ロンドンからセントラルへ ハガレン ×刀剣×まほよめ 作:木桜 春雨
どこに行ったんだ、ベッドはもぬけの殻だ、ほんの数時間前まで、ここで寝ていた筈だ、あんな体で自由に動き回れる筈がない、探しに行こうと思ったときドアが開いた。
入ってきたのはラストだ、いや、彼女に肩を支えられるようにして入ってきた姿にマルコーは慌てた。
床にどっしりと座るというよりは崩れるように倒れ込んだ相手にマルコーは声をかけた。
「大丈夫なのかね」
顔が見えなくてもわかる、早くベッドに寝かせようと思ったマルコーに相手は首を振った。
「大事ない、医療氏殿」
男の声にマルコーは驚いてラストを見た。
女ではなかったのかと思っていると、突然、相手は声をあげた。
「ゆきみっっ、聞こえるか、返事をせいっ」
部屋の中にはマルコー、ラスト、そして声を上げた三人だけだ。
だが、その沈黙を打ち破るように部屋の中に少年が現れた。
それは突然だ、黒髪の少年が部屋の中に現れたのだ。
「ま、まさか」
少年の声は震えていたが、我に返ったのか、膝をつき、頭を深く下げた。
「時間がない、わしの首を切れ」
その言葉に少年は、聞き違いかといわんばかりに、とんでもないと首を振った。
「この頭では自由がきかん、一つの体に二つの魂ではな、鬼がおる、この建物の中に」
「でしたら、俺が」
「おまえはここに居ろ、この娘と医療氏から離れるな」
「殿」
「あやかし切りの刀がおらん今、頼れるのは、おまえしかおらん」
「なっっ、あの双子、何で肝心な時に」
「姿を見せぬ、現れぬのは理由があるはずじゃ」
少年の表情が驚きから別のものに変わった。
「わしの魂を、この女にキザクラに託す、戦国の世ならまだしも、ここは人の世、鬼の勝手にはさせぬ」
体を自由に動かせない、言葉から滲み出る感情に少年は体が震えるのを感じた。
「お別れですか」
「馬鹿者、とうに死んだ身だ」
そうだ、あの瞬間を思い出した。
「此度の戦い、面倒なことになるかもしれん」
「戦、ですか」
「そうじゃ、しかも勝てるか、どうか」
「そのような言葉、らしくありません」
寂しいはずなのに、体か熱く燃えるようだ、これは別れではないと自分に言い聞かせ、腰の刀に手をかけた。
あのガキの腕はうまい、美味かった、だが、これよりももっと美味い者がいる。
それは生き物の、本能かもしれなかった。
戦国の世にいる鬼が全てではない。
世界は、あらゆる場所と時間は繋がっている。
そして自分たち鬼は自由に行き来することができる。
子供がいるなら、親がいる筈だ。
姉らしき女に狙いをつけたがいきなり邪魔が入った、死んだ武将が現れたのだ。
これはキザクラの、メンドウ、邪魔だなと思った。
だが、死人の魂と死にかけの女が一つの体に入っている、長くはないだろう。
簡単だと鬼は思った。
だが、もう一人の鬼がそうかと声をあげた、武将が出てきたのだぞ、何故だと。
「神隠しにあったのだ、あの女は、だから普通の人間ではない」
「人間ではない」
「そう、人間では」
「否」
反対するように、もう一人の鬼が声をあげた。
少年が首を切った筈、だった。
だが、血は流れず、そこから別人の女の顔が洗われた。
白い髪、黒い目の綺麗な女の顔だが、その顔に表情はない。
能面のようだ。
「織田信長殿、そして、感謝します」
少年に向かって頭を下げた女は、ゆっくりと歩き出した。
「大丈夫ですか」
地下の部屋でイスに座ったまま、ぐったりとしている男にブラッドレイは声をかけた。
「ああ、大丈夫だ」
返ってくる言葉に、そうですかと頷くが、内心は、そんなわけがないと思ってしまう。
「息子よ」
男が声をかけた、自分は死ぬかもしれないと、それは以前の元気だった時の姿を知るブラッドレイには信じられなかった。
医者にはかかりたくないという、人ではないのだから自分を人間の医者には無理だろうというのだ。
最初は反論したが、こんな弱った姿を見ては、他の兄弟、ラストやエンヴィーは知らない。
普通の人間の医者では無理かもしれない、だが、あの男ならと思った。
二つ名を持つ、結晶の錬金術師、ティム・マルコーなら治せるかもしれない。
自分の父親を助けるためだとブラッドレイは決心した。
お父様、ブラッドレイ、出せたー、続き書けてホットしたわ。