※この作品はR-18です。

クローバーは爛れてる   作:コモヤモ

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ツグミは友人に奉仕する(獣姦、イラマチオ)

 ギルドの運営にはお金がかかる。

 その現実は早い時期から認識していた。

 

『ゼニをケチる冒険者ほど早死にするものじゃ』というのは、道具屋の女店主ネイピアの口癖で、まさしく迷宮探索における真理のひとつだ。

 武器、防具、薬品、食料、その他諸々の消耗品……、冒険のために準備するものは山ほどある。

 この準備の段階で手を抜いたり、あるいは安いからと言って品質の低い装備を揃えてしまうようでは、冒険者ギルドとして二流もいいところ。雑な準備と低品質の道具では、迷宮探索の現場でどんな問題を惹き起こすかわかったものではない。

 

 言うまでもなく、私ことギルドマスターのツグミもその辺りを妥協するつもりはない。

 

 ネイピアは守銭奴だけど、販売する道具の品質管理という点では信頼できる相手だ。

 彼女の道具屋は迷宮で入手した素材の買取から加工、完成品の販売までを一括で引き受けている。ゼニがゼニがと連呼するネイピアの普段の言動で勘違いしがちだけど、中間業者の数が最小限になっている分、実は彼女の店に並ぶ商品はかなり良心的な価格設定になっている。

 もっとも、素材の持ち込みをしない冒険者に対しては販売する商品に制限を掛けてくるので、手放しに誰にでもオススメできる店というわけではないのも確かなのだけど。

 

 そんな一癖も二癖もあるネイピアの道具屋だけれど、私たちのギルド、クローバーとは相性が良い。

 結成からずっと樹海探索の最前線に立っているクローバーは、ネイピアの求める最新かつ希少な素材を店に持ち込めることが多く、逆に私たちとしても、彼女の店でなら最新の迷宮素材を使った有用な道具を早期に確保することができる。

 つまり、互いの需要と供給を満たすことのできる、win-winの関係なのだ。

 

 ……とはいえ。

 

 いくらネイピアが適正価格で商品を販売してくれるといっても、あれもこれもと買っていたら資金がすぐに底を尽いてしまうのは自明の理。かといって半端に妥協して迷宮を冒険するギルドの仲間たちに苦労を掛けてしまうのも避けたいところ。

 となれば、私のやるべきことはひとつ。

 

 ――そう、運営資金確保のための、金策だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それで僕に声を掛けたんだ。お姉さん、見る目があるね」

「そ、それはどうも……」

「あはは、固い固い。もっとリラックスしてよ、お・ね・え・さ・ん。ね?」

「そう言われても……うぅ、なんなのよ、もう……」

 

 その日、私はマギニア中心市街を離れ、空中都市の外縁にぽつりと建っている小さな木造住宅を訪ねていた。目的はその家の主人との面会で、アポイントメントも数日前に取ってあった。

 玄関のベルを鳴らした私を迎えてくれたのは、今はテーブルを挟んだ向かい側で悪戯っぽい笑みを浮かべている、ファーマーの少年だった。

 

 私が名乗ると、彼は自身がこの家の主人だと返事をしてきた。

 正直に言えば、かなりびっくりした。彼とはマギニアの伝手を介してアポイントメントを取ったのだが、聞いていたのは彼の保有する技能のことばかりで、年齢までは聞いていなかったのだ。

 彼の見た目はかなり若い。多分、クローバーでも若手の冒険者であるヒバリやカナリアよりも年下だ。けれど、物腰は落ち着いているし、客人を迎え入れる所作も手慣れたものだった。

 

 彼の自己紹介に目をぱちくりさせていた私は、あれよあれよという間に客間に案内され、彼お手製のハーブティーを振舞われながら、気づいたときには今日の来訪の要件まですっかり喋ってしまっていた。彼に会話のペースを握られていると私が意識できたのは、彼がようやく自分のハーブティーに口をつけて一息ついたタイミングになってからだった。

 

 一方的に喋らされていたと気づいた私が表情を硬くするのを、対面のファーマーがにやにやと見つめている。どうも一筋縄ではいかない相手のようだ。

 私は、こほん、とひとつ咳払い。仕切り直すように改めて彼への用件を口に出した。

 

「それで、どうかしら。私たちクローバーの専属として樹海素材の採集を請け負うという話は」

「提示してもらった条件は悪くないね。報酬の取り分にも文句はないよ。これ、ネイピア商会のおねえさんも噛んでるんでしょう? それなら契約違反の心配もほぼ無いだろうしさ」

「あら……。ネイピアが協力してるって、よくわかったわね」

「僕も僕なりにマギニアに色々と伝手を持ってるんだよ。特に市場での素材流通に関する噂話なんかは、僕みたいな『採集専門家』には死活問題にもなるからね」

 

 そう言って微笑むファーマーには、ただの少年とはとても思えない風格が漂っていた。

 無意識に息を飲んだ私は、年若い少年に気おされそうになったことに困惑しつつ、探るように言葉をつづけた。

 

「なら、協力関係を結んでくれる、ってことでいいのかしら?」

「そこはおねえさんが雇い主として提供してくれる『情報』次第だね。ほら、どうせ今日も準備はしてあるんでしょう? さっそくお試しで見せてくれないかな?」

「……わかったわ。ちょっとテーブルを借りるわよ」

 

 挑発するような彼の声の調子にムッとしながら、私はバッグから丸めた羊皮紙を取り出して木製の大きなテーブルの上にそれを広げた。

「おーっ」とファーマーが感嘆の声をあげる。すぐさま羊皮紙の上に身を乗り出して目を輝かせる彼の様子は、ついさっきまでとは違って年相応の少年のものにしか見えない。そのギャップに私は内心ひそかに困惑してしまう。

 

「なるほどなるほど。これがマギニアのトップギルドの一角、クローバーの迷宮地図ってわけだ」

「お(・)試(・)し(・)だから最深の階層のものじゃないわ。けど、参考にはなるでしょう?」

「もちろんさ。……うんうん、めぼしい採取スポットもちゃんと載ってるね。これだけしっかりした地図があるなら、僕もかなり動きやすくなりそうだよ」

 

 ファーマーの少年――素(・)材(・)採(・)集(・)の(・)専(・)門(・)家(・)は楽しそうに地図のルートを指をなぞっている。

 ギルド運営資金の金策のために私が探した人材。それは、別のギルドの『紐付き』にまだなっていない、樹海素材採集のエキスパートだった。

 

 結局のところ、マギニアで手っ取り早く、なおかつ確実にお金を稼ぐには、樹海の恵みを都市に持ち帰って換金するのが一番だ。しかし残念なことに、クローバーの主要メンバーはガチガチの戦闘特化タイプの冒険者で、素材採集に関してはイマイチ適性を持っていない。

 それならもういっそのこと、外部の専門家を専属として雇ってしまおう、というのが私の出した結論だった。もちろん、これにはギルドの仲間たちからもゴーサインをもらってある。

 

 採集に特化した技能を持つ冒険者は、おしなべて戦闘が苦手な傾向にある。

 迷宮探索において魔物を避けつつ可能な限り安全なルートを選ぶためにも、クローバーのような有力ギルドが作成した樹海地図は彼らにとって垂涎の情報になるだろう。専属契約締結のためのカードとしては悪くないものになるはずだ。

 

「オーケー、交渉成立だ」

 

 およそ5分ほど真剣な表情で迷宮地図を吟味していたファーマーの少年は、ふと地図から顔を上げると朗らかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「それは、引き受けてくれるってことよね?」

「うん、この条件ならむしろこっちから頼みたいくらい。専属の件、よろこんで受けさせてもらうよ。改めてよろしくね、おねえさん」

「よかった。ええ、こちらこそよろしくお願いするわ」

 

 彼の返事に肩の荷が下りた。変にごねられたりしなかったのはなによりだ。

 テーブルを挟んで彼と握手をする。彼の手は少年らしい小ささだったが、握った手のひらは固くなった豆の感触が目立つごつごつとしたものだった。私の指を握ってくるその力強さからは、冒険者としての確かな自信が感じられる。

 

「あ、そうそう。おねえさんには僕の相棒も紹介しておかないとね」

「相棒? 仲間がいるの? おかしいわね。仲介してくれた人からは、あなたは個人で活動しているフリーの冒険者だって聞いてたのだけど」

「うん、まぁ、個(・)人(・)っていうのは間違ってないんだけど……」

 

 彼は困ったような笑みを浮かべ、「ちょっと待ってて」と客間を出ていった。

 ひとり残された私は、ぬるくなったハーブティーを飲みながら思考を巡らせる。

 相棒。彼はそう言った。加えて、個人で活動しているというのも間違いではないと。

 

 彼に仲間がいるというのならそれはそれで構わない。報酬の振り分けについては再検討の余地があるかもしれないが、その仲間の分まで彼らが迷宮で換金素材を多く集めて、こちらの稼ぎを増やしてくれるというのなら、クローバーとしても万々歳だ。

 ただ、さっきの彼の言い回しはどうも引っ掛かる。もしかしなくても、私の想像しているような単純な話ではないのかもしれない。

 

 ファーマーが客間を出てからほんの数分。

 私がとりとめもなくそんなことを考えているうちに、客間の扉が再び開いた。

 

「やあやあ、お待たせ、おねえさん。紹介するよ、こいつが僕の相棒だ」

「え、ちょ、はぁ!?」

 

 にっこりと悪意のない笑みを浮かべるファーマーの少年。

 そのうしろからの(・)そ(・)り(・)と(・)客間に入ってきた生物を目にした瞬間、私は思わず椅子から飛び上がってしまった。大きな音を立てて倒してしまった椅子を気にする余裕もなく、慌てて壁際まで後退しながら、私は目を丸くしてソレを観察する。

 

 もこもこ茶色の体毛、巨大な体躯、丸太みたいに太くて短い腕と脚、分厚くて強靭な爪、

 そしてその割にはキラキラとつぶらな黒い瞳。

 ソレは、どこからどう見たって……、

 

「なんで熊!?」

「なんでもなにも、彼こそが僕の相棒、ペットのベアくんさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、『彼ら』の働きは期待以上のものだった。

 どうもファーマーの彼もペットのベアくんも、樹海に対して特別な嗅覚を持っているらしい。樹海地図を片手に意気揚々と素材採集に出発した彼らは、道中のありとあらゆる魔物との遭遇(エンカウント)を回避し、最小限の消耗でとんでもない量の換金素材をマギニアへと持ち帰ってきたのだ。

 

 拠点の倉庫に山と積まれた大量の素材を目の当たりにして、カナリアとヒバリは二人揃って驚愕の叫びをあげていた。普段は無表情がデフォルトのフクロウまでが目を丸くしていたことからも、ファーマーたちの規格外の働きぶりがうかがえるというものだ。

 無論、このゼ(・)ニ(・)の(・)種(・)をたんまりと店に持ち込まれたネイピアが、儲けの予感に目をギラギラと輝かせたのは改めて言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――かくしてクローバーの経済状況は劇的な改善を見せ、これまで以上に万全の態勢で迷宮探索を行うことができるようになりましたとさ。めでたしめでたし」

「いや、それはその通りなのだけど……。自分で言っちゃう、それ?」

 

 芝居がかった口調で朗々と謳い上げるファーマーに、私は思わず眉を傾けてしまった。

 ネイピア商会で素材の換金を終え、再び彼の家に戻ってきたところだった。太陽は西の果てに沈み、夜の闇がそっと這い寄ってくる時間である。

 

 数日前、専属契約を交わしたときと同じ客間で、私と彼は同じようにテーブルを挟んで向かい合っていた。ちょうど仕事の報酬を彼に渡し終えたところだ。報酬を受け取ったファーマーの少年は、硬貨がたっぷりと入った巾着をちゃりちゃりと鳴らして満足そうに笑顔を浮かべている。

 

「ふふん、この音、堪らないね。ありがと、おねえさん。ホント、いい仕事させてもらったよ」

「どういたしまして。けど、感謝してるのはこっちも同じ。あなたもベアくんも、想像以上に見事な仕事ぶりだったわ」

「うんうん、僕もハッピー、おねえさんもハッピー。協力関係ってのはこうじゃなくっちゃね」

 

 少年の無邪気な笑顔につられて、私も知らず知らずのうちに頬が緩んでいた。

 テーブルに顎を載せたベアくんが「ヴォン」と吠える。心なしか彼の表情も得意げに見えた。

 

「さてさて、それじゃあ僕はちょっと席を外させてもらうよ。ちょっと待っててね、おねえさんのために美味しいお茶とお菓子を準備してくるから」

「え、あ、ちょっと待って。お気遣いはありがたいけど、もう日も落ちたし、私はそろそろ帰ろうと思ってたところだから……」

「まぁまぁ、そう言わずに。ちゃちゃっと準備してくるから、それまでベアくんと遊んでてよ」

 

 腰を浮かせようとした私を身振りで制して、ファーマーの少年が席を立つ。

 自分の名前を呼ばれたことを理解しているのか、ベアくんが嬉しそうにスンスンと鼻を鳴らして私のほうに近づいてきた。四足歩行の茶色い塊が椅子の周りを練り歩く。椅子に腰かけた私の脚にさわさわと毛皮の感触が伝わってきた。

 

「遊んでて、って……、あの、私、この子とどう接すればいいのかもわからないのだけど」

「大丈夫大丈夫、触ったり撫でたり、適当にじゃれ合うだけでも楽しいものだからさ。それにベアくんは、相手が本(・)当(・)に(・)嫌(・)が(・)っ(・)て(・)る(・)こ(・)と(・)は絶対にやらない子だから。なにか困ったことがあっても、おねえさんが『やめて』って言えばすぐにおとなしくなるよ。すぐに、ね」

 

 ……?

 なぜだろうか。なんでもないような彼の言葉に含みがあるように思えた。

 立ち上がるタイミングを逃した私が椅子の上で固まっているのを残して、彼が客間の扉に開く。その先の廊下に一歩進んだ彼は、ふとこちらを振り返り、意味深な笑みを浮かべて囁いた。

 

「それじゃ、おねえさん。ベアくんと、どうぞごゆっくり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごゆっくり、って言われても……」

 

 パタン、と客間の扉が閉まる。

 あっという間に置いてけぼりにされた私は、困惑しながら視線を下に向けた。

 ランプに照らされた落ち着いた客間で、ベアくんの真っ黒でつぶらな瞳と目が合った。「ヴォフヴォフ」と喉を鳴らした彼は(彼、でいいのよね?)すっと頭を下げて、姿勢を低くしながら大きな額(ひたい)を私のほうに突き出してきた。

 

「ええと、触ってもいい、のかしら?」

「…………」

 

 椅子の上で首をかしげる私に、ベアくんが無言でずいと頭を寄せてくる。

 手を伸ばせばちょうど届くあたりで彼の頭は停止していた。まるでよく躾けられた犬みたいに、静かにじっと私の反応を待っている。

 

 正直なところ、ベアくんのことは今でもちょっと怖い。

 なにせ彼の身長は私の倍近くあるし、体重に至っては二倍どころじゃ済まないだろう。主人のファーマーにしっかりと調教されているのはわかっているのだけど、それでもこれだけの体格差があるとどうしても腰が引けてしまう。

 言葉を使ったコミュニケーションを取れないのも怖さの原因のひとつだ。もっとも、ベアくんのほうは人間の言葉をある程度理解できるみたいだから、意思疎通の不便は熊語を理解できない私のほうにあるのかもだけど。

 

 けれど、その怖さを差し引いても、健気に頭を差し出す彼を無視するのは気が引けた。

 よし、と小さく決意の息を吐き、私はおそるおそる彼の額に手を伸ばした。

 

「いい子だから、そのままおとなしくしててね……」

「ヴォウ」

「おぉ……。こ、これはなかなか」

 

 ごわごわだ。見た目はもこもこなのに、実際に触れてみると想像よりも固い感触だ。

 ちょっと手のひらを押し込んでみると、指先がずぶっと毛皮に沈んでいった。毛深いのだ。茶色の熊毛に沈んだ右手がちょっとチクチクする。

 

「ヴォフ」

「え、あ、撫でるの? 撫でていいの? よ、よし、いくわよ……」

 

 触れただけで硬直していた私の手のひらに、ベアくんがぐりぐりと額を押し付けてくる。

 相変わらず熊語はわからないが、その意図はなんとなく理解できた。額の内側の頭蓋骨の硬さを感じながら、私は意を決して手のひらを左右に動かしてみる。

 

「わしゃわしゃー……っと」

「ヴァフン」

「気持ちいい? おー、よしよし。それならもういっかい、わしゃわしゃー」

 

 茶色の毛を掻いて頭を撫でてあげると、ベアくんが気持ち良さそうに喉を鳴らした。黒い瞳が幸せそうに細められている。「もっともっと」と言わんばかりに彼の額がぐりぐりと手のひらを追いかけてくる。

 

 これは……確かに、楽しい。

 適度な硬さと温かさの毛皮の感触もさることながら、大型動物が私の手でリラックスしている様子にすごくほっこりさせられる。撫で方をちょっと変えると、ベアくんの反応もちょっと変わる。その言葉を介さないコミュニケーションも、なんだかくすぐったいような面白さがあった。

 

 知らず知らずのうちに顔がにやけてくる。

 幸せな気持ちでしばらくわしゃわしゃと頭を撫で続けること数分。

 私に任せて撫でられるままだったベアくんが、ふと四つん這いから姿勢を変えた。

 

「ヴォフ、ヴォッ」

「きゃ! ……び、びっくりした。いきなり立ち上がって、どうしたのよ。って、ひゃ!?」

 

 茶色の熊が後ろ足ですくっと立ち上がった。

 いきなり生まれた身長差に私が驚いて身を竦めていると、ベアくんはそこから流れるように私に覆いかぶさってきた。

 といっても、その文字通り人外級の体重を私に掛けるようなことはしていない。私の座る洋椅子の背に前脚を乗せて、上半身を斜めにしながら私に顔を近づけてきたのだ。

 

「ハッハッ」という彼の息が間近に聞こえる。呼吸のたびに白い靄が口から浮かんでいる。

 ベアくんの巨大な身体がランプを遮って私の身体に影を落としていた。ベアくんの顔がさらに近づき、すんすんと鼻を鳴らしながら私の匂いを嗅いでくる。

 触れそうなほどの至近距離だ。急な出来事に思考が追い付かない私は、バクバクと心臓を鳴らしながら目を見開いて彼を見つめることしかできない。

 

「ヴォフ……レロォ」

「うひゃぁっ!?」

 

 突然だった。

 私に顔を近づけていたベアくんが、灰色の舌でべろりと私の頬を舐めたのだ。

 人間のものとはまるで違う肉厚で力強い舌がぞわりと肌を擦っていく。

 べったりと頬を濡らした唾液はびっくりするくらい熱くて、糸を引くような粘つきがあった。

 

「レロレロ、レロォ」

「ちょっ、ま、まちなさ、っ、くすぐったいってばっ」

 

 熱くて分厚い舌が何度も何度も頬をいったりきたりしている。

 ベアくんの鼻息が顔にかかる。くすぐったさに身を捩りながら彼の顔を覗き見れば、飽きもせずに舌を躍らせ続ける茶色の熊は嬉しそうに息を弾ませていた。

 

 彼の舌の感触はざらざらで、けれども唾液はぬるぬるで……。

 最初はくすぐったいだけだったのに、ぺろぺろと顔を舐めまわされるうちに、なんだか変な気分になってくる。

 

「もうっ、ほら、それならこっちからもお返しよ。それっ、わしゃわしゃー」

「ヴォッ、フォウフォウ、ベロレロォ」

「あ、こら、んっ、またそんな舐めて、きゃんっ」

 

 もう破れかぶれだ。

 自分でもよくわからないテンションで、私はベアくんのお腹を思い切り撫でてやった。

 毛深いお腹をわしゃわしゃとまさぐってやると、彼はくすぐったそうに鼻息を漏らし、ますます嬉しそうに私の顔を舐めまわしてきた。

 

 べろんべろんのぬっるぬるだ。

 

 気づいたときにはベアくんは、客用の椅子を抱き込むように私に密着しかけていた。ごわごわの熊毛が身体に当たって色んなところがこそばゆい。

 毛むくじゃらの剛腕に抱きしめられた洋椅子がぎしぎし鳴っていたけれど、それでもベアくんは私にはいっさい体重を掛けていなかった。私は椅子とベアくんの身体との隙間にすっぽりと収まるような形で、ベアくんと撫でたり舐められたりのじゃれ合いを続けている。

 

 そう、じゃれ合いだ。

 私はベアくんとの触れ合いをただのじゃれ合い、ちょっとしたお遊びだと思っていた。

 

 

 

 ……彼のお腹を撫でる私の手が、不意に彼の腰のモノに触れてしまう、そのときまでは。

 

 

 

「え……? あれ、これって……え、え?」

 

 指先に感じたのは湿った手触りだった。

 それはぺたりと肌に張り付くような質感で、硬くて、熱くて、少しぬるぬるとしている。

 私の指が触れた瞬間、棒のような形のそれがびくりと震えたのを感じた。

 

「ヴォウ」

「…………ベア、くん?」

 

 さっきまで私の顔を舐め回していたベアくんが、舌を引っ込めてじっと私の目を見つめている。

 つぶらな瞳に熱を感じて、私は知らず知らずに唾を飲み込んでいた。彼の目に気圧されるように、私は首だけを動かして視線を下のほうへと動かしていく。

 

 まずは野性味の溢れる太い首が見えて、それから毛深くて横幅の広い胴体が見えて……、

 その先で、硬くいきりたったベアくんの肉棒が猛々しく己の存在を主張していた。

 

「うわぁ、おっきい♡ ……じゃなくて! 待って待って、なんでそんなにしちゃってるの!?」

「ヴォフヴォフっ」

「ちょっ、そんな嬉しそうに、やっ、鼻息くすぐった、うひゃぁ!?」

 

 興奮気味の鼻息が顔に掛かってくる。顔を背けようにも座っている椅子ごとベアくんに抱きかかえられているような状況ではそれもできない。すんすんと動く彼の湿った鼻先は文字通り目と鼻の先だ。

 ベアくんの荒い息のリズムに合わせて、洋椅子がぐらぐらと揺れている。前に後ろにと交互に傾いて、まるで揺り籠のようだ。

 どうしてそんなことになっているのかといえば、発情したベアくんがカクカクと腰をスイングしているからにほかならない。私の身体に触れるか触れないかのギリギリのところで、勃起した彼のペニスが何度も何度も空間を穿っている。

 

(……あれが、本当に、私の中に挿入ってきたら)

 

 きっと、身体の奥の奥まで彼に蹂躙されて、心の奥の奥まで屈服されてしまう……。

 無邪気で情熱的なデモンストレーションを目の前で披露されて、私は思わずそんなピンク色の妄想をしてしまった。

 私はごくりと生唾を飲み込み、それからハッとしてぶんぶんと首を横に振った。

 

 いやいやいや。

 よく考えるのよ、ツグミ。相手はベアくん、熊、動物だ。つまり、人間じゃない。そんな相手とまぐわうだなんて、どう考えたって普通じゃない。そうでしょう?

 だいたい、あんなおっきなペニスが私の中に挿入るわけが……って、あら……よ、よく見ると、長さは確かにすごいけど、太さは意外と常識的? 太いは太いけど、腕みたいな太さまではないというか。もしかしたら私の持ってる張り型といい勝負かも……って、そうじゃなくて!

 

 自分のはしたない妄想に顔が熱くなってくる。けれど、その浅ましい思考を否定しようにも、私の視線はベアくんの肉棒に釘付けになったままで決して離れてくれなかった。

 

「ヴォゥオッ!」

 

 そんな私の桃色な葛藤を知ってか知らずか、力強く吠えたベアくんが今まで以上に腰を高く突き上げた。強靭な前脚を椅子の背の高いところに引っ掛けて、後ろ足で直立に近い形まで身体を持ち上げてくる。彼の腰の位置が高くなり、ちょうど椅子に腰かけた私の顔のあたりまで上ってきた。

 

 気づいたときには、白い湯気を纏った熱くて硬い肉棒が、私の目の前に突き付けられていた。

 

「お"っ♡」

 

 濃密なオスの匂いが嗅覚を埋め尽くす。

 くさい。くさい。くさい。

 けれども、どうしようもなく、お腹の奥が疼いてしまう。

 

 眼前に聳え立つ肉棒は、たぶん、30cmくらいの長さ。

 見るからにガチガチに硬くなっていて、脈打つ血管がいくつも浮き出ている。

 つまりそれは、やっぱり、私をメスとして彼が認識しているということ。

 

「フゥ、フゥ……」

「だ、ダメよ、そんな、ほっぺたをぺちぺちされると……あぅぅ……」

 

 反り立った肉棒が私の頬を叩く。決して強く叩かれたわけではないけれど、先端が頬に押し付けられると陰茎のずっしりとした重さが感じられた。

 ベアくんはあからさまに私に催促している。なにを催促しているかなんて、いまさら考える必要もない。問題なのは、私が、その要求に応える方向に傾きつつあることだ。

 

 頭の中にファーマーの少年の言葉がフラッシュバックする。

『本当に嫌がっていることは絶対にやらない』

『「やめて」と言えばすぐにおとなしくなる』

 確かに彼はそう言って、ベアくんの安全を保証していた。

 

 彼の言葉が本当なら、今すぐ「やめて」と言えば、ベアくんはおとなしくなるはず。

 でも、それは逆に言えば、もし私が本気で嫌がっていなくて、建前でも「やめて」と言わなかったら……、ベアくんは、きっと、いけるところまで突き進んでしまう。そういう予感がある。

 

 

 だから、そのことを踏まえて、私が取るべき選択は……、

 

 

「フゥ! フゥ!」

「……苦しいの? そ、そうよね、こんなに硬くなっちゃったら、大変だものね」

「ヴォフ! ヴォフ!」

「大丈夫よ、安心して。……わ、わた、私が、楽になれるようにお手伝いしてあげるから♡」

 

 

 …………。

 言った。言ってしまった。

 なによ「お手伝いしてあげるから♡」なんて。

 たったひとこと「やめて」って言えばいいだけだったのに、なんだって私は……。

 …………。

 でも、言っちゃったからには、いまさら「やっぱなし」はダメよね。

 せ、責任を取って、ちゃんとベアくんを助けてあげないと。

 

 ……も、もちろん? いきなり性交するってわけじゃないわよ?

 だって、あんなモノを挿入れられたらどうなっちゃうのか、私にもわからないし……。

 だから、ほんのちょっとベアくんの発情を鎮めるお手伝いをするって、そ、それだけだから!

 

「じゃあ……手でやってあげるね」

「ヴォフ?」

「そ、そんな目をしてもダメよ! いくらなんでも挿入れるのはナシだからね!」

「ヴゥ……」

「ああもう、そんな悲しそうな顔しないでよ。ほら、こうやって握ってあげるから……」

 

 うるうると潤んだベアくんの瞳に僅かな罪悪感を覚えながら、私は彼の肉棒をそっと握った。

 火傷しそうな熱さが手のひらに伝わってくる。

 ずるりと皮の剥けた逸物はぴたりとしていて生々しい手触りだった。

 軽く握っただけでもびくびくという脈動が感じられる。

 彼のペニスは、私の顔くらい長くて、手首みたいに太くて、それになにより……、

 

「かったぁい……♡」

 

 私の手のひらで脈動する肉棒は、想像以上にガチガチだった。

 長さといい硬さといい、まるで鋼の杭だ。

 

 熊のペニスには骨がある。

 メディックのヒナがそう言っていたのをふと思い出した。

 第二迷宮で熊型の魔物と遭遇したころの話だ。骨の有無が人間のペニスとの明確な違いなのだと、彼女は赤面する妹分のカナリアをからかいながら楽しそうに語っていた。

 そのときは特に意識せずに聞き流してしまったけれど……そうか、だからこんなにもベアくんのペニスは硬いのか、と妙に納得してしまった。こんなたくましい凶器で貫かれてしまったら、どんなメスでもすぐさま屈服してしまうに違いない。

 

「ヴォフゥン」

「ど、どうかしら? こう、にぎにぎってして、しこしこってするのは……気持ちいい?」

「フンフン♡」

「そう、それはよかったわ。……ええと、なら、続けるわね?」

 

 右手の指で輪っかをつくり、ベアくんの逸物を上下にしごく。

 根元から先端近くまで、30cmの長さを優しく優しく擦っていく。

 彼は変わらず私に覆いかぶさりながら、体重を掛けないよう椅子の背にしがみついている。

 先端の近くをしごくのが特に気持ちいいようだ。切なげな鳴き声と腰の震えからそれがわかる。

 ぬらぬらとした透明な液が肉棒の先端から溢れ出していた。

 肉の杭を伝わって垂れてきたそれが私の指に絡んでいる。

 指と手のひらがぬるぬるする。

 

「ヴォッ、ヴォォッ!」

「ふふ、いい子いい子。いいよ、そのままもっと気持ちよくなろう? だって、ベアくんは今日、いっぱいお仕事頑張ってくれたものね。これはそのお礼。私からのご褒美なんだから」

 

 先走り液にまみれた右手の指が自分でも気づかないうちに速度を上げていた。

 滴る潤滑液をぐちゅぐちゅと鳴らしながら、私は夢中で彼の分身をしごきあげる。

 興奮したケモノの吐息が頭上でずっと響いている。

 ベアくんに抱きしめられた椅子の背はギシギシと壊れそうなほどに軋んでいた。

 

 彼の快感が臨界に近づいているのがわかった。

 手のひらに握った肉棒が、溜まった欲望をはやく解放したいとドクドク脈打っている。

 私は自分の吐息まで荒くなっているのを意識しながら、最後の一押しにと、きゅっと指先を窄めて彼の肉棒を一気に先端まで擦り上げた。

 

「――グ、ルォオオッ!!」

「わぷっ!? う、あ……いっぱい射精たぁ……♡」

 

 肉の杭がびくんと跳ねた。

 ペニスを握る私の指ごと引っ張り上げるように、熱く滾った逸物が勢いよく反り上がる。

 それと同時に、ベアくんの分身が白濁した精液を思いっ切りぶちまけた。

 

 吐き出されたドロドロの欲望が私の顔を汚していく。

 すごい量だ。熱くてベトベトした白濁が、スコールみたいに打ち付けてくる。

 顔も、髪も、星読みのローブまでもが彼の精液でねとねとにされてしまった。

 くらくらするようなオスの臭いがあたりに充満している。

 

 顔だけじゃなくて、肉棒を握っていた右手も精液でベトベトだった。

 手のひらを上に向けると、こびりついた精子が集まって小さな池を作った。

 どうしてかその白い水たまりに目を奪われた。私は無意識にそれに鼻を近づけて臭いを嗅ぎ、誘われるようにそれをぺろりと舌先で舐めてしまった。

 

「ん、うぅ……にがく、て……んぅ、すごくくさいのが、喉に絡んで……んっ♡」

 

 舐めとったベアくんの精液を舌の上で転がして、ごっくんと音を立てて飲み干した。

 喉の奥にねばねばした感覚が残る。肺の奥まで彼の臭いに犯されるような錯覚があった。

 

「ウ……ヴルォォ!」

「え、きゃっ!」

 

 頬を朱にしながらそんなことをした私の仕草は、彼にますます火をつけてしまったらしい。

 たっぷりと射精したはずの肉棒があっという間に硬さを取り戻す。

 勃起したペニスが反り上がって、その先端が私の目の前に突き付けられた。

 先っぽには半固形の精子がドロリとこびりついている。

 ベアくんは、それを、私の口元にずいと差し出している。

 彼は言葉も鳴き声も発していなかったけれど、その意図は私にも明らかだった。

 

「っ、すごいにおい……♡ 今度は口でして欲しいの? もう、仕方のない子ね……♡」

「フゥ、フゥ、フゥ!」

「いいわよ、おいで。お口までならセーフ、まだセーフだから……」

 

 いったいなにがセーフなのやら。

 自分でも訳の分からない言い訳を口ずさみながら、私は彼に見せつけるように口を開いた。

 ベアくんのおっきな肉棒を迎え入れるために、顎が外れそうなくらいに口を大きくする。

 精液に濡れた両手の人差し指で、唇の両端を抑えてペニスの道を作る。

 鏡を見なくてもわかる。今の私が浮かべているのは、オスに媚びるはしたないメスの表情に他ならない。

 

「ヴォフヴォフッ!」

「うぐ、ぅぅ……むぅ……ちゅる、ちゅ♡」

 

 ベアくんが吼える。熱くて硬い肉の杭がずるりと口の中に侵入してきた。

 あっという間に口の中を彼に占拠される。歯が、舌が、口蓋が、肉棒に押しこくられてぐりぐりといじめられている。とめどなく溢れてくる唾液がぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら肉棒にかき混ぜられている。

 濃厚なオスの臭いが喉の奥から鼻に突き抜けた。呼吸を精臭に塗り潰されて頭がくらくらする。

 

 必死になって舌を使おうとしたけれど、ベアくんの分身とではサイズが違いすぎた。どう頑張っても舌の長さが届かない場所がある。ペニス全体を気持ちよくしてあげることができない。

 それがもどかしかったのだろうか、ゆるゆると腰を振っていたベアくんは、だんだんと肉棒を奥へ奥へと押し込んできた。

 

「ヴルォオ!」

「お"っ、ぅぐ、う"、ん"ん"ん"んっ!?」

 

 突っ込まれた肉棒が、抵抗しようとした舌を押さえつけながら、喉の奥まで降りてきた。

 反射的に咳き込もうとした喉が痙攣する。吐き気が喉の奥からせり上がってきた。

 けれど、そんな生理的な反応すらねじ伏せて、ベアくんは思うままに私の喉を蹂躙している。

 

 呼吸が苦しい。酸素が足りない。

 ずるずると舌の根本をペニスの腹が擦っている。

 靄のかかった意識に、ぐっぽぐっぽとくぐもった音が反響している。

 

「お"ごっ、お"、お"ぉ、んぐ、うう"う"うぅぅ……」

 

 私の頭はベアくんの杭打機で椅子の背に磔にされてしまっていた。

 深すぎる挿入で喉の苦しみは限界なのに、彼の長すぎる逸物はまだ半分以上が口の外だ。

 私は無意識に彼のペニスの根元を握っていた。これ以上の侵入を拒もうと、両手に力を込めて彼の腰を押し返そうとする。けれど、彼と私とでは体重差がありすぎる。100kgを軽く超すだろうベアくんの巨体はいくら力を入れようとまるでびくともしない。

 

「ヴォッ♡」

「んん"ぅ!? う"ぐっ、う"、う"!?」

 

 だというのに、私がペニスを強く握った直後、彼の腰の動きがリズムを変えた。

 喉奥に挿し込まれた先端が大きく後退して、ワンテンポ置いてからまた奥まで伸びてくる。

 ストロークの長いピストンだった。繰り返されるその動作の中で、私は喉が解放された瞬間に必死になって酸素を搔き集める。喘ぐように細切れの呼吸を繋ぎながら、酸欠の思考で、訳も分からずペニスの根元を握る指に力を入れ続けた。

 

 その締め付けと喉のぬめりを存分に堪能して、

 ベアくんはひときわ強く肉棒を私の喉奥に突き立てた。

 

「グオ、オォォォ♡」

「んぶっ、う"ぇっ、お"ぐ、ん"ん"ん~~~~!!」

 

 喉が爆発したのかと思った。

 いきり立った逸物から放たれた精液が喉の奥にダイレクトにぶちまけられていく。

 ねばねばが喉を塞ぐ。息ができない。苦しい。死んじゃう。やだ。助けて。

 意識を真っ白にしながら、私は夢中で両手を前に押し出した。ベアくんの毛皮に触れた手のひらで、少しでもペニスを遠ざけようと彼の腰を押しこくる。

 

「オッオッ……フゥゥ♡」

「う"っ!? っ、ぐぇっ……」

 

 濁り切った思考では大した力も出せなかったけれど、ベアくんは私の抵抗に逆らうことなく腰を引いてくれた。ドクドクと今も精液を吐き出し続けている肉棒が、ずるりと私の口から零れ落ちる。

 

「ぐ、ぁ……げほっ、ごほっ……ぅ、ごほごほっ……」

 

 喉を突き刺していた杭打機の支えを失い、私の上体はだらしなく椅子の背からずり落ちた。

 身体をくの字にして、何度も何度も咳き込みながら、喉の精液を吐き出して酸素を補給する。

 飲んであげようだとか、そんなことを考える余裕はどこにもなかった。空気を求めて喘ぎながら吐き出した精液が、服やら床やらに白い水溜まりを作っている。

 

「ごほ……ぅ、射精しすぎ、よ……けほけほ……」

「ヴォフ?」

 

 咳き込みながらそう言うと、ベアくんがとぼけた顔をして首をかしげた。

 辺り一面が精液だらけだ。むせかえるようなオスの臭いが部屋中に充満している。

 なんとか気道を確保して、喉にこびりついた精液に苦戦しながら深呼吸を繰り返す。

 そのたびにベアくんのにおいが肺の奥まで浸透してくるような感覚があった。

 

「とに、かく。これでベアくんも楽になっ……、……え?」

「ブルルゥ♡」

 

 ようやく呼吸が落ち着いた私は、俯いていた顔を持ち上げて、ぴたりと硬直してしまった。

 目の前に固く勃起したペニスがある。

 湯気をまとうほどに熱くて、びきびきと血管を走らせた、凶悪な肉の杭が。

 

 なんで? もう二回も射精したはずなんじゃ……。

 

「ヴォフゥ」

「ひゃっ、ま、またそんな、頬っぺたをぺちぺちして……はぅ♡」

 

『足りない、足りない、もっと、もっと』とベアくんが私に催促している。

 火傷しそうに熱い肉棒とむせ返るオスのにおいに、ちっぽけな抵抗の意思が砕かれていく。

 差し出されたおちんちんの前では、私なんてただのメスでしかないって、そう心の底からわからされてしまう。大量射精を喉で受け止めた苦しみと、その瞬間のめくるめく屈服感が脳裏に蘇って、ぞくぞくと背筋が震えてしまう。

 ベアくんが望むのならば何度でも彼を受け入れて、もっとお口で気持ち良くしてあげるべきなのだと、私の中の淫靡で破滅的な衝動が囁きかけてきている。

 

 

 だけど、それでも……。

 たったひとこと、「やめて」と言えば、それだけで私は解放されるはずなのだ。

 自由になった口で、たったひとこと。たったそれだけで……。

 

 

「はぁ……はぁ……♡」

「グルルルゥ?」

「……うん、いいわよ。もういっかい、してあげる♡」

 

 なのに。どうして。

 私はその権利を放棄して、媚びるように口を開けてしまったのだろう。

 

 そんな些細な疑問は、捻じ込まれた彼の肉棒に一瞬で塗り潰されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、お待たせ。おねえちゃん、そろそろお茶にでも……っと、おやおや、これはまた」

 

 どこか遠くで音がした気がした。扉の開く音だ。それから人の声も聞こえた気がする。

 けれど、それがなにを意味するのかが、頭の中で形になってくれない。

 だって、そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)よ(・)り(・)大事なのは、口の中で膨らんでいるおちんちんなのだから。

 

「んむ、ちゅ、ちゅる、ん……ぁ、すごい、またこんなに硬くなった♡」

「ヴォフヴォフ♡」

「うん、わかってる。また気持ちよくしてあげるね……ちゅる、ん……♡」

 

 あれから私は、何度も何度も、繰り返し繰り返し、ベアくんとお口でえっちをしてしまった。

 彼の精力は底なしで、射精してもすぐにおちんちんを硬くしてしまう。

 そのたくましいオスの象徴を目にしてしまうと、いやしいメスの私は我慢できずに彼を誘惑してしまうのだ。

 

 私もベアくんもとっくに椅子からずり落ちて、今は客間の床で絡み合っている。

 大の字になって仰向けに寝転んだベアくんの股間に、私が顔を押し付けている形だ。

 高くそびえる肉棒を咥えながら、私は太ももで彼の胴体にしがみついて、はしたなく腰を擦り付けていた。ショーツ越しに感じるごわごわとした毛皮の触感が、私の思考を甘く溶かしている。

 

「ん、ん、ちゅる……はぅ……ん、ぅぅ……♡」

「あーあー、こんなに汚しちゃって。おねえさん、いったい何発ヤったわけ?」

「んむ……ん…ぅ?」

「ダメだこりゃ。聞こえてもいないや。まったく…ほら、おねえさん! ちょっと離れなよ!」

「あふぇ?」

 

 突然、後ろから襟を掴まれてベアくんの逸物から引き剝がされた。

 ピンク色の思考で蕩けた両目をぱちくりさせて、私はようやくすぐそばに誰かが立っていることに気づく。ショートカットの金髪に緑の帽子。それがベアくんの飼い主であるファーマーの少年だと気づくのに、たっぷり10秒は掛かってしまった。

 

「おねえさん、悪いけど今日はもうここまで。そろそろベアくんを休ませないと明日の活動に支障があるからね。もう日も落ちちゃったし、おねえさんも泊っていってもいいんだけど、これ以上の夜更かしえっちはNGだよ」

「……はえ?」

「うーん、この色ボケ面。話してる間もヘコヘコ腰を振りっぱなしだし……そんなにベアくんのことが気に入ったの? 本当にしょうがないおねえさんだなぁ」

 

 呆れた表情のファーマーが深いため息を吐く。

 私はほとんど無意識に股間をベアくんに擦り付けながら、ぼんやりとそれを見上げていた。

 

 ファーマーの少年は「ふぅむ」と芝居がかった仕草で腕を組み、それから何かを思いついた様子で私の隣にかがみこんだ。口を離してしまった私に替わって、彼のしなやかな指がベアくんの肉棒に絡みつき、そのまま上下にしごきだした。

 ベアくんが切ない鳴き声を漏らす。ファーマーの指でベアくんのおちんちんがびくびくと震えている。ベアくんの毛皮に股間のショーツを押し付けながら、私はその光景から目が離せなかった。

 

「おねえさん、物欲しそうな顔をしちゃってるよ」

「……だ、だってぇ……さっきまで、私が気持ちよくしてあげてたのに……」

 

 もじもじと太ももをすり合わせながら、いつの間にか私は目を潤ませてしまっていた。

 はぁはぁと息を荒げる私の耳に、ファーマーの少年が口を近づけて甘い声で囁いてくる。

 

「じゃあさ、おねえさん、ベアくんのセフレになっちゃいなよ」

「セ、フレ……?」

「そう、セックスフレンド。体の関係のお友達。だっておねえさん、お口のえっちだけじゃ満足してなさそうなんだもん。ベアくんともっと激しくて気持ちいいこと、したいんじゃないの?」

「っ~~、そ、それ、はぁ♡」

「ほらほら、素直になっちゃいなって……ね!」

「あっ♡」

 

 襟を掴んだファーマーが私の上半身を引き倒した。

 しがみつくように倒れ込んだその先に、ベアくんの勃起したおちんちんが待っていた。

 倒れ込んだ私の頭がベアくんの腰に着地する。目の前でファーマーの指がペットのペニスをしごいている。

 ベアくんはもうすぐイキそうだ。さっきまで何度もお口でベアくんに奉仕していたからか、なんとなくそれが理解できるようになっていた。

 

 羨ましい。

 脳裏にそんな言葉がよぎる。

 ベアくんが受けているだろう快感を妄想して腰の動きを速めてしまう。

「ねえ、どうするの?」と責めるようなファーマーの声。

 腰から昇ってくる秘裂と陰核の快感に浮かされるまま、私は絶叫した。

 

「……なる! なります! ベアくんのセフレに、ならせてくださいぃ!」

「うっわ、おねえさん必死すぎ。夢中で腰振りながら大声で叫んじゃって。恥ずかしくないの?」

「うぅ、だって、だってぇ、ベアくんとこれでおしまいだなんて、そんなの耐えられないよぉ♡」

 

 気づいたときには私は股間だけじゃなくて、全身をベアくんの身体に擦り付けていた。しがみついていたと言ってもいい。少しでもベアくんに私の存在を意識してもらおうと、必死に毛皮に身体をひっつけている。

 

「ふーん。だってさ、ベアくん。どうする? おねえさんのこと、セフレにしてあげる?」

「ベアくん、お願い……お願いします。私と、もっと気持ちいいこと、一緒にしよ♡」

 

「……ヴォフン♡」

 

 私の懇願に返ってきたベアくんの声。

 嬉しそうな響きのそれが肯定の鳴き声なのだと、私ははっきりと理解できた。

 きゅんと子宮が疼く。お腹の奥から嬉しさと気持ち良さが広がって、頭が真っ白になっていく。

 

「あはは、よかったね、おねえさん。ベアくんがセフレになってくれるってさ。ねえ、嬉しい? 嬉しいよね? じゃあちゃんとお礼を言わないと」

「……は、ぃ……。 ベア、くん……ぁっ……私のこと、んっ♡ セフレにしてくれて、あっ♡ ありがとう……♡ とっても、嬉しくて、私、っ♡ 私ぃ…っ♡ ぅ、ぁ、ぁあ"あ"あああっ♡」

 

 お礼の言葉を叫びながら、私は情けなく絶頂していた。

 背中がのけぞる。足がぴんと伸びる。

 背筋を稲妻が貫く。脳の奥が甘く蕩ける。

 がくがくと腰をベアくんに押し付けながら、私は全身を痙攣させて深い快感に身を委ねた。

 それとほぼ同時に、肉棒をしごいていたファーマーがベアくんを射精に導いた。

 霞みがかった視界に、ベアくんのペニスから大量の精液が吐き出されるのが見える。

 

 勢いよく顔に掛かったそれの熱さを感じながら、私の意識はそこで暗転してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねえさん? ……あちゃあ、気を失っちゃったか。うーん、ちょっとやりすぎたかなぁ」

「ヴォフ……」

「いや、ベアくんが悪いわけじゃないんだ。おねえさんが頑張りすぎたというか、僕がおねえさんの素質をちょっと見誤ったというか……。まぁでも、大した問題でもないよ。おねえさんだって、たっぷり楽しんでたみたいだしね」

 

「ヴォ!」

「え、なに、おねえさんのこと、そんなに気に入ったの? へえ、ベアくん、こういう子が好みだったっけ? ふーん、なら壊(・)さ(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)じっくり慣らしていかないとだね」

 

「ブルルゥ……?」

「うん、もちろんクローバーとの協力は続けるよ。あんなに美味しい稼ぎはそうそうないからね。ギルドがたくさん迷宮を攻略すれば、その分だけ僕らの採れる素材も増えていくんだから、クローバーとおねえさんには是非とも頑張ってもらわないと」




ファーマーの少年
 クローバーの採集を担当する採集特化型の冒険者。
 人当たりの良い少年だが、本質は鬼畜ショタ。
 立場のある年上の女性が倒錯の末にぐっちょんぐっちょんになる姿が大好きというヤバいやつ。ただし、彼なりの基準で相手を選んではいるらしい。
 ギルドマスターであるツグミの素質については、彼女を一目見た瞬間に気づいていたのだとか。


ベアくん
 ファーマーの少年のペット。
 種族は熊で、主人に負けないほどの探索技能を持つすごいやつ。
 絶倫にして精豪、同族にも人間にもモテるスーパーアニマル。
 実はツグミの他にも数人セフレがいるらしい。
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