プロローグ
突然だが、あなたは恋人と公共の場で
手を繋ぐ、これは多くの人ができるだろう。
肩や腰を抱く、これも気持ちが盛り上がっている時ならできるという人が多かろう。
では、キスはどうか。この辺りで、多くの人が脱落するものと予想される。とは言え、公衆の面前で接吻する男女を見たという経験は多くの人にあるはずだ。となると、「キスもOK」という層も、一定数存在するということになる。
ではもう一段階進んで、チュッという軽いキスではなく、舌を絡ませるいわゆるベロチュー、ディープキスはどうか……こうなると、もはや自分はおろか他人がする現場すら見たことがないという人が大方であろう。
つまり、我々の羞恥感覚に基づく公共の場でのOKラインはおおよそその辺りに引かれるということになる――口づけはぎりぎりOK、ベロチューはNG。
ところが、OKラインがこれとは大幅に異なる地域がある。
X県郊外の
ここでは、他の地域では完全NGな性的振る舞いが、公共の場でごく普通に行われている。
もともと《開放的》な気風がある地域として一部には知られていた那珂田市であるが、その傾向が大きく躍進したのは五年前、現市長の森真希子が就任したことを直接の契機とする。彼女は、わが市の少子化傾向に歯止めをかけ、また市民のQOLの向上を図るためには、「市民の羞恥感覚の適切な緩和」が最も肝要であるとするモットーを掲げ、かつ市民らもそれに応じたため、就任以降、教育現場を筆頭として様々な《啓発》運動が積極的に行われることとなった。
その結果、四年後に市長が任期を終えてつつがなく再任を遂げたころには、那珂田市民の羞恥感覚は見事なまでに《適切に緩和》され、公共の場での濃厚接吻はもちろんのこと、服を脱がせてのペッティングもOK、また周囲への最低限の気配りさえ守られていれば性交に及ぶことも、社会習慣として許容されるようになっていたのである。もちろんそれに際しては、市長らの辛抱強い働きかけによる、公然猥褻罪の局所的適用除外措置の実現といった足場作りがあった。
また、市長自らこうした《ニューノーマル》を積極的に《実践》して見せた効果も大きかったとされている。
那珂田市における性習慣のこうした激変には、技術面での下支えもあった。主に、現在世間一般で通行しているよりも簡易に装着できるコンドームが開発されたため精液の汚れが懸念される場所でも気軽に性交できるようになったこと、及び画期的高性能の新式アフターピルが用いられるようになったため不特定多数との不避妊性交――いわゆる生ハメが気兼ねない市民の楽しみとなったことが例として挙げられる。もちろん市民への日常的な性感染症検診が機能的に働いていることは言うまでもない。
さて、こうした自治体を挙げての取り組みの結果、実際に那珂田市では出生率の目覚ましい向上が見られつつあり、また幸福度調査においても有意の上昇値を示していた。そして更にその結果として、他の自治体においても、那珂田市の方針に倣おうとする動きが徐々に見られ始めていた。
石川瞳と橘悠一郎が市職員として勤務している
1.表敬訪問
弥良市役所・政策推進局企画課の石川瞳と橘悠一郎。二人は、今しがたタクシーで那珂田駅前に到着したところだった。二泊三日をかけての出張業務である。
出張の目的は、那珂田市民の日常生活における性行動の、なるべく具体的な実態調査である。それを材料にして今後、わが弥良市の市民感覚にとって同様の性習慣が受け入れ可能なものであるか等が、政策推進局を中心とする複合委員会において検討されることになる。
瞳は三十代半ば、課内の中堅にあたる。対して悠一郎は二十代前半、まだ二年目の新米である。今回の出張は那珂田市の視察であるとともに、悠一郎が課の業務により高いレベルで貢献できるようになるための研修的な意味合いもあった。瞳がその指導員というわけだ。それもあって、彼女は今日からの出張に対していつも以上に意気込んでいた。
「今日の行程、把握してる?」抜き打ちのように、瞳が尋ねる。
「はい、えっと、初日の今日は……まず、今から市役所に行って市長への挨拶ですよね。それから、駅前公園を通って北側のアーケード街を視察。このエリアでは特に十代後半から三十代の若年層の性習慣の実態記録に注力します。そのあと駅に戻って蘭港線
「結構。じゃあ、早速市役所へ……左だっけ?」
「向かいです。ほら、あそこに建ってる近代風の」
「……あ、そうそう、あれね」
二人は歩き始めた。
「市長の森です。ようこそ那珂田へ」市長室に連れられた瞳と悠一郎の二人を、真希子は気さくに出迎えた。
「お目にかかれて光栄です」握手を交わして、瞳は一歩退く。続いて悠一郎と握手を交わして弥良市からのお土産を受け取る真希子を、瞳はさり気なく観察した。
年齢は……就任の時に四十代半ばだったというから、現在は五十歳くらいか。紺のジャケットにベージュのパンツという、さっぱりした出で立ちだ。ジャケットの下の白のカットソーは胸元が広めに開いて、谷間のラインがわずかに覗いている。
その左後ろには、副市長の前田が控えている。スリムな市長に対して、ややずんぐりとした風体が好対照を成していた。
いま初めて対面するこの二人を、瞳もそして悠一郎も、実はよく見知っていた。と言うのも、市民に向けて那珂田市が行ってきた羞恥緩和の啓発活動には、市長が自ら《一肌脱いだ》ものが多くあり、そのお相手は、場合により色々ではあったが仕事上の付き合いが深い前田が務めることがしばしばあるためだった。そうした啓発活動を記録した画像や映像によって瞳や悠一郎は、真希子と前田との性交渉の様子をこれまで幾度も――市への出張が決まってからは特に頻繁に――目にしていた。市外向けのパンフレットやビデオではもちろん局部にモザイクが施されていたが、二人は《参考資料》として、市内流通用の無修正ビデオなども入手して目を通していた。
そうした諸資料の中で、関係者の間で語り草になっているのが『マキ市長の夕食会』と題する五分ほどのビデオである。市長が自宅に前田副市長とその妻を招いて夕食を共にするというものなのだが、羞恥緩和のための啓発ビデオなので食事シーンもそこそこにリビングでの団欒へと移り、妻からのボディータッチを受けて勃起してきた前田の股間を真希子がさすりだして……というスムーズな流れで三人での性交に至ってしまうのである。ちなみにこのビデオは新式アフターピルの使用啓発も兼ねたものなので、《事後》に女性二人がそれを服用するシーンがあるのだが、逆に言うと行為中は一貫していわゆる生ハメで、最後も前田から真希子への
役所の待合スペース等での上映を企図したものだったのだが、完成後に関係者内で試写会を開いたところ騒然となり「これは今の市民には早すぎる」と一旦お蔵入りし、公開・配付されるまでには二年を要したという曰く付きの一本なのである。市民の羞恥感覚が着々と緩和された現在では、当初の企図通り市役所の待合スペースやケーブルテレビの行政チャンネルなどで、「自転車の安全運転」や「電話での詐欺に注意」といった啓発動画と並んで放映されている。
そういうわけで森市長と前田副市長とは、瞳たちにとって特定方面で非常に馴染み深い二人なのだった。
「あ、どうぞお掛けになって」
一通り挨拶を済ませると、市長は来客二人に着席を促した。
「どうぞ。これ、うちの市で作っているものなんです」市長自らピッチャーからお茶をグラスに注いで二人の前に置くと、テーブルを挟んで二人の向かいに座った。その隣に、前田も腰を下ろす。
「実はこうやって他の自治体の方がご挨拶に来てくれた上で
「弥良市としましても、市長が着任なさってからの那珂田市の動きには大変関心を持っていまして、ぜひ参考にさせていただきたいと……」と瞳が応じる。悠一郎はその隣で畏まっている。
「あ、どうぞ遠慮せずに飲んで下さいね……で、どういう行程で回られるの?」
「はい、今日はまず駅前公園を拝見して、それからアーケード街に入って色々と見せていただこうかと」
「若い人の様子をご覧になるには、そこが一番いいと思いますよ。で、晩はどちらに?」
「
「あら、いいわね! どこの旅館?」
「えっと……すみません、ちょっと名前を……」と言いながら、カバンを探りだす瞳。
「あ、菊の屋です」と悠一郎が代わりに答えた。
「ああ、菊の屋? いい旅館ですよ。私たちも、よく行ったわよねえ」と懐かしそうに言いながら、前田の方を向く。
「そうですね、市長の就任初年、二年目辺りは特に……」
「そう、やっぱりああいう山間の地域は保守的な気風もあるから、私たちの考えを分かってもらうために、こちらの前田なんかと連れだってね、頑張って色々やったわよぉ。地域の人たちとも随分《交流》したし……」と言うと、真希子は瞳たちの方を見てふふっと笑った。
「まっ、その成果はぜひこの後、お二人の目でよくご覧になって下さいな」
「はい、是非そうさせていただきます」二人は座ったまま頭を下げた。
「頑張って下さいね。あ、そうだそうだ、こちらからもお土産を……」と言いながら、真希子はテーブルや机を見回した。
「あれ、用意してもらってたはずなんだけど……前田さん、分かる?」
「えっと……あッ申し訳ありません、隣の部屋に置いたままでした……いま、取って参りますので」
「あらどうしたのよ、珍しい」と、真希子が笑いながら前田の二の腕にそっと触れる。そんな何気ない動作も、二人の諸々の動画を見慣れた瞳と悠一郎の目には妙に淫猥に――まるで、性交へ至る前戯の始まりのように映った。
2.調査開始
市役所を出た二人は、駅前公園へ向かって歩き出した。
気持ちよく晴れた初秋の午後。平日ではあったが公園は人でにぎわっていた。点々と置かれたベンチは大方が埋まっていて、芝生にレジャーシートを敷いて座ったり寝転んだりしている人もいる。小さめのテントも所々見られる。
一見すると、特に変わった様子はない。ただ、人々の様子を子細に見ていると、やはり市外の人間には異様と映る振る舞いが、ちらほらと見られた。
例えば、いま二人が通り過ぎようとしているベンチ。大学生と思しき男女のカップルが座っている。男が女の肩に手を回し、耳元で何かを囁いている――そこまではありふれた光景である。ところが視線を少し落とすと、男のもう片方の手が、女のスカートの裾へと入り込んでいる。スカートの前面が、男の手で膨らんでいる。その膨らみが妖しく上下に
一方で、その傍らを時折行き交う人々は、彼らに無関心か、またはせいぜい二、三秒ほど好奇の視線を向けるだけである。
「やっぱり、ここは独特ですよね……」悠一郎が瞳に耳打ちした。
「うん……」半ば上の空の状態で、瞳は頷く。
女の陰部をまさぐる男の手、お返しに男のモノを弄ぶ女の手、ねっとりと絡みだす舌……それらが一体となって瞳をずきずきと刺激していた。自分自身でも何度もしたことのある動作だが、人がしているのをナマで見るのは初めてだった。それも、こんな白昼堂々と……。
「大丈夫ですか、お加減悪そうですけど」瞳の表情を見て、悠一郎が声を掛ける。
「ううん、なんともない……ありがとう」具合が悪いんじゃなくて、ムラムラしてんのよ――なんて、まさか言えるはずがない。
公園を抜けてしばらく歩くとアーケード街の入り口が見えてきた。その手前に、公衆電話ボックスのような細長い箱が幾つも並んでいる。
事前の調査で、その箱が何であるかは二人とも把握していた――消毒ボックスである。各人が繁華街に立ち入る前にそこに入り、備えつけの消毒液とシートで、手、口、性器および肛門を消毒するのである。
「目隠しの板は付いてるとは言っても……こんなとこで下を脱ぐの、抵抗あるなあ」と悠一郎が渋った。瞳も全く同感だったが、ここは先輩らしさの見せ所、努めて平気な顔をしながら、
「なぁに言ってんの。郷に入っては郷に従え、よ」
と事もなげに言うと、悠一郎に先んじて消毒ボックスへと入っていった。消毒は、陰部・口内・手の順番で行う。瞳はシートを一枚引く抜くと、スカートを穿いたままショーツを膝まで下ろした。
消毒を済ませた二人は、まずは二十代の若年層の様子を見るためにゲームセンターや若者向けの服飾店を中心に見て回った。さすがに入り口で消毒をさせるだけあって、気軽にキスを交わす様子はそこここで見受けられる。男女のカップルはもちろん、男同士、女同士の接吻もそう珍しくはない。中には、舌を絡ませながら胸や股間をまさぐる、市外の者にとってはきわどいと思えるところまで及んでいる人たちもいる。しかしセックスにまで至っている光景は見かけなかった。
ただ、一つ比較的過激な場面があった。
ドラッグストアを見回った際、従業員用の控え室のドアの脇で、男子学生と思しき若者の腰元にOL風の女性がかがみ込んでフェラチオをしている場面に出くわした。男のズボンを膝まで下ろして、真っ直ぐに飛び出たペニスにむしゃぶりついている。片手をペニスの下辺りに添わせているのは、睾丸を愛撫しているらしい。もう片方の手は彼女自身のスカートの中に伸びていた。男は女の髪を撫でながら、目を閉じて小さく快楽の声を上げている――その二人の前を、他の客や店員が大して気にもとめずに通り過ぎていく。さっきの公園の時と同様の反応だ。瞳と悠一郎は商品を吟味するふりをしながら、女が男を射精に至らせるところまでを注視していた。
瞳は、気取られないように気を付けながら、悠一郎の腰元へ時折ちらりと視線を落とした。スラックスの股間が、むっくりと膨らんでいる。
(そりゃ、そうなるわよね……)そう思いながらも、部下の勃起を初めて目撃した瞳は、狼狽のような興奮のような、名状しがたい感情を覚えた。
アーケードの道を並んで歩きながら、悠一郎はぽつりと呟いた。
「意外と、そこまで奔放なことにはなっていないですね。なーんか、そこかしこで、その……シまくってる様子を想像してましたけど」
実を言えば瞳も同じ想像をしていたのだが、そのことはおくびにも出さず、さも当然と言った表情で返答する。
「そりゃあまあ、町
「そっか……ああそう言えば、この辺りはカラオケボックスがそこら中にありますよね」
「あと、ネットカフェもね」それらの施設は、簡易なラブホテルとして那珂田市の若者には非常に重宝されているという話だった。
「じゃあ、その辺りもこれからのルートに入れましょうか……あ」と言うと、悠一郎は立ち止まる。
「……その前に、ここ、見てみましょうか。ちょっと年齢層上げて」
彼が指さしているのは、乳幼児向けの商品を扱っているチェーン店だった。
「いいわね。じゃ、入ってみましょう」
「はい……あれ?……うわっ!」店の中を見渡そうとした悠一郎が、小声で叫んだ。
「どうした?」
「あ、あれ……」と言いながら、小さく指をさす。瞳は黙ってその方向を見た。
店は正面がガラス張りになっており、中がよく見通せる。左奥の方に二階へ上がるエスカレーターがあり、その手前が休憩スペースになっているらしくテーブルと椅子が何組か置かれている。いま二人が見ているのはその一角だった。ベビーカーが一台置いてある。そのすぐ右隣で、こちらに背を向ける形で男性が少しかがみ込むような姿勢で立っていた。その腰が、前後にぐっぐっと動いている。男性の脚の隙間から、女性らしい脚がちらりと見えた。瞳は思わず唾を呑んだ。
「あれ……シてますよね……」悠一郎が声を落として言った。
「みたいね……入ってみましょう」
「はいっ」二人は歩き出す。自動ドアがするすると開いた。
3.見学と参加
二人は男の方へと近付いていった。やはり、妻と思しき女性を後ろから突き上げている。
「あっ、うっ……エリ、すごくイイよっ……」
「ヒトシ君、あ……はぁんっ……私も、キモチいい……」
夫婦が洩らす熱い吐息と控えめな声量の会話が聞こえてくる。腰を振る男性――ヒトシは、ズボンと下着を靴下の辺りまで下ろしていて裸の尻がこちらに丸見えになっている。エスカレーター脇の柵の手すりに両手でつかまって夫のピストンを受けている女性――エリの腰元は、ロングスカートによって結合部を含む臀部がすっぽりと覆われている。薄手の白いセーターが上にめくりあがり、半分ずりおろされた緑色のブラジャーからは大き目の乳輪が覗いていた。
(すごい……遂に、ハメてるところまで見ちゃった……)瞳はヒトシの腰の動きに目を奪われている。ただ、ここからどうすべきか。
(勝手にずっと見てるのもマナー違反だろうし……どうしよう)ヒントを求めるように、夫婦の隣に置かれたベビーカーに目をやる。薄黄色の服を着せられた赤ん坊が、その中でうとうととまどろんでいた。
(とりあえず、赤ちゃんを眺めてるフリをしようかな……いや、そんなことしたら却って気を散らせちゃうか……)あれやこれやと逡巡している中、悠一郎が思いがけない行動をとった。性交にいそしむ夫婦のすぐ隣まで歩みを進めると、二人に声を掛けたのである。
「あの、ちょっとすみません。少し傍で見せていただいてもいいですか?」
ヒトシが腰の動きを止める。振り向いた夫婦は一瞬ぽかんとした表情で悠一郎を見たが、すぐに
「ええ、どうぞどうぞ」
「お見せするほどのものでもありませんが……」と返した。
「ありがとうございます!」と言って、悠一郎は元の位置に下がろうとする。と、
「あ……よろしかったら、参加されますか?」とヒトシが言った。悠一郎は慌てて手を振る。
「いえっ! そこまでは……」
「僕たちは構いませんよ?」
「どうぞ、お嫌でなかったら……」とエリも言い添えた。
悠一郎は(……どうしましょう?)という表情で、ベビーカーの前に佇んでいる瞳を見た。
(え、橘君もシちゃうの……?)思わぬ展開に、悠一郎と同じく瞳もたじろいでいる。そしてまた、何となく面白くない思いもする。
しかし、「お嫌でなかったら」とまで言われているのを断らせるわけにもいかない。瞳は(ヨシ、これも視察の一環)という表情を作ってこっくりと頷いた。それを確認すると、悠一郎は、
「じゃ、お言葉に甘えて……」
と言いつつ夫婦に寄り添っていった。手すりに手をついていたエリが、夫と繋がったまま悠一郎の方に向き直る。そのまま器用にベルトを外し、ズボンを脱がせ始めた。そうしながら悠一郎に愛想良く話しかける。
「市外の方ですか?」
「あっハイ、そうなんです。住みやすいところだって聞きまして……」
「そうですねー、駅前に割と何でも揃ってますし……」などと世間話をしながら、するりとスラックスをくるぶしまで下ろす。ボクサーパンツの正面が大きく張り出しているのを、瞳は視線の端で捉えた。ベビーカーの前にかがみ込んで赤ん坊を眺めている……ふりをしながら、横目で三人のなりゆきを注視する。本来の位置に視線を戻すと――赤ん坊は眠り込んでしまったようだ。
「あの、あちらの
「あ、あの人はお子さんを見ていたいようなので、お構いなく」
「そうですか? ……じゃ、こっちも下ろしますね」と言って、彼女は悠一郎の下着に手をかけた。もちろん瞳の視線はそちらに釘付けになっている。
エリが手を下げると、悠一郎の勃起したペニスが、顔の前にブルンと跳ね出した。
(すっごい、ビンビン……)傍らで見つめる瞳の胸が高鳴る。若さにピチピチとした竿、その先端で亀頭が赤黒く照っている。
仕事仲間としての悠一郎の見慣れたスーツ姿の上半身と、丸出しの男性を示す淫猥な下半身とが一続きに繋がっているのが、瞳にはなんだか非現実的に見えた。
その男の部分を間近で見つめるエリの顔にも、ほんのりと喜色が浮かんだ。
「あら……すごい、ハツラツとしてますね……」
「はは、そうでしょうか……」
「そうですよ……いただいちゃって、よろしいですか?」と、男を見上げる。
「は、はい、ぜひお願いします……」ドギマギしたように悠一郎が答える。その視線は、エリの顔とブラジャーからはみ出た乳房とを行き来している。
「じゃ、早速……」濃いオレンジ色のルージュを引いた艶のある唇が、突き上がる男の亀頭をくぽっと咥えた。そのままぐぐっと、竿の三分の二ほどまでを呑み込む。
「んー!
肉棒を咥え込んだまま嬉しげに声を上げた。更にぐっと顔を押し出し、根元までを口中に収める。鼻先が陰毛の茂みに入り込んだ。そのまま鼻で大きく息を吸い、若い男の匂いを堪能している。
エリは頭を前後に動かしだした。最初はゆっくりと……時折、口の
「あっ、ああ……」
「
「はいっ……すっごく……」男の目を見つめて、エリは優しく微笑む。そして徐々にフェラチオの速度を上げていった。
「んんっ!」
悠一郎のペニスをねっとりと口淫するエリから、不意に鋭い声が洩れた。後ろでヒトシが再び腰を動かしだしたのだ。ズンッ、ズンッと、潤った秘所をゆっくりと、しかし勢いをつけて突き上げていく。
「あんっ、……おっきくなった」
エリは悠一郎のペニスから口を離してそう呟くと、夫の方を振り向いて、
「やっぱり三人でする方が興奮するんだ?」
といたずらっぽく笑いながら言った。ヒトシは照れたように目を閉じると、腰を振る動作を一層大きくした。
「あぁっ! イイ……」エリはまた悠一郎の方に向き直り、目の前に突き上がったペニスを咥える。悠一郎は快感に目を閉じたまま両手で彼女の頭を抱えると、ペニスをぐいと口中に突き立てた。
「うわ、見てアレ、エっろ……」――瞳の後ろで、若い女の声が聞こえた。
ちらりとそちらを振り向く。二十歳前後の女性二人が、性交にふける三人を眺めていた。
「ホントだ……すごっ」もう一人が答える。
「あんなの見てると、したくなってくるわー、3p」
「そう言えば私も、何気に3p最近シてないかも……あ、じゃあさ、今からケンジ呼んでカラオケ行こうよ」
「お、いいねー、じゃ電話するわ。ケンジ、溜めとけよ~」
「あはは」
笑いながら遠ざかっていく二人を、瞳は何とはなしに見送った。
「んっ、んっ、んっ、うぅん……」
後ろからの突き上げを受けて、エリの嬌声が細切れに洩れる。彼女の口淫を受けている悠一郎も、目を閉じて歯を食いしばっているように見える。(イきそうなのかな……)男の表情を見つめながら瞳は思った。
果たして、悠一郎が絞るような声で、
「あの、もうそろそろ、
「はい、じゃあ、このまま……んっ、あっあっ、ああんっ!」夫のペニスの
「うっ、ううっ! イく……イきますっ!!」
と言い放つと、悠一郎の体がビクっ!と大きく震えた。エリは一瞬目を見開いて、根元を素早くしごきながらペニスを奥の方まで呑み込む。射精を受け止めているのだと、瞳にも分かった。悠一郎が精子を吐き出す様子が女の口に覆われて見えないのが、もどかしかった。
「エリっ……こっちもイクよっ!!」
目をつぶってがむしゃらに腰を振りながら、ヒトシが小さく叫んだ。悠一郎の射精をなおも受け止めているエリは、声にならない声を上げてそれに応える。いつの間にかスカートが大きくめくれて、エリのふくよかな臀部とそこに素早く出入りするヒトシのペニスとが顕わになっていた。
「うおぁっ!!」
ヒトシは声を上げると、ビタンッ、ビタンッと、間を置きながら激しく腰を打ち付けた。エリは悠一郎のペニスを奥まで咥えたまま、目を閉じている。二人の男が自分に送り込んでくる精子を全身で味わい尽くそうとしているように、瞳には見えた。
瞳は、息をするのも忘れて目の前の光景に見入っている。半ば無意識のうちにシャツに手を入れて、欲情に勃起した乳首を指で強く弄んでいた。
一人の女に同時に精子を注ぎ込んだ二人の男。先に精を出し切ったのは悠一郎の方だった。ペニスの付け根に手を添えて、ゆっくりとエリの口から引き抜く。エリは口中に
「いっぱい
エリが笑いながら言った。後ろでは、ヒトシが名残を惜しむようにゆったりとしたピストンを続けている。
「ありがとうございました……すんごい気持ちよかったです」
「いえいえ、どういたしまして……んっ」後ろで、精を出し尽くした夫がペニスを引き抜いた。ヒトシは妻越しに、悠一郎に向かって、
「いや、お陰さまで、ハッスルできました……」と頭を掻きながら言った。
「いやいや、こちらこそ……なんと言いますか、美味しい、いやっあの、貴重な体験をさせていただきまして……」どう答えたらよいものか分からず、しどろもどろに返事をする。
夫の傍らに立ったエリは、ふと何かを感じたように片手を陰部へと伸ばした。掌に、膣口から洩れ出た精液がぼとっ、ぼとっと落ちた。
「いつもよりいっぱい
と言うと、ふふっと笑って夫にチュっと口づけた。
エプロンを着けた若い女の店員が夫婦の方へ近付いてきて、「拭くものをお持ちしましょうか?」と訊いた。
「あ、いえ大丈夫です、持ってきてますから……ありがとうございます」とエリが頭を下げながら言った。ヒトシが慌ててベビーカーのサイドバッグからウェットティッシュを取り出す。二枚引き抜いてエリと悠一郎に一枚ずつ渡し、次いで二、三枚引き抜いて床を拭き始めた。
「あの、私たちこれから地下の喫茶店に行こうと思うんですけど……よろしかったらご一緒しませんか?」とエリが言った。
「ありがとうございます。ただ、私たちまだ仕事が残ってますもんで……」瞳の方を見ながら、悠一郎が社会人らしく答える。
「あ、そうだ仕事と言えば……」と言いながら、ヒトシが尻のポケットから財布を出して、そこからカードを二枚抜いて悠一郎と瞳に渡した。名刺であった。二人も慌てて自分のものを差し出す。
「はあ、
「はい。那珂田市の先進的な取り組みを、うちの市でも学んでいこうというふうに思っておりまして……この後は、駅に戻って電車で
「あら、そうですか……いやいや、お仕事お疲れさまです」
「私たち、駅の南側に回ったとこに住んでるんですよ。ぜひ、またウチにもいらして下さいね」エリが、悠一郎と瞳をそれぞれ見ながら言った。
「ありがとうございます」と言いながら二人で頭を下げる。床を見ながら瞳は、
(そうすると、四人でするってことになるよね……)
と考えた。その様子を想像する……さっきのエリの位置に、自分がいる。さっきのエリみたいに、二人に前後からナマで犯されて、同時に注ぎ込まれて……。
瞳のスカートの奥が、熱く疼いた。
夫婦と別れた二人は店の出口へと向かったが、そこで瞳は、
「ごめん、ちょっと待ってて。お手洗いに行ってくる」
と言って、店内のトイレに向かった。個室に入り、錠を下ろす。スカートをたくし上げ、下着を下ろして便座に腰掛ける。膝にかかったショーツを手に取って見ると、案の定クロッチに愛液が深く染みていた。
瞳は目を閉じた。中指と薬指を揃えて膣口にあてがい、そしてゆっくりと出し入れし始めた。
【つづく】