ロンドンからセントラルへ ハガレン ×刀剣×まほよめ 作:木桜 春雨
セントラルの駅のホームに降りたとき、マルコーは隣に立つ相手に声をかけようとして少し躊躇ってしまった。
自分の隣に立っている、だが、最初のあの声を思い出すと返事をするのも疲れるのではないだろうかと思ってしまったのだ。
突然、マントの下から手を伸ばして相手はフードをとろうとした。
そこから現れた腕は、ぼろぼろの布が捲かれていて細く、まるで骨と皮、いや、棒きれ、木の枝のようにも見えた。
正直、人の、生きた人間のようには見えない。
だが、このとき初めて顔を見ることができる、その場にいた全員が思っただろう。
だが、予想は見事に裏切られた。
顔面を隠すように白い布、いや、紙が貼られているのだ、それには赤い文字、いや、模様のようなものが描かれている。
ぴったりと、まるで顔、そのものであるかのような不思議な印象にマルコーは息をのんだ。
だが、それは自分だけではない、そばにいたスカーやキンブリー、エンヴィーやラストも同じ気持ちだったのかもしれない。
マルコーは声をかけ歩きだそうとした、そのとき、悲鳴が聞こえた。
黒い甲冑を身につけた数人の見慣れない者達が近づいてきたのだ。
一見、人に見える、だが、顔だけではなく全身を黒い鎧で隠している。
周りの人間が遠巻きに見ているが、逃げる事をしないのは好奇心のせいなのかもしれない。
なのに、その目は恐怖の色が隠せない。
「ここが終着地点だ」
嬉しそうな男の声だが、人間の声には思えない、いや、聞こえなかった。
「この手を取れ、おまえを鬼として迎えよう」
思わず隣を見たマルコーだが、ほんのわずかな沈黙の後、答えた。
「嫌だと言っている」
甲冑の相手は笑いながら死ぬぞ、このままではと言葉を続けた。
「数日、いや、十日もたたぬうちに、おまえは死ぬ、だが、我々の仲間に、鬼になれば生き延びる事ができる」
「わ、た、し、ヒト、オニ、なら、ナイ」
「喋るのもやっとのようだな、キザクラ」
仲間になれば生きられるのか、マルコーは思わず隣を、そして話しかけてくる相手を見た。
「おまえ、人間じゃないな、でもホムンクルスとも違う」
不思議なことに、このとき、話しかけたのはエンヴィーだ。
だが、返事はない、答える必要がないと思っているのかもそれない。
言葉にも態度にも表さない、だが、それを感じ取ったのかもしれない。
その態度に、むっときたのかエンヴィーは相手に向かって突進すると、右手を伸ばした。
相手の腕を掴んだ、にやりと笑ったエンヴィーだが、ごとりと音がして地面に落ちたものを見て顔をこわばらせた。
地面に落ちたのは自分の腕だった。
慌てて再生させようとした、ところが腕はそのままだ、自分の腕が復元しない、元通りにならないことに気づき、エンヴィーは相手を見た。
黒い鉄の仮面の下から見える赤い目にエンヴィーの体が震えた。
人間でない相手に対して感じた、それは恐怖かもしれなかった。
このとき、マルコーはそばにいたスカーとキンブリーの表情に気づいた、二人ともわずかに腕、指先を動かしている。
錬金術を発動させて、この場を何とかしようと思っているのだろう。
「力が出ない、だろう」
甲冑の相手が笑った。
「効かんな、異なる世界の者と力、我ら鬼にとっては無力」
錬金術が、今、目の前で鬼と名乗る者達には発動できないのか、そんなことが」
マルコーは自分の掌に意識を集中させた、少しずつ温かくなってくる、そのときだ。
風が、吹いた。
それだけではない、白、いや薄く赤いひらひらと辺りに舞う光景に皆が唖然とした。
「とっ、扉は閉じた、来れぬ、筈だっっ」
焦る声とは反対に答えたのは静かな声だ。
「では、僕たちはなんだというんだい」
舞う花びらと風がやみ、目の前に現れたのは二人の長身、銀髪の青年だ。
突然、現れたことにマルコーだけではない周りは驚いた、いや、一番驚いたのは。
「な、何故、そうか、あの老体、老いぼれがああっ、余計なことを」
憎々しいといわんばかりに叫んだのは鬼だ、だが、何かに気づいたようだ。
「おまえたち、刀がない、そうか」
鬼の言葉に二人の青年は相手を睨みつけた。
「今の僕たちは、姿を具現化するだけだ、弟よ、この場は」
「兄者」
そのとき、弟らしき青年がマルコーを見た。
「主殿、力を貸してくれ」
マルコーは慌てた。
「力など、それに、あるじとは」
自分は医者、だが、錬金術でもある。
「こちらでは体を具現化するだけでも、刀までは」
それは鉄の、ふとマルコーの脳裏に浮かんだのはアームストロング家の長女が腰に下げていたサーベルだ。
細身で軽い、女性ならでは扱いやすい武器といえるだろう。
このとき、マルコーは自分の手に触れるもの感じて思わす顔を上げた。
細く枯れた手が自分の手に重なっている。
どくん、心臓が高鳴るような感覚を覚えた。
(な、なんだ、頭の中、これは)
突然、二人の青年が声をあげた。
目の前の景色が割れるように避けた。
そして、現れたのは二本の刀だ。
二人の青年は刀を手に取るとマルコーを見た。
「主殿、感謝」
やっと続きが書けた。
マルコーさんが兄弟の主です。