チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
タイトルの通りの話。
今回は歴史的な背景を知れる回だぞ! ごめん、作者頭悪いから政治とか分からんので「いやおかしいだろ」っていう箇所出てくるかもしれんが……大目に見てね。
そういえば就職先、決まりました。やったぜ! でも就職活動中はマジで冬休みだったのに漫画描けなかったし、卒業制作もあるしでほんと……大会の漫画描けね~~!!
一日が倍にならんかな……あと誰か、イケメンの描き方教えてくれ。今までショタとロリとパイオツデカイチャンネーしか描いたこと無いからマジで分からん……タスケテ。
追記 また話数を入れ替えたぞ。
大昔はランセンという日本の江戸時代のような国は鎖国をしていた時代があり、ヒエリカ国民は元々ランセンの民達であった。ランセン国民達は外に行ってはならず、また外から中に入る事も許されない。
何故鎖国をしていたのかというと、それはランセンの性に関する意識の違いや国の制度、考え方などが他国とは大きく違うから、そして他国の戦争に巻き込まれたくないからなのであった。
基本的にオープンなこの世界の住民には珍しく、ランセンという国はムッツリスケベ──いや、恥ずかしがり屋な性格の人がとても多く、他国からはお堅いやら不感症と散々言われていた。
しかし娼館は沢山あったので性欲が無いなんて事は全くなく(むしろ他の国よりも変わった癖を持った変態が多かった程で)普通に恥ずかしがり屋が多い国民性だっただけ、という事なのだが。
だがその恥ずかしがり屋なせいで、「えっちぃことは配慮して隠す事!」という暗黙の了解が「えっちぃことはよくない! だめ!」 という謎の風潮がいつしか現れ、いつしか国全体でそれを規制する働きができてしまった。
もちろん国がそんな風潮の為だけにわざわざ規制までするなんてことはなく、しっかりとした理由があった。
それは他国のオープンな人達から異性経験があんまりない国民達を守る事、そして女に溺れる侍達を増やさない事で、全体的な武士達の能力を上げる為、そして位を持つ者の跡取り関係で無駄な争いを増やさないようにする為だ。
他国(特にフェリラ)は基本的に童貞・処女を探そうと思えば苦労をする程であり、言ってしまえばヤリチンとヤリマンが3人に1人の割合で居る。結婚するまでは清い関係を持つ事が普通であり、生涯で一人だけを愛する事を美徳とするランセンでは、セックス=夫婦がする物というふうにできあがっていた。
(高い階級を持つ貴族は別だが……)
そんな国にオープンな他国の人達とランセン国民はそもそも貞操に対する考え方が違うのであり、それを知らずに故郷と同じ感覚で襲ったフェリラ国民は「なんか結婚迫ってくるんだけど……重っ、めんどくさ……」というふうに感じ、ランセン国民にとっては「責任取れやテメェ!!!」というふうになってしまう。
そうなると国際的な問題になり(というかそういう問題が多発しており)次の大きな争いの火種になってしまう。そしてその時代は何処も戦争をしており、ランセン国民が奴隷として拉致される事件が何件も発生し、他にも問題を起こしていたので。
恐らく、国としてはこちらが鎖国をする大きな理由だったのだろう。周りが戦争をすれば戦争をしていない国が、物資の供給などを行い儲かるものなのだが、そのチャンスを逃してまでランセンは周りの国が大人しくなるまで鎖国という道を選んだ。
ランセンも内戦で国全体が疲れていたのだ。これ以上戦火に炙られたくはないと考えるのは普通だろう。
とはいえ完全に規制してしまったら性犯罪の温床になってしまうので、娼館は営業禁止令を出されなかったし、今の時代で考えればエロを規制するのはやり過ぎ、悪手だという意見がやはり多いのだが。
規制はどんどん強くなっていき、ついに外からやってくるオープンな人達を拒む事態になり、鎖国が始まった。しかしエロに大して恥ずかしがり屋じゃないタイプの新しい物好きな国民にとっては、たまったものではない。
何故そんな意味の分からない風潮や、自分達とは直接的に関係無い問題のせいでえっちぃことを我慢させられ、その上海外からの新しい技術や発見を得る事まで止めさせられなければならないのか。この先の未来に何の意味と価値があるというのか。
自由と未来とエロを求めて、一部の国民達(それでもかなりの大人数だったが)は命懸けで停滞と退廃の一途を辿るであろうランセンから出ていった。
しかし出て行ったその先は、正しく修羅の道であった。
そう、現在でも問題になっている魔獣達との弱肉強食な生活の事である。
いくら高い軍事力を誇り、武士という職業を代々受け継ぐ戦闘に生きる一族が沢山居るランセンの国民でも、その日食べるのを探すのもやっと、という地は肉体的・精神的な疲労が尋常ではなかった。
飢餓と病魔に苛まれ、まさに当時は生き地獄であった。しかしそれでも諦める者は居なかった。そもそも、その過酷さを承知で自由と未来とエロを求め、ランセンでは最も地獄に近い場所とも呼ばれる場所に来たのだから。
そして疲弊していく体と精神は限界を迎え、何人もの人々がそこで亡くなった。中には魔獣に食われた者もいる。
そんな場所に、ある一人の少年が住んでいた。少年は普通の人間とは違い、まるで神に仕えているというドラゴンのような特徴を持った竜人族であった。
その少年はある日、目が覚めたら家の中ではなく、ぽつんと森の中に居た。しかし彼はその理由には察していて、すぐに選ばれたのだと気づいた。
少年には双子の兄弟が居た。
竜人族にとって双子という存在は当たり前であり、そして最も邪魔な存在だった。何故なら竜人族は必ず一度に二人の子供を産み、能力の高い方を自分の子供として育て、もう片方は種族独自の考え方と、金銭的な理由で殺してしまう。竜人族は普通の人間とは違い、圧倒的なパワーと高い代謝による凄まじい生命力を持っている。なのでよく食べる為、食費がかかるのだ。
ちなみに自然界ではほぼ全く同じ生態をした動物が現実でも存在し、それが中国で保護をされ、アイドル的な存在であるジャイアントパンダである。
竜人族にとっては弱い者は淘汰されるのが当たり前であり、この戦争で溢れたこの世を生きる価値は無いという考えを持っている。この時代では竜人族にとってそれが普通であり、現代でもDNAレベルに刻まれた潜在的なその意識はあまり変わっていない。
その為、竜人族の児童虐待という話はチラホラと日常的に出てくる。なので今や竜人族は自己肯定感が高い方と低い方の双子の兄弟や姉妹が居るのだ。
そして少年は、親に弱いと判断され、
竜人族は神に作られ使役されているというドラゴンと同じ容姿を持つ事から神聖視され、特別に思われているが、その実態は野生下に置かれたプライドだけ高いただの獣にかなり近い。
捨てられた少年は全く悲しむ事はなく、むしろ晴れやかな気分であり、森の中の景色に感動すらしていた。
「しゃ────ッ!!」
思わずガッツポーズとか小躍りなんかもして、少年は今を生きている事に感動する。
「成功した!! いや、生きてるってサイコ──っ!! もうあのクソ共に縛られなくて済む!! 俺は自由だ!!」
そう言って少年は、今までどうにかして親に捨てられる為に色々と頑張ってきた日々を思い出す。わざと自分の実力を出さないよう、この選択の為にどれほど苦労した事か。
この時代では竜人族というのは生きているだけで神と同等な存在だと言われていた為、生まれながらにして勝ち組と言われている人種であった。
しかし生きていけるのは強い者だけ。何故ならこの時代や数千年規模でそれよりも前の時代も、ランセン以外の国(ランセンは内戦が多かったが)は他国同士でどこも争っており、竜人族はその戦力であり、その力は神からのご加護であると考えられていたからだ。
つまり神の名のもとに、というくだらない人間同士の利益の為の争いが勃発している状況であった。実際の太陽と月の神達はそんな人間達を見て「おー、なんか何も言ってないし、指示もしてないのに勝手に俺らの名前使って勝手に争ってるなー。いやぁ、人間って争うこと好きだなー!」と、神の領域から見物し、勇者の様子も見ていた。
そう、あくまで見ているだけだった。何故ならその二柱にとって自らが作り出した世界というのは、まるでアリの巣がどのようにしてできていくのか、そしてどのように繁栄をしていくのかを観察する為のキットのようなもので、単なる暇つぶしだからだ。
そんな力だけが全てという環境に居た為、自然と竜人族は腐った無駄に高いプライドを持ち始めた。元々の能力重視な部分も最悪な形で合わさり、ただ力だけを良しとするようになったのである。
子供は歪んだ価値観を植え付けられ、その子供が親になり、また子供に歪んだ価値観を植え付ける。
「……まるでワ○ピースの天竜人みたいだよなぁ」
いくら世界の被害者とはいえ、竜人族はそれを上回る程の圧倒的な加害者になっている。もしも選ばれなかった場合、少年は多くの命をその小さい手で摘み取り、大きな花束にして愛でながら、兄の形をした椅子の上でこの腐った世の中を生きていかなければならない。
力以外何も教えられず、ただ殺戮を繰り返す毎日。
平和な日本で生きていた過去を持つ少年にとって、そんな未来は耐え難いものだった。
だから色々と手を回し、感染症の病気を患っている出来損ないとして振舞った。一人で生きていく術を身につけてから、殺せば病気が蔓延すると噂まで流して、ようやく選ばれた。
大きく立派であれば強い者の証であり、竜人族がされたら一番屈辱的で尊厳を破壊されるというツノを抜かれ、激痛を味わい気絶している間に。
「でもやってきた事や周りはクソだし。兄貴は俺に感謝するなんざ一生ないだろうけど、せいぜいそうやって死体の山に座って生きてればいい」
いつか戦争が終わり、平和が来た時。必要とされなくなったその力は、恐れに変わる。まだまだ戦争なんて終わる気配はしないが、その時が来れば最も人を殺した化け物として処刑される日が来る。生き物は恐怖を感じている対象にこそ、最も攻撃的になるのだから。
それは人間も例外では無い。
そんな血と肉で汚れていて中身が無い人生なんて、生きている価値は無い。名と地位と住む場所、家族を捨てた少年に残ったのは自由。少年はその自由を胸に、地獄に最も近いと言われたこの地で動物を狩り、魔獣から逃げて生きていた。
魔獣は少年ですら太刀打ち出来ない程までに強く、せいぜい攻撃をして怯ませ、逃げることくらいしかできない。
何十年程してランセンから移り住んできた人間達が現れ、長命種である彼は全く姿が変わっていない少年のまま、影からその人間達の様子を隠れて見ていた。彼らが一体どういう人間なのか、見極める為に。
見ている内に彼らは程なくして魔獣に襲われ、逃げ惑った。そんな時、少年よりも幼い子供が転んでしまい、その子供の母親は名前を呼び、駆け寄ろうとした。だが母親は赤子を抱えていた。そして赤子と自分の命、そして子供を天秤にかけ……母親は赤子を抱いたまま逃げた。
「ちっ!! ヘオダーン!!」
生き残る為なら、その方が良いだろう。だが、このまま見殺しにしていたら夢見が悪い。少年は思わず舌打ちをすると子供を逃がす為、魔獣が攻撃を仕掛ける前に炎魔法で攻撃をし、子供を抱えて逃げた。
魔獣が来れないよう、自分で編み出した魔獣避けの魔法陣がある拠点にムーヴィで転移すると、少年は子供から離れ、それから様子を見ようとしていた。その矢先、子供はキョロキョロと周りを見渡した後で、少年に「ありがとう、助かったよ」とやけに大人びた様子で礼を言った。
「……普通、子供なら子供らしく泣き叫んだりトラウマになったりするだろ。ましてや親に見捨てられたんだぞ?」
「普通ならそうだろうけど、それで状況が打破できる訳じゃない。それなら泣いている暇なんて無いよ。違うかな?
それに僕を助けようとしてそれで死んだら、きっと僕は自分を責め続けてそのまま苦しんで死ぬ事になっていただろうね。僕だけがあのまま死んでいたとして、皆が逃げる為の時間稼ぎに多少はなったんじゃないかな。
結果的に生きているんだから、それでいいと僕は思うよ」
まだ6~7歳くらいで中性的だし背も低い。おそらくは男であろう、恐ろしく顔の整った黒髪黒眼の子供はそう言い、少年は目を見開いた。
「変わってるな、お前」
「褒め言葉として受け取っておくよ、それより何か食べる物は無いかな。魔法で作った水だけしかここの所口にしていなくて、もう4日くらい何も食べてないんだ」
とんでもなく図太い神経をしている子供だな、こういう場所はこんな奴が生き残るんだろうな……。そう思いながら少年は「ほらよ」と猪の干し肉を差し出した。
「ありがとう、えっと……君の名前は?」
「ねぇよ、捨てたし。クズから貰った物なんて、俺には要らねぇ」
「……それは、君の立派な羽と尻尾に関係する事かな」
「まぁな」
この子供、やけに勘がいい。そう思いながら少年は「そんな事より」と話の流れを変えさせる。
「お前含めて何でまたこんな所に来たんだ? はっきり言って、俺みたいな種族とか魔物ならともかく、お前達みたいな普通の人間にとってここは普通に生きていけるような優しい場所じゃない」
魔力の終着点であるこの地は、沢山の自然エネルギーに溢れている。他の国よりも圧倒的に地震や津波も多いランセンだが、それとは全く違う魔獣という名の脅威が蔓延っている。
そもそもこんな地で住もうと思うような愚か者は普通居ないし、この地はそもそも罪人を処刑する為の地として使われた事もある。例外無くその罪人は死んだし、少年も助ける事はしなかった。
一体何故集団でこんな場所にやって来たのか、少年が疑問に思うのも当たり前の事だろう。子供はそんな少年に答えた。
「人同士の争いの無い場所で、自由に生きる為だよ」
「……確かに、ここじゃ人同士で争う暇もねぇだろうな。俺だって慣れてきたからだいぶ楽になったけど、最初ここで生きていくのに一苦労だったからなぁ」
なんだ、自分と同じだったのか。なら今後も助けてやってもいいかもしれない。そう思い少年はその後、子供を大人達の元へ返すと彼らを力で守ってやる事に決めた。
「それで、お前の方こそなんて名前なんだよ」
「ノルン・ヴェンティエ」
「意外と可愛い名前だな、お前」
「意外とって……当たり前じゃないか」
「当たり前かぁ?」
「……どうやら、君のその目はただの飾りみたいだね」
「何で俺ノルンにディスられてるんだ……」
彼らは竜人族の少年の、人並みならぬ気配を察知する能力で魔獣を避けながら移動をして生活をしていた。
しかし少年もまた人間換算にすると5歳の子供であり、病弱として振舞っていた為しっかりと竜人族としての訓練を受けてきた訳では無い。魔獣を倒せる程の力を持っていた訳では無かった為、攻撃して怯ませてから逃げるという生活をするしかなかったのである。
彼の拠点にある魔法陣もまた万能という訳ではなく、時々現れるボス級の魔獣には効果が無いのだ。なので少年はすぐにその場から離れられ、壊されてもいいよう、簡易的な拠点しか作らなかった。
とはいえ、そうやって逃げる生活は普通の人間にとって、体力が要るものであり、栄養失調で倒れたりする人も増えた。それでもここに来た当初よりかは、まだ安全ではあったが。
ノルンと出会い、少年が人間達と生活するようになって約2週間。
「……はぁ?」
「僕に戦い方を教えてくれないかな、時間がある時でいい」
「いや一語一句同じ事言うなよ、別に聞こえなかった訳じゃねぇ」
「おや、違ったんだね」
そんなふうに言うノルンに少年はため息をつく。
「あのなぁ、言っとくと俺は一応対人戦とかもできっけど、ほとんど我流だぞ? ランセンには戦いのエキスパートである侍が居るし、弓とか槍とか刀とか……全部その腕前は凄いって話だろ。確かお前達の"家族"にも一人居るから、そいつに教えて貰えればいいんじゃねぇの?」
「まぁね、でも僕は同じ年齢である同性と比べてみても筋力が無い。だから、重い武器は持てないんだ。それに魔獣はしっかりと魔法で燃やさないと死なないんだし。
だから基本的に魔法で戦っている君に、
「……何の為に?」
「何の為とか誰の為っていうよりも……ただ僕は嫌気がさしただけだよ、ただ逃げているだけのこの状況が。
そもそも逃げるっていうのが僕の性に合わない、できることなら敵は全員跪かせたいし、逃げるよりもむしろ追いたいからね」
とてもいい笑顔でそう言うナチュラルボーンサディストに少年は「やっぱりそうか、お前はそういう奴だよ!!」と言いながらも、少年はノルンのことを嫌いにはなれなかったし、むしろ好きだった。
それはひとえに、ノルンが普通に良い奴だからだろう。そのプライドとひねくれていてサディストな部分さえ無ければ、どこかの物語の主人公になっていそうな性格なので。
だから本当は、強くなる理由が他の人達を安心させたいからという真っ直ぐで純粋な人を思う気持ちである事は少年には分かっていたし、そういう部分がとても好ましく思っていた。
そもそも少年が好きで憧れる人間のタイプはまさに、友情・努力・勝利という言葉が似合う物語の主人公のような奴なので。
「はぁ……まぁ、魔法なら教えてやれっけど、ちゃんと学んでも最終的には
「……そうだね」
それから少年はノルンに魔法を教え、教えてからあっと言う間に年月は過ぎ、3年が経った。
ノルンは10歳になり、昔に比べて大きくなった。今では自分の背よりも高い程である。まぁそれでも10歳の平均身長より低かったが。未だにノルンは魔獣を倒せる程の強さを得られてはいなかったものの、普通の人間にしては魔法のセンスとポテンシャルが高かった。
普段焦った様子で「駄目だ、全然足りない」と言いながらも実戦を交えて魔獣に魔法を放つが、少年からしたらノルンは凄い事をしているのである。
というのも、日に日にノルンの魔力の保有量は高まってきており、魔力量の調整もかなり上手い。既に中位無詠唱魔法を使えるようになっていた。普通の人間であれば、早くてもあと2年はかかる。
「にしても前から思ってたんだけどよ、一応お前侍から戦い方も教えて貰ってっけど……お前全然筋肉付かないな」
「……そういう体質なんだ、でも僕が男だったら話は別だったかもしれないけれど」
「へー……。
…………。
…………………………は?」
「おや、まさかまだ気づいていなかったとは。やっぱり君の目は節穴だね」
「嘘だろノルン!!」
少年を少しからかうようにしてノルンは笑い「やっぱり君の反応は面白いね」と言った。少年の顔は不機嫌顔になり、ムスッとしたものになる。
いや、でも確かに最近なんかちょっと胸の辺りに膨らみが少しできたような気がしたと、少年はすぐに納得した。うんうん、なるほどなるほど、へんなしこりとか病気って訳じゃねぇんだな。なら良かっ…………いや、それならもっと早く言えよ。心の中で少年はツッコミを入れた。
「こんな事で嘘をついて何になるっていうのさ。でもまぁ、それは肉体的な話で、精神は男そのものだ。節穴な目を持つ君が見抜けないのも仕方ない」
「え? あ、あぁ、そうか……って、またディスってんじゃねぇよ!!」
「まぁ、そんな訳で。これまで通り、同性として接してくれて構わないよ。急に態度を変えられるのは正直言って、腹が立って気持ちが悪いだけだし。それに、いつか僕は性別転換薬で本物の男になる予定だから。いつかこの体は初潮を迎え、胸も大きくなる。そうしたら僕はお荷物になりかねないし、走る時にとても不便で痛みを伴うだろうからね。明日にでも男になりたいくらいだよ。材料が無いから薬が作れないけれど」
「……分かった」
衝撃的ではあったものの、ノルンが女であったとして少年も今更その態度を変えることはできない。それに後々薬で性別を変えるのなら、やはり今まで通りで良いだろう。よく二次元では「お前、女だったのか……(ドキドキ)」から始まる恋愛物語は腐るほどあるが、実際はやはりこんなものである。それに中身が男だというのなら、性的対象も自然と女になる。例え恋をしたところで、思いが届くことは無い。それならば、やはり異性として意識するだけ無駄だ。
「でも、確かその薬ってあれだろ? 使ったらその……性欲がとんでもなく増えるって」
「大丈夫、性欲を抑える薬の作り方を知っているからそこは問題ないよ」
そう言った友人に少年はちょっと引いた。引いて、それからすげぇなコイツと、感心した。
「いや……だからって人の為にそこまでするか? 普通」
「き、君、何を言っているんだい? 全部僕自身の為に僕が自己満足でやろうとしているだけで、どうして僕が他人の為っていうふうに解釈するのかな? 意味が分からない、それに大体──」
「(やっぱ素直じゃねぇな、コイツ……)」
早口になってそう言うノルンに、少年はニヤニヤと笑いながらそう思っていると、横から「さっきから何をニヤニヤと笑っているのかな、ドブネズミといい勝負をするくらいには気持ち悪いよ」という罵倒をする声が聞こえてきたが、知らないフリをした。
普通、人はこのような状況下に置かれれば、精神は荒んでいき崩壊していくものだ。
家族が死に、その死を無駄にしない為に文字通りの"糧"にして、倫理観もドブに捨てたのだから。えずきながらさっきまで生きていた家族や恋人が、最悪な形で自分の体とひとつになる。
ロマンチックの欠片も無い、最低でとても残酷な方法で。
中には精神病に苛まれ、女性は生理不順などで体調を悪化させたりもした。かかった病によって死んだ人も居たし、一週間前に生まれた子供が今日死んだという事もあった。自殺しようにも自殺できなかった人も居た、そして病で死んだ人もまた糧となった。
何もかもが、最低だ。
そんな中、ドSでひねくれていて自尊心の塊ですぐに毒を吐くような奴ではあるが、希望と自分、誰かを見捨てなかったのがノルンだ。何も変わらず常に前を向き、不器用ながらも周りを鼓舞する姿に人々は絶望の淵に立たされていようとも希望を失うことは無かった。
それほどまでにノルンという存在は、とても眩しくいつまでも輝き続ける星であった。そんなノルンの人間的な部分に、段々と少年は気付かぬ内に惚れていくのであった。……あ、もちろんそういう意味ではなく。
それから3年後。ノルンは13歳になり、島に来た当時は3~4歳ほどの年下な子供は10歳になり、性とイタズラについて目覚める時期になった。
「今だ! めくれー!」
「うえーい!」
「……ガキは元気でいいね」
性自認が男ということもあり、ノルンは普段からズボンを穿いている。しかし、魔法攻撃力を上げる為の改造ローブを着て、腰はベルトでオシャレにしている為、どうしても後ろから見るとワンピースのように見えるのだ。
なので、悪ガキへと化した少年達は、遊びの範疇としてよくノルンのローブをめくるようになった。まぁ別にされたからといって特に被害が無いので放置しているが、どうやら悪ガキ達はノルンの慌てた顔が見たかったらしい。
他の大人の女性達は皆、顔を赤くして怒ったりするか発情するかのどちらかだが、ノルンは歯にもかからない様子。悪ガキ達のイタズラは段々とエスカレートしていった。
ローションと似た液体を出す植物の汁をかけようとして、逆に魔法で跳ね返させられて、ヌルヌルになったり。
わざわざ自分達が採ってきた果物で作ったジュースの中に媚薬を混ぜて飲ませようとしたら、何故かノルンが「今は喉が渇いていないんだ、ごめんね。勿体ないから君達が飲みなよ、せっかく君達が力を合わせて採ってきたんだから」と言って、魔法で拘束した上で無理矢理飲ませたり。
媚薬のイタズラに失敗した挙句の果てには、様子のおかしい悪ガキ達の様子を見かねた女性が「おちんちん痛いの? お姉さんが治してあげるわね♡」と、肉食獣のような目で見てきたので、何故か恐怖を感じて逃げる事になったり。
寝ているノルンに「メスブタ」「ヤリマン」「なかだしOK」「ちんこだいすき」「うんこ」などのラクガキをしようとして、気がつけば何故か裸で地面に転がった状態で、恥ずかしいポーズのまましばらく縛られていたり。
ローションのような液体を出す植物と近縁の、精液のような見た目の液体が採れる植物と、よく飛ぶ水鉄砲を使い、ノルン目掛けてまるで顔射したかのように見せるイタズラでは、やはり魔法で跳ね返されたり。
リベンジしてまた落書きをしようとしたら、また気がついた時には全裸の状態で何故か体が壁にハマって動けなくなったり。
ノルンに反省したふうに装ってズボンを脱がしてパンツを奪おうとした時は、珍しくノルンが反応して「それ以上は流石に怒るよ」と言った。
しかし、ここに来てそんなことを言ってしまったら、更にエスカレートするというもの。ノルンのパンツを盗み出そうとしたり、どこから仕入れてきたのか、ノルンのバッグの中には目に悪いピンク色の卑猥なおもちゃを勝手に忍ばせたり。やりたい放題である。
そんなある日の事、とてもベタな展開が起き、その数日後に不思議()な現象が起こった。
「あっ」
「……何だ君か、警戒して損したじゃないか」
それは川での出来事。魔獣に毎度の如く襲われ、今回はなんとノルンが魔獣の攻撃を受け、大怪我を受けながらも命からがら何とか生き延びれたのである。とはいえ、かなり危ない状況だった。魔法で転移した後、回復魔法で止血をして、ノルンはとてもぐったりとしていた。
いつもの嫌味を言う元気もなくなり、少年が心配も相まってソワソワと落ち着かなくなるほどである。
回復魔法はケガを癒し、病気すらも治せる治癒の魔法。しかしそれは医療技術や知識を持っていなければできないものなので、少年は薬草を取り、HPポーションを作る為の材料を探していた。
少年はあくまで戦う事しか教えられなかった為、誰かを救う魔法は全く知らない。せいぜい、自分がケガをした時に出血を止める程度だ。それに普通の人間とは違い、吸血鬼などの高い自己再生能力を持った魔物程では無いにしろ、紙で切った程度のケガなら数分すれば治る。
なので十分にケガが完治するほどの材料を集め終えると、ポーションを薬屋の老婆に作ってもらっていた。その後で少年はノルンが居ない事に気が付き、探しに行った。
「何してんだ、お前ら。また迷惑かけようとしてるんじゃねぇだろうな」
「!!!」
その時、よく集まっては大人達やノルンにイタズラを仕掛ける悪ガキ達が、何やらコソコソと何かを一心不乱に茂みの向こう側にある川の方に居るらしい何かを見ていた。少年は不審に思い、声をかけると蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。とてもすばしっこい。
「(何だあいつら……)」
少年はそう思いながらもノルンを探そうと歩き出した時、パキリと足元の枝を踏み折った。その瞬間に「誰だ」という、警戒するような鋭い声が川の方から聞こえてきた。
「あっ」
「……何だ君か、警戒して損したじゃないか」
その声の主はノルンであり、川の水で自分の流れた血によって汚れた体を洗っていたようだった。それも全裸で。
「お、おま!? 何で川で洗ってんだよ、簡易風呂場で水魔法使えばいいだろ!!」
すぐに少年は背を向けてそう言うが、ノルンは気にした様子も無く答えた。
「いや、まだ僕と君で魔獣避けの魔法を使えていないし、今の僕にはそれを使えるだけの魔力が無いからね。なるべく無駄な魔力消費をしたくないんだ」
「それは、まぁそうだけどよ。さっきなんか悪ガキ共が覗き見してやがったぞ、少しは女の体ってことは自覚した方がいいんじゃねぇか?」
「……つくづく、この体が憎たらしいよ」
それから数日後、悪童達は裸のノルンを見てから、完全にノルンを女だと認識してしまったらしい。盗んだパンツに生臭くて濃厚なミルクをぶっかけるようになり、何故かイタズラをせずに近づいてきたかと思えば、やけにボディータッチをしてくるようになったり。
そしてとうとう、ノルンが簡易的な風呂場で体を洗っている時に悪童な少年達は数の力で乱入し……。
その次の日、彼らはとってもすてきなよいこに大変身を遂げた。
大人達はその変わりように驚き、ほとほと困り果てていた親達はたいそう喜び褒めていた。……最初の頃だけだったが。
以前のように褒められれば喜んでいた息子達は何処か微妙そうな表情をし、何故かノルンを見る度に顔を赤くさせて息を荒げて喜ぶようになっていたそうな。
更に不思議なのは、時々夜に「はぁ、はぁ、ごしゅじんさまぁっ……♡」「ぼくがわるいこでしたっ♡ ごめんなしゃい♡♡」「おしりのおくきもちいよぉ……♡ 」と、脳内に飼っているらしい謎のご主人様にパトスを迸らせ、とにかく自分で焦らしながら、ねちっこくて特殊な自慰をするようになった事だろう。
そしてあんなに子供に優しかったノルンが、まるでゴミを見るかのような視線を近付いてきたよいこ達に向け、そのよいこ達は何故か体を弓形に沿ったようになって、舌を天に突き出しながら汚い喘ぎ声を上げて絶頂するようにもなった。
親は息子達の将来が段々と心配になった。
何か知っている事はないのか? そんな親からの相談を受けたとある少年は何故か、とても微妙な顔をしてこう言った。
そいつらはもう手遅れだから、諦めろ。
「クソッ!!」
土砂降りの雨の中、シンプルな悪態が15歳となったノルンの口から吐き捨てられる。
また、"家族"を失った。
ここで言う家族というのは、血が繋がった母親や弟の事ではなく、ランセンから一緒にやって来た人達の事だ。
その家族がまた1人、魔獣に殺された。決して良くはないのだが、それだけならまだよかったのである。
「……お前はもう十分にやったよ、頑張ったじゃねぇか」
「頑張った結果がこれだなんて、僕は少しも望んでない!! 他の誰よりも僕は強くならないといけないんだ!! なのに志半ばで、技術はあるのに魔力は肉体としての限界値に到達しただって!?
その上、僕は武器を十分に振れる程の体にも恵まれてない。この前なんか、諦めろだなんて言われたよ。おまけに薬の材料は魔獣達の
……君のそんな言葉なんか、慰めにすらならない。むしろ腹が立ってくるよ」
肉体が保有できる魔力量の限界は、住んでいた環境と竜人族や森人族のような特殊な血に大きく左右される。ノルンはただの人間の中では非常に魔力保有量が多い分類に入っており、この時代であれば戦争に参加していたのなら英雄と呼ばれる程であっただろう。
だが、それでも魔獣には勝てなかった。少しも通用しなかった。少年の魔法でも効かなかったのだから、当然といえば当然の結果だったのだろうが。
ステータスプレートに書かれた魔力数値の項目に、レベルMAXとただ無機質に表示されており、その上を容赦なく雨水が叩きつけてくる。感情を一切流すことなく、雨はただ肌に痛みを与えるだけ。
「……ごめん」
「……。
…………。
………………いや、君は謝ることはないんだ。僕の方が謝るべきだね。ごめんよ、君に苛立ちをぶつけても状況が変わる訳じゃないのに……」
「気にしてねぇよ、もし俺がお前だったら……俺だってお前に八つ当たりしてたかもしんねぇし」
これ程取り乱しているノルンを見たのは、少年にとって初めてだった。いつもは大人びていて、すぐに自分をからかったりするというのに、この時ばかりはノルンがとても小さく見えた。けれどもそれはほんの少しだけの事。
何故なら、狼の遠吠えのような魔獣の鳴き声が聞こえてきたからだ。
「!!」
「やべぇ!! 拠点の方からだ!! クソッ、離れ過ぎた!! ムーヴ── 」
「待つんだ、嫌な予感がする!!」
そういったノルンに少年は咄嗟に魔力を込めるのを止めると、すぐに走り出した。ノルンはいわゆる女の勘というものなのか(心の性別は男だが)よく当たる。なので言う通りにしていなければ、今頃どうなっていただろう。魔法で転移すれば魔力を察知した魔獣に、強力な攻撃魔法を浴びせられかねない。それは氷漬けにされるかもしれないし、燃やされる側にもなりかねない。
しかし普段は直接魔獣が居る場所へ転移しても、攻撃をされるような場面というのは無かった。だが今回に限ってそれができないということはつまり、大物の魔獣が相手だからというシンプルな理由なのだろう。
盛大に少年は舌打ちをすると、ノルンを俵担ぎしてそのまま全速力で走る。
「確かに今の僕はお荷物だけれど、その担ぎ方はどうかと思うよ」
「急いんでるんだから仕方ねぇだろ!? お前俺より足遅いし、舌噛むといてぇから大人しくしてろ」
そんなやり取りの後はお互いに無言になり、少年がノルンを運んだその先には──。
見るも無惨な姿になった家族だった物がいくつか転がっているのと、大きな卵を抱えた、美しい人ならざる者がいとも容易く、魔法で魔獣を溶かしていた。
その背後に生き残った家族達が居た。
その状況は見た通りの状況で、謎の存在が間に合わなかったものの人々を救い終えた後である。髪は白銀色に輝き、翠眼は瞳孔が縦に長く鋭い。耳も縦に長く、そして魔法は限りなく黒に近い翠。
とても顔の整った吸血鬼の少年がそこに居た。
身なりはとても良く、服装は軍人かのようでゴシック系統だ。吸血鬼は2人の方を向くと、ノルンをじっと見て「ようやくか……」と、呟いた。何やら意味深である。
「単刀直入に言う、お前に父上の
「……おいおい、いきなりが過ぎるだろ」
こんな人々が死んでいる中、そんな事を言い出した吸血鬼に少年は引きながらも、人の死というものに慣れてきてしまっている自分にも引いた。……正直、悲しむ事はあっても、精神的な負荷がそこまで大きくなかったのである。
「そもそも何でこの世界には一体しか居ないっていう吸血鬼がノルンに用があるんだ?」
この世界に吸血鬼は魔王であるティアラのみ。何故こんな森に魔王以外の吸血鬼が居るのか。その上、魔物は少年が産まれるずっと前から戦争をしてお互いに争っている人間との交流(勇者は除く)を絶っており、何故かノルンを探してここに来たといった様子だ。
不審に思わない筈がなく、少年は万が一の時の為に自然とノルンよりも前に出て聞き出した。
「用? 先程、俺が伝えた通りだ。近いうちにこの卵から孵るドラゴンの親になって欲しい、礼はする」
「本当に単刀直入だね、そういう分かりやすいのは嫌いじゃないよ。だけど、どうしてその大事な卵を初対面の僕に預けたいのかっていう理由と、君の基本的なプロフィール、それから君がしてくれるお礼の内容を喋ってもらわないと返事は答えられないな」
「……分かった」
それから淡々として落ち着いた口調と声で吸血鬼は話し始めた。
まず名前はアルダといい、元々この世界の住人ではなく、神がこの世界を作るキッカケとなった世界の住人である事。元の世界に居ても孵らないか、幸せにはなれないので、"見た"時に一番ドラゴンを幸せにできる存在に預ける事にした事。
「ちょっと話を止めるようだけど、いいかな」
「何だ」
「見たっていうのはどういう事か、説明して欲しいんだけれど」
「あぁ、言い忘れていたが……俺はこの世界の勇者と同じく、魂のみが神で、体はただの魔者だ。だからか未来視という能力を持っていてな。その能力は見た対象や状況によって、これから起こりうる可能性という未来を一度にいくつか見る事ができる」
その説明を聞き、2人は「思ったよりとんでもない人物に出会ったな」と思い、それからアルダの頼みについて考えて……どちらもそれは不可能だという判断をした。
「それでノルンがこれから産まれてくるドラゴンを幸せにできる奴って事か……でも、さっきの魔獣を見たろ? アルダはまぁ、魔物だし強いから平気なんだが、俺らにとってここは生きるか死ぬかの危険な場所だ。
正直言って、そんなデカイ卵を無傷で孵す事は不可能だろ。それに、ドラゴンって今じゃ戦力みたいな扱いされてんだ。見つかったら即、力づくで奪われて戦争の兵器にされる」
そう言った少年にアルダは頷く。
「だろうな。だが遊びの範疇で魔法を使った時、間違えて卵に当たり、そのまま産まれないような悲しい未来や、まだ力の制御法が分からない俺の妹達に潰され、近づくだけで拒絶反応を起こし、血を吐いて死ぬよりは良いだろう?」
もちろん、物理的に。恐ろしい未来である。神から産まれた吸血鬼ともなれば、相当な力を持って産まれるだろう。肉体的に成長する速度はまるで時間を引き伸ばされたかのように遅いが、力は日々強まり、魔力は留まる所を知らない。
それなら確かに、いっそ別の何処かで育ててもらった方が安全である。幼い子供は自制心が育っていない為、ダメだと分かっていてもつい近づいて触れ合ってみたいとどうしても思ってしまうものだ。
その結果、意図せずに目の前で死んでしまったら……。精神的衛生上にも良くないことは明らかであり、その卵の親が悲しむ。だから別の世界に来てまで、代わりに育てる相手を探していた。最も幼体のドラゴンが幸せに生き、成長させることが出来る親を。
しかし、この地はあまりにも過酷過ぎる。
「とはいえキマイラに対し、お前から感じる魔力量が不十分である事と、そのか弱い肉体ではこの卵を預けた所で、無事に孵る事も、そもそもお前達が今後生きていけるのもほぼ不可能だ。
今の状態であればの話だが」
突然変わった話の状況にノルンは目を細め、楽しげに弧を描く。
「……それってつまり、何年修行をしたとしても、もう強くなる見込みの無い僕に、強くなるその方法と可能性があるって事だと受け取ってもいいのかな」
「可能だ、だがその代償として制約のような呪いが末代まで続き、例え憎悪の炎を燃やせる程の相手であっても、それが人間であればお前は決して、自分の命という代償を払わなければ殺せなくなる。そして手術中、魔力の拒絶反応で生死をさ迷うことになる。痛みへの覚悟と乗り越えられる精神力が必要だ。
その上、乗り越えたとしても肉体が魔物と非常に近しいものになる。そして魔者と近い存在になる為、伴侶が死ねば精神的にも肉体的にも大きな影響が出る。精神的負荷で一時的にだが、病気にもかかりやすくなる。
最後に魔法で肉体改造を行った影響で、全力を尽くして戦えば寿命が縮む。
……それでも構わないのか?」
「じゃあ今すぐにやってくれないかな、明日でも構わないよ」
「ノルン!?」
間髪入れずに答えたノルンに少年は震撼し、それから死なない程度の力でチョップを入れた。そのチョップをくらったノルンは少年を恨みがましく見つめながら、頭を手でさすった。
「……何をするんだい」
「お前こそ何を言ってんだよ、死にてぇのかバカタレが!! お前、本当にその自己犠牲精神の塊どうにかしろ!!」
「でも君は、そんな親友が大好きなんだろう?」
全てお見通しだと言わんばかりのノルンに少年は「そうだよ、親友だから心配してんだ」と答え、普通にそう答えられたのが少し恥ずかしいのか、ノルンは「堂々と答えるなんて恥ずかしい奴だな、君は」と理不尽に咎めていた。やはりノルンは素直ではないし、恥ずかしがり屋だ。
「……だったらこれまで通り、君が僕を支えればいい話じゃないか。時間がある時に頼むよ」
「あぁ、分かった」
「勝手に話進めんな」
そして次の日、魔法による改造手術が行われた。
ノルンがアルダに魔物に近しくなる肉体改造を施されている間、少年は気が気では無かった。
というのも聞こえてくる音はとても生々しく、ノルンの絶叫が耐えず、響き渡っていたからだ。想像したくない音が竜人族である少年には耳を塞いでもよく聞こえてしまう。
細胞が魔法で作り替えられ、破壊と再生を繰り返しながら、爪の先に至るまで全くの別物に替えられる。
人間ではあるが、限りなく魔物に近い歪な存在になる。
それは精神にも影響が及ぶのだろうか。もしそうだとしたら、ノルンは一体どんな人物に生まれ変わるのだろうか。そもそも、ノルンは五体満足でちゃんと起き上がるのかどうか。
その想像は合計10日続いた。3日間、改造をされている期間と気絶しながら血を吐き続ける4日間、そして血を吐く期間が終わって起きるまでの3日間。
ノルンの体に変化が起こった。
子を産み子孫を残すという役割を持つ女の体は、男に比べて脂肪が付きやすい(飢餓に強いという事でもあるのだが)
しかし改造によって日に日に大きくなっていったノルンの胸は血を吐く度にしぼみ、体が最も戦闘に適している体になり、一切無駄の無いものへと変化する。そんな昏睡状態に陥りながらも血を吐き続けるノルンを見ている間にずっと、少年の脳内では嫌な想像が繰り広げられていた。
ノルンの死については別に心配していない。アルダが細心の注意を払い、全ての可能性の中から最も良い物を選び、絶対に生きてノルンが起きるように改造を施したと言ったからだ。
あの日が初対面な相手に命を預けるような事は普通ならしないが、それはひとえに相手が魔物だったからだ。
魔物はどこまでも家族思いであり、身内への愛が深い。だから今回のように、他人に大切な卵を預けてまで、これから産まれるドラゴンの子の幸せを願った。
なので半端な改造をする事は決してなく、アルダも力を尽くし、全ての魔力を使い切ったと言っていた。
魔力回復の為に一週間拠点に留まり、ついでなので夜間は更に魔獣が来ないよう(魔獣避けの魔法を使っているというのに)万が一の為にずっと見張りまでしてくれた。そう考えるとやはり、ノルンが死ぬという事はほぼありえないのである。
……とはいえだ、改造後の後遺症について心配しないという訳では無い。
血を吐く度にノルンの髪の色素は抜け、徐々に黒い髪は茶から金、白に変わっていった。少量の光や太陽の光で虹のようにも見える不思議な輝きを放ち始め、美しい。
あと改造をされたからか吐血の匂いに混じった、ノルンの匂いもかなり変わった。
なんというか、言い方は変だし変態くさく感じてしまうのだが……前よりも体臭がとってもいい匂いになっていた。花で例えるなら、ラベンダーか。バラほど濃厚ではなく、いくらでも嗅げるようないい匂いがするし、嗅いでいると本物のラベンダーと同じように安心する効果もある。
……不思議なものである。
確か吸血鬼は元々人間の血を吸い、魔物を統べる為に作られた為、人間や魔物にとって例外無く良いと思える匂いを放っているんだったか。まるで食虫植物のようだ、一種のフェロモンのような物なのだろう。
アルダは吸血鬼なのでその強い魔力の影響によって、ノルンは吸血鬼に近い人間になったという事なのかもしれない。
しかしそこまで変化が出ると、心配してしまう。
「(……あ──!! もう悩むのはやめだ!! ノルンは受ける直前に「またね」って言ったんだ、ならアイツは起きる!! 心配すんな俺!! 絶対起きた時にバカにされる!! 「君は僕が死ぬ事を心配していたの? 僕がこの程度の事で死ぬ訳無いじゃないか」って言ってくるに違いない!!)」
少年はそう思う事にして、いつの間にかフラッと居なくなったアルダから渡された卵を待ってノルンが起きるのを待ち……やがてその時が来た。
「んん……」
「ノルン!! 気がついたんだな、良かっ──」
「……どうしたんだい、そのあほ面は」
少年は驚愕しながら、改造を受ける前といつも通りな様子のノルンを見つめ、それから急いで手鏡を持って見せた。
「…………ふむ、今日も僕は顔が良いね。我ながら惚れ惚れするよ、それでそれがどうかしたのかな」
「いや驚けよ!! お前、髪だけじゃなくて目の色もなんかアルダそっくりになってんだぞ!?」
髪の色素は抜け、眼はまるでエメラルドかのような翠色に変色したノルン。その姿は神秘的であり、普通であれば驚くものだが……当の本人は全くもって普段通りだ。
「……まぁ、人間も魔物程ではないけれど、魔力に影響を受ける生き物だからね。魔人族みたいな姿になっても不思議じゃないと思っていたから、特に驚きとかは無いよ」
「お、おう……そっか」
「それより僕はあっちの方に驚いている所かな」
「え?」
ノルンがそう言って指を指した方向は、アルダから託された卵だ。ふかふかなタオルに包まれ魔法で温められているその卵が、グラグラと動いている。
「タイミング良いな……」
「運命だね」
少年は揺れている卵を抱えると、ノルンの元に運ぶ。その最中、小さく鳴き声のようなものが卵の中から聞こえてきた。ノルンの膝の上に乗せるとツノで少しづつ殻を破っていき、パキパキと音を立てながら中で動いていた。
そして穴から勢いよく、卵の殻を乗せた白と水色の美しいドラゴンの頭が出てくると、じっとノルンを見つめていた。
「きゅ」
「ヒュッ……」
その瞬間、ノルンに衝撃が走った。
何だ、この小さくてお目目がクリクリでつぶらで小さくて可愛くて小さい生き物は!!
「きゅー!」
しかもその生き物は自分を親だと認識したのか、嬉しそうに殻の中から這い出てきた。可愛い。殻から出てきた事で、ドラゴンの全身が見れるようになった。どうやらワイバーンタイプのドラゴンである。可愛い。だからかバランスを取るのが難しいらしく、すっ転びながらも健気に歩いてきては、くっついてきたではないか! 可愛い!!
「きゅー! きゅー!」
ノルンはタオルで産まれたてのドラゴンを抱えると、そのままぎゅっと抱き締めた。ノルンに母性……いや、父性が芽生えた瞬間である。
「今すぐにこの子のご飯を用意するんだ!!」
「わ、分かった!」
それから少年と移住民達全員でドラゴンを育てる事になり、ある意味での育児、そして家族に対する接し方が変わり、苦労と癒しを得る事になった。というのも、ノルンがとんでもない親バカと家族大好きを発症したからである。
どうやら魔物に近くなったからか、ノルンはとんでもなく身内に甘くなったようなのである。年の離れた弟は甘やかし、母親には親孝行をし……ドラゴンに対しては、周りが「もはや誰だお前」と言ってしまう程の溺愛ぶりである。
「はぁ……」
「ここの所ずっとでかいため息吐いて、どうしたノルン」
「
「まだ決まってなかったのか!? もう1週間だぞ!? 筋トレも魔法の鍛錬も、その間全くやらないで何やってんだよ!!」
なんともくだらない理由に少年は肩透かしをくらい、ノルンはため息を吐きながら、しっぽをふりふり、よちよち歩きでお散歩をしているドラゴンを見て「うちの子は可愛いな」と再認識した。
「アルダがやった魔獣避けの魔法だってもう、効果が切れそうだってのに──」
そう言った時、魔獣の唸り声が聞こえ、人々の悲鳴の声が上がった。
「魔獣だ!!」
「逃げろ、食い殺されるぞ!!」
「ちっ、言った傍から!! おいノルン!!」
少年はノルンを呼び、すぐに人々を逃がそうとする……が、ノルンは一心不乱にドラゴンを見ていた。
「ノルン、聞いてるのか!?」
「君こそ今のを見ていないのかな? うちの子が今、クルミを咥えて遊んでいるんだ……とても可愛らしいね、うちの子は世界一可愛いドラゴンだよ。
どうすればこの可愛らしさを表現すればいいのか、僕の僅少で弱小な語彙力では説明しきれない! 名前だって考えられていないのに、本当に罪な存在だ。
この僕を惑わせて、あまつさえ僕に図々しく抱っこをねだっているんだから……」
「きゅ──っ!!」
ドラゴンはノルンにくっついて魔獣に怯え、少年はそんなドラゴンにデレデレなノルンを見て「ダメだこいつ!! 頭がバカになってやがる!!」と、思わずツッコミを入れた。
「きゅ、きゅう……」
「ふふ、仕方ないなぁ……特別に僕が抱きしめてあげるよ。この世に産まれた事を光栄に思う事だね」
「きゅーっ! きゅっ、きゅー!!」
「ガァァァァァッ!!」
「五月蝿い!! うちの子が怯えてるじゃないか、大人しくしろ!! 」
その瞬間、魔獣が居る地点に火柱が立ち、哀れな魔獣は一瞬にして灰となった。
「やべぇ~……炎上系モンスターペアレンツやんけ」
そんな感想が出たのは、一体誰のからのものだったのか。今では謎である。たださっきの出来事で分かったのは、もう逃げる日常は終わりを迎えたという事だけだ。
「そうだ、この子はクルミにしよう! 可愛らしくもあるし、お前にピッタリだ!」
「きゅー!」
「ダメだこいつ、今自分が何をしたのか気づいてねぇ!!」
「もちろんこの僕に決まってるじゃないか、僕以外に有り得ない」
「やっぱ言うと思った……」
自信満々でそう言うノルンに、少年は思わず頭を抱えた。
魔獣に対抗しうる力を得た為、人々はとうとう本格的に住む場所を決め、小さな村を作る事にした。その為、村のリーダーは誰にするのかという話が上がり、現在未だに決まってはいなかった。
「何しろ、僕はこの世で最も尊い存在だからね」
「お前ナルシストなのも大概にしとけよー」
いつものように少年は何故かキリッとした顔でクルミをナデナデしているノルンにツッコミを入れていると、普段一緒に居る二人の元に、今だけはリーダーになっている博識の老人、そして大人達がやって来た。
「お前さん達に話がある」
「……これはこれは。ガンゾ爺に僕だけじゃなく、皆の為に色々な事を取り仕切ってくれている方々じゃないか、皆さんお揃いで。今やこの地の生態ピラミッドの頂点に立つこの僕に一体何の御用かな?」
とても尊大な言い回しをしているノルンだが、心の中では滝のような汗を流していた。
「(あれ、僕前になんかやらかしたっけ? だって普段関わる事無いし、そうじゃないと説明がつかな──そういえば魔法の実験してた時に何かぶっ飛ばしたような……あっ、どうしよう。怒られる……絶対に怒られるやつだ……)」
「(……って、思ってんだろうな)」
その現場に居合わせた少年には全て分かっていたが。そして老人は口を開いた。
「ノルン、お主を儂らの村の長にする事に決めた」
「へ?
……当然その事だろうと思ったよ! いやぁもう、遅いじゃないか! 全く、この僕を焦らすだなんて大罪もいい所だけど、今は気分がいい、君達の無礼を許そう」
ビッッックリした!! バレたかと思った!! ふぅ、全くヒヤヒヤさせる。
ノルンはドッキンドッキンと心臓が爆発しそうになりながらも「まぁ自分が選ばれるのは当然ですが??」と、あくまでも振舞っていた。少年にはじとーっとした目で見られたが、無視である。
「それで? 選んだ理由を一応だけれど聞こうじゃないか」
あくまで「まぁ分かってますけど?」感を出しているが、内心は「えっ、強い事以外に理由とか思い浮かばないんだけれど……でもそれだけで僕を選んだりする訳が無い……それに人に指示を出して運営するだけの知識なんて無いし……」と、全く分かっていない様子だ。
「お主には他の誰よりも、人を魅了させ導く力がある」
「それはなんたって、この僕だからね。人に好かれるくらい、当たり前──」
「そして、誰よりも、自分の事よりも人の為に考える人間だ。
儂らは自由を求めてこの地に来たが、
この地の長になるという事は儂らを導き、希望を与え続ける存在でいなければならない。そうでなければ精神が死に、ここで生ける屍になる。これからもずっと、数多くの困難と絶望が待っているだろう。
それでも立ち向かえる強さを持った人間は、この中でお主たった一人だけしか居ない。だから儂らは、お主を村の長にする事に決めた」
「……でも、そんな簡単に信じていいのかな? 今でこそ魔物にとても近い存在になったけれど、僕はもとより最初から今まで中身は普通の人間だ。欲に身を任せて、あのフェリラ国王みたいな暴君に豹変するかもしれない」
本当はそう言ってもらえて嬉しいのにそんなひねくれた言い回しをしてしまうのは、いつもの事。
老人と大人たちはすぐに、本当はノルンがちょっと家族全員を守る自信が足りない事に気が付いていた。その自信の無さは、本当に家族たちを守りたいと思っているからこその不安から来るものだからだ。なので老人はちょっと日和っているノルンに意地悪な言い方をした。
「ほう、お主はアレのようになりたいのか?」
「この僕があんな反吐が出るような、理想の為だけに戦争を起こした虫けらと同等に成り下がるとでも? もしそんな下水を這い回るような存在になるくらいなら、舌を噛んででも自害するよ」
「ならそんな事は起こらない、お主がお主である限り」
「まぁ、万が一ノルンがそんなクズになったら俺が真っ先に殺してやるから、安心しろ爺さん」
「は?? この僕が君如きで死ぬとでも?? 考えるだけでもおこがましいと思わないのかな」
そして更に3年の月日が経った。
小さかった村は町となり、町は整備されて街へ。やがて街は帝国となった。
その国は自由と平和とエロの国、希望と未来の光。”皇帝”は直接国を統治することは無く、東西南北で分けた地区の王を監視し、ただ人々の為に忌まわしき魔獣を狩る。皇帝が人を殺すような事はなく、死刑も無く、終身刑が最も重いとされる国。
帝国の名は、ヒエリカといった。
「そろそろお前にも、人から呼ばれる為の名前が必要だな」
「そもそも、今の今まで名前が無かった事の方が変わっていたのですが」
「きゅー!」
当時、玉座に限らず座っている時間が最も短かったと言われた偉大なる皇帝の傍には、やけに幼い姿の執事と幼体のちょっとビビりなドラゴンが居た。
「……そうだな、この際だから私が名を授けてやろう。これからはその名で名乗り、名誉に感じながら私の死後も国に一生を捧げるといい。
たった今からお前の名は──」
ヒエリカでは珍しくない秋陰の空は珍しく、本日は旻天の空模様。和室で緑茶と一緒にカステラと紅葉まんじゅうを頂き、一人の執事は糖分を補給していた。
「平和は良いですね……」
セバスチャンという名の老人は、約1万年前から初代ヒエリカ皇帝の頃から皇族に仕えてきた、皇族ガチ勢限界オタクである。そんな彼は一人、この平和な世をふわふわなカステラと一緒に噛み締めていた。
「(とはいえ、こうして一人で頂くのも良いのですが……やはり、推しを景色に見立てて頂くのも至福でしょう)」
そう思い直し、今日も今日とて、千里眼能力を使いながら推しを眺めていた。
「……なんだか、誰かに見られてる気がする」
「誰って、誰?」
「たぶんおじいちゃん」
エロに全力って事は、自然と人は増える。つまり人が多ければ争いも絶えない。
……当たり前の事だよねッ!
あとちょっとした裏設定、竜人族はツノを抜かれると寿命が10分の1になるし、大幅に力も失います。あと、なんでそんなに戦争長かったの?って思ったかもしれんけど、その理由を作ってるのも竜人族。そして戦争を起こしたのも、続けてるのもフェリラ。
ちなみに戦争が終わったのは400年前。長い歴史があるこの世界では、わりかし最近な方。
ヒエリカでは飢餓や貧困による犯罪が一番少ない国で、唯一スラムが無い国と言われてます。ぶっちゃけ日本より生活補助とか子供の教育とか、子育ての制度が良いよ……。大量に皇帝が魔獣を倒して、ゲットした魔石を色んな国に売ってるからお金があるんじゃ。
そんなヒエリカは人を一人でも殺したり、人を食べたり、監禁や拉致などをすると、終身刑になります。
そして終身刑で、二度と人と会えなくなります。娯楽もありません。
~おまけ~
「あーう、ぇ」
「セバスチャン、聞いたわよね!? いっ、今ノルちゃん、あたしの事を「母上」って言ったわよね!??」
「落ち着いてください陛下、私にも今そう聞こえました」
「キャ────ッ!! 天使!! 天使が居るわっ!! あたしの元に、天使が舞い降りたんだわッ!!」
「陛下、落ち着いてください」
「うーあい、ああ、あぁっえうえ」
「今「五月蝿いから黙ってくれ」って言ったわよね!? キャ────ッ!!」
「陛下、本当に落ち着いてください、私にもそう聞こえました」
「キャ──────ッ!!」
「あぃ、おーう?」
誰よりも強く気高く、誇り高き親友の子孫である子を抱き、セバスチャンは執事としてあるまじき、とてもだらしのない顔をしてペタペタと当時赤子であったノエルに顔を触られていた。
何処か心配している様子で、小さな手で勲章という名の左目の傷跡に触れる。……子は親に似るという。しかし、毎度驚くのだがまさかここまでとは。初代の頃から顔もほとんど変わらない。ノエルもやはり父親にそっくりだ。ただノエルの場合、ノルトに似ているというよりも、親友の方に限りなく近い。ノルトに似ていない部分といえば、ノエルの方は歴代の皇族の誰よりも表情が分かりやすい所か。
それにしても、親友が死んでから月日が流れるのがとても早く感じられるようになったものだ。まぁ、あの日々が人生においてのターニングポイントであり、かけがえのないものだったのだから、当たり前の事だが。
セバスチャンはか弱く小さなノエルに笑いかけながら、子孫の赤子を抱けるのはそろそろ終わるのだろうと、自分の死期を感じ取っていた。
昔に比べて体も思うように動かないことが増え、徐々に衰えを感じてきた。次の世代あたりで最後になるだろう。心の中で当たりをつけると、セバスチャンは「その時には私に代わる人材でも探しましょうかね」と、準備をする事に決めた。
「大丈夫ですよ、これはもう痛みを感じませんから。私を心配してくださったのですね」
「あー!」
ギュンッ!!
そしてセバスチャンの心臓にダイレクトアタックし、おじいちゃんはこう思った。
「(絶対に私が