付き合いするだなんて言語道断だ。
(だって……だって、姉さまには私がいるんだもん……!)
トランクの中で息を荒げながら、私はいつしか歪んだ笑みを浮かべていた。
だってそうでしょう? こんな風に姉さまが欲望を向けてくれるのは私しかいないじゃない。
私は姉さまに甘えてばかりだけど、姉さまもきっと私に甘えてくれてるんだ。
そうよ。こうやってトランクに閉じ込めたりとか、手足を封じてお尻を弄ったりとか……そんなことをするのも、私が受け入れてくれるって信じてるからなんだ。
(わかってます、わかってるんです、姉さま……んっ、ぅ)
姉さまの残り香を追うように、菊門に触れる指が激しさを増す。
何度も何度も綿棒で弄られたことだって姉さまからの信頼の証なのだと、そう信じて。
そうして、ついに、歯止めの利かなくなった指がお尻の穴の中につぷりと沈み込んだ。
「あ"、あぁ……っ……」
声が漏れた。
身体が跳ねてトランクが揺れた。
閉じた蓋に肩が触れて、いっきに背筋が冷えた。
……今の声、外まで聞こえてしまった?
お尻の穴は吸い付くように指の先端を飲み込んでいる。
なんとも情けないその状態のまま、私は真っ白になりそうな頭で必死にトランクの外に耳を傾けた。
「あら、フクロウくん、どうかしたの? なにか気になることでも?」
「……いや、なんでもない」
「そう? なら話の続きになるけど、この薬剤の扱いについては……」
「基本的に粘膜に接触しなければ問題ない。ただ、気温によっては条件が変わって――」
姉さまとフクロウは普通に会話を続けている。
気づかれていない、のだろうか。漏れたのは決して小さな声じゃなかったと思うのだけど……。
もしかしたら、トランクの内側にいるせいで、私にだけ大袈裟に聞こえたのかも?
きっとそう。そうであってほしい。
(お尻、うぅ、指を抜いたらまた声が出ちゃいそう……でも、このままでも変な感じで……)
「だから――、で――、だ――」
「なるほど――、確かに――、――なのかもね」
(はやく、はやく出て行ってよぉ……。そうじゃないと、私……っ)
指の角度を少し変える。……それだけでお腹の底が少し熱くなる……。
もうちょっとだけ向きを変えよう。……刺激が生まれて、腰が動いちゃう……。
ちょっとだけ、ちょっとだけ奥に。……お尻の奥がきゅんきゅんと指を締め付ける……。
「ふぐぅ……うぅ……んぅ……」
声は出てない。さっきより小さい。我慢できてる。
大丈夫。聞こえてない。バレてない。
だから、だから、もう少しだけ……。
人差し指の第一関節くらいまでがお尻に入っちゃってる。
それをぐりぐりと動かすと、苦しくて、切なくて、もっと動かしたくなる。
お尻をいじる背徳感。すぐ近くに男の人がいるスリル。拘束された不自由。閉所の恐怖。真っ暗な視界。ローターのじれったい快感。自分の体温。聞こえてくる鼓動。吐息の熱さ……。
いろんなものが混じり合って、私の頭を真っ白に染め上げていく。
「うう"ぅ……あぐ、ぅ……んんっ♡」
大丈夫。大丈夫だから。
もう少し、もう少しだけ……。
パチリ、と金属の音がした。
それがトランクの留め金の音だと気づいたのは、蓋が開いて新鮮な空気が流れ込んできたあとになってだった。
「あらあら。カナリアちゃんったら、すっかりできあがっちゃって」
優しい声が頭の上が降ってくる。
ぼんやりとそれを認識しながらも、私はお尻に挿れた指を動かし続けていた。
だらだらと口から涎を零しながら、ぐにぐにと不浄の穴をこね回し、太ももをこすり合わせてクリトリスのローターから快感を貪ろうとする。トランクの闇の中でどれくらいそうしていたのか、自分でももうよくわからなかいくらいだった。
「うぁ、ぁあ、んっ……う"ぅ……」
「カナリアちゃん? ほら、こっち向いて……ね?」
「ふぁ? ぁ……ねえさまぁ♡」
不意に視界を塞いでいたアイマスクが外された。
まず感じたのは白い眩しさ。次に見えたのはこちらを覗き込む姉さまの顔。
優しい微笑みに見下ろされて、私は蕩けた声を出してしまう。
太陽はまだ高く、部屋の中は明るくて暖かい。姉さまのほかに人の姿は見当たらない。フクロウはすでに用事を終えて部屋から出ていった後のようだ。
「狭いところで待たせちゃってごめんなさいね。寂しかったでしょう? お詫びにカナリアちゃんのやってほしいこと、全部やってあげるから」
「わたし、の、やってほしいこと……?」
「そうよ。さぁ、なにをしてほしいのか、私にお願いしてみて」
姉さまがトランクの中に腕を差し込み、私を優しく抱き上げた。
お姫様抱っこでベッドまで運ばれた私は、白いシーツの上でもじもじと腿をすり合わせる。
ベッドの縁に腰掛けたヒナ姉さまがそんな私の髪を梳いて頭を撫でてくれる。
その心地良さに目を細めながら、私は心臓を高鳴らせながら口を開いた。
「ねえさま、わたし、ほんとうは、ローターもお尻も、きもちよかったんです」
「うんうん」
「いまもじんじんしてて、せつなくって……でも、でもぉ」
「でも……? どうしたの、続きを聞かせて」
「わたし…っ…ねえさまにさわられるのが、いちばんきもちいいんですっ」
「…………」
「だから、だからねえさま、おねがいします……」
言葉の途中で姉さまが私に覆いかぶさってきた。お互いの顔が触れそうなくらいに接近する。
私の目の前にある姉さまの顔は、すごく嬉しそうで、ほんのりと頬が染まっていて、けれど鶯色の目だけが獣のように欲情していて……たまらなく綺麗だった。
「もっと……もっともっと、カナリアを、めちゃくちゃにしてください……♡」
veteran
レベルが20を超えて新しいスキルがアンロックされること。
レベル15くらいからSPを温存しておくと、このタイミング一気に戦力を増強できる。
バレてない?
当然バレている。
バレてはいるが、「また変なプレイしてるな」とスルーされた。