ロンドンからセントラルへ ハガレン ×刀剣×まほよめ 作:木桜 春雨
「主殿」
声をかけても返事はない、御簾をわずかに開けて覗くと空、そこに姿はない、やはりと思った、それほどがっくりとしない、いや、表情に出ないのは、いないと分かっていたのかもしれない。
自分の感は当たっていたというわけだ、仕方ないと独り言のように呟き、男は部屋を出た。
庭に目をやり、今日も天気が良いと思いながらも心は晴れない、数日前まで満開だった庭の桜の花は散りかけている。
早いものだ、数日前は花見をしていたというのに。
そんな事を思っていると廊下の向こうから大きな足音がした、相変わらずだなと思いながら、軽く深呼吸をしたのは気持ちを落ち着ける為だ。
「三日月ーっっっ、いるか、俺だああっっ」
そんなに大きな、まるで怒鳴るような叫び声をあげなくても聞こえている、まだ耳は遠くはないと思いながら向かってくる男を見た、体も大きいが、声もでかい。
「おおっっ、ここにいたのか、三日月、た、大変じゃ」
「そうか、まあ、茶でも一服」
自分に近づき大変と叫ぶ、赤毛の男は口から唾を飛ばしそうな勢いで話しかけてくる。
少しは落ち着け、息切れもしておる、余程慌てていたのだろう、そして大変と繰り返す言葉を聞きながら三日月は、のほほんとした口調で主殿かと尋ねた。
「おお、そうじゃ、もしかして、こっちに来ておるのか」
頷く相手に三日月は頷いた。
「花も散りかけておる、それで、こちらの花を見たいと尋ねて来たのだ」
「なんじゃ、それなら、出かけると」
「おまえが一緒に来たら花を愛でるというよりも食い気だろう。
団子や茶だけでは満足せず、酒と食い物がなけれはすまないのだ、それも人の倍以上食べる、準備するのにも時間がかかるというものだ。
「気晴らしに外に出ておるのだろう、見ないふりをしてやれ蜻蛉切」
「そ、それは気持ちは分からんでもないが」
「蜻蛉切、たまには息抜きも必要だと思わないか、主殿にもな」
イシュヴァールの田舎から首都であるセントラ向かう汽車に乗り込む、これから半日近く座りっぱなしになるのだが、マルコーの気持ちは決して決して明るいものではなかった。
医者として診療所の仕事もやっと落ち着いてきたところだというのに、いきなりセントラルの軍本部からの呼び出しは突然だった。
人手が足りないなら民間の医者を使えば良いのだが、そこは軍の施設内のことだ、事情があるのだろう、それに最近になって偽物の賢者の石が街中で出回っている。
石の生成に携わっていたドクターの意見を聞きたい、できることなら偽物の石に対しての対処の方法もと言われては断ることができなかった。
だが、返事をした後、迎えと称して傷の男とキンブリーが診療所を訪ねてきたのは驚きだった。
それだけなら良かった、だが、ラスト、エンヴィー二人のホムンクルスも一緒だ、何故という疑問が顔に出たのだろう。
「首都では今、キメラを使った犯罪が増えています」
キンブリーは美しくないと首を振った。
人間と動物を掛け合わせたキメラです、その言葉に思い出したのはショウ・タッカーとという男だ。
自分の家族を使いキメラを作ったらしい、錬金術の試験、査定の為にだ、余程追い詰められていたのだろう。
検査、査定の審査は決して簡単なものではないからだ、気持ちは分からないでもない、だが、それで家族を犠牲にするのは成功したところで、事が露見すればただではすまない。
いや、軍の上層部、腹黒い連中なら都合のいいようもみ消すかもしれない。
「確か、その男は亡くなったと聞いたが」
「死体が亡くなったのよ、ドクター」
そう言ったのはラストだ。
軍の遺体安置所に保管されていたが、数日前に消えたのだという。
「死体を使ってキメラが作れるかなぁ」
エンヴィーの疑問にマルコーは自分が呼ばれたのは、そのことも関係したのかと思った。
向かいにはスカーとキンブリー、通路を挟んだ隣の席にはラストにエンヴィー、自分の隣が空席なのが救いだ。
もし、隣にグラトニー、いや、ブラッドレイが座っていたら、そんな事を考えると気持ちが沈んでしまう。
それに車両内には明らかに一般人には見えない人間がいる、私服を着てらしく振る舞っているが、目付きの鋭い、がたいのいい、警察、軍人関係なのは明らかだ、汽車が止まるたびに客は少しずつ増えてくるが、自分のいる車両には、それほど人は来ない、それどころか通路を通過ぎる人の視線を感じてしまうのだ
好奇心を隠しきれないような視線を、ちらりと向けられるたびに恐縮してしまい、普段は感じない胃の痛みを覚えるマルコーは早く岸谷が着いてくれたらと願わずにはいられなかった。
マルコーは、はっとして顔をあげた、うたた寝をしていたことに驚いたのだ。
同時に気配に気づいた、通路に人が立っているのだ、自分の空いている隣を指さしている、座りたいのだと思いマルコーは、どうぞと声をかけた。
頭を下げて、その人物は隣に座った。
フード付きの灰色のマントを被っている、着古したというより、ところどころ破れかけている様は長旅の途中なのだろうかと思ってしまった。
このとき向かいの席に座っているスカーとキンブリーが、じろりとした視線を向けているのに気づいた。
そんな視線、怪しい不審者和見るような視線は失礼ではないかと思ったマルコーだが、いきなりキンブリーが声をかけたてのには驚いた。
「どちらへ行かれるんです」
マントの主がわずかに顔をあげた、だが、返事はない、ところが。
「みやこ、せ、セントラルっっ」
それはしわがれた、力のない声だった。
隣に座っていたマルコーは自分の顔が険しくなるのを感じ、首を振った。
そしてキンブリーも、はっとした表情になりわずかに顔を伏せた。
この声は体調がよくない、いや具合が和悪いせいなのか、どちらにしてもだ、医者という職業柄、マルコーは気になり、ちらりと隣を見た。
そのとき、車両のドアが開く音がやけに大きく響いた。
ね
人を探していますという男の声と同時に足音が近づいてくる。
だが、同時にマルコーは気づいた、隣に座っている人間が緊張していることに、震えているのだ。
「人を探している、悪いが、そのフードをとっ手顔を見せてくれないか」
足音が止まり、男の声がした。
相手も顔を隠している、だが、それがあまりに奇妙だった、頭の部分から二本の角のようなものが出ている、そこから布が垂れ下がっていて顔を隠しているのだ。
立ち上がる気配を感じて、それを止めるようにマルコーは自分の手で遮った。
「私の連れだ」
自分でも驚いた、何をしているんだと思う、厄介事を引き込んでしまうかもしれないと思いながら言葉が出てしまう。
「具合がよくなくて、今から病院に行くんだよ」
「そうなのか、だが、顔を見せるぐらい」
「しつこいのう」
そのとき、この場の空気にはあまりにも似合わないのんびりとした男の声が響いた。
ラストは驚いた、自分の目の前は空席だった、誰もいなかった、それなのに、青い衣、明らかに異国の衣装を着た若い男が自分の目の前の席に座っていることに驚いた、いや、隣のエンヴィーもだ。
「間違い、人違いではないか、隣の御仁は自分の連れだと申しているではないか」
「君は、誰だい」
丁寧な口調、だが、その声の響きは先ほどのモノとは違う、明らかに。
だが、それに気づいていないのか、そうでないのか、のんびりとした口調で男は言葉を続けた。
「人に尋ねるときはまず自分から、例え、異国の地であっても、礼儀というものがあろう」
「エリアス・エインズ・ワースだ」
「それはご丁寧に、では俺も名乗ろう、三日月宗近だ」
「邪魔をしに来たというわけかい」
とんでもないと三日月は肩を竦めた。
コラボ、クロスオーバーです。
舞台のハガレン、映画の刀剣、アニメのまほよめが書きたくて、迷いながら。
とうとう書いてしまいました。